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episode24『世界の対価』



 剣のぶつかり合う金属音が広い空間で反響する。


 虎と龍、それぞれの思いの込められた一撃が火花をあげてぶつかり合う様を幻想郷の住人達は固唾を飲んで見守る。


「おいおい、私たちは完全に茅の外かよ」


 魔理沙はその凄まじい攻撃を見ながら手を握りしめ、そばに立つ霊夢に聞こえる程度の声でぼそりと呟く。


「あら、私たちにも仕事はあるわよ?」


 そう言うと霊夢は顎で那由多を指した。


「決着がつくまでの間、こっちの世界への影響を最小限までに留める」


「なるほど、そりゃ名案。とでも言うと思ったか? 無茶だぜそれは! 」


「無茶でもやるしかないの! ほら、行った行った」


 霊夢は近くにいた魔理沙とはたての服の襟を掴むと、那由多に向かって投げつけた。


「ちょ、何すんだ霊夢!」


「なんで私まで」


 二人は那由多にぶつかることなく、すり抜けて中へと入り込んだ。


「これでよし。他のも半分はこっちの世界に貢献しなさい!」


 霊夢の号令に半数の妖怪達が魔理沙に続いて次々にネットワークの中へと潜り込んでいく。


(あいつら……)

 それを横目で見ていた桔梗はとっさに黄龍の前を遮りながら立ち回る動きに変える。


「どけ桔梗! これ以上邪魔をするな!」


「そう言われて、はいそうですかなんて言うやついるかよ!」


 ぶつかり合う2本の剣がより激しく火花を散らす。


 そうしているうちに桔梗を力業では突破出来ないと感じた黄龍は一度距離を置くと、今度は魔方陣をいくつも呼び出して弾幕を放ち始めた。


 これまでの黄龍が見せたことのない戦法に思わず飛び退く桔梗。


 そんな桔梗を待ってましたとばかりに追尾弾が襲う。


「な……」


 空中にいる桔梗は満足に回避も出来ず撃墜された。


 身体中から煙を吐きながらどさりと落下する桔梗。


 それを満足そうに見届けた黄龍は那由多に取り付こうと接近する。


 が、それは桔梗とは別方向からの攻撃で妨害された。


「こっちを忘れてもらっちゃ困るわよ」


 4人の歴代巫女と残った妖怪達が黄龍の前に立ちはだかり、弾幕を撃ち込んで黄龍の動きを制限していく。


「かすり(グレイズ)すらも許すつもりはない。全力で叩き落とす!」


 真っ先に動いたのは霊稀。


 それを見て遅れて飛び出た妖夢とてゐが黄龍の弾幕を防ぎながらサポートする。


「私に歯向かうか!」


「……遅い!」


 弾幕を撃ちながらさがる黄龍を霊稀の刀が捉えた。


 一瞬で相手の懐まで入り込んで突きを繰り出す。


 霧散する黄龍。


 桔梗との戦いでも度々見せていた自分の分身を楯に距離を取る動き。


 もちろん皆それは知っている。


 黄龍の逃げた先に霊緋があらかじめ結界を張って黄龍を閉じ込めた。


「っ!」


「さすがの黄龍も今の状態ではこれは破れないでしょ。博麗の巫女を舐めるなってね」


 霊緋のアイコンタクトで飛び出したのはレミリアとフラン。


 グングニルとレーヴァテインによる強力な攻撃が叩き込まれた。


「ようやく手に入れた安住の地、やらせはしないわ」


「私が壊してあげる!」


