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episode16『この身朽ち果てても』

死とは何か

俺はバカだからわからない

そういや誰かさんがこんなことを言ってたな


「人が死ぬってことはね、とてもとても辛いこと。でもね、その人の存在を忘れなければ、その人は心の中で永遠に生き続ける」


あぁ思い出した、そういや霊緋だったか

でも、もういいや


もう目を開けてられない……


これが死……


これが……



「行くぜ黄龍、正真正銘の一騎打ちだ」


 全員が光に眩んで下がった事を確認してから桔梗は虎鉄を上段に構える。


 すると光が全て桔梗の身体に吸収され、黄龍と同じようにうっすらと光を放ちだした。


「虎鉄の力を引き出したか……だがそれでは貴様の身体が持たんぞ?」


「俺の能力、忘れたとは言わさないぜ」


「欲望を具現化させる程度の能力か……」


 黄龍もまた、剣を取り出して桔梗の攻撃を弾く。


 が、今度は簡単には弾けない。


 虎鉄の力を手に入れているおかげで桔梗のパワーは格段に上がっている。


 そのためか桔梗の攻撃を直撃こそはしなかったが、これまで以上にダメージが入ったらしく、黄龍の表情が歪んだ。


「ぐ……」


「動きが鈍いぜ黄龍!」


 虎鉄のパワーに合わせて強化された桔梗の技は凄まじく、これまで苦戦していた黄龍をじりじりと押し返していく。


 一進一退の激しい攻防。


 周りの皆は誰も手を出せないでいた。


「なんだよ……ありゃ」


 魔理沙は霊夢の隣に立つと、二人で空を見上げる。


「私、今回の一連の出来事でわかったぜ」


「何が?」


「認識が甘すぎた。私はスペルカードルールに頼りすぎていたのかもしれない」


「それは、今を生きる全員に言えることね」


 髪をかき上げ、霊夢は服に仕込んでいたスペルカードを取り出した。


 今では博麗家に伝わる大技や禁忌もこのスペルカード一枚で容易く再現出来てしまう。


 が、それのおかげで魔理沙のような人間でも異変解決が出来るのだ。


「私は今まで魔法をほとんど新しいスペルカードの作製のためにしか使ってこなかった。魔女になるには……パチュリーやアリスに近付くにはもっと実用的な魔法を考えないと」


「そうね、私も今回の異変では色々思うところがあったわ。でも今さらスペルカードルールを廃止することは出来ない」


 今回の異変では暗夜天戦ぐらいでしかスペルカードはあまり役に立たなかった。


 あのレミリアが自分へのダメージを省みず、本物のスピア・ザ・グングニルを持ち出したぐらいだ。


「いや、それでいいんだよ」


 二人の会話に割り込んできたのは霊緋だ。


「霊緋……さん」


 霊夢は霊緋には直接会ったことがないが、離れた先祖ということで少し畏まる。


「あーうんうん、霊緋でいいよ。こんなことでもないと会えないし、年も多分同じぐらいでしょ」


 厳密に言えば霊緋が2才年上なのだが、霊緋はそういうことには一切こだわらない。


「私はスペルカードの制度は今後も必要だと思うわ。私達の時代では異変は巫女にしか解決出来なくて、対処が追いつかなくなることもあったわ」


 黄龍に正面からぶつかり合う桔梗を見て、霊緋は桔梗以外の全員を後ろに下がらせた。


「危ないから下がって下がって」


「でも、あれ一人じゃ……」


「大丈夫、彼は……桔梗は負けない。何があっても」


 急に声のトーンを落とす霊緋。


 霊夢が顔を覗くと、霊緋は静かに泣いていた。


 幻想郷に博麗大結界を張った際に、霊緋は黄龍の力を間近で見ている。


(桔梗、結局あんたが最後の頼みの綱になるのね)


 二人に隠れて霊緋は涙を拭った。








「ほらよ、補充の医療用品だ」


 所変わって博麗神社。


 なかなか戻らない彪奈を心配した天魔によって遣わされた銀牙が医療品を届けに来た。


「ありがとう銀牙、まさか忍天狗のリーダーであるあなたが来るとはね」


「いやぁ、頼んでみる物だな。天魔様は二つ返事で許してくれたよ」


 銀牙は部屋の隅に置かれたバッグから無線機を取り出して机の上に置いた。


 暗夜天戦の際に椛が置き忘れた無線機だ。


『あー、テステス。飛風? 聞こえているな?』


 無線機から聞こえる声の主は妖怪の山で天狗達の指揮に当たる天魔だった。


「聞こえてますよ、天魔様」


「天魔様? これが……天魔様の……」


 天魔に会ったことのないはたては驚きを隠せない。


 もっと年老いた感じの声を想像していたが、無線機のスピーカーから聞こえてくるのは若々しい声だ。


『飛風、とりあえずそちらの状況を教えてくれ』


「ほとんど全員が出払っています。どうやら最終決戦が始まっているようだ」


『よし、ここまではあの白虎の予言が当たっているな』


(あの白虎……? もしかして椛が啖呵を切っていた……?)


