表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使のたまごも楽じゃない  作者: 佐倉小春
10/21

ミカエル様の疑問

「ねぇねぇ、千聖ちゃんとアラタくんって付き合ってるの?」

 直球の質問に思わず転けそうになる。何言ってるんだ寧音(しずね)は。

「違いますよ!俺まだ転校してきたばかりだし!」

 なるべく落ち着いていったつもりなんだけど、寧音はニヤニヤ「分かってるって・・・」と俺だけに聞こえくるらいの声でつぶやいた。

 千聖はそんな俺達のことをじっと見ている。

「私は彬くんが大事なので」

 その先は言われなくても分かる。俺何もしないでふられてる?

 俺の中身は彬でも周りの人にはアラタと認識されている。当然別人であり、最近知り合ったばかりの彬の友達と思われるのが当たり前なんだけど、実際は彬の心を持っているので千聖に拒否されると心がチクリと痛む。

 頬をうっすら赤らめて千聖は寧音をまっすぐ見て迷うことなく言葉を紡ぐ。

「でも、彬はもう帰ってこないでしょ?もう忘れたほうがいいのよ」

 優しく諭すように声を掛けるが、千聖はフルフルと髪を揺らしながら首を振る。

「忘れたくないです。私、彬くんのことを忘れたくない。そして、私のことも忘れられたくない」


 忘れないで


 その言葉が心に響く。俺が死ぬ間際に溢れてきた誰かの思い。

 あれは千聖の心なのか?

「この先どうなるかは私もよくわからないけど、でも・・・忘れたくない」

 誰も何も言えなかった。

 誰にも曲げられない信念を語るように千聖の瞳には力が籠もっていた。

 自分のことを第三者的に聞いて、嬉しいけど複雑な気持ちでいっぱいになった。

 俺はすでに死んでいる。天界に遣わされて天使となった(まだ見習いだけど。)もう、人として千聖の前に立つことはできないだろう。人間界に生きる人達に俺が彬だと気付かれないようにと姿を変え、声を変え、中途半端な立場のままここにいる。

 俺は・・・三枝彬(さえぐさあきら)として確かにここにいたはずなのに、どうして今アラタとしてしか千聖の前にいられないのか。葛藤とジレンマが混ざりあって吐き気がしてきそうだった。

 記憶を取り戻しても何もならない。ただ、千聖を大事にしていた気持ちを取り戻しても、彬でない俺はその隣に立つこともできないのに!


 これ以上ここにいてもぐちゃぐちゃな気持ちに拍車をかけるだけだと気付き、なんとか平静を装って三枝家を辞去した。

 これからどうするべきか考えても思いつかず、とりあえずミカエル様に相談かなと思いながら帰宅すると相談しようとしていた人が優雅に寛いで座っているのには驚いた。

 まるでアラブの富豪が豪奢な絨毯の上にクッションを敷き詰め、周りに美女を侍らしながら座っているかのように床の上の敷物の上にあぐらをかいて座っている。いつものキラキラ空気を隠しもせず、誰を誘っているか聞きたくなるような色っぽい視線が怖い。

 ぐちゃぐちゃだった心の気持ち悪さがミカエル様を見て吹っ飛んだ。すげえ、と思わずため息をついてしまったのを見咎められたのか色っぽかった視線が急に厳しいものに変わる。

「どうでしたか?」

 その言葉で自分の気持も引き締まったのを感じる。

「ミカエル様の言ったとおりでした。過去の俺のアルバムを見たのですが、写ってなかったです。卒アルにも普通のスナップ写真にも。パスワードを思い出したのでネットカフェから俺のパソコンデーターを覗いてみたけど、なかったです」

 何度も同じクラスになった同級生だったはずなのに、クラス写真にもいろいろな行事の写真にも写っていなかったのはおかしい。どうして過去の俺は気づかなかったのか。

 俺の言葉にミカエル様も大きく頷いている。

「天界の方からも調べましたが、天界からも調査不能でした」

「調査不能?」

 神様って万能なんだろ?その神様の直の下僕である大天使が調査できないってどういうことか・・・


 そもそも今日三枝家を訪問したのは、彬の遺影に手を合わせるためでもなく、ミカエル様からある調査を頼まれたからだった。

 自分の遺影に手を合わせたって嬉しくもなんともないし、俺の意識はここにあるんだし自分が死んだと思えない状況なのだ。仏前にいく気なんてこれっぽっちもなかったのに、ミカエル様は俺の過去を調べてくるように指示してきた。過去のアルバムを見て俺の友人関係、クラスメイトなどをチェックするように言われたのだ。

 そこには写っているはずの人が写っていないだろうとの予想を告げられて、実際その通りだったので多少びっくりした。ミカエル様はただの偉そうな天使じゃなかったんだなと思ったときに

「今、失礼なことを考えていますね」

 見透かされたように言われてドキッと息を呑んだ。この人俺の心読んでる?

