episode:23『敵地潜入~sneaking』
「俺は今でも花梨の事は忘れてないし、お前を許す気にもなれない」
走り去る幻想郷組一行を見送り、遼はようやく口を開いた。
「だがよ、今だけはお前と一緒に戦ってやる。俺が突っ込んで突破口を開く!」
「ふざけるな、装備を考えろ。お前は援護だ」
「チッ、はいはい。んじゃ、ぼちぼち始めるかぁ!」
拳を合わせる二人。
この瞬間に幻想郷組がビルに到着。
戦い続ける二人をよそに世界は消えていった。
SIDE:白木京平
京平は物陰から警備員の行動をじっと監視している。
どうやら今は警備員室に全員いるようだ。
「行くぞ」
警備員室の前、窓の死角を忍び足で歩く四人の壁一枚を挟んだ反対側で談笑する声がする。
(音を立てるなよ?)
先行する空が後ろの三人に振り返って目配せした。
警備員室を通り抜け、教室棟にたどり着いたところで四人はある異常に気付く。
「警備、薄いね」
「そうだな、うちの校舎けっこう広いし警備が3人ってのは何か引っかかる」
文名は端末の電話機能をオンにして無線イヤホンを耳に押し込んだ。
「姫ちゃん、見えてる?」
おもむろに監視カメラに向かって手を振る文名。
監視カメラはゆっくりとそのレンズを上下させた。
「見えてるよ。クラッキングはうまくいってる」
監視カメラの先、姫はモニターに学校のマップを広げて腕組みする。
「目的地は2号教室棟の1階だがまずは食堂に向かうんだ」
『食堂?』
「着いたら説明する。ほら行け!」
『みんな、食堂だって』
のそのそと動き出した文名達を監視カメラで追いながら姫は届いた研究資料に目を通し始めた。
天結桔梗を名乗る者から送られてきた謎の資料。
そこにはこれまでのネットワークの常識を覆すとてつもない研究成果が記されていた。
人間の意識で編み上げられたネットワーク。
旧世紀の人々が憧れたいわゆる架空世界の構築、利用に関する研究。
Zone of Under Network SYSTEM
略してZUNシステムと呼称されるそれは、今現在も学校の地下で稼働している。
生徒や教師が夢に見た幻想郷とは、まさにこのシステムが作り出した独自の世界だ。
学校の関係者達の意識の一部は幻想郷における『アバター』を演じていた。
だがそのシステムに綻びが生まれた。
システムの研究者も危惧した『プログラムの自我』が発現してしまったのだ。
その代表格が天結桔梗。
桔梗は偶然にもネットワーク内にて管理者である黄龍と同じ権限を手に入れてしまった。
それに誘発される形で、幻想郷の住人は学校の生徒や教師といった演者の手を離れて活動を始める。
そして研究成果の資料は次のような一文で締め括られていた。
『人間の意識から作られたプログラムがもし自我を持ち、ベースとなった人間の手を離れた場合、それは紛れもなく生命と呼べるのではないだろうか。ネットワークにのみに住まう電脳生命体、彼らをどう扱うかは今後ネットワークが完成した場合、避けては通れない議題だ』
「自我を持ったプログラムに人権はあるか。私ならあると答えるが」
姫はそこで言葉を切って顔をあげる。
そこでは怜奈と小夜が学校に向かった組の現在地を表示してるモニターの前で何やら話をしていた。
姫はそんな二人を見てまゆをひそめる。
「世間一般で受け入れられるかどうかはわからないな」
その時、また新しい文章が姫のパソコンに送られてきた。
『DANGER』
「危険?」
素早く資料をモニターのすみに追いやり、監視カメラの映像に切り替える。
特に危険はないようだが四人は廊下の一点を見つめて止まっているようだ。
とりあえず文名の端末に電話をかけて状況を聞く。
「どうした文名、何かあったか?」
『例の変な世界に引きずり込む装置が置いてあるようでこの先に進めないの』
監視カメラには写ってないが、文名達の目の前には生徒会室で京平を引きずり込んだ生体VRが設置されている。
「なんだそんなことか。ちょっと待ってて」
すぐに姫は端末を置いてクラッキングツールを起動、付近にある生体VRの装置を一つ残らず無力化していく。
「この程度のセキュリティなら……よし、行っていいよ」
監視カメラの映像の中で文名がこちらに手を振っている。
それを一瞥すると姫はまた資料を読む作業に戻った。
「生体VRとZUNシステム。どちらも同じような使い方が出来る装置だけど決定的な違いはアバターが自律行動出来るかどうかってところかな」