 大きく振りかぶり、投げられたグングニルが形を変えて黄龍を貫通する。


「くそ、邪魔をするな!」


 大ダメージを受けながらも霊緋の結界を破壊して抜け出す黄龍。


 そこを待ってましたと言わんばかりに霊莉が黄龍に殴りかかる。


「甘いわ!」


 だがこれは読まれていたらしく軽くあしらわれてしまった。


「チッ……」


「まだまだ!」


 声と同時に落ちていく霊莉の足元に氷の橋がかかり、それを蹴って黄龍へと再び飛びかかる。


 氷の橋を精製しているチルノは黄龍の動きを阻害しつつ霊莉に有利になるように橋を伸ばしていく。


「これだ!」


 時おり霊莉は足元の氷を砕いて作り出した氷の塊を蹴り飛ばすことで弾幕の代わりにして弾き飛ばす。


 やがて追い詰められた黄龍の周りを4人の巫女が取り囲み、スペルカードを取り出した。


 描かれている効果は全て同じ博麗の家に代々伝わる究極の大技。


「霊符……」


「「「「夢想封印!」」」」


 四人の巫女がそれぞれ性質の違う夢想封印を撃つことで完全な夢想封印が完成する。


 威力は一人の時とは比べ物にならないほどだ。


「この光は……」


 その光は全てを飲み込み、そこにいた者全てが目を閉じた。


 やがて光は一ヶ所に収束していき……







「…………。」


 その頃一人パソコンと格闘する姫はデータの封じ込めに手一杯になっていた。


 既に流出した情報のサルベージまでは手が回らない状況だ。


「何か飲み物でも買ってこようか? パソコンに関してはお手上げだし何もしないってのも悪い」


 じっとしているのに飽きたのか、小夜がかばんから財布を取り出して立ち上がる。


「……コーラ」


「コーラだな、わかった」


 外に出ていく小夜。


 扉が開くと同時に外の空気が入り込む。


 パソコンが長時間フル稼働しているせいか、部屋の中は少し蒸し暑い。


 その間怜奈は頬を伝う汗をぬぐおうとせず、じっと姫の作業する画面を見つめている。


(こいつ……そんなに物珍しいのか?)


 まったく動かない怜奈が気になってしょうがない姫。


 学園では友人は腐れ縁の文名を除けば他人との交流がほとんどなかったためか、この状況をどこか喜んでいる節がある。


(……おまけにすごく美人だよな……制服からでもわかるレベルでスタイル良いし。こんなやつがあの学園にいたんだな。まあ当たり前か)


 その時、ドアが開け放たれて小夜が帰ってきた。


「ほら、コーラだ。怜奈はジュース飲まないんだろ?お茶買ってきた」


「そんなことしなくても買いに行かせたのに」


「お前、自分がお嬢様ってこと忘れてないか? お宅の召し使いに買いに行かせたりなんかしたらこんな庶民の飲み物なんて買ってこないだろ」


「確かに」


 二人は小夜からそれぞれの飲み物を受けとる。


 蒸し暑い部屋での冷たい飲み物は長時間作業している姫にとってかなりありがたい物だった。


 キャップを外すと半分まで一気に飲みきる。


「おー、良い飲みっぷり」


「コーラってしゅわしゅわする飲み物よね。よくそこまで早飲みできるわね」


 二人が関心する中、出そうになったげっぷを押し込めると姫はまたパソコンに向かった。


(まずい……休憩してた間にまたデータが……でもそんなに酷くない?)


