♯14 宴と仲間と暗殺と
《リザードマン》
竜が如き筋力と耐久を持つ種族。男性は竜に、女性は人間に近い姿を持つという性質を持っている。また、炎系統の魔法を覚えやすい。
「それでは⋯⋯今回の迷宮攻略と勇敢な冒険者に!」
「「「「乾杯っ!」」」」
一人の冒険者が音頭を取り、それに合わせて他の冒険者達がジョッキを掲げる。
はい。という事でね、俺達は今冒険者ギルドで宴をしています。まあ、俺は飲み食い出来ないから端っこでそれを眺めながら報酬の確認をしてるだけだけどな。ちょっと羨ましいなんて思ってない。
『バロールの魔眼に⋯⋯フォモールの素材が少々。それと武具が何種類か、だな』
今回の迷宮攻略。迷宮の主を倒した事でMVPとなった俺はそれなりの報酬を頂くことが出来た。
例えばバロールの魔眼。これはメドゥーサの首と同じ様に、本体は死んでいてもその効力は発揮している。これは一度だけ、どんな敵でも即死させる便利なアイテムなんだ。因みに使うと消滅します。
他にも氷結属性の武器や氷結耐性が高い革防具を作れるフォモールの素材。ゼラチン・キューブの核。マンティコアの尻尾とかだな。
フォモールの素材はともかく、他のは魔法道具やポーションの素材に使える。俺なら作れるから今度暇な時にでも作るか。
『⋯⋯んで、メリノは宴に参加しないのか?』
メリノはさっきから俺の隣で銀貨の枚数を数えている。
金の管理はメリノに任せた。俺だと無駄遣いとかしそうで怖いし、元メイドだったっていうメリノならそういうの得意そうだからな。偏見だけど。
「遠慮させてもらいます。あまり騒がしいのは好きではないので」
『⋯⋯せめて食べ物でも貰ったらどうだ?』
「お腹は減っていないので大丈夫です」
『さいですか』
金を数えているメリノを横目にギャーギャー騒いでいる冒険者達に目を向ける。沢山の机を取り囲んで酒やら料理やらを食っている中、料理と武具が置かれたまま誰も座っていない場所が一つ。
あれは今回の攻略で死んだ冒険者の物だ。ギルドでは“散っていった勇敢な冒険者に感謝を”と言って置いておく。その後、武具はその者の家族に遺品として引き取ってもらうか、教会で弔ってもらうんだと。
『⋯⋯やっぱ、現実なのかなぁ』
武具を置いておくなんて、そんなのゲームには無かった。死んでもデスペナルティを受けるだけですぐに復活出来るし、NPCが死んでも特に何も起きなかった。
多分、これはこの世界が現実で、そして“死”というのが存在するからなんだろう。
まだゲーム感覚でいる自分に、少し嫌気が差してくる。
「ランヴェル~、メリノちゃ~ん。そんな隅っこにいるけど楽しんでる~?」
すると顔を赤らめたアリスがフラフラとした足取りでこっちに近付いてくる。それを見たメリノは顔を顰めて口元を押さえた。
⋯⋯うん、絶対酒臭いよな、あれ。
「ええ、充分楽しんでいます。ですので離れてください」
「ひっど~い! ランヴェル~、メリノちゃん冷たいよ~!」
『何か迷宮攻略前にもこんなやり取りやってた気がする』
「ちょっ、アリス! 何でランヴェル達に絡んでるんだ!」
「アリス、悪酔いしすぎ」
何かデジャヴを感じていると料理を持ったカルマとレナがやってくる。
『ようカルマ、レナ。調子はどうだ?』
「一応楽しんではいるよ。こんな宴なんて参加した事がないから勝手が分からないけどね」
「ん、コソコソ飲み食いしてる」
『その割には随分と料理食ってるじゃねえか』
レナの手にある皿には、エルフだからなのか分からないが野菜中心の料理が大量に盛ってある。カルマの手にも肉やエールのジョッキがあった。
「ところでランヴェル。君に⋯⋯その、頼み事があるんだけど、いいかな?」
『いいぞ。俺もお前達に頼みたい事があったからな』
カルマへの頼み事。それは俺達のパーティーに入ってくれないか、だ。
というのも、俺は色んな王国とかを回ってみたい。勿論、観光目的ではなく元の世界に戻る為の手掛かりを探す為だ。
ゲームと同じなら地上には十一ヶ国の王国がある。これだけあれば一つくらい帰る方法が見つかる⋯⋯と、思われる。
そこで、既に何回か共に戦ったカルマ達にパーティーに入ってもらい、それを手伝ってもらいたい。人数は多い方が良いからな。
『で、頼み事ってなんだ?』
「その⋯⋯僕達をランヴェルのパーティーに入れてくれないかな?」
⋯⋯おお?
