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不良令嬢と生真面目王子の関係性  作者: いしい
下町の賭けボクシングで恋をした生徒は
5/19

探偵にはちょっとした嘘は必要さ

賭けボクシングが終わった後も、グウィンの気にしている団子鼻の彼は、そこに居続けた。

おかげで、二人は隅の方で、怪しまれないようにおしゃべりをし続けることになった。

ちなみに、彼女の押したアルヴィンはきちんと勝って、二人と、あの男たちにお金をもたらした。


「なんで居続けてんのよ、あの坊ちゃん。終わった後までいるって絶対なにかあるわよ」

「面倒くさそうにしないでほしい」

「だって、面倒くさそうなんだもの。一体なんなのかしら」

「さあ、それはわからない。ただ、兄になにかしようというのならば、容赦はしない」

「まあ、こわい。ふふ、とんだブラコン野郎ね。そんなんじゃ、モテないわよ?」

「モテる必要性を感じないのだが」

「唐変木の朴念仁って言われない?」

「それは、言われたことない」

「あら、そう。堅物なのね」


ふん、と鼻を鳴らして、つまらなさそうに紅茶をすすった。

ジト目で対象の彼を見つめていると、なにかを見つけたのか、顔をハッとさせて、そちらに駆けて行った。それを追って行くと、ボクシングに出ていたデレックというボクサーがいた。中々、女性に人気のありそうな顔である。

そちらに向かって、にこやかに彼は向かって行った。


「どういうことだ?」

「さあ、私、しーらない。帰る」

「いや、待て。きっちりと最後まで見届けないと」

「堅物、真面目くん!少しは世間と人の心っていうのを知るべきね」

「どういうことだ?」


はあー、と、ため息を吐いて、片肘つき「報告が来ましてよ、閣下」と投げやりに言った。

やってきた男は、苦笑いをしながら戻って来た。


「イゾルテちゃん。彼を狙っていたなら、ご愁傷様だ」

「あら、可愛いけど、別に狙ってないわよ。それで、なんなの?まあ、わかるけど、横の彼のためにご説明していただける?はぁあ…」

「おっと、彼氏にか?いいぜ。ええと、あんた、男同士が恋したりなんぞを知っているか?」

「知っている。たまに騎士団にいる。それで、それがどうかしたのか?」

「じゃあ、簡単なこったな。あそこの坊ちゃんは、あのボクサーに恋愛中だ。まあ、付き合ってはいないみたいだけどな。なにかの悪巧みでもなさそうだ。ありゃあ、ちょっかい出したら、馬に蹴られるぜ。そんじゃまあ、勝たせてもらったし、やることやったし、帰るぜ。じゃあなあ」

「そうか、感謝する。良い1日を」

「ハハハ!真面目だなあ、あんた。あんたらも良い1日を、そんじゃな」


そうして、彼は、つるんでいた連中と共に出て行った。

グウィンは、それをちらっと目で見送った後、また、対象の彼を見た。それに、また溜息を吐いた後、イゾルテは「もう、好きにしなさいよ」とでも言うように、行儀悪く足を組んで、紅茶をすすった。


「あれは、本当に恋をしているのか?」

「知らないわよ、そんなもの。気になるなら、聞いてみれば?」

「だが、邪魔をしては悪い気がする」

「そう思うならほっときなさいな。相手もまんざらじゃなさそうだし、別にいいんじゃない?」

「確かに、それもそうだ」

「それじゃ、帰りましょ?私、長居はする気、ないの」

「それでは、出よう。今日は付き合ってもらって感謝する」

「このまま帰るの?」

「やることは終わった。このまま下町にいる必要がない」


そう言うが早いが、グウィンは立ち上がり、さっさと外に出るために歩き出した。それに慌てて、イゾルテは追いかけようとして立ち上がった。

なんとなく、あの生徒とデレックのいう方を、ちらっとみれば、なにかの受け渡しをしているようである。

思わず、ガッと、彼の手首を掴んで「まだ、紅茶を飲み干してないのに」と、座れという意味でそう言った。すると、それはいけない、と彼は大人しく座った。しかし、すぐに、イゾルテに立ち上がらされて椅子を移動され、そこに座ることになった。

