♯15 パーティー結成と⋯⋯
《フェアリー》
高い魔力、俊敏を持つ幼い容姿が特徴的な種族。身長は高い者でも50センチ程で、共通して美少年、美少女の姿となる。
『これとこれ⋯⋯あとこれもいらねえな。売っちまうか』
迷宮攻略の翌日。俺は宿でアイテムポーチやストレージの中身の整理をしていた。
武具や素材、道具でいらない物は別のアイテムポーチにしまい、出来るだけスッキリさせる。いらない物と判断した物は後で商業ギルドで売り払うか焼却して捨てるつもりだ。
『⋯⋯おっ、懐かしい物が出て来たな』
するとストレージの中から一つの魔道具を見つけ出す。
形はハンドガンに近い。所々に魔法言語が彫られていて、マガジンがある筈の場所には何かのゲージ的なものがある。
これは魔力銃と呼ばれる魔道具だ。数回限りの使い捨てだが、誰でも使えて低ランクの魔物なら普通に殺傷出来る程の威力を持つ。
ゲージ的なものは魔力銃の残数だな。これがゼロなると使えなくなる。金額はちょっとお高いから、裕福な貴族とかが護身用に持っていたりするな。因みにこれはゲームの時に依頼で作った物の残りだ。
いつでも使える魔力攻撃は貴重だ。魔法が封じられてもこれで魔力属性の攻撃が撃てる。もしかしたらどっかで使えるかもしれない。
⋯⋯因みに、この魔力銃を魔改造して馬鹿みたいな威力にした物が一丁ある。これは流石に封印しておこう。
他にも漁っているとMPを使って灯るランタンとか、記憶にある場所の風景が見える双眼鏡とかを見つけた。ゲームの傍らで作ってそのまま埃を被してた物だったけど、便利なものは残しておこう。
『⋯⋯よし、こんなもんかな』
整理するとストレージの中身は五分の三、アイテムポーチの中身は半分まで減らす事が出来た。
残す物に関しては、ストレージにはあまり使わない物や魔物の素材を。アイテムポーチには比較的使う頻度が高い物やポーション等のアイテムを入れた。
『うっし、ギルド行くか』
俺は宿を出るとギルドへと向かう。途中で王国の色んなニュースが載る掲示板を見つけたので流し読みしたが、昨日の冒険者達の事は特に載ってなかった。どうやら昨日の殺人はバレてないみたいだ。
まあ鎧やらを剥いで血を洗って、死体を王国の外でこっそり焼いたから見つかる筈がないんだけどな。
ギルドに着いた俺は辺りを見渡す。すると近くのテーブルに見知った奴らがいるので近付いていく。
『おはよう』
「ご主人様でしたか。おはようございます」
「やあランヴェル。おはよう」
「おっはよ~ランヴェル」
「ん、おはよ」
俺はメリノ達にギルドで依頼を受けてもらう様に頼んでおいた。テーブルの上にはDランクの依頼が何個か広げてあった。
あの攻略のお陰でカルマ達はランクがEへと上がった。最下層まで到達したのと、そこで起きた多数のフォモール族との戦闘が評価された様だ。
『そういや、あれは出してくれたか?』
「はい。ご主人様の指示通り、依頼を受注する傍らで提出しました」
で、俺達とカルマ達はパーティーを結成。昨日の内にパーティー名を決めておいた。そして今日、依頼を受けるついでにそのパーティー結成の旨をギルドに伝えた訳だ。
パーティーランクはE。パーティーで依頼を受ける際は一部のみだが一つ上のランクを受注出来る。
『オッケー。で、依頼は?』
「皆と相談したんだけど、今回はトレントの駆除と商人の護衛を受けたんだ」
『成る程、問題ないな。じゃあ早速行くか』
俺の言葉に四人は頷くと、装備を持って立ち上がる。
『うしっ、俺達『カリュプス』の初仕事だ。気ィ張ってくぞ!』
そう、俺達のパーティー名はカリュプスだ。ラテン語で“鋼”の意味を持つ。この名前にした理由? 格好良いからだよ言わせんな恥ずかしい。
─────
「ああ、貴方達ですか。私の護衛をしてくれるというのは!」
依頼書に指定されていた場所へ行くと優しげな顔の商人が立っていた。その後ろには雑多な品物が大量に積まれた馬車がある。
「随分な大荷物なのですね」
「はい。近くの町にある本店へと持って行くのですよ。この王国へは品物の調達に来ていまして」
『確かにここら辺は賊が多いからな。こんな大量の品物持ってりゃ狙って下さいって言ってる様なもんだ』
まあ、だから護衛依頼を頼んだんだろうけどな。商人は早速出発する様なので、俺達は荷台の適当に空いている場所へ乗り込む。
『じゃあ俺は索敵してるから。敵が出たら任せるぜ』
そう言うと生命感知の感度を上げる。周りからはあらゆる振動、音源、気配諸々が俺の頭に流れ込んでくる。
生命感知は任意で感度を変えられるんだが、様々な情報が頭に流れ込む為に普通なら激しい頭痛が起きて高い感度はあまり使えやしない。俺はリビングアーマーだから頭痛⋯⋯というか痛み自体を感じないから易々と使えるんだ。
「いや~、しかし鎧の英雄様が私の護衛依頼を受けて下さるとは思いませんでしたよ」
「鎧の英雄、ですか?」
「ええ。そこのお方の事ですよ。全身を鎧に身を包み、英雄の如き力で魔物を屠る。我々下民にとっては本物の英雄様と寸分違いませんから」
⋯⋯俺、そんな風に言われてるんだな。すっごい小っ恥ずかしいんだが。
「鎧といえば、皆さんは錆騎士という冒険者を知っていますか?」
『錆騎士?』
「はい。あのギルド唯一のAランク冒険者なのですが、実戦では使えない錆び付いた武具を扱う騎士の方です。彼は私の店のお得意様でしてね」
錆騎士⋯⋯聞いた事ないな。メリノ達に聞いてみても知らないらしい。
ってか錆び付いた武具を使って戦うって凄いな。そういうユニークスキルでも持ってんのか?
