♯20 魔物大災禍・終
『黒熊族』
黒色の髪、太い剛腕と高い筋力が特徴的な種族。魔法は得意ではない代わりに筋力だけなら獣氏族の中で最も高い。
さーって、まずはこのメルカバーとか言うやつ鑑定するか。
名称・メルカバー《贋物》
年齢・──
種族・メルカバー《贋物》
職業・──
Lv・350
・装備
天使鋼の突撃槍
天使鋼の鎧
・スキル
槍聖術9
閃光魔法10、回復魔法10、強化魔法10
物理耐性5、魔力耐性5、状態異常無効、
神経異常無効、精神異常無効
怪力10、瞑想10、金剛10、防壁10、縮地10、心眼10、軟体10、覇気10、慈愛10、
魔力操作10、集中10、予見10
生命感知5、危機察知5、強者察知5、弱点察知5、急所察知5、罠察知5
軽業10、曲芸10、御者10、警戒10、跳躍10、投擲10
HP回復10、MP回復10、SP回復10、
HP強化10、MP強化10、SP強化10、
筋力強化10、魔力強化10、耐久強化10、
耐性強化10、俊敏強化10、五感強化10、
物理強化10、魔法強化10
・ユニークスキル
天神の光
名称・──
年齢・──
種族・ゴーレム・ホース
職業・──
Lv・300
・装備
天使鋼の突撃槍
天使鋼の鎧
・スキル
物理耐性5、魔力耐性5、状態異常無効、
神経異常無効、精神異常無効
金剛10、防壁10、心眼10、魔力操作10、
予見10
生命感知5、危機察知5
軽業10、曲芸10、跳躍10
HP回復10、MP回復10、SP回復10、
HP強化10、MP強化10、SP強化10、
耐久強化10、耐性強化10、俊敏強化10
・ユニークスキル
──
こりゃあ戦闘に特化してるな。Lvも高いし、まさに兵器ってか。あとチャリオットを引いている二頭のゴーレム・ホースとメルカバーは別物みたいだな。
唯一の救いはスキルの少なさからある程度の対処は取りやすい所だな。ただユニークスキルが何なのか分からないのが怖い。
実は鑑定眼の欠点として、ユニークスキルの名前は見れるが内容が見れないってのがある。相手の切り札が分からないのは痛いが、しょうがねえな。
『さてと、やりますか』
「待て、奴のチャリオットや体は天使鋼らしいぞ。生半可な攻撃は⋯⋯」
天使鋼⋯⋯また珍しいモンが出てきたな。
天使鋼って言うのは、ゲームだと天使の祝福を受けた鋼だ。特徴としては白く輝いていて非常に硬く、閃光属性の攻撃を完璧に防ぐ。その逆として暗黒属性の攻撃に対しては非常に脆い。って言うことで暗黒属性を武器にエンチャントすれば関係無しだ!
『その前に⋯⋯ほれ、ゲイル』
俺はアイテムポーチから取り出した物をゲイルに投げ渡す。
「これは?」
『悪魔の剣薬だよ。聞いたことはあるだろ?』
ゲイルに投げ渡したのは悪魔の剣薬。こういう○○の剣薬っていうアイテムは武器に振り掛けるとエンチャントと同じ効果を得られる。まあ買値が高いし、魔法の王国にしか売ってないから使ってる奴はあまりいないけどな。
そしてゲイルは剣薬をアイテムポーチに仕舞うとメルカバーへと構えた。
『ゲイル、お前はメルカバーの注意引いてくれ』
「分かった。だがここは村が近い。まずは奴を離すべきだろう」
『あいよ』
そして俺達はまずメルカバーを離す為に村の離れにある、俺とゲイルが手合わせした平原に向かう。
『ヘイヘイ、鬼さんこちら!』
「こっちに来いメルカバー! お前の相手をしてやる!」
『⋯⋯舐められたものだな。良いだろう。貴様らを蹂躙し、早々にこの村を壊滅させてやろうではないか』
おっしゃ、メルカバーがこっち来た! 後はこのまま平原で戦って⋯⋯そう思った時、メルカバーが瞬間的に俺の背後に現れ突撃槍で攻撃してくる。
『うぉおおおお!?』
あっぶねぇ! そういやコイツ縮地スキル持っていやがったな。敵に使われるとこんな面倒なのか。
そうして時折繰り出される攻撃を避けること数分。何とか無傷で平原までやって来た。
『おっしゃ着いたぁ!』
