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♯24 邪教徒と悪魔

『緑亀族』

 緑色の髪、硬い甲羅と高い耐久が特徴的な種族。俊敏は高くないが、獣氏族の中でも随を抜く耐久を持っている。

 昨日の夜、オリヴァー達とちょっとお話をしたその翌日の早朝。俺はまだみんなが起きていない時間帯に俺は村を歩いていた。


「⋯⋯あ、ランヴェルさん」


『ん? おお、ソロンか。おはよう』


 すると井戸近くでソロンと出会う。ソロンは木桶に水を入れていて、多分井戸から水を汲んでいたんだろうな。


『水汲みか? こんな朝からご苦労様だな』


「みんなと、一緒の時間に、来ると、叩かれるので⋯⋯」


『⋯⋯あ~、成る程』


 そういやソロンは迫害されてたな⋯⋯やっべー、悪い事聞いた。


「んしょ⋯⋯」


 俺が反省しているとソロンは水がたっぷり入った木桶を持ち上げる。あの腕で水入り桶は重すぎだろ。


『ほら、貸しな。俺が持って行ってやるよ』


「あ、ありがとう、ございます」


 ソロンから桶を受け取るとそのまま家に向かう。家に着いたらメリノが俺達に渡してある弁当でも食わすか。


「⋯⋯どうして」


ん?』


「どうして、僕と関わろうと、するんですか?」


 するとソロンが疑問を投げ掛けてくる。う~ん、何で関わろうとするか、かぁ。


『⋯⋯何となく?』


「えっ」


『冗談だよ冗談! お前が何か寂しそうだったからな』


「そう、ですか」


『そうですよ』


 そんな事を話してる内にソロンの家にやって来る。ってか随分と近かったんだな。


『水はここに置けば良いか?』


「はい。ありがとう、ございます」


『良いって事よ。そうだ、飯食うか?』


「良いん、ですか?」


『おう。食え食え』


 そうして俺はソロンに弁当を食わせる。相変わらず腹を空かしてるのか早々と弁当を平らげた。


『なあ、ソロン。俺達が家に帰るときに一緒に来ないか?』


「えっ?」


『いや、この村からー⋯⋯その、迫害? されるみたいだし。居辛いかな~って』


「⋯⋯考えさせてください」


『おう』


 その後、ソロンと別れた俺は招集が掛かるまでまた村を散策。そして暫くして作戦を決行した俺達は邪教徒の洞窟がある森にやって来ていた。一応ステルスミッションって事でリッター、オリヴァー、ロズリア、俺、メリノでやって来ている。他のみんなは留守番だ。


 森は不思議な程に静かで、一時間程歩いてるのに魔物一匹の影すら見えない。ただただ、静かに風が流れている。


『⋯⋯静かだなぁ』


「シッ⋯⋯何か様子が変だ。油断せずに辺りを警戒してくれ」


『う~い⋯⋯ん?』


 空が一瞬暗くなったので顔を上げる。だがそこには何も居らず、真っ青な空が木々の間から覗いていた。う~ん? 気のせい、か?


「ご主人様、どうかしましたか?」


『ん、いや⋯⋯何か上の方にいた気がしたんだけど⋯⋯鳥か何かだったのか?』


 何か引っ掛かるなぁ。でも一人で様子見に行く訳にもいかないし⋯⋯しょうがねえ。本当はこんな使い方じゃねえんだけど⋯⋯。


『⋯⋯影分身』


 俺は影分身を使って数体の分身を作り出す。そしてソイツらを森に放った。これでもし何かが起きてたら分かるな。


「⋯⋯おい、見えてきたぜ」


 すると常時鷹の目を発動していたオリヴァーが洞窟を発見する。その洞窟に近付くと不穏な空気が漂ってきた。


「っ⋯⋯これは⋯⋯」


「臭ぇ⋯⋯」


「⋯⋯酷いな」


 するとリッター達が口元を押さえる。オリヴァーが臭ぇって言ってる辺り、何か臭いがすんのか?