「みんなで相談したんだけど、君達について行けば⋯⋯今は言えないけど、僕達の目的を果たす事が出来るんじゃないか、って思って」
『別にいいぞ』
「だよね⋯⋯やっぱりこんな事急に言われても⋯⋯って、え?」
『うん、すっごいベタな反応ありがとう』
あれだな。この世界って度々ベタな事が起きるよな。最初の仲間が獣人だったり、途中で助けた冒険者が仲間になるイベント起きたり。
「えっと、本当に?」
『ああ。俺の頼み事もお前らにパーティーに入ってほしいってやつだったからな』
「凄い偶然だね~」
「ん、驚き」
レナ、全然驚いてる様な表情じゃないんですがそれは?
『じゃ、決まりだな。これからの金銭面とかそういう細かいのは後でにして、今はゆっくりしようぜ』
「ああ、これからよろしく。ランヴェル」
俺とカルマは握手をして、三人は俺達の元から去って行く。
⋯⋯さて、俺も俺でちょっとした野暮用を解決しますかね。
『⋯⋯メリノ、少し歩くか』
「分かりました」
俺達はギルドを出ると街頭のない暗い夜道をゆっくりと歩く。そして少し通りを外れ、人影の少ない裏路地に入っていった。
ある程度裏路地の奥に入ると立ち止まり、|尾行していた《・ ・ ・ ・ ・ ・》奴らに向かって話し掛けた。
『おい、いつまで着いてくる気だ?』
「「「!?」」」
奴らはバレると思っていなかったのか、一瞬驚くとその姿を現した。まあ、姿を現したといっても全然見たことがない奴らだったけどな。
「⋯⋯いつから気付いていた?」
『ギルドで宴が始まるくらいだったか? そんな悪意やら殺気やらがダダ漏れじゃあ簡単に気付くさ』
奴ら⋯⋯というか、恐らく攻略組だった冒険者の一人がギリッと歯軋りをする。
多分こいつらはぽっと出の俺が今回の攻略で活躍したのが気に入らないんだろう。
スポーツ部の新入部員が自分たちよりも上手いから虐めた。新入社員が自分たちよりも仕事が出来るから虐めた⋯⋯そんなのと同じだな。
『で、俺をどうする気だ?』
「分かってんだろ。気に入らねえからこのまま消えて貰うんだよ」
『気に入らないから殺すとかどこのガキ大将ですか?』
俺の言葉が癇に触ったのか、冒険者達は頭に血管を浮かべて走り出す。人数は⋯⋯四人か。
『メリノ』
「はい」
「っ!?」
メリノを呼ぶと彼女は屋根の上から音もなく飛び降り、冒険者の一人を拘束する。
「カッ⋯⋯!」
そして針を拘束した相手の耳に突っ込んでそのまま殺害した。
メリノには少し前の角を曲がった所で隠密系スキルを発動してもらい、暗殺を出来る様に隠れてもらっていた。冒険者達は俺だけに注意を向けていたので気付いていなかったみたいだ。鈍感な奴らだなぁ。
「なっ!」
『まあ、お前らの言いたい事も分からんでもない。だけど⋯⋯』
俺は斧槍を振るう。風を切る鈍い音と共に、奴らの表情は「こんな筈じゃなかったのに」とでも言いたげな、恐怖と後悔に染まっていった。
『俺達を殺そうとしたんだ。自分たちが殺られる覚悟も⋯⋯出来てるんだよな?』
相手を殺そうとしてるのに自分は大丈夫? そんな甘ったれた考えが通用するわけないだろ。
『まあ、俺も苦しむ姿を見たいって思う程の外道じゃないから⋯⋯苦しまさずに殺してやるさ』
そう言うと恐怖に怯えている冒険者達に向かって、無慈悲に斧槍を振り下ろした。
─────
『おっしゃメリノ。こいつらの身包み剥いじまうぞ』
「分かりました」
目の前で死んでいる冒険者達の身包みを二人で協力して剥いでいく。
しかしあれだな。死体がクソ重いって本当だったんだな。多分現実だったら一人じゃ持ち上がんなかったぞこれ。
メリノは手際良く鎧やらを外し、俺が開いているストレージへと入れていく。
『⋯⋯』
「ご主人様、どうかしましたか?」
『⋯⋯いや。何でもない』
⋯⋯人間を殺したのに、俺は何の気持ちも抱かなかった。普通殺したなら動揺して⋯⋯いや、殺す前に既に動揺してるか。
それなのに俺は何の感情も抱かなかった。躊躇とか、恐怖とか、何の感情も。
『どうしちまったんだろうな、俺⋯⋯』
まだゲーム感覚でいるからなのか、リビングアーマーになっているからなのか⋯⋯。
「ご主人様、全て回収しました」
『ん、ああ。じゃあ戻ろうか。お前も疲れたろ?』
やめよう、こんな事を考えるのは。今は今出来る事をやればいい。それに⋯⋯
『俺の目的を邪魔する奴は、容赦しねえからな』




