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そして、始まる  作者: 大平麻由理
本編
86/91

86.愛は永遠に その6

「きゃーー!」

「う、うそ。え? ホント?」

「結婚、するの?」

「冗談に決まってるよね?」

「いいぞ、ご両人!」


 会場が野次でどよめく。けれど、幸いなことにどの顔も本気にしている様子はない。すると、これも演出の一環だと思わせるような余裕の態度で、砂川が話し続ける。


「……ってなことになったらいいなと思った、今回のステージでした。まあ、お二人の結婚は、一部の生徒の希望ということでお許しください。それぞれのファンの皆さん、ご安心くださいね。では、本日はありがとうございました。舞台のリンカーズの皆さんに、温かい拍手を!」


 砂川が凛香と広海を交互に見て、ニッと笑った。会場中がまたもや爆笑に包まれる。最後の最後に砂川にしてやられたのだ。


 幕が降り、ステージが本当に終わってしまったことを知る。メンバーそれぞれが青春を取り戻した瞬間だった。もうこれっきりのステージだ。

 凛香はこれでいいと思った。来週からはまた普通の生活が始まる。生徒たちとの、ごくあたりまえの日常生活が……。

 


 文化祭の代休が明けて、またいつもの学校生活が戻ってきた。

 職員朝礼で、広海が文化祭での突然のライブを教職員全員に謝り、経緯を説明する。凛香も、そして他の関わった他の先生も立ち上がり、一緒に頭を下げた。

 教師間ではある程度は容認されていたようで、異議を唱えるものもなく、朝礼も終わろうとしていたのだが。


「そういうことで、皆様にはいろいろとご協力いただき、ありがとうございました。で、もうひとつ、皆様にお伝えしなければならないことがあります。鶴本先生、鷺野先生。どうぞ、前に出て来てください」


 突然の教頭の話にびっくりした凛香は、不安げに広海を見た。


「俺、何か言い忘れてたかな?」


 広海が小声で凛香に問い、眉を潜めた。


「いや、打ち合わせどおり、文化祭のことは全部言ったと、思う……」


 そうだな、まあ大丈夫だろうと言って、広海が凛香と共に前に出た。が。


「えー、実はお二人は、来年、ご結婚されるそうです」


 教頭のいきなりの爆弾発言がぶち込まれる。

 それは、まだもうしばらく先に皆に言うことだと、教頭も同意してくれたはずなのに。


「えっ? 知らなかった……って、またまた、冗談でしょ?」

「ほおーーっ。知らなかったな。って、もう騙されませんからね。教頭先生も、まだ文化祭気分が抜けないみたいだな。冗談はリーゼントだけにして下さいよ!」

「そうですか、それはそれは。全く気付きませんでした。で、今度はなんのかくし芸ですか?」


 職員がそろいもそろって冗談だと受け止めている中、教頭が尚も淡々と話し続ける。


「文化祭終了後、校長と私にお二人から報告がありまして、この場をお借りして、職員の皆様にもお伝えする運びとなりました。ぎりぎりまで公言は控えることも考えましたが、鶴本先生、鷺野先生共に、皆さんにはできるだけ早く事実をお伝えしたいとのことで、私の判断で本日の発表となりました。生徒たちも一部気付いているようですが、保護者への正式な発表は来年の学年末という予定です。では、皆様、お二人のこと、今後ともよろしくお願い致します」


 何が何だかわからないまま、教頭と同時に頭を下げる。

 するとどこからともなく拍手が沸き起こった。おめでとうという声もあちこちからかかる。

 凛香は恥ずかしさのあまり、顔を上げるのがためらわれた。でもいつまでも頭を下げているわけにもいかず、彼女らしからぬ俯き加減のまま、早足で席に戻った。そして。


「では最後に、鶴本先生から連絡があります。鶴本先生。どうぞ」


 これは議題の一つとしてレジメに上がっている物だ。凛香もその内容は、あらかじめ周知している。


「皆さん、このたびは私的なことで再度お騒がせしましたこと、お詫び申し上げます。あの、まさか、今日ここでこのように発表することになろうとは思っていなかったので、その……」


 本題に入る前に、さっきの結婚宣言について、広海が語り始める。凛香も座ったまま、もう一度頭を下げた。


「鶴本先生、頑張れ!」


 広海が声のトーンを下げた瞬間、佐々木の合いの手が入った。


「そうだ、頑張れ!」

「彼女にいいとこ見せろよ!」


 あちこちから広海を励ます声が上がる。


「ありがとうございます。その、鷺野とは大学時代からの付き合いで、知り合って十年以上も経っていますが、縁あって、このたび結婚することになりました。今後も教師として働き続けることに変わりはありません。まだまだ未熟な二人ですが、これからもご指導のほど、よろしくお願いします……ということで、実は……」


 結婚に関する一通りの話を終えたところで、広海がいつもの表情と声にもどり、話しを続ける。

 いよいよ本題だ。が、その詳細は教頭にはまだ話していないという。大丈夫だろうか。


「また十人ほど、教育学部系の受験を目指す生徒が、歌とピアノの指導を願い出ているのですが、その中に変り種が二人ほどいまして。ギターをマスターして、将来教師になったあかつきには、生徒の心をギターでがっしりとつかみたいと言っております。教頭先生、佐々木先生。ご指導をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 職員室前方に座る教頭と、一番後部に座る佐々木が立ち上がって顔を見合わせる。

 そして、その後、職員室が大きな笑いの渦に包まれた。








            了



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

続けて番外編の連載になります。

またお立ち寄りいただけると嬉しいです。

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