斜向かいではなく、真向かいになった。

不思議そうに、イゾルテをグウィンは見た。


「どうした」

「なにかの受け渡しをしてたわ。なにかしら。お金?でも、それにしちゃ、小さいわ。振り向くんじゃないわよ」

「わかった。なにかの受け渡しか。どんな袋に入っている?」

「白い、トランプが入る程度の大きさよ。中を確認してる。あー、あれは、うーん、相手が利用してるわね。探りを入れる方がいいかしら」

「危険な可能性もある」

「じゃあ、あなたが行く?」

「私は、そういうことは得意でない」

「でしょうね。あの坊ちゃんが出たら、行ってみるわ」

「わかった。確かに、害のある物で、それに関して、兄に、金だの権力だので融通してほしい、なんて言っては、困るからな。危険だと思ったら、すぐに行こう」

「あら、嬉しい。安心だわ」

「君と友人になってよかった」

「ほほほ。そうでしょう?これじゃ、友人というより、仕事のパートナーだけど…。それじゃ、いくわ。もしも、私がそっちを見たら、来てちょうだい」


対象の彼がいなくなったのを確認して、イゾルテはデレックに近づいていった。

グウィンは場所を変えて、彼女たちがよく見える位置に座った。ちらとこちらを見たイゾルテは、ニコッと笑ってウィンクした。


「ねえ、あなた、デレックさん?」


そう、イゾルテは、無垢な少女のような声色で聞いた。それに、デレックは、にっこりと笑って「そうだよ、お嬢さん」と答えた。


「先ほどのボクシング素敵でしたわ。私、感動しちゃった。どうして、あんなに身のこなしが軽やかなの?お食事?それとも、練習?」

「ハハ、ありがとう。きっと練習の成果かな」

「まあ、努力家なのね!私、努力家な方って好きだわ。ねえ、教えてくださらない?一体全体、どうして、あんなに素敵に戦えるのか」

「そんな…、素敵だなんて、照れるな。でも、いいよ。教えてあげるよ、君にだけね。あそこで、教えてあげよう」

「あら、あそこで?いいわ。教えてちょうだい?」


にっこりと、イゾルテは答えた後、ポケットにねじ込まれている袋をチラッと見た。

デレックのどちら側にあるのかを確認した後、ねじ込まれている方のポケットの方に座った。それから、お酒を頼んだデレックに、私も飲んでみたいわ、と頼み、お酒を持って来てもらった。

二人で乾杯し、とりとめのない話しを十数分したところで、彼女は、わざと「酔っちゃったみたい」と眠そうに頬を赤くさせて言った。

下心まんさいらしいデレックは「じゃあ、俺に寄りかかりなよ」と言った。

それに大人しく従い、彼の肩にイゾルテは頭を乗っけて、自然な感じで下を向いた。そうして、ポケットの中身を虎視眈々と見つめながら、彼の腕をそっと触り、組むふりをして、ポケットから物を引き抜き、なにか言ってくるデレックには適当な返事をする。

そうして、袋の中身を見ると、なにかの葉っぱらしい。それを、ひとつまみ拝借し、自分のポケットに入れた後、そっと袋を元に戻した。


向こう側で、これをみているグウィンは、すごい度胸と腕だな、と素直に感心していた。感心はしていたが、危険があれば、すぐさま出て行くつもりだった。

しかし、万事うまくやったイゾルテは、そっとグウィンに目配せをした。彼は了承の意で頷き、さっと立ち上がって、向かっていった。

彼は、二人の横に立ち、イゾルテの腕を取った。

それに驚いたように目を見開いたイゾルテは「まあ、グウィン!こんなところまで来るだなんて!」と声をあげ、そっと「お嬢様」という形に口を開いた。

ちっともバカではなく、理解力のあるグウィンは、そのまま、お嬢様、と口に出した。


「一回くらい、こういうところに来てみたかったのよ、ごめんなさい!お父様には黙ってて」

「…いいでしょう。一度目ですから、今回は目をつむりましょう。ですが、次はありませんよ、お嬢様。さあ、帰りましょう。そこの者。お嬢様をどこかで見かけても、決して話しかけないように」

「え、あ、は…」

「いいですね?」

「は、はい」

「ごめんなさい、デレックさん」


そう言うと、二人は、従者とお嬢様のようになにかをぼそぼそと喋りながら出て行った。それを、デレックはポカンと見つめた後、なんだよ…、と呟いて、机に突っ伏したのであった。


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