その後、特にこれといった事も起きずに町に着いた俺達は依頼書に完了のサインを書いてもらって王国へと戻る。
その道中、トレントを捜す為に奇樹の森へと入った。
『さて、今回はお前らのLv上げも兼ねている。俺はここで荷物を見張ってるから。メリノ、コイツらの面倒頼む』
「分かりました」
そうそう。今回は依頼を受けたついでにカルマ達のLv上げも目的だ。パーティーを組む際にコイツらのステータスを見させてもらったんだが、少し心許なかったからな。因みにこんな感じだ。
名称・カルマ
年齢・17歳
種族・蟲人《蟷螂族》
職業・戦士
Lv・29
・装備
魔鉄の大鎌(血糊防止加工)
鉄蟲の軽鎧(重量軽減加工、衝撃耐性・小)
鉄蟲の篭手(重量軽減加工、筋力上昇・小)
鉄蟲の足甲(重量軽減加工、俊敏上昇・小)
蟲人の魔蟲籠(蟲国の秘法)
・スキル
鎌術4
風魔法1、異常魔法2、魔蟲魔法2、生活魔法
打撃耐性1、猛毒耐性2
剛力3、硬化2、瞬発2、隠密4、消音2、擬態3、威圧2、威嚇1、狂化6、魔力操作2、起死回生3、
予見2、猛毒攻撃4
悪意感知3、気配感知3、魔力感知2、危機察知2、弱点察知2
運搬1、演技4、解体4、欺瞞6、軽業5、警戒6、採取2、指揮3、狩猟4、窃盗6、跳躍4、
逃走4、料理2、連携4
HP回復2、SP回復3、HP強化2、SP強化1、
筋力強化1、俊敏強化2、五感強化2、インセクトキラー2
・ユニークスキル
なし
名称・レナ
年齢・162歳
種族・エルフ
職業・弓使い
Lv・28
・装備
氷花の弓(属性攻撃・氷結)
魔鉄の短剣(血糊防止加工)
魔狼の革鎧(衝撃耐性・小)
隠密樹の外套(気配遮断・小)
魔狼の革手袋(腕力上昇・小)
魔狼の革ブーツ(俊敏上昇・小、跳躍上昇・小)
・スキル
短剣術1、弓術3
風魔法3、土魔法1、回復魔法1、弱化魔法2、生活魔法、精霊魔法3
疾風耐性2
瞬発1、柔軟2、隠密3、消音3、擬態2、詠唱短縮2、魔力操作3、鷹の目2、集中2、予見3
悪意感知2、気配感知1、振動感知2、気流感知2、魔力感知2、危機察知1、強者察知2、
急所察知1、採取察知1
治癒眼
解体2、軽業3、曲芸3、採取4、狩猟3、調合2、跳躍3、追跡2、逃走2、投擲1、捕縛2、
目利き2、木工1、連携3
MP回復2、MP強化3、SP強化2、魔力強化2、俊敏強化3、五感強化1、貫通強化2、
疾風強化1、バードハンター2
・ユニークスキル
なし
名称・アリス
年齢・65歳
種族・魔族《魔人》
職業・道芸人
Lv・15
・装備
毒薔薇の茨鞭(属性攻撃・猛毒、属性攻撃・痛覚)
魔鉄のソードブレイカー(血糊防止加工)
魔鉄のジャグリングピン(魔法媒体、命中率上昇・小)
魔鉄糸のピエロ帽(魔法威力上昇・小)
魔鉄糸のピエロ服(魔法耐性・小、衝撃耐性・小)
魔鉄糸のピエロ靴(俊敏上昇・小、跳躍上昇・小)
・スキル
短剣術2、鞭術4、投擲術2
火魔法3、闇魔法4、精神魔法2、生活魔法、爆発魔法3
火炎耐性2、激昂耐性2、魅了耐性1
静思3、瞬発2、見切り1、柔軟2、詠唱短縮3、影分身2、空中跳躍4、魔力吸収3、
魔力操作3、集中2、予見2、魅了攻撃3
悪意感知2、気配感知3、魔力感知3、強者察知2、弱点察知2、急所察知2
解体2、軽業3、欺瞞2、曲芸3、御者3、拷問2、狩猟3、跳躍2、逃走2、捕縛3、連携3
SP回復2、HP強化3、MP強化2、耐性強化2、俊敏強化3、五感強化4、火炎強化2、
暗黒強化3、イビルキラー2、アンデットキラー1、マジカルクラッシャー1
・ユニークスキル
なし
こんな感じだな。アリスのLvが変に低いのは魔人っていう種族の特性だ。
魔人はスキル習得やスキルLvの上がりが他の種族より早い代わりに基礎Lvが上がりにくい。ステータス自体がかなり高いからあまり気にならないけどな。
で、Dランクに上がる為に依頼を受ける必要があるが、そのランクまでにLvを10程度上げておきたい。今後、依頼外でもコイツらには積極的にLv上げを行ってもらう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「頑張る」