「こっからが本番だ! 気を引き締めろ!」
平原に着いた俺はダークネス・エンチャントを、ゲイルは先程渡した悪魔の剣薬を大剣に振り掛ける。これでメルカバーの天使鋼に攻撃が通るな。
『しゃあっ! さっさと終わらすぞゲイル!』
「分かっている!」
まずゲイルがメルカバーに大剣を振り下ろす。俺も攻撃に参加するがメルカバーはチャリオットを巧みに操りそれを避ける。
クソッ、機動力が高いな。あのチャリオットが原因か。あれを何とかしないと駄目か。
「フレア・ランス!」
『シャイン・シールド』
そんな事を考えているとゲイルがフレア・ランスをぶっ放し、メルカバーがそれをシャイン・シールドで防ぐ。
『おらぁっ!』
『ガードアップ』
そして俺がその隙を見てゴーレム・ホースに斧槍を振り下ろす。だがガードアップでゴーレム・ホースの耐久を上げられ、ゴーレム自身も金剛スキルでも使ったのか異様に堅く掠り傷を付けるだけに終わる。
クソッ、反応が早いな。流石俺以上のLv持ち。そんな簡単に終わらせてくれねえか。
『次はこちらの番だ。フィジカルアップ、シャイン・エンチャント⋯⋯』
「⋯⋯っ!?」
『⋯⋯スパイラル・ランス』
メルカバーがシャイン・エンチャントを終わらせた瞬間、縮地を使ったのかゲイルの目の前に現れ螺旋を描く様に回転するランスを突き出す。
「ぐおっ⋯⋯!」
ゲイルは大剣を何とか滑り込ませ、スパイラル・ランスを防ぐ事に成功する。ただ衝撃は防げなかったのか後ろに大きく吹き飛んでいった。
『ゲイル!』
「大丈夫、だ! メルカバーにも一撃を与えてやったぞ!」
『⋯⋯グッ!』
するとゲイルを吹き飛ばした筈のメルカバーが苦しげに胸を押さえる。どうやら吹き飛ばされる直前、浸透撃を与えていた様だ。
『ナイス! 俺も一撃やってやらあ! タイム・ストップ!』
俺は時空魔法のタイム・ストップを唱える。すると辺りの風景が灰色となり、あらゆるものが停止する。
時空魔法、タイム・ストップ。文字通り時間を停止させる。停止させられる時間は五秒。そして馬鹿みたいなMP消費であまり使えないのが難点か。
『高速並列! 無詠唱!』
そして俺は高速並列と無詠唱を唱える。これで魔法を戦技と併用しながらノーモーションで撃つことが出来る。
『ついでに縮地! スピニング・スマッシュ!』
時間があと数秒残っていたので縮地で近付き、斧術のスピニング・スマッシュをゴーレム・ホースに繰り出す。スピニング・スマッシュは文字通りの回転攻撃だ。これといって威力が高い訳でもないが一番最初に手に入る戦技だけあって発生が非常に早い。
そしてタイム・ストップが終了し、スピニング・スマッシュを喰らったメルカバーは大きく吹き飛んでいく。そしてダメージに耐えきれなかったのかチャリオットを引いてるゴーレム・ホースの二頭の内、一頭がぶっ壊れた。
『ぐぅっ! 馬鹿な、天使鋼のゴーレム・ホースが壊されるだと!』
「ドラゴン・クロー!」
『ぐあっ!』
ゴーレムが壊された事に動揺した隙に、ゲイルがドラゴン・クローでもう一頭のゴーレムをぶっ壊した。よっしゃ! これでチャリオットは使えなくなったから機動力が落ちたぞ!
『おしっ! あとはメルカバー本体だけだ!』
「畳み掛けるぞ! さっさと終わらす!」
『⋯⋯』
チャリオットを壊されたメルカバーは何も言わず、ランスを地面に突き刺す。それを見た俺達は何事かと足を止めた。
『⋯⋯下界の者に、我ら天使よりも下賎なる者に⋯⋯ルシール様より受け渡されたゴーレムを⋯⋯』
『⋯⋯何かやばくね? めっちゃ怒ってらっしゃるんですが』
「黙ってろ」
ゲイルの慈悲の無い言葉にちょっと悲しくなっていると、メルカバーは何かブツブツと喋り怒りの表情で俺達を睨み付けた。
『許さん! 許さんぞ人間! 貴様らは生まれてきた痕跡すら残さず抹殺してやろう!』
そう叫んだメルカバーは手を俺達に突き出す。すると魔力感知が発動し、異常な魔力量をガンガン知らせてくる。これは⋯⋯ヤバイ!
