♯16 錆騎士
《獣人》
高い身体能力と鋭い五感を持つ、人と獣が合わさった様な種族。『~族』と分けられていて、細かく分けると数え切れないが、代表として『獣氏族』と呼ばれるものがある。
依頼から戻ってきた俺はネルシアに呼ばれた為、ギルド長室にやって来た。
中にはネルシアともう一人、錆び付いた武具を装備した男が居る。
『「チッ⋯⋯!」』
俺と男はそれぞれを見ると舌打ちをする。
「やあ、よく来てくれたねランヴェル⋯⋯ところで、彼とは何かあったの?」
『聞いてくれよギルマス! コイツがよぉ!』
「おいギルマス、何なんだコイツは! 俺が出てた間に変な奴を入れるんじゃない!」
『あぁっ!? 変な奴って何だゴラァ!』
「うるさいぞ新人! 念話スキルで話す奴なんて変な奴に決まってる!」
「⋯⋯ちょっと黙ってくれるかな、二人とも?」
『「は、はい⋯⋯」』
うわっ、ギルマス怖え⋯⋯猫なのに後ろに虎のオーラが見えるんですがそれは。
で、ギルマスが順番に話を聞いてきたのでその内容を簡単に話す。俺達カリュプスがバジリスクと遭遇して、この男が急に現れた後の話になるな。
この男はバジリスクを倒した後に俺達に近寄ってきたんだが、俺を見た瞬間に凄い威力の攻撃をぶっ放してきやがった。しかもその理由が「何か怪しかったから」ときたもんだ。
仏の様に優しい俺も流石にキレて、暫くコイツと殴り合った。まあ結局メリノ達に止められて、そのまま捨て台詞吐いて帰ってきましたけどな。
「まあ、それぞれの言い分は分かったよ。今回はゲイルの方に非があるね。ただ怪しいから、って理由で攻撃するのは流石に酷いと思うよ?」
「うっ⋯⋯」
「さて、じゃあそれぞれ紹介をしよう。彼はランヴェル。最近入ってきた新人のDランク冒険者だよ。まあ単純なステータスとしてはAランクにいてもおかしくないけどね」
あれ、俺のステータスってAランク止まりなのか? もしかしてこの世界のSランク冒険者ってもっと化け物だったりしちゃいます?
「そして彼はゲイル。このギルドのAランク冒険者で、今までは少し遠くに出現した迷宮の攻略を頼んでいたんだ。名前くらいなら聞いたことあるんじゃないかな? 錆騎士ゲイルで通ってるし」
『えー。こんな猪頭がAランクなんですかー?』
「猪頭って何だ!」
『うっせ! ロクな理由もねえのに攻撃してくる奴なんざ猪だ猪!』
「はいはい、ちょっと黙ってくれるかな。そして今回、君達を呼んだのは頼み事があるからだね」
ネルシアは机の引き出しから一枚の地図を広げる。この地図はどうやら王国周辺のものみたいだな。
「君達には今回、この村の防衛をお願いしたい」
指定されたのは王国から数キロ離れた小さな村だ。
「最近、この村周辺に大規模の魔物の群れが現れ始めてね。魔物大災禍が発生する可能性が出ているんだ」
「魔物大災禍!? それは本当かギルマス!」
『⋯⋯すまんギルマス。魔物大災禍って何だ?』
「は? ランヴェル、お前知らないのか? しょうがない、俺が教えてやる」
ゲイルは俺を馬鹿にするかの様な声色で説明を始める。少しイラッとしたが、聞かないという訳にもいかないので大人しくするとしよう。
「魔物大災禍っていうのは、簡単に言えば魔物が大量に発生する災害の一種だ。その数は大体数百から数千、酷い時には万の魔物が押し寄せる」
「原因としては魔力の濃度上昇、魔物の異常繁殖、突然変異による群れの長の誕生、といった所だね。今回は恐らく異常繁殖と思われるっていう報告が来てるよ」
『成る程⋯⋯勉強になった』
つまりゲームでいう無双クエストだな。ゲームだと少し弱めの敵が大量に出てきて無双するっていうクエストが偶に出ていたんだ。多分そんなヤツだろ。
っていうか冒険者になって数週間程度で大迷宮、その後すぐに魔物大災禍からの防衛って、忙しすぎねえか? いつか過労死しそう。
「特に何も無ければ御の字。本当に魔物大災禍が起きたなら君達に防衛を頼みたい。先日の大迷宮攻略で多数の冒険者が亡くなってしまったから、あまり人手は割けないけど増援も送るよ」
「分かった、引き受けよう。但し増援は要らん。俺一人で十分だ」
そう言ったゲイルはギルド長室を出ていく。
何だよ、一人で十分って。アイツの強さがどれ程か知らねえけど数百から数千だっけ? まあそんな数の敵を一人で相手出来る訳ねえのに。
数の力は個の力を超える、ってのはよく言われるよな。漫画とかでクソ強いキャラが数に押されて死ぬのが良い例だな。
