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♯9 気になる冒険者

《エルフ》

 最も長い寿命と多大な魔力を持つ。弓や魔法を得意として、一人の精霊をパートナーとする。また、三種の種族に分けられる。

「ギャギャア!」


『ほいっと』


「ギャギエッ!?」


『よっしゃ、これでこの依頼は終わりだな。そっちはどうだ、メリノ』


 俺達は今、近くの村の農作物を荒らしていたホブゴブリンの討伐の依頼に出ている。


 飛び掛かってきた最後のゴブリンを叩き潰すと血糊を払い、少し遠くで戦っていたメリノの様子を見に行く。


「こちらも終わりました」


 周りにはゴブリンの死骸が散乱しており、メリノは再利用出来る針を回収している。


『じゃあ帰るか』


「はい」


 俺達はゴブリンの死骸を一カ所に集めて火炎魔法で焼却すると王国へ戻ることにする。


 その途中で薬草やキノコの類も採取していく。これを薬屋に売れば無料でポーションを作ってもらえるからな。


 特にマナ・ポーションは必須だ。俺はともかく、メリノはMP自動回復のLvはそこまで高くない。即時回復出来るポーションなんかはいざという時に便利だからな。


 ただ俺達は採取スキルが高くないから、どうしても品質が悪くなってしまう。こんな事になるならちゃんと上げときゃよかったな。


『えーっと、これは何のキノコだ? メリノ分かる?』


「それ、毒キノコですよ。それもポーションにも毒薬にもならない類です」


『使えねえって事だな。捨てよ』


 採取を始めてから約十分くらいか。それなりに薬草を集めるとロング・ジャンプで帰ろうとする。


『⋯⋯ん?』


 すると遠くから剣戟の音が聞こえてきた。誰かが戦ってるのか?


「どうしました?」


『いや、何か剣戟が聞こえるからさ』


「冒険者ですか?」


『多分な』


 生命感知を発動すると、ここから北側。そこにある森で冒険者が戦ってるらしい。


 人数は三人。敵は大きいのが二匹程だな。怪我してるのか動きが鈍い。このままじゃやられる可能性があるな。


『ちょっと見に行ってみるか』


「はい」


 生命感知が反応する方向へと向かう。暫く歩くと開けた場所に辿り着き、そこでは冒険者が三人。更にバーサーク・ベアが二匹戦っていた。


 冒険者は大鎌を持った青年。ピエロっぽい服装の少女。弓を持った少女だ。全員、どこかしらに怪我を負っている。


「クソッ! バーサーク・ベアが二匹も出るなんて聞いてないぞ!」


「だって誰も言ってないよ~、カルマ~」


「アリス、冗談やめて」


「んも~、堅いこと言わないでよレイちゃ~ん」


「アリス! 真面目にやってくれ!」


 ⋯⋯何かデコボコしてる冒険者だな。ただ連携はかなり良い。多分大鎌使いが前衛を、ピエロが中衛、弓使いが後衛を担っているんだろう。それぞれがカバーして何とか攻撃を防いでいる。


