ほぼ実話超短編小説「ゼノンの自転車旅行」
ゼノンのパラドックス
俊足の神様・アキレスの前を、鈍足の代名詞・亀が歩いている。
アキレスは亀を追い抜くことはできない、なぜならばアキレスが追いつくまでに亀はごく僅かでも進んでいるからである。
その僅かなな間をアキレスは瞬く間に縮めるだろうが、その瞬く間にも亀はごく僅かに進むのである。
アキレスは決して亀に追いつき、追い抜くことはできないだろう。
一発の矢が放たれた。その矢は10メートル先の的に到達する半分の時間で5メートルを進むだろう。
さらに半分の時間で2,5メートル進むだろう。(7,5メートル)
さらに半分の時間で1,25メートル進むだろう。(8,75メートル)
さらに半分の時間で0,625メートル進むだろう(9,375メートル)
さらに半分の時間で……いつになったら10メートルで到達するか、私は疲れてしまったので、時間のある者が計算して何回で到達できたのか、教えて欲しい。
俺の名前は八十四郎。ママチャリで旅行する変人だ。今日は朝から漕いでいてヘトヘトだが、ここは山の中、熊も出るらしいのでこんなところではへばれない。
空腹から大分スピードが落ちてきたが、そこはそれ、空腹は力にもなる。町に着けば美味い地物料理もあるだろう。考えれば考えるだけ腹も減るが力も出る。
自動車用の道路標識が目に入った。
「次の町まで20キロか、このまま時速20キロで漕いでれば1時間で着くな」俺の自転車にはサイクルコンピューターといって、磁石でタイヤの回転数を確認し速度を調べる機械が付いており、その数値はキッカリ20キロ。
少し気が楽になった。
「ラーメン!丼モノ!肉魚!」気合いの入るいつもの掛け声で少し漕ぐと今度の標識は残り19キロ。サイクルコンピューターを再び確認すると気が楽になったのか、減速して19キロ。
「ま、あと1時間。大丈夫だね」
暫く進むと残り15キロの標識が見えた。走ってペースダウンしたのか、疲れが溜まって速度が落ちて15キロは出せている。あと1時間、頑張ろう。
頑張って更に5キロ進み、残り10キロ、かなり疲れているが、まだ10キロは出せる。頑張ろう。あと1時間・・・。
妙に長い一時間は延々といつの間にか日が昇ろうとしている頃、残り15センチを時速15センチで走っていた。
実際はさすがに到達できましたが、疲れていてこんな妄想がよぎるような状態には度々なってます。
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