「行ってきま~す!」
「では、行ってきます」
『おう。メリノは三人がピンチになったら手助けしてやってくれ』
そして四人は奇樹の森へと入っていく。
さて、俺はどうすっかな。確かストレージの中に暇潰し用の魔道具が入ってた筈⋯⋯いや、あれは確かぶっ壊れたんだっけか。
『⋯⋯暇だなぁ』
俺もついて行けば良かったと少し後悔する。ってか荷物見張りって言ったってストレージ入れとけば大丈夫だったじゃねえか。
何もする事がないので暫く空を見上げながらボーッとしていると、森の方から振動を感知する。
『ん、何だ?』
生命感知の感度を再び上げると、メリノたち四人の生命反応と、その近くに別の反応が一つ出ている。
先程の振動の反応もここから出ている。何か嫌な予感がするので武器を持つと
『ロング・ジャンプ!』
ロング・ジャンプで一気にメリノたちの元へと飛ぶ。
『おいお前ら! 大丈夫か!?』
ジャンプすると俺はメリノたちの安否を確認する為に叫ぶ。目の前には何故か硬直している四人と⋯⋯
「ゴゲァアア!」
このエリアには存在しない筈のバジリスクが木の上で鳴いていた。
バジリスク。Bランクの魔物で一見は巨大なトカゲだが、その目はあらゆるものを石へと変える怪光線を放つ。
バジリスクの周りには石化した大量のトレントと、ステュムパリデスという翼、嘴、爪が青銅で出来た鳥の魔物がトレントと同じように石化して地面に倒れていた。恐らくさっきの振動はステュムパリデスが落ちた時のだろう。
『まさか⋯⋯!?』
もしやと思いメリノたちを見ると、やはり四人とも石化している。トレントとステュムパリデスの群れと戦っている途中で木の上にいたバジリスクから石化光線を喰らったんだろう。
ってか何でここにバジリスクがいるんだよ! あれか? どっかの馬鹿貴族が飼いきれなくなってここに放したのか?
「ゲェアア!」
バジリスクは新しい獲物を見つけたとでも思ったのか、石化光線を放ってくる。だが俺は状態異常無効のスキルを持っている。光線を喰らっても石化せずにいられるんだ。
《状態異常無効》状態異常耐性の上位スキル。猛毒、衰弱、魔封、石化、呪滅の状態異常を無効化する。
『バステ・リカバリー!』
《バステ・リカバリー》快復魔法Lv1の魔法。状態異常系のバッドステータスを快復する。
俺はバジリスクを一旦無視して石化している四人にバステ・リカバリーを掛ける。バステ・リカバリーは猛毒や石化等の状態異常に分類されるものを治す快復魔法だ。
「っ! 皆さん、横に飛んで⋯⋯え?」
『おうメリノ。石化から治った気分はどうだ?』
「ご主人様? 何故ここに?」
「ら、ランヴェル? これは一体⋯⋯?」
「わぁ~。すっごい細かく作られた石像だね~⋯⋯あれ、これトレント~?」
「⋯⋯バジリスク?」
石化が解かれた四人は各々様々な反応をする。ってかコイツらよく群れに囲まれんな。しかも今度はバジリスクに出会うって⋯⋯運なさ過ぎるだろ?
『丁度良い。お前ら、あのバジリスクを倒してみろ。さっきは不意打ち喰らってたけど真っ正面からなら大丈夫だろ』
「ええっ!?」
『大丈夫だ。ピンチになったら助けてやるから。それにコイツ倒せれば5Lvくらい上がるんじゃないか?』
バジリスクは石化光線が危険なだけで平均Lvは50くらい。対してカルマ達は30程度。三人で掛かれば丁度良いくらいの相手だろ。
『ってかさっさと倒しに行け。さっきから石化光線がウザったらしいんだよ』
「わ、分かったよ⋯⋯」
「強制された」
「あはは~。しょうがないね~」
そして三人がバジリスクを倒す為に武器を構える⋯⋯それと同時だった。
「せえいっ!」
突然の掛け声と共にバジリスクの首が両断される。何事かと視線を戻すと、そこには⋯⋯
「お前たち、大丈夫だったか?」
錆び付いた全身鎧と、どう見ても実戦では使えない錆び付いた大剣を担いだ奴が立っていた。




