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第4話 書斎の主


クレアに言われて訪れたのは書斎である。ブロガロート家の書斎は図書館並みに大きくそよ本の種類も多岐にわたる。その一角に本が積み上げられており、手近なところにあった一冊を手に取り題名を見ると魔法に関するものであった


「あれ?姫さんじゃないですか。………お、クレアも一瞬なんすね」

「ニァ~」


本の向こうからひょっこり顔を出したのはこの書斎の管理を任されている司書のレオンだ。自他共に認める本の虫で自室があるにも関わらず書斎に引き籠もっている為、レオンに用があるなら書斎に行けばいいというのは屋敷の人間の共通認識だ。レオンは20代前半、お調子者の気があり少々頼りない面があるが良い奴である。それなのに女の影が全く見当たらないのは性格故か


「レオンおはようございます。お仕事のじゃまをしてしまいましたか?」


因みにまだ3歳なので言葉は敢えて拙くしている。急に流暢に話しだせば混乱の元になるからだ


「邪魔なんてことあるわけないっすよ。それに此所は公爵家の書斎ですし、姫さんもいつ来ても大丈夫っすよ!寧ろお客さん居なくて寂しいっす」


書斎にはテーブルとソファが完備されており屋敷の人間ならば誰でも自由に出入りできる。しかし、使用人には仕事があり態々休憩中に本を読む人間は少ない。公爵家の使用人なのでそれなりに教養があり文字の読み書きも出来るが、残念ながらメイド達が好むような恋愛物はあまりないのだ。男連中は言わずもがな


「それで?オレに何か用があるんじゃないんすか?」

「あの、レオンは魔法をつかえます?」

「魔法?そりゃ人並みには使えますよ。例えば、…………『風よ、我が手となりてあるべき場所へと運べ』」

「わぁ!」


レオンが呪文のようなものを唱えるとどこからともなく現れた風が積んであった本を浮かし本棚へと運んだ。風があるかは服や髪をふわりと浮かしたことで分かる。

セレナティアに見えていたのは違う光景だ。事前に言われていた通りレオンが魔法を使った瞬間に目に力を入れた。身体を流れる“ナニカ”─要するに魔力─を目に集中させるように念じたのだ。すると綺麗な淡い光がレオンを包んでいるのが見えた。その一つがセレナティアの手に触れるも、触れた感触も温もりも感じずレオンが魔法を解くと同時に消えてしまった


「すごい!すごいです!」

「そ、そうっすか?」


瞳をキラキラと輝かせた少女に尊敬の眼差しに慣れていないレオンは思わず照れる。セレナティアは雇い主の娘であるし、何より可愛いので折角だしもう一回くらい見せてあげようかと考える


「私にもおしえてください!」

「えぇ……それはちょっと」

「ダメ…ですか?」

「うっ…」


(そんな捨てられた子犬のような目で見ないでほしいっす…)


冷や汗を流しながら後頭部をかくレオン。これはレオンが困ったときにする癖だ。

実はレオンの使った魔法は以外と難易度が高い。本を浮かすだけならば兎も角、対象を傷つけることなく思い通りに動かすにはかなりのコントロールセンスが問われる。しかし、レオンが人並みと称したのは嘘をついたわけでも謙遜してるわけでもなく、風魔法以外は碌に扱えない為であった。レオンの属性は風と火2つ。しかし、炎を出そうとすると蠟燭の灯り程度の炎しか出ないし(本を読むには適していたので気にしてない)、風魔法についても攻撃に使えるほど威力を出せるほどの魔力量はない。抑も攻撃魔法なんて使っては大事な本を傷つける事になってしまうので、使おうという意思がない。確かにコントロールセンスはあるかもしれないが自己流だし、人に教えられる程の技術がないことはレオン自身がよく分かっていた

何より教えられない理由がある


「姫さんもう少しで4歳でしょう?それまで待ってもらえませんかね」


ブリヒシュテル王国では4歳になれば自らの魔力と属性を知るための検査を受けることが出来る。これは4歳ならば魔力が安定し身体に馴染んでいること、人の言葉を理解出来るだけの知能は有しているだろと判断された最低基準だ。安定しない幼い身体で無理に魔法を使えば暴走するなど命の危険な状態に陥ることもある。勿論、使いこなせる者も居るだろうし、暴走するほどの魔力を持つ者も限られる。しかし、滅多に居ないというだけで居ないわけではないのだ

国民は神殿に行けば適性を調べてもらえる。身分は問わず、能力を上手く気に入られれば貴族に雇い入れて貰えることもあるが倍率はとても高い

貴族でも例外ではなく4歳になるまでは魔法を教えないというのが常識となっている。誰だって自分の子供は可愛いのだ

セレナティアが魔法に憧れるのは分かる。誰しも1度は通る道であるし、公爵家お抱え魔術師の同僚がセレナティアは魔法の才能があるとか生まれたばかりの時に騒いでいた。何でも優れた魔術師ならば相手の魔力を感じ取ることも可能らしい。らしい、というのはレオンには全く感知できないので完全には理解出来ないからだ。要するにセレナティアには優れた才があるということだ。だからこそ、4歳になるまでは待って欲しい。それさえ過ぎれば屋敷の魔術師達は嬉々として魔法を教えてくれるだろう

セレナティアとてレオンが意地悪で言ってるわけではないと分かっているので大人しく引くことにした


「…分かりました。むりいってごめんなさい」

「気にしてないっすよ」


そっと頭を撫でれば絹のように滑らかでふわふわの髪が心地良い。それにセレナティアの照れたような笑顔が可愛いのでずっと撫でていたいくらいだ

本来、レオンの態度は一介の使用人の態度としては無礼になる。しかし雇い主構わないというのでこのままにしている。無駄に畏まった対応は苦手なのだ


(姫さん将来絶対に美人になるだろうから男共が放っておかないだろうな……)


レオンはそんな先のことを想像して、人体の急所を教えておいたほうがいいか暫く考えた





ヤバい……クレアが完全な空気

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