原因としては数が多すぎる故に休む暇もなく、どんどん疲弊して最終的に動けなくなってやられる。それか数の暴力で四方八方から攻撃を受けてやられる場合があるな。
まあリビングアーマーの俺には関係ないけどな! 疲れないし魔石を砕かれなければダメージも受けない。そう考えると都合の良い身体になったもんだ。
「⋯⋯ごめんよランヴェル。魔物大災禍は、彼にも少し思う所があるんだよ」
『思う所?』
「うん。まあ私が何か言える立場じゃないから詳しくは言わないよ。それじゃあ今回の依頼については後で詳しく伝えるから早速向かって。よろしくね」
『お、おう』
話は終わりだと言わんばかりの態度のネルシアを見た俺はそのままギルド長室を出る。そしてギルド内のテーブルに集まっていたメリノ達の元に向かう。
「ご主人様、お話は終わりましたか?」
『おう。依頼から帰ってきて疲れてる所悪いけどすぐ出るぞ』
「えっ、もう?」
「ご飯頼んだ」
「すぐご飯食べちゃうから待っててよランヴェル~」
何でコイツらは飯を頼んじまうんだ⋯⋯そう思っていると飯が運ばれてきたんだが、人数にして五人分くらいの量の飯がテーブルに置かれる。
『おい、これ五人分くらいあるだろ。お前らで食えるのか?』
「僕は無理だけど⋯⋯レナがね」
「ん。私は食べられる」
こんな細い身体のレナがか? って思ったんだが、昨日の宴の時もかなり食ってた覚えがある。もしかしたら大食いなのかもしれない。
『⋯⋯分かった分かった。三十分待ってるからすぐ食っちまえ。宿で待ってるからな』
「ん、いただきます」
「私は着いていきます」
『あいよ。じゃあお前ら、待ってるからな』
俺とメリノはギルドを出ると宿屋⋯⋯ではなく商業ギルドに寄る。不要な素材、道具を売却するのとポーション類等を買っておく為だ。
『メリノ、パーティー資金からこのメモに書かれてる物を買ってきてくれ。俺は不要な物売ってくる』
「畏まりました」
メリノに買い物を頼むと、俺は売却カウンターに向かう。売却した物は金額にして約千フィールになった。魔道具の内の何種類かは売れなかったので、今度暇な時にでも燃やしておこう。
「ご主人様、只今戻りました」
『おうお帰り』
「所でご主人様、ポーションや投げナイフの類は分かるのですが、この素材や道具は何に使うのですか?」
『依頼で使う道具の製作に使うんだよ。ちょっと今回の依頼は面倒そうだからな。詳しい事は後で教える。あ、買い物サンキューな』
「はい」
その後、宿屋でカルマ達と合流した俺達は馬車を借し出している店から馬車をレンタルすると目的の村に向かう。その道中で今回の依頼内容を伝えた。
「魔物大災禍だって!?」
『らしいぞ』
「それは大変」
「魔物大災禍か~、少し不安だね~⋯⋯所でランヴェルは何をしてるの~?」
『ちょっとした魔道具を作ろうと思ってな』
さあ、今回用意するのは魔道具製作に使う道具各種とガラスのボウル、ゼラチン・キューブの魔石、ボウルの大きさにフィットする円形の板だ。
作り方は簡単。板の上にこの魔道具の核となる研磨した魔石をセットし、ボウルで蓋をして接着。そして板の裏側にでも魔法言語で『魔力』『注入』『設置』『障壁』と魔力を流しながら彫るだけだ。
そして完成したのがこちら。名付けてバリアフィールド展開魔道具。これは事前に魔力を流し込んでおいて、いざという時に地面に設置すると強固なバリアを張る使い捨ての防衛魔道具だな。因みに設置した後に外すとぶっ壊れる。
ちゃんとした素材と時間があれば使い捨てじゃないしっかりとした物が作れるけど、今回はそれが出来ないからな。
あ、それと凄く簡単に作ったけどこれは魔道具作成スキルがカンストしてるからだ。カンストしてない奴が作ろうとしても失敗するからな。ここ、テストに出るぞ。嘘だけど。
「これって⋯⋯魔道具かい?」
『正解だ。使い捨てだけど強固なバリアを張れる』
「どのくらい硬い?」
『そうだなあ⋯⋯使ってみなきゃ分からないけど、予想としてはCランクの魔物の攻撃を一時間は防ぐくらいか』
「すご~い。ちょっと使ってみせてよ~」
『お前は使い捨てっていう言葉を聞いてなかったのか?』
「皆さん、そろそろ着きますよ」
馬車の御者をしていたメリノの言葉で馬車から顔を出すと、目の前に村が見え始めている。
『よし、そろそろだお前ら。忘れ物ないか確認しとけよ』