「まったく同じってのが気味が悪いな。あいつは黄龍と差し違えるって……」


『まあ、癪ではあるが私達も私達の役割を果たそう』


 銀牙は持ってきたかばんの中から三本のクナイを取り出す。


 持ち手の部分には何かの文字が刻まれていた。


「銀牙、それは?」


「そうか彪奈は見たことがなかったか。こいつは言わば結界の強化装置のような物だ」


『以前暗夜天の放ったワールドブレイカーに耐え、その実用性がわかった。飛風、犬走、そしてもう一人いるな』


『彼女は私の妹の友人です』


「そうか、なら協力してもらおう。そのクナイをきっちり等間隔で三本神社を囲うように突き刺すんだ」


「なるほど、それで博麗神社を守るのですね!」


『察しが良いな。名前は?』


「姫海棠はたてです!」


『姫海棠? もしかして烏天狗の……』


「は、はい!」


『やはりそうか。では姫海棠、まかせたぞ?』


 そこで通信は途切れた。


 天魔に名前を呼んでもらえたはたては嬉しそうにしているが、のんきにしてもいられない。


 銀牙はクナイを一本ずつはたてと彪奈に渡して外に出た。


「さて、急いで仕事をしますか」


「でも銀牙? 等間隔って難しくないかしら」


「いや、簡単さ。もうあらかじめ印は付けておいた」


 外に出た三人はそれぞればらばらに散らばって銀牙の付けた印を探す。


 印は鳥居の下、霊緋の墓の側、納屋の裏にそれぞれ付けられており、三人はその印に正確にクナイを突き立てた。


 その瞬間に神社を覆う巨大な結界が展開され、全てを包み込んだ。


「これでいい。他もそろそろ終わっている頃だろう」


「銀牙、他はどこに?」


「地底への入口、竹林の病院、妖怪の山、一応冥界と地獄にも向かったはずだがあそこは多分大丈夫だろう」


 その時。


 結界を突っ切って大きな翼を広げた暗夜天が下りて来た。


「暗夜天?」


「治療を頼んだ」


 椛を境内に寝かせると、暗夜天はすぐさま戦場へと戻って行く。


「椛!」


 とりあえず外では治療出来ないため、はたては文の介抱をしていた綾音に協力を仰いで、二人で椛を抱えて部屋に引きずり込んだ。








「う……」


 桔梗は黄龍に切り込みながら、自分の力が段々と落ちていることに気付いていた。


 身体の感覚がない。


 それだけではなく、今はただ力のおもむくままに剣を振るっている。


 その動きに桔梗自身の意志は既になく、力に振り回されているのに近い。


(これじゃだめだ……これじゃ……)


 桔梗の踏み込みに反応した黄龍が剣を振り上げる。


 いつもの桔梗なら切り込みにかかったが、制御の効かない身体を案じて一瞬迷った後に後退を選択した。


 だがその一瞬が仇となり、剣の先端が桔梗の身体を切り裂く。


「が!」


 切れた傷口から血が吹き出す。


「遅いなぁ! 桔梗!」


『まずいぞ桔梗、動きが鈍くなるならリミッターをもう一度……』


(だめだ、今リミッターをかけたら確実に死ぬ)