『⋯⋯メリノ、どうかしたのか? みんな臭ぇとか言ってるけど』


「⋯⋯血の臭いがします。相当強い、ここからでも分かる程の異臭が⋯⋯」


『⋯⋯そうか』


 血の臭い⋯⋯この森で魔物一匹居ないのと関係あんのか? あんまり入りたくねえなぁ⋯⋯。


「ロズリアとメリノは入り口で見張りを頼む。中には僕とオリヴァー、ランヴェルで潜入しよう」


「あいよ」


「分かった」


『だとさ。メリノはここで待っててくれ』


「分かりました」


 ロズリアとメリノを見張りに置いて、残った男勢で洞窟内に潜入する。中は当たり前だが真っ暗だったので生活魔法のイルミネーションを唱える。俺の頭上に辺りを照らす光球が現れた。



《イルミネーション》生活魔法で覚える魔法。一定時間、頭上に辺りを照らす光球を作り出す。


《生活魔法》特殊属性魔法の一つ。着火や冷却など、生活で便利な魔法を覚えるスキル。



「っ!?」


「うっ!?」


『うわぁ⋯⋯』


 辺りが照らされたと同時に視界に映ったのは、血で真っ赤に染まった岩肌だった。テラテラ光を反射して輝いてるのは血が新しいからか? よく見ると肉片みたいのも見える⋯⋯グロいな。ゲロ吐けねえ身体なのが救いだ。こんなの現代日本人が見たら気絶するかゲロ吐くわ。


「⋯⋯みんな、気を付けて進もう」


 リッターは顔を青くしながらも先に進んでいく。俺達もついて行くと、少し開けた場所に出た。そこには金糸で禍々しい紋様が刺繍された黒ローブの奴らが血を流して倒れていた。


「これは⋯⋯」


「人間にエルフにドワーフ⋯⋯おいおい、リザードマンと獣人までいやがるぞ」


『全員死んでるな。みんな心臓抉り出されてやがる⋯⋯ん?』


 血で汚れてて見えなかったけど地面に掠れた魔法陣みたいのが⋯⋯あれ~? どっかで見たことがある魔法陣なんだけど⋯⋯何だったっけか?


「何だこれは⋯⋯」


『ん? 何かあったかリーダー』


「これを見てくれ。この教徒の活動記録らしいんだが⋯⋯」


 するといつの間にか日記らしき物を読んでいたリッターがそれを見せてくる。最初の日付は双子月、16日、火ノ日⋯⋯今から半月前だな。


「半月前からここの教徒達は活動していた様だ。内容としては悪魔召喚の為の儀式。毎日夕方から深夜に掛けて活動。生贄とするこの森の魔物を片端から狩り、ここで供物として捧げていたらしい」


「それがこの森の魔物が一匹もいなかった原因って事か」


「ああ。それでつい先日に⋯⋯という先からは血で汚れて見れない。それ以降は書かれていないから、これを書いた直後に死んだんだろう。そしてこの日誌の著者は⋯⋯イグジル教の教徒だ」


「イグジルって、あの邪神か?」


 イグジル。ゲームでもちょくちょく名前が出てきてたな。遙か昔、邪神イグジルが数種の魔物を率いて創造神に反乱を起こしたという話が有名だ。結局反乱は失敗に終わり、イグジルは敗れた。そして殺される前に反乱に率いた魔物に加護を掛けたという。


 それにしても、そんな邪教徒共が悪魔召喚の儀式、ねぇ⋯⋯俺はもう一度魔法陣を見ると忘れていたゲームの知識を思い出した。


『あぁあああ!』


「うわっ!」


「な、何だよ急に!」


『そうだ思い出した! この魔法陣、アークデーモンのだよ! しかも掠れてっから既に召喚されてるやつだ!』


 そう言うと二人の表情が強張る。そりゃそうだ。アークデーモンって言ったらAランクの魔物。災害規模で言ったら王国に着いた初日に襲撃してきたアークワイバーン以上の力を持っている。そんなのが召喚されて、制御もされずに野に放たれた⋯⋯って!


『アークデーモンが村に行った可能性あるじゃねえか!』


「みんな、今すぐ村に戻ろう!」


「お、おう!」


『取り敢えず二人迎えに行こう! その後ロング・ジャンプで一気に飛ぶ⋯⋯っ!』


 俺が出した影分身が一体消されやがった! 分身って言ったって俺の動きとかスキルをある程度模倣して使えるから早々死なない筈だ。それなのに消されたって事はやっぱりアークデーモンが⋯⋯。


