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♯22 気になる子供

『砂鼠族』

 黄色の髪、大きな耳と高い俊敏が特徴的な種族。その小さな体格と高い俊敏性を生かした暗殺術を得意としている。

 ギルマスから貰った一週間の休暇を終え、そこから更に一ヶ月が経過した。


 この一ヶ月間、特にこれといった事も起きずにメリノ達と依頼をこなしてきた俺はまたギルマスに呼ばれた。


『失礼しまーす。ギルマス、今度は何だよ』


「また君に依頼をしたいと思ってね」


『あいよ。依頼の内容は?』


「この近くの村から、近くの森に変なカルト集団が現れたから調査、退治してほしいってさ。人数がかなり多いらしいから、他のパーティーとの合同だよ」


『ほいよ。んじゃあ日時決まったら頼むわ』


「うん。ああ、それと⋯⋯」


『ん?』


 何か言おうとしたので足を止めると、ギルマスは少し疲れた表情になる。


「今回の依頼、君に不満を持ってるパーティーもいるから気を付けてね」


 ギルマスが言うには、ぽっと出のくせにバンバンランクを上げたり活躍しているのが気に食わない連中が何人かいるんだと。んで、ソイツらに俺達の実力が嘘じゃないって分からせる為に何個かのパーティーと組ませたんだとさ。


「ちょっと苦労するかと思うけど、よろしくね」


『⋯⋯それだったら俺に依頼するのを止めりゃあ良いじゃねえのか?』


「いや、そうしたいのは山々なんだけどさ⋯⋯今回のを含めて、君達に頼みたいっていう依頼が多く来てるんだよ」


『ん、何で?』


 冒険者ギルドに依頼する仕組みとして、普通に依頼するのと冒険者やパーティーを指定する指定依頼の二種類がある。


 普通に依頼するのは、アレだ。クエストボードやギルド職員から渡される依頼の事だな。どんな冒険者がやってくれるか分からない代わりに手数料や報酬がある程度安く済む。


 で、指定依頼ってのが冒険者やパーティーを指定出来る。自分たちの信用の置ける冒険者や、有名なパーティーに依頼出来る代わりに報酬が高くなる。


 だから指定依頼なんてC~Sランクにならないと殆ど来ないし、俺達に頼む奴なんてそうそういないと思ってたんだが⋯⋯。


「あれ、知らないの? 魔物大災禍を止めた冒険者だって、君達結構有名になってるんだよ?」


『マジでか』


「マジで。まあそういう事だから、依頼を止めるって事は出来ないのさ」


「あー、成る程なあ。そういう事なら仕方ねえわな。んじゃ、何とかやってくるわ」


 そう言うと俺はギルド長室を出てメリノ達と既に受けていた依頼に出る。その数日後。ギルマスから日時が伝えられた俺達は夕方頃に王国の門前に向かっていた。


『さ~って、俺達に文句があるっていう連中はどんな奴かな』


「自分の努力が足りていないのに嫉妬するのは違うと思われますが」


『んな事分かってても嫉妬しちまうのが人間ってもんなんだよ』


「あはは⋯⋯でも、強い人に嫉妬するっていうのは僕も分かるかな。何だか自分の努力が否定された様な気がしてね」


『えっ、つまりカルマ俺に嫉妬してたの?』


「あ、いや。ただ分かるってだけであって⋯⋯」


「嫉妬虫~」


「嫉妬は醜い」


「いやだから⋯⋯!」


 三人でカルマをからかっていると集合場所に着く。そこには三つのパーティーが既に集まっていた。


「おや、来たようだね」


「⋯⋯」


「チッ⋯⋯優遇パーティーが⋯⋯」


『どーもー。すんません遅れて』


 適当な挨拶をしながら相手方の様子を見る。パーティー人数はそれぞれ三人、四人、三人って所か。んで、多分文句あるのはさっき何にも言わなかった奴のパーティーと、舌打ちしやがった野郎のパーティーだな。一番最初の奴は統括役って所だろ。


「それでは早速自己紹介をしようか。僕はリッター。Cランクパーティーの『琥珀の短剣』のリーダーをさせてもらってる。そして二人が仲間のマギナとセルジオ。僕達は今回、みんなの統括役をさせてもらう。よろしく頼むよ」


 リッターは金髪のイケメン。防具も良いものそうだな。武器は片手剣と小盾のシンプルなものだ。多分オールラウンダーって奴だろうな。仲間のマギナは純粋な魔術師エルフ。セルジオは重厚な全身鎧と大盾を装備したタンクって所か。基本的なパーティーだな。


「私達はEランクパーティー『白薔薇の棘』。私はリーダーのロズリア。そして仲間のエマとオリヴィアだ。よろしく頼む」


 ロズリア達は女性オンリーのパーティーらしいな。ロズリアは曲剣持ちの剣士。エマは弓使い。オリヴィアは斥候なのか知らないが短剣二刀流だ。何とも身軽そうなパーティーだ。


