♯1 魔樹の森にて
『時間』
シルトナリアの一年は三六十日の十二ヶ月で成り立っている。そして一ヶ月は三十日。一日は二十時間。一時間は六十分となっている。
『結構歩いたな⋯⋯でもこんなに深かったか?』
オッス、オラ鎧。うん、自分で言ったら少し虚しくなった。
あ、名前名乗っとかなきゃな。でも本名は何故か知らんけど記憶からすっぽ抜けてるんで、アバター名で名乗っとこう。
俺の名はランヴェル。何かゲームやってたら鎧になってた元大学生だ。うん、自分で言ってて訳分からん。
さて、俺は今遺跡を出て魔樹の森と呼ばれる場所を歩いている。
魔樹の森というのはGランクエリア。まあ簡単に言えば赤い帽子がトレードマークのおっさんの一番最初のステージくらい簡単な場所だと思ってくれれば良いな。
あの遺跡もゲームを始めた時にチュートリアルを行う場所だっていう事を思い出した。動転しててすっかり忘れてたぜ。
そうそう。この世界ってゲームの時の要素がかなりあって、ステータスウィンドウとかスキル発動とか当たり前かの様に使用出来た⋯⋯まさか、ゲームの世界に入り込んだとかじゃないよな?
あ、今の俺のステータスはこんな感じだ。スキルLvとかが無駄に高いのはゲームのステータスを引き継いでるっぽいから気にすんな。
名称・ランヴェル
年齢・──
種族・聖王の鎧
職業・聖王
Lv・319
・装備
聖王の斧槍
聖王の大盾
聖王の兜
聖王の鎧
聖王の篭手
聖王の足甲
聖王のマント
聖王の首飾り
・スキル
上級斧術10、大盾術10
火炎魔法10、氷結魔法10、疾風魔法10、
大地魔法10、雷鳴魔法10、溶岩魔法10、
吹雪魔法10、凍土魔法10、砂塵魔法10、
閃光魔法10、暗黒魔法10、回復魔法10、
快復魔法10、強化魔法10、弱化魔法10、
異常魔法10、神経魔法10、精神魔法10、
時空魔法10、生活魔法
物理耐性10、魔力耐性10、状態異常無効、
神経異常無効、精神異常無効
怪力10、瞑想10、金剛10、防壁10、縮地10、
心眼10、軟体10、隠密10、消音10、擬態10、
覇気10、慈愛10、威嚇10、無詠唱、高速並列10、
陰分身10、鑑定遮断、空中浮遊10、念話、
悪魔の口付け10、魔力操作10、暗視10、
鷹の目10、集中10、予見10
生命感知10、危機察知10、強者察知10、
弱点察知10、急所察知10、罠察知10
解体10、軽業10、曲芸10、警戒10、採取1、
栽培1、指揮3、狩猟10、地図作成10、
地図記憶10、跳躍10、追跡10、投擲10、
伐採10、捕縛10、魔道具作成10、目利き10、
料理2、連携10、罠解除10、罠作成10
HP回復10、MP回復10、SP回復10、
HP強化10、MP強化10、SP強化10、
筋力強化10、魔力強化10、耐久強化10、
耐性強化10、俊敏強化10、五感強化10、
物理強化10、魔法強化10、魔物の殲滅者10
・ユニークスキル
聖王の瞳、聖王の加護
うーん。改めて見てみると相当やり込んでんなぁ⋯⋯しかし種族とか職業が変わってるのはどういう事なんだろうな? 元々種族は人間だったし、職業も聖騎士だったんだけどな?
あ、ユニークスキルっていうのは習得方法が少し特殊なスキルって覚えてくれ。俺のユニークスキル、聖王の瞳と聖王の加護っていうのは聖王シリーズの装備を手に入れたら習得出来た。効果はまた今度説明するで良いよな。
『しかし⋯⋯』
魔樹の森を歩いて結構経つんだが、全く抜ける気がしない。こんな深かった訳でもなかったから、やっぱ異世界って事で地形が違うのか?
