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冒険者組合へ

 村に到着すると商人達はすぐさま荷物を降ろし始める。彼らが持ってきている食料類や衣類等はその日の内に売りに出される。

 次に来るのがいつになるかわからない旅商人の日常品の売り物というのはすぐさま売り切れるものなのだ、買い叩きも売り渋りもあまり行われない、手元にあれば邪魔であるし、買い叩いて買い時を失ってしまうと供給が追い付かない為だ・・・と、育ての親で私の師だった冒険者は教えてくれた。

 そうして生まれた収入でまたこの村の特産品を買い足して彼ら旅商人はまた長い長い旅に出ると言う。

そして冒険者に依頼が入り、彼らを護衛して私達の収入へと変わっていく、是非とも彼らの旅は成功していただきたい所だ。


 そんな商人の一人から依頼完了の証である私の冒険者証を返却してもらうと、私はその足ですぐさま冒険者組合の建物へと足を向けるのだった。ちなみにこれを返却してもらえず商人が冒険者証を持って組合に提出すると私への報酬はナシとなる。何回か提出されてる私にはあの依頼者が持っていくという行為は相当なトラウマだ、出来る限りあの光景の再現はしてほしくない。


 道すがらそんな事を考えて歩いていると冒険者組合の建物はすぐに見つかった。

どこでも同じだが組合の建物というのは滅茶苦茶でかい上に絶対に集落の端に作られているものなのだ。

 それは魔物が来ても盗賊が来ても冒険者のプライドを以て駆逐するという自信の表れでもあるとの事だ、私規準で考えたら絶対に逃げ出すが、冒険者というのは私が想像難しい程に強いらしい。


 周りが木造だと言うのに、組合の建物は白い石造りで出来ているというのも浮いて見つけやすい特徴かもしれない、そんなドン引きな建物に入る私を世間はどんな生物だと思い込んでるのだろうか?

 そんな下らない事を考えながら重い扉を引いて開け、中に入っていく。

そこにはとてもこんな村か町かというような集落にはさらに似つかわしくない綺麗に整った広い空間が広がっていた。

 冒険者とは見栄の生き物である、どれほど自分たちが強いかどれほど夢のある職業か、というのをまざまざと見せる為絢爛豪華に中は作られている。

 14年間底辺冒険者の私にとっては夢のあるお仕事だとは既に思ってはいないが、減らない冒険者を見るとある一定の効果があるのだなという事が窺い知れる。


 そんな場違いな広場を進んでいくとピカピカな石でできたカウンターに私は立ち止まる。

 ニコリと笑う綺麗な受付嬢に愛想もなく冒険者証を渡すと受付嬢は恭しくそれを受け取り「少々お待ちください」と頭を下げて奥へと引っ込んでいく。依頼受領証明を取っているのだろう、この待ち時間がすごい長く感じてしまう。

 そんな少しの時間を結局何に潰すことなくボケーッと呆ける事で過ごす、長くもなく短くもないこの時間では私のような不器用な人間ではできることなんてあるはずもない、大人しくしておくのがこの場の最良だろう。

 そうこうしていると中から受付嬢が戻ってきた、その手には銅貨を乗せたトレイが握られていてちゃんと報酬が受け取れるのだという事に少し安堵する。


(・・・信じていないわけじゃないけど、この空き時間はいつまでたってもなれないなぁ)


 残念ですが、報酬は渡せませんとか言われるのじゃないかと疑心暗鬼になってしまう、何回か依頼主に騙されてしまっている私には、この瞬間は好きではないのだ。


「お疲れ様です、これが報酬の銅貨30枚となります、お確かめください」


 コクリと頷き、1枚1枚丁寧に数える、1枚のズレもない事を確認した私は冒険者証を先に懐に入れて銅貨をそのままに受付嬢に話をする。


「宿屋をとってほしい、一番安い所でいい食事もついてるとありがたい。あと商業組合があれば場所が知りたいのだけど」


 そう言うと受付嬢はニコリと笑って今しがた持ってきた銅貨をすっと手元に引き寄せて「かしこまりましたと」と言うと銅貨を一旦横へズラして少し大きめの額縁に入れられた村の見取り図をカウンターに置き、指をさしていく。