『頼むぜぇ⋯⋯無事でいてくれよアイツら⋯⋯』



─────



「村長さん、馬はどこに連れて行けば?」


「ソイツはあっちの馬小屋に連れてってくれ。手伝ってくれてありがとな蟲人の兄ちゃん」


 ランヴェル達が村を出発してからすぐ、僕は馬を村長さんに言われた小屋に連れて行く。


「カルマは相変わらず真面目だね~」


「ん、ゆっくりしてれば良い」


 馬を小屋に入れて、新しい仕事が無いか探しているとレナとアリスがからかってくる。二人はゆっくりしているのか、メリノさんから渡されたお菓子を食べている。


「ただ村に滞在させてもらってるのは性に合わないんだよ。少しくらいこういう事して役に立たないと。二人も何か手伝ってよ」


「頑張れ~」


「ファイト」


「はぁ、まったく⋯⋯」


 二人の様子に呆れていると白薔薇の棘と義賊の眼の四人が歩いてくる。二人のリーダーが昨日、ランヴェルに絡んできたって言ってたから少し警戒してるんだけど⋯⋯。


「おう、カルマさんよ。村の手伝いなんてご苦労なこったな」


「そうっスよね~。俺達は村人からの依頼で来てるんだからゆっくりしてても文句言われない筈っスよ?」


 えっと、ローガンは強気な性格でルーカスは変な感じの敬語⋯⋯なのかな? そんな口調で話す人だね。ローガンはどうやら熊の獣人みたいだ。


「あはは、でも僕はこうしてた方が性に合うんだよ」


「フフッ、随分と真面目なのですね。それに対して貴女方は⋯⋯」


「そんなに食べてて太らないんですかぁ?」


 そしてオリヴィアは真っ直ぐな金髪が綺麗な女性。エマは少し小柄な語尾を妙に伸ばす女の子かな。


「ん~、そんなの考えた事が無かったな~」


「エルフは基本太らない」


 これは絡んできてる、と考えて良いのかな? まあ相手にしなければ良いだけだし、もし喧嘩売られても負ける事はないだろうけど⋯⋯。


「そんな事より、俺達はアンタらに聞きたい事があって来たんだよ」


「聞きたい事?」


「とぼけないでくださいよぉ。知ってるんですよぉ? ギルマスに取り入ってランクを上げて貰ってる事くらい」


「なっ⋯⋯」


「ボク達そんな事やってないよ~?」


「嘘はいけませんよ。特に三人方はあのお二人とパーティーを組むまで長い間Fランクだったそうじゃないですか」


「それは色々と環境が整ってなかっただけ」


 ⋯⋯この人達は、僕達が不正をしてると思い込んでるからその存在しない方法を聞き出しに来た訳だね。他人を妬み、その利益を搾取しようって感じかな⋯⋯まったく⋯⋯


「本当、反吐が出る⋯⋯」


「ん? 何か言ったっスか?」


「いや、何も言ってないよ? 残念だけど君達に言える事は何もないかな。だってギルマスに取り入ってるなんてしてないからね」


 そう言って二人の手を引いてこの場を離れようとするとローガンに強引に振り向かされて顔を殴られ、胸ぐらを捕まれた。


「ぐっ⋯⋯!?」


「嘘吐くんじゃねえよ卑怯者が! 取り入ってなきゃあんなポンポンランクが上がるわけねえだろ!」


「それにぃ、大迷宮の時とか魔物大災禍で功績を上げたって言ってますけどぉ、本当はおこぼれを貰ったんじゃないですかぁ?」


「好き勝手言わないでくれる~?」


「ん、貴方達がそう思い込んでるだけ」


「強情な人達っスねー。ちょっと痛い目みないと駄目っスか?」


 そう言うとルーカスは短剣を抜く。オリヴィアとエマもそれを見てそれぞれ武器を抜いた。


「何~、やる気~?」


「容赦しない」


 それを見た二人も武器を抜く。ああ、面倒事は起こしたくないのに⋯⋯そう思った所でリッターさんの仲間のマギナさんとセルジオさんが走ってきた。


「貴様らぁ! 何をしてるかぁ!」


「ちょっと、村の中で武器を抜いて何をしてるの!? ローガン、カルマから手を離しなさい!」


「チッ⋯⋯」


「っ⋯⋯ケホッ、ケホッ!」


 二人に怒鳴られたローガンはやっと僕を離し、僕は地面に尻餅をつく。胸ぐらを捕まれていて少し苦しかったせいで咳が出た。


「ああ、顔に怪我してるじゃない! ちょっと待ってね、今治してあげる」


 僕はマギナさんからヒールを掛けて貰った。優しい薄緑の光が殴られた傷の痛みを徐々に癒やしていく。



《ヒール》回復魔法Lv1の魔法。味方一人のHPを小回復する。



