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柚井史也のご職業

 俺こと柚井史也はBL漫画家である。

 家が代々続く名家だから適当に家の仕事をしていれば金は普通に入って来る。

 けれど俺はBL漫画家として生計を立てている。ちなみに家族は知らない。いい年して腐男子であるなんて同居している兄家族に言える訳がない。というか言ったら家族関係がギクシャクする所の話じゃないと思う。



 だから趣味で絵を描いているという事にして自室には誰も近寄らせなかった。

 本棚にはそれと分からない様に薄い本が並んでいるし、俺はグッズを集めるタイプじゃないからそんなにヲタグッズはないが、漫画を描く時の資料としてフィギアは所狭しと並んでいる。

 まあ、流石にそこはアメコミ系のフィギアとかも集めて、骨董品が趣味とかそういう体面を保っている訳なのだが、そんな秘密を抱えながらも存外生きてはいける様で、俺はそのままBL漫画家として収入を得ながらそろそろ結婚したらどうだと兄に言われながらもヲタバレをする気がないのでこのまま結婚は出来ないだろうと思っていた。



 別に家柄とかは相手に求めないが、世間体というのもあるからこそ、そんな変な所のお嬢さん何て貰えない。しかもその上でBLに理解のある、出来れば腐女子の嫁さんなんて無理だろ。いねぇよ。そんな女の子。とか思っていたら、甥っ子である史四朗の婚約者であるなみのとかいう小学生のお嬢さんが俺の部屋に勝手に入っていた。

 後々聞いたら、絵を描くのが趣味と聞いていたから、同じ絵を描く者同士話し合えたら。と思ったと言うか、俺の兄に交流を勧められて部屋の前でずっと待っていたらしい。

 しかし、ずっと待っていても俺が戻って来る気配がなかったから部屋で寝ているんじゃないかと恐る恐る部屋に入ってみれば、机の上に俺が趣味で書いている二次創作系のBLマンガが置いてあった。

 しかもよりによってその原作が丁度なみのの好きな漫画だったらしく、もしや俺が原作者では。と思ってしまったらしく、興奮しながら書きかけの漫画を見ていたら、実はBLで俺が帰ってくるまで見入ってた。と。



 やっちまった……!こんな幼気な少女の将来を決めてしまった。腐った道を示してしまった!

 俺はなみのが俺の漫画を読んでいる背中を見た時のこれからどうしよう。っていうか気持ちよりも箱入りお嬢様を腐女子の道へと引きずり込んでしまった事への罪悪感しかなくなってしまった。



「……おい、なみの」



 俺が声をかけるとなみのはびくっと体を震わせ、恐る恐るこちらを振り返っていた。

 こうして見ると、どうしても無害な小動物を連想させるから、俺が虐めているみたいに思えてきた。

 いや、教育的によろしくない道に引きずり込んだんだがな?



「お、叔父様……!」

「それ、面白いか」

「は、はい!こんな素敵な物初めて読みました!これは芸術だと思います!」

「ああ。そうだな。俺もそう思う。……なあ、なみの。俺がこれ描いている事黙っていてくれればもっとその芸術を見せてやるぞ?」

「本当ですか!?叔父様!」



 目覚めたばかりの腐女子は飢えている。どこで獲物を手に入れれば良いか分からないからだ。しかもなみのはお嬢様。BL本なんて絶対に手に入れられない。



 そんなこんなで俺が大人げない事を考えていた間なみのはBLについての知識を深め、日本画をやっていると言う素晴らしいアシスタントへと俺に育て上げられ、普通にネットスラングまで日常会話で出かけるぐらいの立派なヲタクへと育ったのだが、俺は少し考えた。



 ベタを塗ったりアシスタント作業をするからと、デジタル作業なのに割烹着を着て来るなみのは、かなりの優良物件なんじゃないだろうか。と。

 普通に教養もあるし、芸術(BL)にも理解が深い、っていうか腐女子だし、外見も可愛いし、着せた事ないけどコスプレも似合うし。口も堅いし、いや、口固すぎて自分の事あんまり言わないのが難点つったら難点だが、こっちが察してやれば済む話だ。実際長い間芸術(BL)について語り合って来ると、なみのの被っている天然ゆるふわ系の皮も見破れるようになって来たし。……うん。最良物件だな。



 まあ、なみのはお嫁さんになるのが夢だという子供らしい可愛らしい感性も持っている上に俺の甥である史四朗の婚約者だから俺がどうこう出来る相手じゃないし、する気もないのだが、それでもあの馬鹿には勿体無いと思うし、何より、自分のものにしたいっていう欲求もない訳じゃない。



 甥っ子の嫁としてこれからも仲良く出来ていれば良いか。と思っていたら、なみのたちの卒業パーティーで子供たちの会場の中継を俺は見ていた。



『あ、すみません。婚約破棄したいんですけど』



 その言葉を聞いた時、俺はなみのが結構追いつめられているのに気付いた。

 そのままなみのが普段被っているゆるふわ系の仮面を脱ぎ去り、俺が普段感じているいい女っぽい部分を少し見せてから会場を去って行った。

 多分なみのは会場にいる全員に笑われているとか思っていただろうけれど、あれどう見ても萌え悶えられていただろうな。あいつロリ巨乳な上に魅惑のロリータボイスだからな。あれ見て可愛いって思えない奴は相当のへそ曲がりだぞ。

 っつーか、史四朗。テメェ、何他の女と腕組んでんだ。馬鹿か。馬鹿だろう。愚か者め。少しは世間体というものを考えろ。俺みたいに。



 保護者側にも涙ぐんでいる奴が続出し、もうすぐ子供側の会場になみのが楽しみにしていた漫才コンビが来る事を思い出し、中継している奴に録画よろしく。と言って俺はなみのを追っかけた。



「責任取るって言ってんだろ。鈍感娘」



 そして俺ははぐらかされているのかいないのか分からなくなったからなみのの唇を無理やり奪った訳だが、今回はやっちまった。とは思わなかった。

 むしろ、これで良いんじゃねーか。とすら思っていた。



 俺はなみのを最優良物件だと思っているし、なみのを泣かせやがったあの馬鹿(あやしろう)がずっと羨ましかった。なみのの傍にいられる事が当たり前だと思って、その上それを簡単に放り投げちまったあの馬鹿が、憎たらしかった。

 だから、これで一番だと思う。

 こういう終わり方が一番だ。



「なみの。誕生日おめでとう。役所に婚姻届け出しに行くぞ」



 12時の鐘が鳴った時、プロポーズするなんてどこのシンデレラだって感じだが、まあ、俺はBL漫画家だ。乙女に夢と希望を与えている。ある意味少女漫画家とやってる事は一緒だ。だから、そんな少女漫画チックで書き古されたロマンチック行き過ぎたプロポーズも、自然と口から零れ落ちた言葉だった。



 なみのがどんな答えを出してきても、俺は離してやる気はないが、俺の背中に回された腕に気付いて、俺は満足した。



「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

「いい嫁になれよ」



 これは一番良いハッピーエンドじゃないだろうか。

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