「まず宿屋ですが、ここを出て左手奥に蜂蜜亭と言われる食事処が副業でやっております、綺麗とはお世辞にも言えないためあまり評判は良くありませんが一泊銅貨2枚という格安が売りとなってます、食事は1枚から3枚というところでその日によります、ここで良いですか?」


 素晴らしい宿だ、ここなら数日は仕事が無くても暮らせる。私はコクリと頷いて見せた。


「ではこの札をもって行かれますようお願いします・・・それでは次に商業ギルドですがこの宿から北に沿っていただきまして、中央へと大通りを向かっていただきますと羽が描かれた看板が見えてくるかと存じます、そこが商業ギルドです」


 そう言うと、ニコリと笑い見取り図を仕舞う受付嬢、もう用事はないでしょうか?と言わんばかりに笑顔を向けてくる受付嬢に再度私は口を開く。


「E級で受けれる依頼はあるだろうか?」

「依頼に関しましては、右手奥の休憩場近くに置いてございます貼り出し板をご確認くださいませ」


 そう言う受付嬢はいまさら何を?と言わんばかりに目を細めてくる。

 残念な事に私は字が読めない、数字は仕事柄覚えた方が良いと育ての親より習いはしたが、文字のほうは俺も読めんと言われてしまったが為に私も同じくという様だ。

 困ったと苦い顔をしていると、受付嬢は気づいたのかにこやかに笑って見せる。その笑顔がどう言った意味を含んでいるのかは理解しているが別段それに思う事はないため、思っている通りだと言う意味で頷きで返した。


「どういった依頼が好みでしょうか?幅広く依頼がございますのでこう言った依頼があれば、という希望がございましたらお聞きしたく存じますが」

「ゴブリン討伐とかがあると嬉しい」


 あまり難しい依頼というのは苦手だ、守衛任務とかだとどうしても報告系もこなす為難しい。

 薬草採取だとかならできるが、薬師でも錬金術師でもない私には依頼はほとんど回ってこない。薬の臨床実験などがあれば結構美味しい仕事ではあるけどもそんなに言うほど依頼は存在しないし、街とか王都でもないかぎりそんな仕事はない。そうなるとどうしても討伐系の仕事に落ち着いてしまう。


「そうですね・・・ゴブリン討伐依頼、というのはございませんが、狩猟としてゴブリンがございますね、いかがでしょう?」


 パァッと目の前が明るくなったように感じニコリと笑ってしまう。

 驚くほど美味しい仕事に舞い上がりたい気分だ。討伐依頼よりも私には狩猟依頼のほうが嬉しい。討伐は一回限りの仕事で人数上限がある、報酬は良いけども人気はなく、時間がかかる上に一回ポッキリの為次の仕事を探す必要はあるが狩猟任務であれば出来高報酬だ、この依頼が外されるまでこの村にいる事が出来るのはとてもラクでやりやすい。


「ではそれで、明日から行く・・・オスメスいくら?」


 その言葉を言うと受付嬢の張り付いた笑顔に少し影が差す。


「あ、はい・・・オス銅貨3枚です」


 オスとメスでは価格は違う、それはどこの依頼でも同じ事だ。

 討伐任務の場合全討伐完了で一括りで支払われる為意外とこの事を知っている人は少ない。冒険者組合も知っててこの事を告げないのだ・・・知らないのは自己責任、という事だろうセコイとは言え仕方ないことだ。

少しでも安くは当然の事だろう。


 依頼を受けた私は銅貨を預託して、組合を離れた。

 手元に置いておくとトラブルの元になり易いため必要最低限以外は全部預けている。そうして今回のように宿を取るなりなんなり冒険者組合を通じてやり取りを行って預けたお金から支払いや斡旋手数料などを出してもらうのだ。

 トラブル1つで寿命が1つをザユウノメイとした育ての親からの簡単処世術と言える。

 『大きな組織を笠に着る、トテモダイジ!』と良く言っていた事を思い出し笑う。


 そんな過去の思い出を雑念とばかりに頭を振って搔き消しながら、私は宿へと向かった。

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