「Eランクの『義賊の眼』のリーダーをやってるオリヴァーだ。コイツらはパーティーメンバーのルーカスとローガンだ」


 オリヴァー達は義賊、と名乗ってるだけあって斥候関係に特化した男オンリーのパーティーみたいだ。オリヴァーは棍。ルーカスは弓。ローガンは斧みたいだな。戦闘よりもこういう多数での冒険に向いてるんだろう。


『最後は俺達か。Eランクパーティーの『カリュプス』でーす。俺がリーダーのランヴェル。そして仲間のメリノ、カルマ、レナ、アリスだ。よろしくぅ』


「フンッ⋯⋯」


「チッ⋯⋯」


 俺が代表として挨拶するとロズリアが睨み、オリヴァーが舌打ちをする。うん、確実に文句あるのコイツらだわ。


「それじゃあ、今から馬車に乗って依頼先に向かおう。大きい馬車だけど、この人数だと少し窮屈だから気を付けてくれ」


「分かった」


「あいよ」


『りょーかい』


 そしてリッターが冒険者ギルドから借りてきた馬車に乗り込む。リッターが言った通り馬車は大きいがみんなで乗るとちょっと窮屈だな。


『うお、狭え⋯⋯お前ら、もうちょっと詰められねえ?』


「いや、もうこれ以上はキツいかな⋯⋯」


「考えがある」


 レナはそう言うと胡座をかいていたカルマの股ぐらに座る。成る程、これなら一人分⋯⋯ってなるか! クソッ、イチャイチャしやがってよお!


「ヒューヒュー! 二人ともラブラブゥ!」


「ちょっ、レナ!」


「イヤ?」


「イヤって言うか⋯⋯」


『⋯⋯どうだメリノ。俺に座るか?』


「では、失礼します」


『お、おう』


 冗談を言うとメリノが遠慮なく座ってくる⋯⋯メリノ、以外と小さいんだな。俺がでっけえだけか?


「それじゃあボクも失礼しま~す」


 するとメリノの上にアリスが座る。おい、目の前がピエロになったんだが。


『おいアリス、重いし目の前が見えないんだが?』


「気にしな~い気にしない! お~⋯⋯背中に良い感じのクッションが⋯⋯」


「⋯⋯」


 もたれ掛かるアリスに、メリノはそんなアリスを冷ややかな目で見下す。うわっ、怖ぇ⋯⋯。


「チッ! おいおいカリュプスさんよ、そんな気ィ抜けてて大丈夫かぁ?」


「同感だな。貴様らはいつもそんな様子なのか? いつか失敗するぞ」


 するとロズリアとオリヴァーが絡んでくる。うわぁ、こんな分かりやすく絡んでくるとか予想外だわ。面倒臭えなぁ⋯⋯ってかロズリアみたいな気の強い女って苦手だからちょっと怖い。


『んな事言われてもこれが俺達のスタイルなんでね。緊張しすぎて失敗したら笑えねえだろ?』


 そう言うと、二人は気に入らなかったのかさっきよりも強く睨み付けてくる。ハァ、面倒な事になったもんだ。


 そして暫く馬車に揺られていると目的の村にやって来る。少し雰囲気がピリピリしてるのはその依頼とやらのせいか?


「我々はこの村の依頼でやって来た冒険者です! 村長はどこにいますか!」


 リッターがそう叫ぶと畑仕事をしていた一人のおっさんが近付いてくる。


「やっと来てくれたか。さっさと何とかしてくれよ。気味が悪くて夜も寝れねえ」


「ええ、分かっていますよ。取り敢えず集団をどこで、いつ見たのか教えてくれませんか? ああ、みんなは待機していてくれ。詳しい事が分かってから出発する」


「了解した」


「あいよ」


『うーい』


 リッター達が村長から話を聞きに行くと、俺達はそれぞれ村で待機する事になった。


『⋯⋯何すっかぁ』


「取り敢えず食事を摂りませんか? そろそろ夕飯時ですし」


『ん、そうすっか』


 メリノの提案を受け少し移動すると尻が汚れない様に適当な布を敷き、メリノがストレージから料理を取り出しみんなで食べ始める。


「んっ! このサンドイッチ美味しいね」


「ん、同感」


「スープも美味しい~。流石メリノだね~」


「ありがとうございます」


 みんなで飯を食ってると村の子供達が物珍しそうな目で見てくる。するとメリノが新しくサンドイッチとかを取り出し、子供達に差し出した。


「どうぞ」


「わぁ、ありがとうメイドのお姉ちゃん!」


「やったー!」


 子供達はサンドイッチを受け取るとすぐ近くに座り和気あいあいとしながら食べ始める。うんうん、どこの世界でも子供は可愛いもんだな。これが成長するとクソガキになってくるんだから不思議なもんだ。