『⋯⋯ん?』
そんな事を考えていると遠くから何かの音が聞こえる。耳を澄ますと、馬車が走る音と二人程の人間が言い争っている声、そして獣の鳴き声が聞こえてきた。
商人か? でも低ランクとは言えども魔物が闊歩してるエリアを通過する意味が分からない。近くに整備された道がある筈だからそこを通る筈だもんな。
考えられるのは偶然迷い込んだか表沙汰に出来ない商品を扱ってる、ってとこか。まあ、多分後者だろうな。
『⋯⋯面倒だけど、行ってみるか』
俺は少しだけため息⋯⋯は、吐けないけどそんな素振りをして音のする方へ走っていった。
─────
『あー、少し遅かったか⋯⋯』
俺の目の前には横転してバラバラになっている馬車。その持ち主らしき二人の男の死体。片方は頭に木片が突き刺さり、もう片方は下半身が吹き飛んでいる。さっき聞こえた言い争ってた声はコイツらだろうな。更に⋯⋯
『⋯⋯やっぱり奴隷だったか』
二枚の布を適当に縫い付けた様な黒地の服を着ている十人程の種族が、死体となって転がっている。
奴隷⋯⋯ファンタジー系のゲームとかラノベとかにはありがちな要素だな。主に逆らわない労働力とか、性奴隷とかで知られてる“者”ではなく“物”として扱われる奴等だ。
ゲームでも売買可能なNPCとして知られてた。道徳だ何だとかで撤回するのを主張するプレイヤーもいたっけか? そんな話を聞く度に「ゲームなのに馬鹿じゃねえのか」って思ってたけどな。
⋯⋯今思ったんだが、こんなリアルな死体とかを見てんのに冷静なのは何でだろうな? 鎧になって人の心でも失ったか?
『⋯⋯なんてな』
俺は頭を振ってそんな考えを吹き飛ばす。取りあえず生きてる奴がいないか確認しないとな。多分一人くらい生きてるだろ。
『おっ、マジか』
馬車の残骸を退けながら捜索してると一人だけ生きてる奴がいた。褐色の肌に銀髪の髪。その頭から羊の角が生えてるから、恐らく羊獣人だろう。っていうかグラマーな身体と薄い服のせいでハッキリ言うとエロい。
『まあ良いや。取りあえず安全な場所に⋯⋯』
「グゥウウウウウ⋯⋯」
羊獣人を安全な場所に移動させようとすると、後ろから獣の唸り声が聞こえる。振り向くと血に濡れた赤毛の巨大熊が俺を睨んでいた。
この熊は魔樹の森に生息してるバーサーク・ベアだな。狂化っていうスキルを使用してステータスを上昇させ、敵味方関係無しに暴れ回るEランクの魔物だ。恐らくコイツが馬車を襲ったんだろう。
《狂化》敵味方関係なく無差別に攻撃する代わりに全ステータスを大きく上昇させるスキル。
あ、何でGランクのエリアにEランクの魔物がいるのかって野暮な事は聞いちゃだめだゾ! ランヴェルさんとの約束だ。
まあ実を言うとバーサーク・ベアはスキルが凶悪ってだけで、それ以外はかなり弱いんだけどな。
『こりゃあ既に狂化を使ってんな。涎ダラダラ垂らしてやがる。ラリックマかっての』
「ガァアアアアアア!!」
バーサーク・ベアはその巨大な腕を滅茶苦茶に振り回しながら近寄ってくる。馬車の残骸が飛び、俺の鎧にガンガンと当たる。ダメージは入らないけど鬱陶しい。
『面倒くせえ⋯⋯』
俺は聖王の斧槍を構えながらバーサーク・ベアに近付く。滅茶苦茶に暴れ回る腕を避け、大盾で受け流し、弾いていく。そして
『くたばれ』
斧槍でベアの首を飛ばした。首はドサッという音を立てて地面に落ち、身体からは噴水の様に血が噴き出す。
『ウエッ、気持ち悪っ』
俺はそう呟いて斧槍に付着した血肉を飛ばす。
俺の斧槍には特殊効果で血糊防止加工というのがされていて、簡単に言えば血を弾く効果を持っている。兜とかにも色々付いてるんだが、また今度で良いよな?
『さてと、今度こそ安全な場所に連れてくか。日も落ちてきたし今夜は野宿か?』
羊獣人を担いでそう呟く。確かアイテムポーチに野宿用の道具が入ってたよな。
そんな事を考えながらこの場を離れる。因みに、ベアを解体して素材を取ってけば良かったと後悔したのは野宿する時だった。あれ売れば少しは金になったのに⋯⋯。