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天使のたまごも楽じゃない  作者: 佐倉小春
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過去を思い出せ!人間界へGO!!

天使に生まれ変わった男の子が自分の過去を探していくお話です。

天界とか天使などの概念はすべてフィクションです。

作者が都合の良いように創造しておりますので、ちゃんとした文献とは違うところが多々あると思います。


誤字を見つけ次第修正していきます。

そこは白い白い世界だった。

部屋・・・ではない。どこまでも行き着くところのない白い空間。

今こうして立っているのに、床がどこにあるのかわからない。

突き刺すような眩しい白ではなく、優しく包み込むような微かに黄色みがかったような生成りに近い白。

気がつくとここにいた。

意識がなかったというわけではないが、一瞬で俺の周囲の景色が消えてその白い世界に立っていた。

誰が俺をここに連れてきたのかはよく分かっていた。

その張本人は涼やかな顔をして俺の前に立っている。

スラリとした長身、中性的な顔立ちは見るものの目を惹き付ける。金色の巻き毛は透けるような白い肌にマッチして近寄りがたい雰囲気を際立たせる。

柔らかいその髪に触ってみた衝動に駆られる。そんなことをしたらどんな報復が来るか恐ろしくて実行はできない。

一続きのワンピースのような衣装をまとったその人は背中からは白い羽が生え、頭の上には白く輝くリングが浮かんでいる。


「ミカエル様。ここは一体」

どこですか?と続くはずだった言葉を鋭い視線で遮られる。

えーっと何が起こったのかも教えてもらえないとは・・・

俺の戸惑いを感じたのか、目の前の麗人は一つため息を付いたあと俺の方に体を向き直した。

「あなたは自分の立場がわかっていますか?」

「立場?」

「なりたてとはいえ、天使となる身ですよ。自覚を持って修行をつんでいただかないと」

天使と言われてもピンと来ない。あ、まだ正式な天使ではなかったな。

仲間の天使候補は持ち場に分かれて修行を行っている。らしい。というのも他の天使候補に会ったことがないから分からない。

眼の前にいるのはミカエル大天使様。大天使っていう役職がどういう役職なのかもよく分かっていないので、どれだけ偉い人なのかも見当がつかない。

「あなたは天界(ここ)ではイレギュラーな存在です。こちらとしてもあなたのような例はあまりないので対処に困・・・コホン、憂慮しているところです」

困ってるんだろうな。俺に言われも俺も困るんだけど・・・



人は死ぬとその行き先が3つに分けられる。

普通に生を全うした人間は輪廻の輪に流れて、すぐに新しい人生を歩むべく転生していく。

生きている間に許しがたい罪を犯した者は魔界にて過ごし、生ある時の罪を反省した頃合いを見計らって輪廻の輪に乗って転生する。

魔界ってか地獄みたいだな。頃合いって誰が判断するのかよくわからないけど、結構適当だなと感じる。


そして、3つ目の行き先が天界。

精神(こころ)身体(からだ)が成熟する前に死んでしまった子供は天使になるべく天界に召される。その時、前世の記憶はすべて失われる。今まで例外はない。

天界以外に行く者たちは全ての者が記憶を無くすわけではなく人それぞれらしい。はじめからきれいに忘れている者もいれば、前世を覚えていても徐々に忘れていく者もいる。稀に前世の記憶をもったまま新しい人生を過ごす者もいる。

ただ、天界においてはその力を公平に使うべく前世の記憶はきれいに消され、神に仕える者として時を過ごす。

その後、幾年かを天界で奉仕した後、希望するものに対しては人として転生を許される。というのを天使長に教えられた。


俺は17歳でこの世を去った。天界に来るにはギリギリの年齢だったらしい。別に来たくてきたわけではない。自分ではもう大人だと思っていたのに、成熟していなかったと証明されたのだから正直複雑な気分。

天使となるには高い年齢のせいか、俺はまだらに自分の前世を覚えている。

名前や住所は分からない。でも、男だったことは覚えている。

天使に性別はない。らしい。今の俺は色んな所が真っ平らだ。でも、俺は自分のことを「俺」と自然に言っていた。

ちなみに他の天使は「私」というらしい。

年も覚えていた。17歳だ。どうして死んでしまったのかは覚えていないが、漠然と誰かを守ろうとしていたような気がする。

誰かをかばって死んだのか?俺ってかっこいいー!って死んだらどうしょうもないよな。

こんな例はあまり・・・いや、天界始まって以来の出来事で、お偉いさんも俺をどうすれば良いのやら困って持て余しているらしい。


生きている間は神様とか全く信じていなかった。神様がいたらもっと世の中楽しいコトばっかだと思っていたから。

漠然としか覚えていないが、人としての俺は楽しいことばかりではなかったような気がする。

具体的には思い出せないが、たった十七年間でも人生山あり谷あり。どうにもならないジレンマばかりだったような・・・



「提案があります」

ボケっと呆けていた俺を引き戻したのはミカエル様の凛とした声。

「もともと天使見習いは地上に降りて人間を観察し、どう導けばいいかのレポートを提出してもらう実習を行っています」

実習?人間臭いことするんだな。

「本来ならみなさん前世の記憶はありませんから、人間を知るということを目的にしています。しかしあなたはまだらながら人としての記憶が残っている。これは神からの何らかの意志が働いたものかもしれません。あなたは自分の生まれ育った地にもどり、記憶を残している理由を探してきてください」