「分かった」
「ん」
「はいは~い」
そして村に到着。村の雰囲気は重々しく、村人達はあまり元気が無いように見える。まあ、これから魔物大災禍が始まる、なんて聞かされたらそうなるか。
で、馬車から降りると村長らしい老人が近付いてきた。
「おお、貴方達は村を守ってくれる冒険者の方々でしょうか?」
『おう』
「ああ、ありがたい⋯⋯冒険者様、取り敢えずこちらに。まずはお話を聞いてくだされ」
村長に言われて着いていくと、周りの家より少し大きい建物に案内される。中に入ると大きなテーブルがあり、その席の一つにはゲイルが座っていた。
『うげっ⋯⋯』
「チッ、来たのか」
『うるせーよ』
ゲイルと険悪な雰囲気を出しながら俺達は席に座る。そして村長と数人の村人が大量の資料を持ってきた。
そういや魔物大災禍の事をメリノにも聞いたんだが、それが発生する可能性のある周辺の村や町は危険の無い範囲で出来るだけ情報を集める事が義務付けられてるらしいな。冒険者が来たときスムーズに作戦やら何やらを立てる為らしい。
「これが今まで集めた情報です。こちらは地図、こちらは見つけた魔物の名前になります」
村長達はテーブルに資料を広げる。地図には異様な程大きい魔物の群れを見つけた場所や普通なら出現しない魔物を見つけた場所に丸が付けてある。主にこの村を囲む様な形になっているな。
魔物の名前の資料には、黒文字と赤文字がある。赤文字は普通なら生息していない魔物みたいだ。
この辺りに生息してるのはビッグ・ボアやグレート・ベア等の魔獣系の魔物らしい。しかし最近はゴブリンやオーク、キングビートル等々が確認されてるみたいだな。
『なあ村長。他に何か分かってる事はないか?』
「他にですか⋯⋯ああ、そういえば魔物の群れがおかしな事になっていると聞きましたな」
『おかしな事?』
「ええ。この辺りの群れといえばフォレスト・ウルフという魔物が多く見られるのですが、最近はウルフの群れにグレート・ベアやゴブリンが混じっているとか」
「⋯⋯普通なら群れない魔物や、他の地域から来た魔物が群れている。確実に魔物大災禍の前兆だな。村長、この魔物を発見した場所の資料を借りてもいいか?」
「ええ、どうぞ」
その後、一通りの資料に目を通した俺達は村長に用意してもらった宿で一夜を過ごすことになった。
そしてその深夜。メリノ達が寝静まる中、宿をこっそりと抜け出した俺は村を出て群れが発見された辺りを見回っていた。
『⋯⋯』
群れが発見された場所には様々な魔物の足跡が見つかる。動物みたいな足跡や人みたいな足跡、虫みたいな足跡など色々だ。
「おい、お前。そこで何してる」
『あ?』
すると後ろから声を掛けられる。振り向いた先にいたのは錆びた武具に身を包んだゲイルだ。
『何だ、お前かよ』
「何だとは何だ。それで、お前は何をしている?」
『魔物が見つかったっていう場所を見回ってたんだよ』
「何故だ」
『今回の魔物大災禍、異常繁殖が起きたからなんだろ? それなら一種類の魔物だけの群れが誕生するはずだ。なのに他の地域からの魔物が見つかっている。つまり─────』
─────これは人為的に起こされたもんだ。
『だから犯人の証拠が転がってないか確認してたんだよ』
「⋯⋯やはりか」
『やはりって、お前気付いてたんじゃねえか。大方お前も犯人の証拠集めか?』
「そんな所だな。それと他人からの考えを聞いて仮説の確証が欲しかったんだ」
『ああそうかい』
⋯⋯でも、人為的に起こされたもんなら一体誰が起こしてるんだ?
そういえば、王国に訪れた時のワイバーンは支配状態に陥ってたな。そしてその犯人は見つかってない。もしかしたらこの魔物大災禍も同一犯かもしれないな。
結局、犯人の何かしらの証拠は見付からず俺とゲイルは村に戻る羽目になった。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。皆さん、そろそろ新年になりますね。
実は最近、今まで投稿した話を見直してるんです。新年に向けて誤字報告等を見つけておきたいと思いまして。皆さんも誤字や矛盾を見つけたら教えてくれると嬉しいです。
それでは今回はこの辺で。話が思い付くか分からないので次回投稿出来るか分かりませんが、新年初投稿になるので出来るだけ頑張りたいと思います。
それでは今回はこの辺で。では皆さん、良いお年をお迎えください。




