〔Ⅰ-執事の仕事〕
1775年 ロンドン ヴェーデル邸
「んん!いい朝だ...」
「そうですね...」
俺はそう言うとせっせと執事の服に着替えた
「よしっ!なあグリンダ、俺は何をすればいいんだ?」
「初歩的な事からとアストレア様から言われているので、そうですね...まずは掃除、洗濯から始めてみましょう」
「了解っ!」
だが思った、以外にこの館の...アストレアの父、エディル公爵のヴェーデル邸は広い...掃除と洗濯をするにしても...
子供の頃はよく家族の手伝いをしていたかなぁ...一人暮らしのおかげでまったく...それに洗濯はこの時代なら...
「ハヤト、これでお願いしますね!」
と言って洗濯板を渡された
「やっぱりな...」
7時間後...
「はぁ...はぁ...疲れた...」
「よく頑張りましたね、初めてにしては上出来じゃないですか?」
「そうだな...」
「2人ともー! よく頑張りましたわねー! 一緒にティータイムでもいかが?」
アストレアが大声でこちらに誘ってきた。
「どうでしょう、ハヤト、ゆっくりティータイムでも?」
「よし、癒しの時間だな?」
そう言うと2人は階段を登ってアストレアに付いて行った
遠目で見ると奥にはバルコニーがある
1775年 ヴェーデル邸 バルコニー
「おぉ、すげぇ絶景だ!」
バルコニーを出ると眩しいくらいの夕日が出迎えてくれていた
「どう?ここのバルコニー、結構良い所に建てられてるのよ?」
「あぁ、ちょっと疲れが忘れられた気がするな」
「さっ、席に座って頂戴?」
アストレアは座ってティーカップに紅茶を淹れ始めた
「どうぞ!」
「ありがたくいただこう」
俺はティーカップを手に取った
「では、僕も頂きますね」
グリンダもティーカップを手に取った
「お菓子とスコーンもあってよ?」
「おぉ、美味いな、これ」
「そうでしょう?」
「中々ですよ」
アストレアは紅茶を飲んでは、ティーカップを皿に置いた
「ねぇ、フランスの事についてなんだけど、話さないかしら?」
フランス...?
そしてグリンダは呟いた
「あぁ...フランス革命だね...?」
フランス革命...そうか!今...1799年...ん、待てよ...?
「そう、フランス革命よ、今、女王陛下は対仏大同盟を結成してフランスの新政権を打倒しようと考えてるのだけど」
あぁ、思い出した...歴史の授業で習ったぞ...
「ナポレオン...か...」
「ナポレオン?誰なの?」
アストレアは疑問に思った
「あぁ、ナポレオン...フランスの皇帝だよ...」
「フランスの皇帝? ルイ16世じゃないのか?」
しまった、ナポレオンはまだ即位はしてなかったんだ...
だが、これが史実通りなら確実にナポレオンはフランスの皇帝になる...
しかし、僕に出来る事なんて、前線で戦うこと...か
「いや、何でもない、間違えてただけだ...」
「ふぅん...」
アストレアは再び話し始めた
「そう、その対仏大同盟を結成してフランスを打倒するのだけど」
「なんかきな臭い事が起きそうなのよ?」
「まあ、中央諸国も騒然としてるし、無理は無いけどね、というかそれって感なのか?」
グリンダはそう答えて再びティーカップを持った
「中央諸国?」
「中央諸国、神聖ローマ帝国の中にある構成国の事だよ」
アストレアは言った
「知らないの?神聖ローマ帝国の事」
「いや、知ってるよ...中央諸国は少ししか...」
「まあ、僕達も出来れば戦争は起こって欲しくないけど、女王陛下に言うなら、アストリアの父上に相談しなきゃ」
「そう...よね...」
ん...?
俺はふと思った事を言った
「この国は議会制だろう?それなら女王陛下に言ったとしても通るかどうかは分からないぞ?」
「あぁ、それもそうかもね」
「......」
「さっ、片付けてそろそろ自分の部屋に戻りましょうか、今日のお仕事終了!」
「おう、そうだな」
「そうだね、じゃあハヤト、僕も部屋に戻るから!」
「あぁ、俺も戻るよ」
転生?転移?分からないが...ここに来てからさっそく面倒な事になりそうだな...だが...まあ、今目の前にあるのが現実なら、それに抗うしかないのだろうが...
1799年 ヴェーデル邸 自室
コンコン
誰かがノックしている...
「入ってどうぞー」
「ねぇ、ハヤトさん、ちょっと、買い物に...付き合ってくれるかしら...?」
アストレアだ...
「何故だ?グリンダはどうしたんだ?」
「グリンダはちょっと忙しいみたいで...」
「ふぅん、あぁ、執事の立場だしね、喜んでお引き受けいたしますよ...それにこの時間なら女1人歩かせる訳にも行かないだろうし...」
「ありがとう...」
1799年 ロンドン市街
「そうそう、これよ!これが欲しかったの!どうかしら?」
「んっ...素敵ですね...そのドレス...」
「でしょう!?」
そう...以外に可愛かった...
「これ、買いますわ!」
「はい、ありがとうございます」
まあその後色々買って...
「おぉ...俺はお荷物係かっての!?...執事だから仕方ないけど...」
「そうね、執事だから仕方ないわよね!」
「お、おう?そうだよな...ハハハー(ムカッ)」
「ん...殺気...?」
「キャアアアアッ!」
「悲鳴だわ!」
「お、おい!」
アストレアは急に走った
「待ちなさいっ!」
「...」
その男はこちらに向かって走り出した
「あっ危ないっ!」
「はっ!?」
アストレアが刺される、俺はそれを食い止めようとした...
「ウッ...クソっ!」
運良く身体を外してくれたが腕に刺さってかなり痛い...だが...
「...おりゃあぁ!」
何とか突き放した...
「クッ...」
「あっ、ハヤト!」
「いい、アストレア...それより、お前は一体...」
男は答えた
「フンッ......そうだな、ジャックとでも答えておこうか...」
ジャック......いや、まさか...切り裂きジャック...
ジャック・ザ・リッパー...?
男はその隙に...
「あ、おいっ!」
「くっ...」
逃げられてしまった...
「ハヤトっ!その血...早く止めないと!誰か!誰か!」
痛い...車に轢かれた時は痛みすら感じ取れなかったのに...
くっ...
「...いっ! 大...夫か...!?」
意識が...
「...やく! 血...止めな.....と!」
あぁ...俺、どうなるんだ...また...死ぬのか...?