表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使のたまごも楽じゃない  作者: 佐倉小春
3/21

事故の全容

この後はもう予定がないという千聖に話を聞かせてもらうことになった。

先程のいちゃもんつけてきた生徒たちと鉢合わせ無いようにと、喫茶店よりは近くの森林公園の方が良いだろうということで、人気の少ない公園の奥のベンチに並んで座った。


千聖を心配した梨花も一緒についてきた。三人で座ろうとするとかなり近くに千聖の息を感じる。

「で、あなたは三枝くんのなんなの?」

ややきつめの言葉を投げかけてくるのは梨花。確実に怪しいと思われている。

すべてを正直に話すわけにもいかないので、ここはいっちょ架空の設定でもでっち上げないと・・・

「俺の名前はアラタ。君たちは?」

にこやかに挨拶をすると

「桜井千聖です。隣りにいるのは梨花ちゃん」

名乗ってくれた千聖のとなりで梨花は苦い顔をしている。


「彬とはネットゲームで知り合ったんだ。ネットではいつも一緒にチームを組んで戦っていたけど、正直言ってリアルで会ったことは無い。俺は隣の県に住んでるからな。」

思いつきだけどスラスラと出てくる。

梨花の方は疑っているような目をしているが、千聖の方は信じてるっぽい。

「だけど、ぷっつりと彬はネットに来なくなった。あいつが連絡もなしに何日も続けて来ないなんておかしいだろ。これは何があったに違いないと踏んで、エゴサーチじゃなくて、彬サーチをかけたんだ」

「何その、エゴサーチって?」

梨花が言葉を挟んでくる。

「自分のことをネットで検索することだよ。悪口が書いてあることもあるし、過去に新聞に載ったいいことも悪いことも引っかかってくる。で、俺は彬の名前を入れて検索をかけて、事故のことを知った」

我ながらいい言い訳!話を作る才能があることが立証された。

「あいつがネットゲーム?」

それでもまだ怪しんでいるような梨花。

中高生はネットゲームに夢中ってのが俺に残っているかすかな記憶。俺がやっていたかどうかは覚えてないが・・・


一方の千聖は目をうるませている。

何だ!?泣かせるような話はしてないけど・・・

「ごめんなさい・・・私のせいで・・・彬くん・・・」

うわー!!美少女の涙は見たくない!!心にずしりと罪悪感がぁ。

ハラハラと涙を流す千聖の背中を梨花が優しくなでている。

大丈夫、大丈夫と繰り返して千聖に声をかけている梨花は友だちというよりも母親みたいだな。


千聖の涙が落ち着くのを待って、立ち上がって二人の前に移動する。

事故をニュースで見たと言うだけで泣き始め、何も言わずに慰める。

この二人は事故の詳細を知っているはずだ。事故のことを聞けば彼女たちを傷つけるのかもしれないが、俺は自分の目的を果たすためにここに来たんだ。

どうにかして動かないと天使にもなれず、人にも転生できないかもしれない。

天界のゆったりした時間の中でのんびり過ごすのもありかもしれないが、なぜか心が焦っている。


「ごめん、こんなこと聞いたら辛いのを思い出してさらに辛くなるかもしれないけど、教えて欲しい」

真っ直ぐに二人を(主に千聖を)見つめてゆっくりと言葉を発する。

「彬の死んだ事故のことについて、知っていることをすべて話してくれないか」

なるべく感情的にならず、落ち着いて言った言葉に反応したのは梨花が先だった。

「何言ってんのよ!もう、忘れたいのよ!あなたが事故のことを知ってももうどうにもならないでしょ!興味本位で人のこと探ってるんじゃないわよ!」

どこかの演劇でも見てるように感情的に叫んでいる。

ここでも千聖は感情をあわらに不快を示す梨花と対象的な顔をしている。

落ち着いた聖母のような微笑み。先ほど涙を流していたときとは違う表情。涙が溢れそうで潤んでいる。

「梨花ちゃん。私・・・彬くんのことを忘れたいと思っているわけではないんだよ」

梨花が目を見開いている。

「むしろ忘れたくないの」


千聖はベンチに座ったまま、目の前に立つ俺と視線を合わせてゆっくり話し始めた。

「あの日、横断歩道を歩いていた私に、居眠り運転の車が突っ込んできたの。彬くんは歩道の方に私の手を引っ張ってくれて、私は歩道に倒れ込んだ。でも、その反動で彬くんが車道に・・・彬くんは5mも空を跳んだの」

終わりまで俺から目をそらさなかった。

儚げだけど、強い意思をもっている瞳。なぜだろう・・・この瞳が懐かしい・・・

って当たり前か。この子を生前の俺は知っていたはずだ。

多分特別な存在だったのではないか。


「私がもっとよく道を見ていたら・・・もっと早く車に気づいていたかもしれない。そうしたら、彬くんは事故に合わなかったかもしれない。私のせいで・・・」

赤い唇を噛みしめて声をつまらせる。

さっきのヒステリー女どもが言っていたのはこのことか。

俺が勝手に庇ったせいで、彼女は悪者にされている。なんでそうなる!?