 次第にキーボードを打つ手も止まり、目の前で起きている現象に注視するようになる。


「文名、そっちで何か起きたのか?」


 文名に呼び掛けてみるが向こうの機材に不具合があるのか、ザーという雑音と時おり爆発のような音が聞こえるだけだ。


「何が起きている……?」


 その頃、ネットワークに潜り込んだ魔理沙やはたて達幻想郷の住民達がデータの流れを塞き止めるべく動いていた。


「最大出力だぜ、全部押し返してやる」


 箒の上に飛び乗り、魔理沙は腰のポシェットや帽子の中から大量のビンを取り出して、自分の魔力を流し込むことで広範囲に中身をぶちまける。


「スペルカードに頼らない攻撃、私にあるのはこれだけだ。だから……」


 ミニ八卦炉をしっかりと握りしめた右腕を突きだし、左手でしっかりと支える。


「広がれ、ファイナル……」


 ミニ八卦炉に光が灯り、その外装が少しずつ開いていく。


「スパぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁク!」


 反動で身体が吹き飛ぶほどの威力のマスタースパークがビンから出た粒子に反射し、巨大なレーザーの奔流を作り出す。


 妖怪達も魔理沙の後ろに回ると、反動で飛ばないように押さえた。


 マスタースパークはデータの流れを途中で寸断すると、ゆっくりと押し返していく。


 だが妖怪達や魔理沙よりも先にミニ八卦炉の方が根を上げた。


 火花を散らしながら煙を吐き、だんだんと出力が落ちていく。


「頼む、耐えてくれ!」


「お姉ちゃん!」


 その時だった。


 魔理沙によく似た姿の男が近付いてくる。


「想魔! なんでここに」


「これ、受け取って!」


 魔理沙の弟、想魔は小さな小包を魔理沙に向かって投げる。


 それを片手で取った魔理沙は包みを開いて思わず驚く。


 包みにはきれいに磨かれたミニ八卦炉が入っていた。


 よく見ると魔理沙の持つ八卦炉とは違い、独特のエングレービングで飾られている。


「これ……まさか」


「そう、父さんが彫ってくれてたんだよ。僕も全然気付かなかった」


 手に持った瞬間にその八卦炉の異質さを魔理沙は感じ取った。


 これまでの八卦炉の倍以上の魔力容量がある新しい八卦炉は魔理沙の魔力に反応するとその本体から光をにじませる。


(ありがとう……)