「ありがとうございます。二人とも、武器をしまって」


「でも~⋯⋯」


「良いから」


「⋯⋯分かった」


 二人を宥めると渋々といった感じで武器をしまう。相手方の四人はどうやらセルジオさんに怒られているみたいだ。


「貴様らぁ! 何故こんな馬鹿な事をした!」


「怒るならそこの三人にしてくれないっスか?」


「ほう、何故だ?」


「だってぇ、ギルマスに⋯⋯」


「またその話か。その様な事があるわけ無かろう!」


「なぜ断定出来るのですか?」


「奴らの戦い振りをこの目で見たからだ。一度だけ、魔物大災禍で共に戦っただけだからランヴェル達は覚えていないだろうがな」


 あれ、そうなんだ。そう言えば少しだけ見覚えがある様な⋯⋯でも思い出せないな。あの時はとにかく魔物に気を向けてたからあんまり覚えてないや。


「奴は凄かった。武器を振るえば百の敵を斬り飛ばし、魔法を放てば千の敵が吹き飛ぶ。まさに一騎当千の戦い振りだった」


 そう言うセルジオさんは何でか非常に楽しそうだ。何だろう、強い人が好きとかそういう人なのかな。この人達は何だか信用出来そうだね。


「それに貴様ら、この者達がLvや技術が低いと考えてるが既に熟達しているかもしれないではないか。あの錆騎士の様に」


「それはぁ⋯⋯」


「⋯⋯勝手な憶測で物事を話すな。いずれその行為が自分達の首を絞める事になるぞ」


「チッ⋯⋯」


 色々と言われた四人は僕達を睨むとこの場を離れていく。


「すいません、助かりました」


「いいのよ。貴方達と大変ね」


 僕達は二人に礼を言うと四人とは逆方向に向かう。そしてまた村の手伝いをしていると⋯⋯


「うわぁああああああ!!」


「っ!?」


 突然として男の悲鳴が聞こえてくる。これは⋯⋯ローガンの?


「レナ! セルジオさん達を呼んできてくれ! アリスは僕と一緒に来て!」


「分かった」


「はいは~い!」


 僕は悲鳴が聞こえた方に走り出すとレナにセルジオさん達を呼ぶように頼み、アリスは僕と一緒に来てくれるように頼む。


 そして悲鳴が聞こえた場所に着くと、そこにはボロボロになった四人の姿と⋯⋯


「おやおや、もう終わりですか。人間とはやはり呆気ないものですね」


「悪、魔⋯⋯?」


 混沌を表す紋様の刺繍が施された真っ黒な服。背中に生える蝙蝠の様な羽。そして上級の悪魔である事を表す禍々しい角⋯⋯本でしか見たことがない、アークデーモンがそこに立っていた。


「だ、助げてぐれぇ⋯⋯」


 するとローガンが這いずりながらこっちに近寄ってくる。他のみんなは⋯⋯死んではないようだけど瀕死だね。


「⋯⋯アリス! マティアと一緒にこの人達を連れてここから離れるんだ!」


「カルマは?」


「コイツを抑える!」


「あ、危ないよ? カルマも⋯⋯」


「ここでコイツを抑えないと村に大きな被害が出る! 大丈夫、セルジオさん達やランヴェル達が来るまでは時間を稼いでみせる!」


「⋯⋯分かった。でも、死なないでね?」


 アリスの言葉に頷くと僕はマティアを虫籠から出す。アリスはマティアに三人、一人は自分で担ぐとこの場から離れていく。


「おや、どこに行かれるおつもりで?」


「お前の相手は僕だ! ウィンド・バースト!」



《ウィンド・バースト》風魔法Lv1の魔法。自分を中心として、広範囲に疾風属性の衝撃を発生させる。



 僕はアークデーモンに風魔法のウィンド・バーストを放つ。だけどまともに鍛えてない魔法だ。アークデーモンに掠り傷一つ与えることも出来ない。でも、注意はこっちに向いたみたいだ。


「おや、随分と気持ちの良い風ですね」


「っ⋯⋯猛毒攻撃⋯⋯!」



《猛毒攻撃》武器に猛毒属性を付与するスキル。通常よりも状態異常に掛かる確率が高い。



 僕は武器に猛毒属性を付与する猛毒攻撃を発動。武器にヌラヌラと粘性のある液体の様な紫の魔力が纏わり付く。


「おやおや、今度は貴方が相手ですか。良いでしょう。先程の人間よりは楽しませてくださいよ?」


「やってやる⋯⋯」


 僕は大鎌を構えると、アークデーモンに向かって走っていった。

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