俺の生まれ育った地・・・どこかはっきり覚えていないけど。それより、神の力が働いたというのなら、その神様にどういうことが聞けば早いのでは・・・

「神はお召になりません」

うわ!心読まれた!びっくりして目を見開く俺を面白そうに見返して、すぐに表情を引き締める。

「ただし、周囲の人にとってはあなたはすでに他界しています。人間として過ごしてもらいますが、外見は全く別人です。手がかりがないと困るでしょうから前世の名前は教えますが、あなたは別人として過ごしていただきます。

自分の前世を知ることで何かしらの展開が望めるかもしれません。その結果、天使となれず輪廻の輪に流れていただくかもしれませんがそれでも良いですか?」


まだ天界についてもよく分かっていないので、天使になる利点もなにも知らない。

人として転生することくらいどうってことないよな。

「はい」と頷くと、ミカエル様も大きく頷いた。

大天使って聞こえは良いけど、いるかどうか怪しい神様と天使とに挟まれて中間管理職みたいで大変だな。

「あなたが次に目覚めたら人界にいるでしょう。人として過ごすうちにあなたが生きてきた記憶を取り戻したとしても、自分がその者であると名乗ってはいけません。天使見習いであることを人間に知られてもいけません」

「わかりました」

その返事を聞くと同時にミカエル様は自分の右手を俺の額にかざす。その瞬間、俺の意識が遠のいていく。薄らぐ意識の中にミカエル様の声が響いていく。

-願わくは、あなたの頭にリングを冠したい。天使という道を選ばれることを望みます・・・

そして、俺の意識はホワイトアウトする。



「大丈夫ですか?」

ふと声をかけられて意識を取り戻す。

眼の前は交差点。片側二車線の道路にたくさんの車がスピードを出して走り抜けていく。

俺は歩行者用信号にもたれてかろうじて自立しているという姿勢で立っていた。意識を取り戻した瞬間にバランスを崩して転びそうになるのをかろうじて踏ん張る。

「大丈夫ですか?」

もう一度声をかけられて、目線を移すとショートカットの女の子がこちらを心配そうに見つめている。

かわいい!!それが第一印象。くりっとした大きな目、ショートカットの髪がボーイッシュに見せるけど、醸し出している雰囲気がお嬢様というかんじで、可愛らしい。

「あっ!」

もう一度ぶつかった視線で我に返る。

何かを言おうとした彼女の声を遮るように「大丈夫!!」大きすぎるかと思うほどの声を出して姿勢を立て直す。

見とれてボーっとするなんて我ながら恥ずかしい!!

ジロジロ見ていると怪しい奴と思われる。慌てて服を払うふりをしてごまかしてみる。

「ごめん、ありがとう。大丈夫だから!!」

いつまでもここに立ち止まっていられない。とりあえず自分の記憶を探すためにもこのあたりを散策してみないと。前世の自分の住んでいた近くに転送してもらってるはずだから。

立ち去ろうと彼女に背を向けると「よかった・・・」小さい声が聞こえた気がした。

振り向くと彼女は友達に呼ばれて手を上げている。。

手を振りながら近づいてくる同じ制服を着た少女たちがいる。

千聖(ちせ)!早いよ!一緒に帰ろうっていったじゃない!」


ち・・・せ・・・?なんとなく引っかかるものを感じる。

友達と笑いながら横断歩道を渡っていく彼女。

声をかけようかと思ったが、声が出なかった。

初対面の相手に声をかけられて警戒しない人はいないだろう。

生前の俺が知っている人だとしても、今の俺は姿かたちを変えられている。誰も俺だと分からないだろう。怪しさ満載だな。ましてや俺も彼女のことが分からない。声のかけようもない。

生前の俺が彼女と関係があったのなら、この先また会うこともあるだろう。

長期戦を覚悟して、二回目の人間ライフを満喫しよう。って、そんなに天使になりたいわけではないんだよな・・・

イレギュラーだとなんとか言われたら、どうでもいいや!!って思ってしまう。天使は諦めてさっさと転生したほうが早そうなのに・・・

そんなわけにもいかないのかな。


天界ってめんどくさっ!










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