 八卦炉を抱き締める魔理沙。


 データの奔流に身体を洗われながら、その目から涙がこぼれる。


「もう一度、残りの魔力を収束させる!」


 八卦炉を構える。


 目の前には現実世界で姫が展開したファイアウォールが一枚ずつ閉じていく。


「やってやる!」


 間をすり抜けて一気にファイアウォールの前に出た。


 新しい八卦炉はすでに魔力の充填が完了している。


「もう一度ありったけを注ぎ込む! マスター……」


 キーボードを叩き続けていた姫が最後のキーを押し込む。


 ファイアウォールが完全に作動し、魔理沙の前に道が示された。


「こっちか……スパーク!」


 マスタースパークの射線を少しずらして開かれた道へデータをそらす。


 新たな経路に乗ったデータは那由多に逆流し、格納庫に火花が散り始めた。


「どうなってんだこれ……」


 桔梗は頭上から落ちてきたケーブルをすれすれで回避して頭を振ってみせる。


 落下した時に頭を強く打ったらしく少し違和感があるようだ。


「こっちの世界にもこれだけの影響が出てきたか。これはもう黄龍との決着云々の話じゃなくなってきたな」


 そこにカンナと香澄が駆け寄ってくる。


「どうすんの桔梗、もう持ちこたえられないよ」


「わかってる。カンナ、香澄、悪いがプランBだ。もうこの幻想郷に未練はないな?」


「ない、と言えば嘘にはなりますが私達がやらなければなりませんからね。カンナはどうです?」


「アタシはいつでも。桔梗や香澄姉が良いならやるよ」


「じゃ、あとはあいつを叩き起こすか」


 桔梗は地面を蹴って飛び上がると、拘束されている黄龍の身体に右手を突き入れた。


「なに!」


「悪いがこいつは返してもらうぜ」


 引き抜かれた桔梗の手には封印の施された銃が握られていた。


「起きろ椿、出番だぞ」


 封印を破り、それを高く放り投げる。


 そして落ちてきた銃を既にいなくなったはずの影がキャッチした。


「あーあ、せっかく桔梗に託してあとは楽に出来ると思ったのに」


 影とは桔梗に本物の虎鉄を返した際に黄龍に討たれたはずの天凪椿だ。


 手の中で黒鋼をくるくると回すと腰のホルスターに収めて桔梗に向き直る。


「ただいま、桔梗。この短期間でずいぶん変わったね」


「かもな」


「紫、送ってくれてありがとう」


 後ろの方で立つ紫に手を振るが、紫はふいっと顔を逸らした。


「で、一度死んでる僕を呼び戻したからにはアレをやるつもりなんだね」


「ああ。悪いな」


「気にしないで。なんとなくこうなる気はしてたから」


 四神達は互いにうなずくと、それぞれ黄龍の周囲を均等な距離になるように囲む。


 その手にはそれぞれの武器「奉神器」が握られている。


 カンナの手には魔法の制御と近接武器としての側面を併せ持つ奉神槍『炎樹』。


 香澄の手には所有者の能力を解放し、力を増幅させる奉神扇『風水』。


 椿の手には風を纏い攻守両用できる奉神銃『黒鋼くろがね


 そして最後に桔梗が取り出した信頼と覇道の剣、神剣『虎鉄』。


 黄龍もようやく察したのか拘束から逃れようと必死にもがく。


「まさか貴様ら……貴様らぁ!」


「俺としても残念だよ黄龍。結局こっちでもお前を倒しきる事が出来なかった」


 虎鉄が光を放ち始めるのに呼応して、他の三人の奉神具も同じように光を放つ。


 凄まじい旋風が巻き起こり、格納庫の中の書類や小物、果ては固定されていない机までが空を飛んだ。


「何する気なのよ桔梗!」


 風に押し返されながらも必死に抗いながら桔梗に向かって叫ぶ霊緋。


 しかし桔梗は黙って左手の親指を立ててサムズアップするだけで何をしようとしているのか答えない。


「これ……四聖結界……まさか……」


 紫は何か思い当たる節があるのか一人でぶつぶつと何か言っている。


「四聖結界って何ですか!」


 椛は隣にいる文に叫ぶ。


「私が知るわけないでしょ!」


「四聖結界ってのは博麗大結界が出来る前に幻想郷の形を崩さないために使われた大規模結界のこと!」


 かばんや帽子が飛ばされないように押さえながら綾音が椛の問いに答える。


 しばらくして風が収まって来ると周囲の状況がはっきりとしてきた。


 桔梗達から伸びる赤、青、黒、白の光の帯が黄龍を完全に縛り付けている。


「四聖結界だと!」


「もう、こうするしかないんだよ。俺達はこの命をかけてお前を幻想郷に縛る」


「いやー外の世界に引きずり出せば力も弱まってあるいはって思ってたんだけど」


「私達古い世代が消えて新しい命が生まれる。良いことではないですか?」


「まったく、そういうことは僕もいるところでやってよ」


「悪いな。お前が完全に黄龍の側についたとばかり考えてたから伝え損なった」


「それは……ごめん」


「良いですよ。ともあれこれで幻想郷に平和が戻ります」


「そこにいられないのが残念だなー」


「なんだカンナ、お前は残るのか?」


「冗談よ冗談」


 カンナに茶々入れる桔梗。


 久しぶりに揃った四神達は結界を構築しながら楽しげに談笑する。


 その様子を見ていた紫は椿の言葉を思い出す。








「紫、僕達の話を聞いてくれるか? 力を使い果たして休眠状態の桔梗が狙ってるある逆転の一手、黄龍を完全に消し去る方法を」