そうこうしているうちに四人は食堂に到着する。
「よし、まずは誰かの端末を学外ネットワークコーナーに接続してくれ」
監視カメラの向こう側で京平が端末を取りだし、学外ネットワークに接続した。
「次に……しまった警備員だ」
食堂の外を写す監視カメラに懐中電灯の光が写り込む。
「隠れる準備だけしておいてよ……」
キーボードを叩く指にも自然と力がこもり、怜奈と小夜は不安そうに姫を見た。
「あと……ちょっと……」
警備員が廊下で反転して食堂に向かってくる。
「出来た! 隠れろ!」
警備員が食堂のドアを開けると同時に京平は椅子の陰に滑り込んだ。
間一髪通信も完了し、姫の目の前のモニターには「COMPLETE(完了)」の文字が表示されていた。
「これでいざって時の逃げ道は確保出来た。いよいよ地下室へご招待だ」
SIDE:烏丸文名
食堂を離れた4人はついに地下室への入口がある階段へとたどり着く。
入口となるのは階段下にある倉庫だった。
「ここって掃除用具入れてる部屋ですよね」
文名は不思議そうに倉庫の扉を開けてみる。
「俺この間入ったけどそんな入口みたいなものなかったと思うけどな」
『でも入口はそこしかない。急いで入って』
姫に急かされるままに四人は倉庫に入った。
倉庫の中は年に1回使う床用ワックスと掃除用具の臭いが充満している。
「とにかく早く探そう。時間がない」
だが、手分けして念入りに探しても見つかる気配はなかった。
「本当にここなの?」
なかなか見つからず文名は端末で姫に文句を垂れだす。
『電子ロックの類いなら数秒で見つけられるけど物理的なロックはお手上げ。黙って探す!』
「はぁ……使えないなぁ」
その時。
「キャア!」
ましろが掃除用具を入れるロッカーを触っているとそのロッカーが勝手に右にずれてエレベーターが現れた。
「なんだ?」
「み、見つけた……かも」
エレベーターはロッカー型の扉が開くと同時に明かりが灯り、奥へと四人を誘う。
「ここから先は私が先に行く。3人ははぐれないようについてきて」
空が懐から取り出したのは警察官のよく持っている拳銃……ではなく黄色いおもちゃのような銃だった。
「それはなんですか?」
「スタンガンだよ。最近は拳銃を使わなくなってね」
「最近国の方針で決まったんですよ。警察官には拳銃より殺傷能力が低いかわりに電子機器を無力化出来るスタンガンの配備を進めていくって」
首をかしげるましろに文名がフォローを入れる。
「そういうこと。さあ、行くよ」
4人は端末の電源を切り、文名は姫から渡された小型のカメラ付き通信機を耳にかけて中へと入っていった。
かなり深い位置に次の階層はあるらしく、後ろがガラス張りのエレベーターは猛スピードで降りていく。
やがてガラス越しに巨大な七色に光る巨大な箱の置かれた空間が広がった。
「な、なんだありゃ」
『次世代型の超高性能スーパーコンピューター……なるほど。確かにこれがあれば』
カメラの映像を見て何かぶつぶつと独り言を呟く姫。
その隣には怜奈と小夜もカメラの映像を食い入るように見ている。
「あれって研究中のスーパーコンピューター『那由多』かしら。この間ニュースで見たけど」
「その通りだお嬢様。ただしあのニュースの那由多は簡単に言えば細胞の一つを取り出した物に過ぎない。本当はこんな風にたくさんの那由多を連結させて使うものだ」
姫はキーボードを叩いていくつか那由多に関する記事をサブディスプレイに表示させた。
「このサイズってことは多分ニュースなんかで取り上げられた最高スペック以上を引き出せるんじゃないか?」
『姫ちゃん、もうすぐ着くよ』
エレベーターの中で那由多に見とれていた四人はドアに注目する。
やがて扉が開くと外には……。
「ようこそ『プロジェクト幻想郷』の中心部へ。侵入者諸君?」
「あ、あんた……」
「学園長先生!」
そこにいたのは学園長の黄上巽だった。
「どうだ、驚いたかね?」
「なんで……なんで!」
意外な人物の登場に目を丸くする一同。
その様子を見て学園長は四人を軽く手招きする。
「こんなところで立ち話もなんだ、ついて来たまえ。案内しよう」
勝手に一人で歩き去る学園長の背中を見つつ、四人は互いに顔を見合わせたが、結局学園長についていくことにした。