 そんな事を考えながら辺りを見渡すと一人、輪に入れてない⋯⋯男の子か? 子供がぼろっちい家の陰からこちらを見ていた。


 何だと思って近付こうとすると一人の女の子が手を掴んでそれを止める。


「おじさん、あの子に近付かない方が良いよ」


『おじ⋯⋯いや、もうそんな年なのか。じゃなくて、何で近付いちゃいけないのかな?』


「悪魔の子だから」


『悪魔の子?』


「うん。あの子が悪魔を召喚したところを見たの。みんな知ってるよ? ママとパパも、かるとしゅうだんを連れてきたって言ってるの」


 もう一度男の子をみると身体中が傷だらけで、転んだ時とかじゃ付かない傷も見える⋯⋯迫害か。これも異世界でも同じなんだな。


『大丈夫。おじさんは凄く強いんだ。悪魔が出ても倒しちゃうさ』


 そう言うと俺は何個かサンドイッチを貰って男の子の方に行く。男の子はまるでアルビノの様に白髪赤目と珍しい風貌をしている。


 男の子は俺が近付いてくる事に気が付くとビクッと体を震わせて家の中に隠れようとする。


『おおい、待て待て!』


「ッ!」


 それを止めようと男の子の腕を掴むと顔を青ざめさせる。ヤベッ、怖がらせちまった。ってか腕細いな。ちゃんとした物食ってねえんじゃねえか?


『おお、悪い。怖がらせちまったな。ほれ、これやるよ』


「⋯⋯良いん、ですか?」


『おう。あ、腹減ってねえなら─────』


 別に食わなくても良いぞ、と続けようとすると凄い勢いでサンドイッチを食い始める。相当腹減ってんだろうな。途中喉を詰まらせかけたので水を渡してゆっくり食うように言った。


『お前、名前は?』


「ソロン、です」


『ソロンか。相当腹減ってんだな。最後に飯食ったのいつだ?』


「一週間前、です⋯⋯」


『はぁっ!?』


「ヒッ⋯⋯!」


『あ、悪い。怒ってる訳じゃないから大丈夫だ』


 ってか一週間前だと? 人が飯食わねえで生きてられるギリギリじゃねえか。ふざけてやがる。


『お前、親とかどうしたんだ? 飯は今まで何食ってた?』


「お母さんは、僕を産んで死んだらしい、です。お父さんは、魔物に殺されて、死にました。ご飯は、今までは、村の皆さんがくれ、ました」


『っ⋯⋯そうか、悪いな辛いこと聞いて』


「いえ⋯⋯」


 親もいない。飯も無い。優しかった村人が突然自分を迫害、かぁ⋯⋯。


『ひでえもんだなぁ⋯⋯』


「⋯⋯?」


 ムシャムシャとサンドイッチを食べるソロンを眺めながらそう呟く。するとソロンの左手の人差し指にはまっている指輪に目がいった。


『ん? ソロン、その指輪なんだ? 随分珍しそうなもんだけど』


「⋯⋯お父さんが、つけてた指輪、です」


『ほーん⋯⋯』


 お父さんの形見の指輪ねぇ⋯⋯少し気になったのでチラッと鑑定する。



名 称・ソロモンの指輪

ランク・S

種 類・装飾品

概 要・人並み外れた叡智を持つ王の指輪。ソロモン72柱の悪魔を操る力を与えるが、代償として一切の経験値、スキルを習得出来なくなる。



 何だこの指輪!? ソロモン72柱の悪魔を操る指輪って⋯⋯レア度もSランクだし! これ持ってるこの子、何者だよ⋯⋯。


「みんな、集まってくれ!」


 するとリッターが俺達を呼ぶ声が聞こえてくる。しょうがねえ。ソロンについて考えんのはまた今度だ。


『おっと、俺達のリーダーがお呼びの様だ。後でまた話そうぜ。じゃあな』


「あ、はい」


 ⋯⋯さっさと終わらせて、ソロンはこの村から離した方が良いな。どっかの孤児院にでも連れてって、その間は俺達が預かるか。そんな事を考えながら、俺はリッターの元に向かった。

 はいどーも、作者の蛸夜鬼です。今回のお話は如何だったでしょうか?


 そうそう、今日の投稿は二話投稿となっております。もう一話投稿されている筈ですのでどうぞ楽しんでいって下さい。


 あ、それと今日から『みんなに聞こう! 俺転について!』を投稿しました。まあ簡単に言えば私とこの作品のキャラが色々とお話する内容となっております。ネタバレ等含まれますが、もし気になる方がいたら見てやって下さい。


 それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!

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