友情は案外続くもの、物語も案外続くもの
握手をしあった二人は、あれ以来、一緒に食事をとるようになった。
急に仲良くなった二人を周りは不思議に思ったり、不審に思ったりしたし、勇気ある生徒は、直接本人に聞いた。
二人は、その質問に揃って「お互いに、テスト点数の1、2位を争っているのと、ちょっとしたアクシデントがあって、お互い話すようになったのだ」と答えた。
実際、お互いに1、2位を争っているので、その答えに不信感を持つ生徒はほとんどいなかった。
さらにつっこんで「でも、ちっとも今まで、お互いを気にするそぶりもなかったではないか」と聞いてくる生徒には「プライドがあって、喋りかけなかっただけだ」と答え、それで納得してもらっていた。
「あなた、ちゃんと嘘がつけるのね」
「必要とあらばだ。基本的に嘘は苦手だ」
「そうでしょうね」
「君は得意そうだ」
「そうねえ、そうかもしれないわ」
「そうか。ところで、今度、テストがあるだろう」
「あるわね。どう?一番になれそう?お金くれるなら、手を抜いてあげましょうか?」
「結構だ。手を抜いてもらう必要はない」
「チェ、お堅いわね。まあ、いいわ。それよりも、あなた、顎を蹴り上げられといてよくもそんな固いもの食べれるわね。ガーゼまで巻いちゃってさ、大げさじゃない?」
「確かに大げさだな。それと、幼い頃から、歯並びがいいと褒められてきた。そのおかげだ」
「あ、そう…」
「食べたいのか?」
「いらない。私、そのステーキ嫌いだもの」
「そうか、私は好きだ」
「物好きね」
二人は、その後、淡々と食べ続け、お互いにさっさと食堂で別れた。
それを見ていた生徒たちは、友人?仲のいい?と疑問を浮かべた。だが、学院内でも見目麗しい二人が揃っているのは、眼福だったので気にしないことにした。
ブロンドコケティッシュ美少女と、憂いの黒髪の美青年が揃って座っているのだから、そう思うのも無理はない。
さて、その後、二人は会うことはなく、お互いに好き勝手にしていた。
なんだかんだで、二人とも、非常にマイペースらしい。
結局、その日から、食堂以外で会うことはなかった…。
と、なっては物語は続かない。
ある日、グウィンが生徒会室にやってきて、彼女を呼び出した。
呼び出された本人は、不機嫌な顔で彼を見た。
「なんのご用?生徒会での仕事があるんだけど」
「すまない、急に呼び出して」
「それで、なあに?食堂以外で会わないから、じれったくなったの?」
「確かに食堂以外で会わないのは、寂しいとも思うが、それとは違う。友人と見込んで頼みがある」
「あら、私に頼み事ですって?ほほほ、いいわよ。見返りはもらうけど」
「大丈夫だ、報酬はちゃんと用意している。かの老舗ショコラ店の限定ショコラだ」
「やだ…、それってもしかして、あそこの?大通りの白い?」
「うむ」
「やった!私、それ大好きなの!やっぱり、持つべきものは友達よねえ!いいわ、なんっでも聞いてあげる!なにしてほしいの?」
「やる気になってくれてなによりだ。下町のいかがわしい場所によく生徒が出入りしているらしい。その生徒がどうでもいいやつであれば見逃すのだが、兄の友人なんだ。もしも、不埒な輩であれば、即刻駆除したい。兄になにかがある前に」
「は?」
「最近知ったのだが、君は下町に詳しいらしい。よく遊びに出かけているだろう?だから、君に助力を願いたい」
「いや、それはいいわよ。どうやって知ったのか気になるけど、案内でもなんでもしてあげるわ。ただ、あなた、下町なんかに行ったことあるの?」
「必要とあれば、たまに行っていた。大概、絡まれてばかりだ。だが、今までなんとかなっている。大丈夫だ。安全も保証しよう。これでも、武術大会で優勝くらいはしている」
「安全なんか大丈夫よ。私だって、これでも戦狂いのバーキン辺境伯の娘だもの。武術くらい嗜んでるわ。別に行ってもいいから、ごちゃごちゃ面倒な事は言わないで、簡潔的に、私がなにをすればいいのか、それから、行く日にちを教えていただけない?生徒会長としての仕事がドアの向こうで待ってるのよ」
「すまない。こうして長々言ってしまわないよう、これから気をつけよう。では、君にやってもらいたいのは、私の隣で歩いてもらう事と案内。それから、補佐のように、この性格だから色々と問題を起こしてしまう。それをフォローしてもらいたい。
行く日にちは、今度の日曜だ。準備は特にいらない。君が自分で考えて持ってきてもらおう。服装も好きにしてくれ。制服でなければ構わない」
「了解したわ。あなたこそ、あんまりいい服、着てきちゃダメよ?それじゃ、また日曜に」
「ああ、よろしく」
そうして、彼らはあっさりと別れた。
イゾルテは、書類に判を押したりしながら、グウィンの報酬と服装といかがわしい場所ってなんだろう、と考えた。
彼女は、娼婦とタバコを一緒に吸う程度には、そういうところにも慣れているし、下町の酒場で金を巻き上げたり、そういう事もしているので、大方、下町のいかがわしいと呼ばれる場所には慣れている。
だが、普通、淑女にそういう場所にご同行願わないものじゃないだろうか。そもそも、友人として、と言っていたけど、どっちかというと仕事のパートナーみたいじゃないか?と考えた。
だが、すぐにそんな考えもやめ「ま、どうでもいいか」と仕事を進めたのであった。