「あなたは単純ですからね、心を読まなくても顔を見れば何を考えているか分かりますよ」

って、心読めるのかよ!とツッコミを入れつつ、そんなに顔に出ているのかと反省する。生きているときは鬼の生徒会執行部とか言われてポーカーフェイスは得意だったはずなのに。

「天界で調査不能ということは少なくとも人間ではあり得ません」

 急に話を戻してくるからびっくりした。真面目モードに切り替えて話に集中する。

「地上に生を受ける人間はすべて天界で管理されています。記録にない人間はいません。彼女は私が力を使っても人である痕跡が見当たらないのに、人として生きている事になっている。天界人であっても私の調査が及ばないというのは考えにくいことですが、不可能ではありません」

「ちょっと待ってくれ、話が見えない。あいつが人ではないというのはどういうことだ」

「そのままですよ。人でなければ可能性は二つ。天界に住むものか、魔界に住むものか」

 うわー、いきなりファンタジーになってきた。ってか、俺も天使(見習い)だからファンタジーの住人になるのか?実感ないな。

「私の力が及ばないということは、天界でも私以上の地位にいるものか、魔界の住人が関与しているか・・・」

 俺を無視してブツブツ言っているミカエル様の瞳が怪しく光る。

 美形が思考を巡らせて憂いている姿は絵になるけど、ちょっと怖い。徐々に怪しい顔つきになってくるのを見ていると背中に冷たいものが流れてくるのを感じる。


 俺の記憶を取り戻すだけのはずだったのに、なにか分けのわからない事になってきて混乱する。

 もっと単純に、簡単になんとかできないものなのか。

「ミカエル様、ちょっと聞いてもいいですか?」

 返事はなかったが、顔を上げて視線を合わせてくれたことで肯定だと受け取る。

「確認ですが、俺は前世の記憶があるということが天使として弊害があるという理由で、人間界に来たんですよね」

 そうですねと軽く頷かれる。

「前世の記憶を持っている理由が、誰かが関与しているからだろうということで誰が関与しているのかを調べる必要があると言われましたよね」

 更に「そうですね」と同じセリフを繰り返す。

「誰が関与しているか、本当はミカエル様は分かっているのではないですか?」

 ごまかしても無意味なので直球で勝負に出た。

「ミカエル様ははっきり調査対象を俺に告げましたよね。『見張れ』との意味に取れました。そして、過去に存在したかも調べてこいと言った。どう考えても怪しいですよね」

 腹芸は昔から苦手で、思っていることをストレートに伝えるとニヤッと笑って

「それほど鈍くもなかったんですね」

 とつぶやいた。って、誰でも分かるわ!!

「でも、足りないですね」

「へ?」

「彼女の正体がはっきりしたわけではありませんが、それほど大きな器ではないことは見れば分かります。他に誰か、彼女よりも力の強い誰かがいるはずです」

 そう言い切るミカエル様は腕を組んで更に何かを考えているようで、視線が俺から外れて天井を見ている。

 何だか訳が分からなくなってきた。いろいろ話を組み立てて思考をまとめ上げていく過程は嫌いじゃないが、今は足りないピースが多いのと、天界や天使のことに関しての情報が少ないのとで思考が纏められない。

 多少の面倒くささも手伝って、もうこのままでもいいじゃないかと思えてくる。

 前世の記憶持ちの天使がイレギュラーなら、このまま結城アラタとして人間界で暮らすってのはどうだろう。

 千聖には異性として見てもらえないかもしれないが、彼女の側で見守っていく生活もなかなか・・・

「ストーカーですか、あなたは」

 いい考えただと思ったのに、思考は途中で中断される。

「俺の心読んで・・・?」

「読まなくても分かると言ったでしょ。顔を見ていると思考ダダ漏れですよ」

 軽蔑されたような流し目で見られて心が凍えて固まりそうだった。

「このままこの姿でいいから人間界で暮らしたいとか思ったんでしょうが、それは無理です。あなたの姿は仮初のもの。人間界にいられるのは一ヶ月がいいところでしょうね。もともとあなたは見習いです。大した力は持ってないので、私の力を分け与えて人の姿を保っています。力切れにならないように時々私があなたの元を訪れているんですよ」

 気づいていなかったでしょと言われるとその通りなので、おとなしく頷くしかない。

「とりあえず原因がはっきりしたら、イレギュラー天使であっても天界で天使としての生活に戻っていただきます。他の大天使の意向もありますし、彼女との生活は後2週間くらいでしょうか。まぁ彼女が天に召され、新たな人生を歩むにあたって輪廻の輪に入るときに、あなたも天使を辞して一緒に輪廻の輪に入れば、運が良ければ一緒に転生出来るかもしれませんよ」

 まさに天使という美しい微笑みを浮かべながら放つ言葉はまるで悪魔のささやきのように感じた。

 天使の皮をかぶった悪魔がここにいると神に密告したくなる気分だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