 ただ、それも時間の問題だろう。大鎌使いはベアに対して致命的な攻撃を与えられず、ピエロ⋯⋯は何を使ってるのか知らないけど、弓使いは矢が無くなったら終わる。


『助けるぞ』


「分かりました」


 森の中で炎は危ないから⋯⋯大地魔法で先制するか。


『アース・スピア!』



《アース・スピア》大地魔法Lv7の魔法。岩と土で作り出した巨大な槍を敵に向かって発射する。


《大地魔法》四属上級魔法の一つ。範囲性のある強力な大地の魔法を覚えるスキル。



 大地魔法で覚えられるアース・スピアは、土で作った巨大な槍を相手に発射する。下位互換でストーン・スピアというのがあるが、こっちの方が大きく威力も高い。


 発射されたアース・スピアはバーサーク・ベアの脇腹に命中し、大きく肉を抉った。


「なっ、何だ!?」


 冒険者が驚いているが無視して走り出す。そして盾を前に構えると


『シールドバッシュ!』



《シールドバッシュ》大盾術Lv1の戦技。盾を構え、強烈な突進を発動する。



 大盾術のスキルであるシールドバッシュを発動。腕を振り上げて大鎌使いを殴ろうとしていたバーサーク・ベアを吹き飛ばす。


『メリノ! そっちの奴頼むわ!』


「分かりました。バインド・ワイヤー、アイス・ニードル」


 メリノはアース・スピアで負傷している方を縛り上げるとアイス・ニードルを負傷箇所に撃ち込んだ。中々にエグい攻撃するな⋯⋯。


『っと、俺も攻撃しないとな! ムーンサルト!』


 俺はシールドバッシュで吹き飛ばされたバーサーク・ベアに向かって跳躍。空中で一回転して攻撃するムーンサルトを発動した。



《ムーンサルト》斧術Lv9の戦技。大きく飛び上がり、一回転して三日月の様な軌道で斧を振り下ろす。



 三日月の様な軌道を描く斧槍は頭を砕いて真っ二つにする。


「チェックメイトです」


 俺が討伐するのと同時にメリノはバーサーク・ベアの首を糸で切り落とす。どうやら後ろに倒して、ソイツ自身の重量を利用して斬った様だ。


 ⋯⋯メリノって『チェックメイトです』が口癖なのかね。ワイバーンの時も言ってた気がするし。


『お疲れメリノ』


「お疲れ様です」


 メリノに労いの言葉を掛けると冒険者の方を見る。


 大鎌使いは凄い驚いてる表情をして、ピエロはパチパチと拍手をしている。弓使いは無表情のまま俺達を見つめていた。


 そういやコイツら怪我してたな。治してやるか。


『サークル・ヒール』


 俺は回復魔法で覚えられる範囲回復のサークル・ヒールを唱える。



《サークル・ヒール》回復魔法Lv5の魔法。味方のHPを中回復する魔法陣を発動する。


《回復魔法》援護系魔法の一つ。自分や味方のHPを回復する魔法を覚える。



 このサークル・ヒール、回復量としては少し心許ないがこういう多人数での回復では重宝する魔法だ。


『お前ら、大丈夫か?』


「あ、ああ。さっきはありがとう。助かったよ」


 冒険者達に声を掛けると、このパーティーのリーダーなのか大鎌使いが礼を言ってくる。


「僕達だけだったら全滅してたかもしれない。君達は命の恩人だよ」


『ただ通りすがっただけなんだがな』


「それでもお礼は言わせてくれ。本当にありがとう」


 ⋯⋯何か、ここまで感謝されるとむず痒さを感じる。現実でもゲームでも感謝されるより感謝する方が多かったからか?


 その後、俺達は一緒に王国に戻ることになった。ロング・ジャンプで王国に跳んだ後、ギルドに着くまで少し雑談に花を咲かせた。


 彼らは深緑の牙というFランクのパーティーで、ゴブリンの討伐に出ていたらバーサーク・ベアと出くわしたらしい。そこで応戦してたら俺達が来た訳だ。


 そして大鎌使いの名前はカルマ。蟲人という、獣人の蟲バージョンの種族だ。カルマは蟷螂族らしい。見た目は紫髪の優男なんだが身体はしっかりと引き締まっている。所謂細マッチョだな。


 ピエロの名前はアリス。種族は魔族で、その中でも代表的な魔人だ。敵を撹乱するのが主な役割らしい。少し話したが凄い癖のあるやつだった。赤髪のボブカットが特徴的で左頬にはティアドロップの化粧をしてある。