 紫は黄龍を完全に消し去るという言葉の意味が理解出来ず、おうむ返しに椿に問う。


「桔梗は黄龍との1対1での決闘を望んでいる。でも同時にそれでは黄龍を倒しきれないこともわかっていた」


「それで、どうやって黄龍を消し去るの?」


「四聖結界、それしかない」


「四聖結界って……まさかあなた達!」


「黄龍を封じ込める。四聖結界は今の僕たちでは1回きりしか発動出来ないけどそれで十分だ」


「でもそれではあなた達が助からない」


「あー、その件ね。確かにそうだ」


 椿はため息をつくと紫の目をしっかりと見据えた。


 その目は決意に満ちている。


「僕らはね、もう十分生きたんだよ。幻想郷の形成の一翼を担って、今に至るまで僕らはあまりに長く居座り過ぎた。ここはもう僕らがいるべき場所じゃない」


「…………」


「紫、覚えておいて。いつかは世代が代わる。これは絶対なんだ。好都合なんだよ、今回の一件は」


「止めても無駄みたいね」


「ああ、この先は任せたよ」







「紫!」


 四聖結界が完成し、役目を終えた巫女達が紫の側に駆け寄る。


「紫、止めなくても良いのか! あいつらはここで消えるつもりだぞ!」


「霊緋、私には止められない」


「なら私が止める!」


 飛び出そうとする霊緋を紫は抱き締めて止めた。


 抗う霊緋だが何をしても退かないと知るとゆっくりとその場を離れる。


「良いんだな、紫」


 霊莉の問いにうつむいたまま何も答えない紫。


 その間にも四聖結界は完成し、黄龍ももう動かなくなった。


 武器を収めたレミリアはぽりぽりと鼻の頭をかくとカンナの側に立つ。


 そこへフランと美鈴も合流した。


「その……感謝するわ。私達を助けてくれたあの時の事、まだお礼言えてなかったから」


「誰かと思えば私を呼んだ吸血鬼ね。どう? 幻想郷は」


「まあ悪くはないわ」


「そう、それは良かった」


 今度は椿の側にレティが駆け寄る。


「私……」


「何も言わなくて良いよ。確かに君に能力を預けたのは僕だけど、その能力はもう君の物だ」


 香澄の側には慧音が歩み寄った。


「もう、行ってしまうんだね」


「はい。人里の皆さんにはどうか内緒に。もっとももう誰も私の事など覚えていないでしょうが」


「そんなことはないさ。君たちの事は絶対に忘れない。私達が忘れたとしても歴史は忘れないから」


 その様子をずっと眺めていた文は椛の肩をぽんぽんと叩く。


「お別れ、言わなくて良いんですか?」


「良いんですよ。もう良いんです」


 桔梗は霊夢と何やら話している。


 時折霊夢は難しい顔をしたが観念したのかゆっくりと首を縦に振った。


「じゃあ、お別れだな。もう二度とお前達の世界に干渉することもないと思う」


 京平に向けて手を振る桔梗。


 それと同時に結界に包まれた黄龍ごと桔梗達は消えた。


「そうだな、二度と来んなよ!」


 消えていく桔梗に向かって叫ぶ京平。


 同時に幻想郷からやって来た妖怪や人間達も光と共に消え始めた。


「それじゃ、これで。邪魔したわね」


 霊夢の隣に那由多から出てきた魔理沙が立つ。


 そのボロボロな姿に思わず霊夢は吹き出した。


「何よその格好、ボロボロじゃない」


「さて、誰のせいかね」


 笑いながら消えていく二人。


 那由多の格納庫は京平達四人を残して静まり返った。









 その時……









「蓮子、何してるの? レポートの課題?」


「のわぁ!」


 急に声をかけられて蓮子はあわててPC端末の画面を消す。


 声をかけてきたのはマエリベリー・ハーン、同じ大学に通う友人であり、オカルトサークル秘封倶楽部の唯一のメンバーだ。


「そんなに驚くことないのに。ほら、いつものコーヒー」


「あ、ありがとメリー」


 蓮子、宇佐見蓮子は慌てたはずみで落とした帽子の砂を払いながらメリーからコーヒーを受けとる。



「それで、何見てたの?」


「べ、別になんでもいいでしょ?」


「……まさか……その……えっちなサイト見てたの? ダメよ蓮子! ここは大学なのよ! そういうものは家で……」


「見るわけないでしょ」


「そ、そうよねーあはは」


 蓮子はまた端末を付けて作業に戻る。


 書きしたためられている文章にタイトルはなく、蓮子はデータを保存するとまた端末の電源を切ってコーヒーに手を伸ばした。


 秋の風が一陣、二人の間を通り抜けていく。


 キャンパス内の木々も赤や黄色に美しく紅葉し、まさに秋真っ盛りである。


「ねえメリー」


「何?」


「今度の休みの日、紅葉見に行こうか」


「良いわね。どこに行く?」


「どこか良い場所がないか調べないとね」


 立ち上がった蓮子の帽子にイチョウの葉が舞い落ちる。


 メリーはそれを取ると指でくるくると回した。



 蓮子の書いた文章は結局最後まで書かれる事もなく本人にも忘れられていく。


 失われた歴史(ロストヒストリー)は永遠に誰にも語られない。




Nomal Ending『秘封』



  Story Ended

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