表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使のたまごも楽じゃない  作者: 佐倉小春
7/21

もう一度

誤字脱字を訂正し、一部表現も訂正しました

「こちらも説明不足が否めませんが、今後注意してくださいね」

 相変わらずの白い肌にくるくる金髪が目に眩しい。ミカエル様はキラキラ光る空気を身に纏わせながら、腕を組んで厳しい視線を飛ばしてくる。

 美形に睨まれると心臓を鷲掴みにされているような錯覚を覚えて胸が痛い。


「思い切りジャンプしたら羽が出るとか、もともとの仕様がおかしいんじゃないでしょうか」

 助走をつけてジャンプしたら勝手に羽が出てきた。ってのは俺が悪いのか?俺は悪くない!と自己主張しようとしたら、大げさにため息を一つ付いて組んでいた腕を解いて俺の背中を指差す。

「もともと天使見習いのあなたに大した力はありません。飛びたいと思ったときに空を飛べるくらいです。ただ、見習いといえども天使。世の人の力になりたいと願えばいつもよりも力を発揮することができます。

子供のために風船を捕まえてやりたいと願えば、人ならざる跳躍力を発揮するでしょう。翼というあなたの持つ力を無意識に使って」

「ミカエル様・・・」

 押さえつけるのではなく、幼い子供を諭すような言葉。

「天使に奇跡は起こせません。でも、今回のは高く飛びたいと願うあなたの意思であり、自分の力を使っただけです。それでも、この世においては天界の力を使うことは禁忌です」

 そうだよな・・・空飛べたらびっくりするよな・・・


 風船を取ってあげた子どもたちは羽は見えてなかったらしい。「すげージャンプ!!」という称賛の嵐だった。誰かに見えていたら「羽が!」という言葉が出てくるだろう。子供は正直に見えたものを言葉にするだろうから。

 問題は千聖だ。見間違いじゃないかと背中を見せてごまかしたが、納得しているのかしていないのか怪しい。でも実際着地したときには羽はなかったのだから納得するしか無くて、しばらく煙に包まれたように目をシパシパさせながら首をひねっていた。

 なんとかごまかして千聖と別れ、ミカエル様が用意した一人にはやや広すぎる2DKの部屋に帰り着き、ソファーに沈み込んで脱力しているときに、どこからともなくミカエル様が姿を現した。

 音もなく現れるものだからびっくりして腰を抜かしそうになる。と言ってもソファーにもたれていたので、さほどの醜態を晒すこともなかった。で、冒頭のやり取りを交わすこととなった。


 (おれ)が死んで2ヶ月。天使として天界に所属していても見習い中でやっていたのは雑用と人間界の勉強だけ。

 他の天使たちは生前の記憶が無いので、人間界の成り立ち、仕組みの勉強をしていくらしいが、俺はそこらへんの記憶はあったので、教師役の大天使についついツッコミを入れてしまっていた。間違えてることや、古い情報は訂正しないと!という使命感だったのだが、どうも不評だったようで、人間界の授業は中止となった。

 俺が天使見習いとなった時期には他に見習いはいなかったので、マンツーマンの家庭教師に教わっているような状況だったが、どうもやりづらかったらしい。

 天界についてと輪廻転生に関することは見習いを卒業した天使たちと共に学んだが、そこでも俺がいるとやりにくいと遠回りに牽制されていた。そんなことが続いて、これでは天界の秩序が保てないとミカエル大天使長(ああ見えて神様の次に偉い人らしい)の計らいで俺は人間界で前世の記憶をもっている意味を探すことになったのだが、天使と知られてしまった場合はどうなるのか聞いてなかった。


「そもそも司令も無いのに人間界に降りる天使というのは存在しません。どこまでもあなたにはイレギュラーがつきまとう」

 再度ため息をつきながらじーという音が聞こえてきそうなほどの眼力で見つめてくる。心の中を見られているような感覚に背中が冷たくなるような気がした。

「天界からの司令によって降りてきている者たちが人でないと知られた場合、強制的に天界に転移された後に意思の有無にかかわらず輪廻転生の輪に乗せられて人として転生します」

 人になれるならいいのではないかと思った後ですぐに気づいた。人としての記憶をもたない天使たちは、神の御使いとして天界の秩序を守りつつ人の役に立つ、という目標を掲げて頑張っていた。そこら辺の考え方も人間界を知っている俺とは違っていた。

「とりあえず様子を見ましょう。あなたが『バレたかどうかはわからない』と思っているのが本当であることはわかりましたから」

って心の中読まれた!?