 最後に、弓使いはレイ。種族はファンタジーを代表するエルフだ。金髪ショートのロリっ娘でまな板だな。何がとは言わないけど。


「っ! ⋯⋯何か馬鹿にされた気がする」


「急にどうしたんだ、レイ」


「まな板って馬鹿にされた。絶対」


「⋯⋯ご主人様?」


 ⋯⋯メリノの視線が痛い。まあ俺で合ってるんだけどさ。女の勘って怖いな。


『と、ところでアリスはどこに行ったんだ?』


 目を離していた間にアリスが消えている。他の皆も分からないのかキョロキョロと辺りを見渡す。すると


 もにゅん。


『⋯⋯もにゅん?』


「うへへへ⋯⋯柔らかいですな~」


 変な音がしたと思ってメリノの方を向くと、アリスがいつの間にかメリノの胸を背後から揉んでいた。アリスは凄い下卑た表情を浮かべている。


「ちょっ、アリス!? 何してるんだ!」


「ん~? メリノちゃんの豊満なお胸を揉ませて戴いてるんだよ~? あ~柔い、尊い。何を食べたらこんなに大きくなるの~」


「~~~っ! 離れなさいっ!」


 メリノは顔を真っ赤にすると針をアリスに刺そうとする。しかしアリスは奇っ怪な動きでそれを避けて俺の背中に張り付いた。


「きゃー助けてランヴェル~。君のメイドさんがボクを襲ってくるよ~」


『何を馬鹿言ってんだ! おまっ、俺を盾にすんな!』


 っていうかメリノのあんな表情初めて見た気がする。今までずっと無表情だったからな。俺の思い出のメモリーに大切にしまっておこう。あとアリス。お前ボクっ娘だったのな。


「ご、ごめんなさいメリノさん! アリスには良く言っておきますから!」


『メリノ落ち着け。なっ? ちょっとその手に持ってる針を下ろして深呼吸だ。お願いだから俺ごとアリス攻撃しようとか思わないでくれ』


「⋯⋯分かりました」


 何とか落ち着いてくれたのか針を仕舞う。俺はそれを見て安堵すると背中に張り付いているアリスを引っ掴んだ。


「わわっ! 何だよランヴェル~」


『お前、ちょっと常識を考えろ。出会ってまだ十数分しか経ってない相手の胸を揉むとか何考えてんだ』


「でも眼福だったでしょ~?」


『それは否定しない』


「ご主人様? ご冗談はそこまででお願いします」


 おっと、メリノが凄い殺気を纏ってる。冗談はここまでにしておこう。


「ところでランヴェル。本当にバーサーク・ベアの素材を全部貰っていいのかい?」


 するとカルマが素材について聞いてくる。


 先程倒したバーサーク・ベアの素材だが、俺達はカルマ達に全部譲る事にしたんだ。この素材なんて腐るほど持ってるからな。売却してもそこまでの金にはならないし、それ以前に金も沢山あるし。


『ん? ああ、俺達には不要な素材だからな』


「でも助けてもらったんだし、君達が全部貰う権利だってあるはずだよ?」


『⋯⋯お前ら、そこまで稼げてないだろ?』


「っ!」


 コイツらの装備、使い古してるのかかなりボロボロだ。カルマの鎌は刃が歪んでるし、アリスの使ってる防具は補修の跡がある。レイに至っては矢を買う金すら無いのかベアに突き刺さってた矢を引き抜いて筒に入れてた。


 そんな金の無い奴らから素材を貰うほど性根は腐ってないからな。


「良く、分かったね」


『そりゃあそんなボロボロだったらな。だからその素材はお前らが好きに使え。金にはならないけど革鎧くらいなら性能高いのが出来るだろ』


 ⋯⋯そうだ。そういえばストレージに使わない武器をしまってたんだよな。確か大鎌とかあった気がする。


『なあ、お前らって何の武器使うんだ? カルマとレイはともかくアリスが分からんのだが』


「え? えっと⋯⋯僕は大鎌。アリスは鞭とソードブレイカー。レイは弓と短剣だよ。二人のソードブレイカーと短剣はサブとしてだけど」


『なるほどなるほど』


 俺はストレージを開くと中に入っていた魔鉄の大鎌、毒薔薇の茨鞭と魔鉄のソードブレイカー。氷花(こおりばな)の弓と魔鉄の短剣。更に数種類の防具を取り出した。ランク的には全部Dランクくらいの価値はあるな。


 因みに良く出てくる魔鉄というのは魔力が込められた鉄だ。普通の鉄よりも硬く、魔法防御が高い。値段も安めで良く使われる金属だな。


『ほい、これやるよ』


「えっ!?」


 装備を渡すとカルマは驚いた表情を浮かべる。アリスとレイは我先にと装備を受け取った。


「わ~、こんなにくれるの~? 嬉しいな~♪」


『レイには矢もプレゼントしよう。ほれ』


「ん、ありがと」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! いくらなんでもこれは⋯⋯」


『いいんだよ。俺達は使わないし埃被ってた装備だから』


 二人と違って遠慮して受け取ろうとしないカルマに装備を無理矢理渡す。


『もしタダで受け取るのが嫌だったら出世払いでも良い。何かしらの依頼を一緒にやるのでも良いしな』


「だけど⋯⋯いや、分かった。ありがたく頂戴するよ」


 カルマは俺が折れないと分かったのか大鎌と防具を手に取る。


『それで良し。お前らが使ってた装備は鍛冶屋に渡しとけ。金にはならないけど引き取ってはくれるからな』


「分かった。この礼はいつか必ずさせてもらうよ」


「太っ腹だね~、ランヴェルは~」


「ありがと」


『良いって事よ』


 その後、ギルドで報酬を受け取った俺達はその場で別れる。


「⋯⋯ご主人様。なぜ彼らに装備を?」


『ん? いや、名前を教え合った仲だろ? あのままの装備だったら遠からず死んだだろうからな。そうなったら夢見が悪いし』


 何となく気に入ったしな。あの三人のこと。いつかアイツらとも冒険してみたいなぁ。


「そうですか。ご主人様が決めたのならそれで良いです」


『おう。さて、俺達も宿に帰るか』


「はい」

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