「このプロジェクトは疑似空間内でのセカンドライフを快適にすべく、現実と同じ感覚で暮らせる電脳空間を作る事を目的として立ち上げられた。生体VRのような生半可な物じゃない、ZUNシステムが造り出す世界は完璧な新世界だ!」
薄暗い中、那由多の発する光で照らされた廊下を歩いていく。
時おり見えたディスプレイには幻想郷の住人達のモデルデータが写し出されていた。
「やっぱり幻想郷は夢の中の世界じゃなかったのか」
「君達にはそう見えたか。あの場所はまさにこのプロジェクトの集大成だ。コンピューターが各個人のパーソナルデータを読み取り、世界観に合うアバターを作り出す」
学園長の手には端末と何やら小さいチップのような物が握られている。
「システムはアバターを集め、独自の世界観を構築する。それが幻想郷、この那由多に形作られた新たな桃源郷だ」
「そのために私達生徒を……いや、生徒だけじゃない……先生や、関係者まで!」
学園長を睨む文名。
「その通り! このプロジェクトでは大量の人間が必要だった。学校とは良い場所だ! 何もしなくても人間が集まる。ここはサンプルの宝庫だ!」
電源を切ったはずの端末が急に震えだしてそれらを取り出すと画面にはそれぞれのアバターのデータが表示され、詳細なステータスが猛スピードで流れていく。
数字の連続はどんどん加速していき、ついには周囲のモニターにも同じような映像が映りだした。
「君達のおかげでアバターのデータは十分に完成された。自我が生まれ、オリジナルがいなくても十分動けるレベルにな」
『アバターに自我……ZUNシステムにのみ許されたプログラムの進化か』
「そうだ。、通信器越しだがどうやら既に詳細を知っている者がいるようだな。だがもう遅い」
学園長は手元のコンソールを素早く叩き、その隣にあるスイッチを押し込んだ。
それと同時に那由多を照らしていた照明が消え、震動と轟音が響き渡る。
「な、何?」
うろたえる4人。
しかしそれ以上に外にいる姫の方が慌てている。
『なんだこれなんだこれなんだこれ! 学園から大量のデータが外部に流出してる。これはまずい!』
「え? 何? 何がまずいの?」
『その男は那由多に蓄積された莫大なデータを外部に流出させた! このままじゃ空気を入れすぎた風船みたいにネットワークがパンクしてしまう!』
「いや、言ってる意味はわかるけど何がまずいの?」
『バカ野郎! いいか文名、今の世の中ネットが無ければ成り立たないんだよ。そのネットが崩壊すれば日本だけじゃない、世界中がパニック陥る! しかもその流出してるデータは私たち生徒のパーソナルデータを元に作られた物だ』
「な……」
文名が口を開くより先に空が動いた。
スタンガンを抜き、高笑いを続ける学園長に向かって1発撃ち込む。
しかしその弾は当たることはなく、学園長に命中する寸前で止められた。
「あれは……」
夢の中、幻想郷で幾度となく見てきた姿。
黄色い竜は首をもたげてこちらをにらみ据えてくる。
「黄龍だと!」
実体化した黄龍はその長い尾を振り回して4人を後ろに引かせた。
「どうなってやがるんだ!」
『あれは多分この施設の設備を使って作られた質量のあるデータだ。気を付けろ、ここは現実世界なんだ、下手な行動が即、死に繋がるぞ』
「そんなこと言ったって!」
四人は机の陰に隠れて様子をうかがうが、黄龍が邪魔をしているために学園長の姿は見えない。
「隠れても無駄だ。お前達をここから生かして出す気は毛頭ない」
「ひいっ!」
黄龍の召喚した剣が隠れている文名の目の前に突き刺さった。
『そっちどうなってるのか知らないけどさっさとデータ流出を止めてくれ! 長くは持たない!』
耳の通信器から姫の悲痛な声が聞こえている。
恐怖から思わず耳をふさいで縮こまる文名。
その時。
「顔をあげてください。大丈夫、私達がいますから」
文名の肩にそっと手が乗せられる。
ショートの黒髪に特徴的な被り物、背中からは黒の翼。
射命丸文だ。
「え?」
その横では巫女装束を身にまとった少女が黄龍の剣を抜いて投げ捨てた。
「へー、これが外の世界か。なんか面白そうなところじゃないか? なあ霊夢」
その隣に白黒服の魔女が降り立ち、黄龍を睨み付ける。
「まあ外の世界に呼び出されるって時点であれよね」
それ以外にも続々と幻想郷の住人達がこの場に現れていく。
「これは、異変ってことよね」
博麗霊夢はため息をついて頭を抱えた。
同じ頃、世界中で通信関係者は対応に追われていた。