「ちょっと気になることもあるので、監視の意味を込めてあなたには高校生になってもらいましょう」

 『気になること』が何かも気になるが、監視って。誰かはなんとなく分かるけど、一応誰かをきちんと確認しておいたほうがいいかと思い、疑問を素直にぶつけてみると

「そんなことも分からないから、イレギュラーのまま成長しないんですよ」

 ふっと鼻で笑われたのが悔しいが、実際いろいろわからない事が多いのでぐうの音も出ない。

 まあでも高校生になれっていうんだから、監視対象は高校生。俺の接触した高校生といったら数は少ない。

「今後はくれぐれもばれないように。身体能力は人間であったときよりも勝っていると思ってください。もともと生前のあなたは身体能力が高かったようですが、気をつけるに越したことはありません。微妙に性格は違っているようですから、態度でバレることはないとおもいますが」

 性格・・・

 思い出した記憶と、二ヶ月間天使見習いとして過ごした期間がうまく融合できていないのか?

 人であったときの記憶の殆どに千聖が絡んでいる。一途に千聖を思っていたのだと我ながら呆れるくらいだ。

 ただ、今の俺にも千聖という少女を好ましく思う気持ちもあるが、一部では客観的に冷静に『そうなんだ』と思うところもあって、熱い部分とそうでない部分がマーブル模様のようにきれいに混ざりそうで混ざらない。自分のことながらすっきりしないもどかしい感じ。


「明日から結城アラタとして美南高校に通学してください。事務系のことは天界で処理しておきます」

 処理って・・・あまり深く追求しないようにしておこう。

 それよりも、もう一度高校生活を送れるということにワクワクした。あの充実した日々をまた過ごせるのかと思ったら正直嬉しかった。自分の高校生活を思い出して気分が高まってくる。


「あなたの使命はあなたに干渉する何らかの力を突き止めることです」


 ミカエル様の声が俺を現実に引き戻した。ああ、そうだ楽しんでばかりではいられない。


 自分が何かの力に干渉されていたことはうすうす気づいていた。死因としては交通事故。ただ、その後の展開が他の死者とは違っている。その原因となる干渉元を探すのが俺の使命。うん、なんかスッキリしてきた。自分のするべきことが見えてきたって感じだけど、干渉元って表現がまた曖昧。

「具体的に言えば、怪しい人物の監視ですね」

更にわかりやすくなってきた。

「あなたの監視対象となるターゲットは・・・」

多分千聖だろうな・・・と思っていたのに、ミカエル様が告げた名は意外な人だった。



「転校生を紹介する。結城アラタくんです」

 どうごまかしたのか、俺は隣県からの編入生ということで、生前と同じ学校、同じクラスに通うこととなった。

 みんなの前で注目を浴びながら紹介される。もともと俺が過ごしていたクラスだから見知った面々に懐かしさを感じる。気軽に声をかけようとして自分は彬ではないことを思い出して「よろしく」とだけ挨拶して席についた。

「みんな仲良くしてあげてね」

 小学生じゃないんだからとツッコミを入れたくなるのをぐっとこらえて、指示された机に向かう。

 教師になってまだ2年目の女教師は、子供の頃見た熱血教師が主人公のドラマにあこがれているらしく、熱意が空回りしていることが多々あった。小学校の教師の方が向いているのではと強く思ったが、本人は友達のような先生を目指すには高校じゃないとと分からない持論を展開されたことを覚えている。

 そんな熱い先生と、今どきのややドライな生徒たちの微妙な空気を中和させるべく立ち回っていたことを思い出す。


 引きつった顔が戻らないまま椅子に座ろうとして気づく。この席は俺の席だ。三枝彬として過ごしていた高校時代に俺が使っていた机と椅子。

 そうか・・・俺が死んで欠員が出て、人数が減ったから補充で編入できたのか。

 複雑な心境で席に座り、ふと顔をあげると斜め前に座る千聖と目があった。視線がぶつかった瞬間にニコっと破顔した。つられて俺の引きつった顔も無意識に緩む。

 ふと誰かに見られている気がしてあたりを見回した。そして気づく。誰という単数ではなく複数の目とぶち当たる。転校生に興味津々のクラスメイトみんなが俺に注目していた。


 進学校の割にお祭り騒ぎが好きな生徒が多く、校風も「文武両道・何事にも全力!」ということで、勉強もするが遊びも全力。

 珍しい転校生に興味津々というところだろう。でも、みんながこちらを見ているというのは恥ずかしい。今ならパンダの気持ちが理解できるかもしれない。

「授業を始めます。前を向いて」

 教師モードに戻った担任の一声で教室の空気が変わった。

 腐っても進学校の生徒たち。切り替えが早い。今までにこやかに微笑んでいた顔がきゅっとしまり、真面目に前を向いて教科書を開いている。

 みんなの視線から解放されてホッとしながら千聖の方を見ると、まだ俺の方を見て手をひらひらと小さく振っていた。千聖は自分の口を指さした後、ゆっくりと口を開いた。


 あ と で 


 口の動きでそう読み取れた。

 どちらにしろ千聖との接触はこの授業が終わってからになる。とりあえずは真面目に高校生として授業を聞いているふりをしながら、この後どう動くか頭の中でシミュミーションしていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