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サクと子供たち

ゲルトンが役場の扉を出ると、青年が五人の子供たちを連れ歩いているところに出くわした。女の子が三人と男の子が二人、身長順に並んでいる。先頭は気の強そうな顔立ちの女の子で、一番後ろの男子はまだ幼い顔に、緊張した表情を浮かべている。


子供たちは、全員小さな弓と矢筒を背負い、腰には幅広の鉈を差して、分厚い革のベストを着ている。後ろのほうに立つ年下の子供たちにとっては、小さな子供用の弓も刃物も大きすぎるようだ。


先導する青年はゲルトンが出てきたのに気づいて足を止める。彼は年上の男性接する態度でゲルトンに挨拶をする。


「ようサク。今日は団体様かい」


「ええ。こいつらにもそろそろ森のことや狩りのことを教えなきゃいけないって頼まれたもんで」


「そうかそうか。じゃあ今日はサク先生、いやサク師匠か? お前たち、師匠の言うことをよく聞くんだぞ」


「ちょっ……ゲルトンさん! あまり適当なことを……」


「「「はーい! サク師匠、よろしくお願いしまーす!!」」」


青年の反論は、子どもたちの元気な声に遮られてしまった。彼は子供たちから顔を背けると、面映ゆそうに頬をポリポリとかく。彼の横顔は少し赤く染まり、口の端が少し上がっていた。


サクは口の中で「師匠……師匠か……」と小さな声で繰り返す。子供たちは気づいていないが、ゲルトンはしっかりと見ており、ニヤリと笑みを浮かべた。


「お師匠様、頑張って教えてくださいよ~」


「ちょっ……だから、やめてくださいって! だいたい教えるなら、俺なんかよりあなたの方が適任でしょうに」


「いやいや、俺はもう余生だから。未来ある少年少女たちも、おっさんよりお兄さんに教わったほうが嬉しいだろうしな」


「いやいやいや! 経験に勝るものはないですって。俺も教わりたいくらいですし!」


サクは一度言葉を切ると、あごに手を当てて少しの間思案顔になる。


「もし、ゲルトンさんさえよかったらなんですけど、一緒に来てもらうことってできませんかね? 用事あるならもちろんいいですけど」


「あぁ? 俺が子供に教えるのか?」


ゲルトンは露骨に面倒くさそうな表情を浮かべるが、青年は全く引き下がる様子を見せない。彼はゲルトンの大きな腹の前で拝むように手を合わせる。


「お願いしますよ。他人に教えるなんて初めてで……こいつらを無事に帰さなきゃいけないわけだし……」


サクの声に切実さを感じてしまい、年長者として断れなくなっていた。


「わかった、わかったよ。付き添えばいいんだろ?」


ゲルトンが折れると、青年の顔にパッと明るい笑みが咲いた。笑顔はすぐにいたずらっ子の表情に変わった。


「やぁりぃっ! 優しいおじさん大好き!」


子供じみた仕草で笑顔を浮かべるサクを見ていると、ゲルトンから怒る気が失せていった。


「ったく、しかたがねえなぁ。今夜一杯おごれよ」


「いいですよ。一杯でも二杯でもごちそうします!」


青年が間を入れず即答したことで、ゲルトンの相好が崩れる。


「それじゃ早く行きましょう! もたもたしてると日が暮れちまいます!」


サクは親の手を引く子供のようにゲルトンの腕を握って引っ張る。年上の子供たちも青年の真似をしてゲルトンにまとわりつき、腰や尻を押して、森へ向かわせようとし始めた。


「おいおいおい。あまり急かすなよ。荷物置いてこなきゃならんし、必要な物をとってこなきゃいけないしな」


ゲルトンの反論に、子供たちの間から不満の声が漏れる。女子を中心にゲルトンを家に帰らせまいと抵抗を試みる。

「すぐ戻るからおとなしく待ってろって……」


ゲルトンは、子供たちが腰の刃物に触れないよう気を付けながら、鈴なりのままずんずんと自宅へ向かって歩き始めた。サクは特に子供たちを引きはがそうともせず、ゆったりとした足取りでゲルトンの後に続いた。


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