あらゆる物がネットワークによって繋がっている現在、一度でも崩壊させてしまうと復旧にはかなり時間がかかる。
「どこからのハッキングだ。さっさと止めろ!」
「駄目です! 防壁がものの数秒で決壊しました」
「学園都市からのデータ流出、さらに増大!」
「公共の交通網に支障が出始めています! このままでは!」
「仕方がない。あの都市一帯のネットワークを物理的に切断しろ! 急げ!」
管理会社の社員達が右に左にと駆け回る中、幻想郷を形成していたデータはじょじょに日常生活に侵食していく。
もはや一刻も早く黄龍を倒して流出を止める他に解決手段はない。
「これは、異変ってことよね」
一方那由多の格納庫の中に突然現れた自分達のアバターに驚く文名達。
格納庫は広くはあるが、この場には元になった人物の存在するアバター達が一同に集まったせいで少し狭く感じる。
「どういうことだ……こんなこと私の計算外だ!」
さすがに学園長もこれには驚いた様子で次々に現れる幻想郷の住人達にたじろぐ。
「どうだ黄龍。これが幻想郷の意思だ」
最後に桔梗が虎鉄を担いで現れた。
「貴様……」
黄龍は桔梗が現れると明らかに眉間に深いしわを寄せる。
「簡単に消されてたまるかっての! こいつらは言わば俺達の産みの親みたいなもんだ。助けるのは当たり前だろ。なあみんな!」
振り上げられた虎鉄に合わせて全員が声を上げ、腕を振り上げた。
その声は部屋を揺らし、黄龍をさらに引かせる。
「最終ラウンドだ黄龍、今度こそ引導を渡してやる」
幻想郷の名だたる妖怪達の発動したスペルカードが黄龍に向かって叩き込まれる。
レーザー、大玉、特殊弾、色とりどりの弾幕が黄龍に次々命中した。
「ぐう……この!」
黄龍が起こした風の防壁が弾幕を切り裂き、桔梗達を吹き飛ばす。
付近にあった機材も一緒に吹き飛ばされ、長机が隠れていたましろに迫る。
「きゃあ!」
その瞬間椛が間に割って入り、机を召喚した虎鉄で真っ二つに切り裂いた。
「避難します、捕まって!」
椛はましろと文名を、文は京平と空を抱えて戦闘から離れる。
その中椛が桔梗の横を通り過ぎた際に京平は桔梗と一瞬目が合った。
桔梗はその一瞬で京平に余裕の笑みを見せる。
(あいつ……この状況で笑ってた……?)
椛と文が逃げたことを確認した桔梗はポケットからスペルカードを取り出してそちらに投げた。
「スペル発動、飛鳥美人の守り人!」
カードから3人の桔梗が呼び出され、那由多の裏に隠れた椛と文を守る。
「これでようやく思い切りやれる」
虎鉄の力を解放する桔梗。
それに応じて黄龍も人間の姿になり、剣を構えた。
静かに近付いていく二人に思わず場の空気がしんとする。
「何てこった。完全に人間が茅の外だ」
京平は戦いの様子を那由多の陰から覗き見るている。
「何か私達に出来ることはないのでしょうか」
ましろも文名の通信機に呼び掛けるが、向こうからはキーボードの音とエラー音らしき音、姫の舌打ちしか聞こえてこない。
「あなた達はここでおとなしく見ててください。これは私達の戦いです」
「そういうわけにもいきません。今も幻想郷のデータが流出して世界中に影響が出てます!」
「落ち着いてくださいましろ」
椛はましろの肩にそっと手を置いて笑いかける。
「私達も今危ない橋を渡ってるんです。もしこの世界で死んでしまった場合二度と幻想郷には戻れません」
椛の隣で文もうんうんと頷く。
「もちろんこちらの世界で今何が起きているかもわかっているつもりです」
椛の背後、吹き飛ばされた桔梗が壁に突っ込んだ。
「少しの間、私達に任せてくれませんか?」
それを聞いて四人は黙った。
戦闘の音だけがどんどん大きくなっていく。
椛「すっごーい! あなたはナマケモノのフレンズなんですね!」
桔梗「更新が止まらない限り俺達はその先にいるぞ! だからよ……止まるんじゃねえぞ」
文「作者ぁ! 君がなぜ投稿をサボったのか! なぜいくら投稿しても文章力が全然伸びないのか! その答えはただ一つ。作者ぁ! 君に熱心さが足りないからだぁ!」
作者「本当にすいませんでした。だからこれ以上2017年のネタで煽らないでください」
桔梗「拳で抵抗してやろうかこの野郎投稿サボりやがって」
作者「マジでリアルが忙しかったんだって! あーもう、コンナハズジャナイノニィ!」
ほんとすいません。
落ち着いてきたらまた月一投稿に戻ります。
あと次回、一応最終回でございます
続くけど