『逃げるぞゲイル!』
『逃がさん! 天神の光!』
逃げようとすると俺達が立っている場所が光り輝き、無駄に神々しい光が降り注ぐ。その光は俺達を包み、HPをガリガリと削っていく。
『やっ、べぇ⋯⋯!』
「ぐあぁあああ!」
ステータスを見るとほんの数秒経っただけなのにHPが四分の三まで削りている。俺がこれって事はゲイルはもっとヤバいか。
一旦落ち着こう。俺の利点はダメージを喰らった際の痛みを感じない。だからこの光の中でも冷静な思考が出来る。ならまずやる事は⋯⋯
『グレート・ヒール! グレート・ヒール!』
まず俺とゲイルにグレート・ヒールを掛けてHPを回復。これで多少は時間が稼げた。そしてゲイルの腕を掴むと
『ショート・ジャンプ!』
時空魔法のショート・ジャンプを発動。光柱の中からの脱出に成功する。そしてサークル・ヒールを唱えてもう一度HPを回復する。
『ふい~⋯⋯危なかったな』
「⋯⋯助かったぞ、ランヴェル」
『⋯⋯馬鹿な』
メルカバーは俺達が脱出出来るとは思っていなかったのか驚いた顔で俺達を見る。
『馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 我がルシール様の光から逃げ出すなど! そんな事があり得てたまるか!』
『うるせえ! ルシールとか誰だよ知らんわ!』
「今度こそ、今度こそみんなの⋯⋯!」
ゲイルはナックルダスターを投げ捨てると大剣を両手で持ち、メルカバーに突っ込む。そして
「⋯⋯錆び塗れの剣技!」
確かゲイルのユニークスキルである錆び塗れの剣技を発動した。だけど⋯⋯
『舐めるな、その様な弱々しい剣技で我を倒せると思っているのか!』
メルカバーが言った通り、何かユニークスキルにしては弱い気がする。いや、低Lvの相手だったら確かに倒せるくらい速いし、剣技って言うだけあって流れる様な連撃なんだけど⋯⋯動きが錆び付いてるみたいに遅い。現にランスによって防がれている。
「錆び塗れの剣技!」
だがゲイルはまたユニークスキルを発動する。ってか俺どうしよう。変に攻撃したら邪魔しそうだし。
『せめてサポートしとくか。聖王の加護!』
俺はユニークスキル、聖王の加護を発動。二分間だけあらゆるバフが掛かった。
「錆び塗れの剣技! 錆び塗れの剣技!」
ゲイルは相変わらず良く分からないユニークスキルを使っている⋯⋯だが、変化に気付いたのはすぐ後だった。
『⋯⋯あれ?』
『ぐっ⋯⋯!?』
何だろう。段々と剣技の威力と速度が上がっている気がする。メルカバーもランスで防御しているが時折その防御が剥がされそうになっている。
「錆び塗れの剣技!」
もしかしてあれか、あの錆び塗れの剣技ってユニークスキルは使えば使う程性能が上がってくタイプのスキルか。道理で何度も使ってる訳だな。
そしてゲイルがスキルを十何回か使った頃。ゲイルの剣技は凄まじい威力と速さになっていた。
「錆び塗れの剣技!」
『ぐうっ! ば、馬鹿な!』
そして遂に、メルカバーのランスを破壊した。ランスは真っ二つに折れ、大きな隙を晒した。
「錆び塗れの⋯⋯」
『っ⋯⋯ルシール様に⋯⋯』
「剣技!」
『栄光あれぇええええ!!』
ゲイルの錆び塗れの剣技が、メルカバーに直撃する。何度も使用され、その練度が上がったその剣技はメルカバーの体を切り刻むのに十分だった。
鑑定眼でメルカバーのステータスを見ると、そのHPバーは真っ黒に染まる。
『おお、やっと倒したか』
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
ゲイルは息が絶え絶えになり、体力の限界なのかその場に座り込む。
「⋯⋯仇は取ったぞ、みんな」
だがその声色は、疲れなど感じてないかの様に嬉しそうだった。
『スタミナ・ヒール。おいゲイル、仇を取って愉悦に浸ってるのは良いが、まだ魔物大災禍は終わってねえぞ』
「⋯⋯ああ、そうだな」
俺はゲイルの手を取って立ち上がらせると、ロング・ジャンプで村に戻る。そして残った魔物共を倒していたメリノ達と合流して一緒に殲滅し、遂に魔物大災禍が終了した。




