道端に咲く花
雨。
無機質に響く雨音。
何の変化もなくザーザー聞こえるその音はより一層僕を憂鬱にさせた。
ビニール傘を持つ手。
片手をそれに取られる不自由さ。
ならささなければいいだって?
ウォーター!と両手を広げ叫ぶ事ができたなら、それはそれは気持ちの良いことだろう。
たかが雨で気が重くなっている僕にはそんなのは到底無理で。
ビニール傘にあたる雫の僅かな重みでさえ、耐えることなく僕の頭は下がる。
そこには灰色のアスファルト。
人工的に作られたそれは僕らが歩きやすくしたもの。歩くための道標。凹凸も少なく、確かに歩きやすい。
でもそんな先人たちの優しさでさえ今の僕には退屈だ。
空も地面も灰色の、何て色のない世界なのか。
なんて日常では到底言えない臭いセリフを心の中で言う。
独り言だったとしても口にだしてしまっては、にやけてしまうだろう。
小さな頃は思ったことを考えもなしに口にだしていたのに、今ではそれを言うと周りから白い目で見られる。
いや、周りからだけでなく自分自身からもか。
口に出すだけで笑ってしまうのは、自分自身何を言っているのかとバカにするからだ。
だとしたら本音というものは心のなかでしか言えないのだろうか。
そんな自分自身で暗くさせることを考えながら歩いていると、無機質なアスファルトに小さな色が見えた。
灰色のアスファルトに僅かなさし色。
普段見向きもしない小さな小さな黄色い花。
センチメンタルな今日だからこそ、気付けたのかもしれないそれに思わず足を止める。
歩くために作られたアスファルトで、歩きなさいと言うアスファルトの上で僕の足は止まった。
こんな小さな花なのに、大の大人の僕を止めるなんて。
こいつには何かしらの魔力が。
いやいや、きっとこれで足を止めた最初の一人目は僕だろう。
この先もきっと誰にも足を止めてもらえないであろう。
寧ろ気付いてももらえないかもしれない。
でもそんな花なのに、僕は無機質な灰色とのコントラストにこう思ってしまった。
きれいだな。
そして思わずこうつぶやいてしまった。
きれいだな。
少しハニカミ、また僕は歩きだす。
いつの間にかあの耳障りな雨音は消えていた。
さしていたビニール傘を閉じる。
片手が塞がっているのには変わらないが手を下げられる分先ほどよりかは自由に動ける。
ビニール傘越しに見ていた雨空は、変わりなく灰色のままで。
それでもきっと明日には晴れるだろう。