千聖が俺の彼女だったかどうかは知らないし、その時どう考えていたのかは分からないけど、今の俺なら千聖が彼女か彼女で無いかは関係なく、助けただろう。

天使的思考の万人に幸福を!!ってのじゃなくて、こんな綺麗な子だったら助けたいと男なら思う!!


「どう考えても悪いのは運転手だろう」

冷静に考えればそうなんだよな。誰が悪いって居眠り運転の車。

「何がどうなったら、横断歩道を青信号で歩いている歩行者が悪いって話になるんだ?」

ふつうのコトをふつうに言っただけなんだけど、二人は驚いたように俺を見る。

何だ何だ?当たり前だろう・・・

大きなため息を付きながら梨花は首を振っている。

「そんな普通のことが分からなくなるくらい、彬がいなくなった影響が大きいのよ」

へ?俺の影響?


「背も高くてイケメンで、成績も上位の方だったし運動神経も上・・・の下くらい」

上の下って・・・上だけで止めといてもいいんじゃね?

「全校生徒から人気があったのよ。いつも注目の的だったから、よく告られてたみたい。だけど彬は千聖のことしか見てなかったから、みんな断ってた。同級生は二人のことをよく分かってたから微笑ましく見てたけど、3年のお姉さんたちは歯がゆかったでしょうね。

あの日も彬と千聖が下校してるのにまとわりつこうとして青信号に変わった瞬間に千聖を押したのよ。そこに車が突っ込んできたの」

それって、千聖は全く悪くないじゃないか。

「学校前の交差点ってこともあって、目撃者が多かった。でも、千聖が押されたところは誰も見てなかった。青信号だったのに・・・押されたのに・・・千聖一人が悪いように言われて・・・」

悔しさに梨花の手がブルブルと震えている。

涙を必死に堪えているのか、次第に肩まで揺れてくる。


俺が死んだことがそんな大事になっているとは・・・

そんなに俺ってすごかったのかと場違いなことを考えながら、どうしたもんかと思案する。

死因はわかった。

千聖が俺の彼女であっただろうこともわかった。ただ、それは知識として。

今、彼女を見て可愛いと思う。仲良くなれたら楽しいだろうな・・・とは思う。でも、車に轢かれそうになったら命をかけてまで守りたいかと言うと、そこまでの感情はない。

まるで映画を見ているような感覚。

まだ何か足りない。何か思い出さないといけない気持ちがある気がする。

それには・・・


「千聖さん。おれに彬のことを教えてくれませんか」

え?とつぶやいて小首をかしげて俺を見る。

「俺は正直彬のことをネットの中でしか知らない。リアルな彬のことを教えて欲しいんです」

右手を差し出すと、横から手を叩かれた。

千聖の方に向かって手を伸ばしていたのに、千聖の隣の梨花に叩かれたのだ。

「あんた、何言ってんのよ!見ず知らずの男にどうして千聖が付き合わないといけないの!?」

「千聖さんが一番彬のことを知っているから」

しれっと言ったが、多少の下心も含まれてるのに気づかれたのか睨みを効かせてくる。

「千聖さんはさっき、『彬のことを忘れたくない』って言ったよね。俺も彬のことを忘れたくない。というかもっと知りたいと思ってる」

そうそう、本当は何も知らないんだから。と心の中で付け足しておく。

「彬をが好きだった場所とか教えてくれると嬉しいんだけど」

頭をかきながら更に右手を千聖の前にずいっと差し出すと、千聖はくすくすと笑っている。

「アラタくんて笑うと彬くんに似てるね」

そうなのかな?彬の顔がわからないので、実感はない。ミカエル様は見た目は違うと言っていたのだが・・・

「彬くんの友達にあえて嬉しいです。彬くんのことを忘れたくないと思ってくれて嬉しいです」

差し出した俺の手を握って立ち上がる。

手、柔らかい・・・温かいな。

「明日土曜日で学校休みだし、彬くんの好きだった場所に行きましょう。私で良ければ案内します」

極上スマイルに胸がキュンとする。手から伝わる温もりが心地よい。


これは誰でもこの子に陥落するんじゃないか?









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