 黄龍の剣をかわしながら懐に飛び込むタイミングをはかる桔梗。


「どうした! あれだけ息巻いてこの程度か」


「がああ!」


 剣が弾けて火花が散り、そのたびにまばゆい閃光が光っては消える。


「桔梗……」


 二人から十分な距離離れた位置に立つ霊緋の肩を紫が叩く。


「紫?」


「桔梗は一人で蹴りを付けるって」


「やっぱりか」


「桔梗はいつもそうだった。今も鮮明に覚えているわ」


 黄龍の剣を受け流し、桔梗はようやく突破口を見つけて攻勢に出る。


「ここだぁ!」


 虎鉄がきらめき、その切っ先がようやく黄龍を捕らえた。


 この距離なら絶対に外さない。


「神剣『華吹乱舞』っ!」


「ふっ……」


 逆を返せばこの距離ではどんな攻撃も自分に当たる。


 桔梗の目が見たのは無数に召喚された剣と、いびつに口元を歪める黄龍の見下したような目。


「相打ち……!」


 レミリアは光を遮りながら事の顛末を見届ける。


 相打ちではあったが、わずかに黄龍の方が命中が早かった。


 だが双方致命傷には至らないものの大ダメージを受けて正反対に吹き飛ぶ。


「馬鹿な……!」


「まだまだぁ!」


 お互いすぐに体制を戻してまた激突する。


 ついには黄龍は剣を捨てて桔梗を掴むと、近場の木にたたき付けた。


「やろう……二度も同じ手でやられるか!」


 桔梗はその木を蹴って黄龍のみぞおちに膝蹴りを一発。


 木から離れた桔梗は回し蹴りで黄龍を蹴り飛ばすと、先回りして黄龍をもう一度今度は空に蹴り上げる。


「これで決める!」


 地面を強く蹴り、空高く飛び上がった桔梗は空中で体制を変えて黄龍に向かい合う。


「神剣『月華魅陣』!」


 剣の軌道が三日月のように光ってしなり、鞭のように黄龍に振り下ろされた。


 この位置では避けようがない。


「くらいやがれ!」


 痛みはないが、既に身体はふとした瞬間にばらばらになってしまいそうなほど軋んでいる。


 対する黄龍は回避のしようがないと悟ると、レーザーを大量に撃ち出して迎撃した。


 だが何発も直撃をもらっているはずの桔梗は怯まない。


 そのまま黄龍に剣を振り下ろす。


「貴様ぁ!」


「うおおおおおお!」


 しかしその最後の攻撃が通ることはなかった。


「フッ」


「な……」


 真っ赤な血が飛び散る。


 ぎりぎりまで引き付けて黄龍の放った太いレーザーの一本が桔梗の右腕を削り取ったのだ。


 たった一撃で桔梗は右肩から下を丸々失った。


 その様子を陰から見ていた霊緋達も思わず声を上げる。


 だがそれでも桔梗は諦めない。


 失った右腕と共に飛んで行った虎鉄を目で追いながら黄龍を蹴って追いかける。


「くそっ! 届かない……」


 手を伸ばすも、黄龍を踏み台にしたときの蹴りが甘かったのかわずかに届かない。


「氷よ!」


 それを見たチルノが動く。


 氷で作った腕を伸ばし、虎鉄を桔梗の方へ弾き飛ばした。


「氷精か! 助かる!」


「お安いご用さ!」


 左手で虎鉄を握りしめ、再び氷を蹴って黄龍に接近する。


 そのための足場をチルノが次々に召喚してサポート、桔梗は一気に黄龍に詰め寄った。


「まだ来るか!」


「諦めてたまるかよ! 右腕の一本ぐらいくれてやる!」


 右腕の傷口から血がどんどん流れていく。


 勝負を早急に決めなくては失血でゲームオーバーになる。


「っ!」


 桔梗の目がまだ空中に浮いたままの黄龍を捕らえた。


 もう血が少なくなってきたのか視界がぶれる。


 懲りずにまっすぐ突っ込んで来る桔梗に舌打ちした黄龍は手を振り、衝撃波を桔梗に向かって撃ち出した。


 この威力で空中、なおかつ片腕では防御出来ない。


 桔梗は衝撃波を切り裂いて中央突破を試みる。


 だがこの衝撃波はただの衝撃波ではなかった。


 通り抜けた瞬間に桔梗の動きは完全にストップする。


(なんだこれ……何がどうなって……)


「桔梗!」


 霊緋が紫の制止を振り切って走り出そうとした。


 桔梗の身体の表面を大量の文字列が埋め尽くしていく。


「これは最後の手段だったが仕方ない。貴様の存在そのものをデリートさせてもらう」


 文字列に完全に覆われた時、桔梗の身体は文字となってばらばらに散りはじめた。


 虎鉄も同様に文字となって霧散していく。


「そんな……桔梗が……桔梗が!」


 狼狽する霊緋。


 直後、周りの草木や自身の身体にも文字列が広がり始める。


 既にチルノの召喚した氷は文字になって散ってしまった。


『間に合わなかった……完全消去[フォーマット]が始まった……』


 霊夢の中にいる香澄も自分の身体が置かれている状況を察知して悔しそうな声を出す。


「ちょっ、フォーマットってなによ!」


 状況のわからない霊夢は起きていることに戸惑いながらも香澄を問いただした。


『邪魔な私達を世界ごと一気に消すつもりなのよ!』


「そんな……」


 そんなふうに話している間にも文字列の侵食はどんどん進んでいる。


 文字列の侵食はこの戦場以外にも広がっていた。


 特に地下の混乱は凄まじく、里の人々は文字が覆い尽くすよりも先に消えていく。


「なんだ……これは……」


 文字の侵食が人里の人間よりも遅い慧音は同じく侵食の遅い魔理沙の弟、霧雨想魔を抱き寄せて座り込む。


「お姉ちゃん……」


 神社にも文字列は広がっており、警戒していた銀牙は周囲の異変に気付いて建物に避難した。


「彪奈!」


 中では椛の介抱をしていた彪奈が椛に覆いかぶさるようにしている。


 既に回収していたアリスと文は文字列に飲まれてしまっているようだ。


「何なのよこれは!」


「とにかく一カ所に固まりましょう」


 はたてと綾音も合流してこれで神社にいる全員が集合した。


「そうだな、皆こっちに!」


 銀牙は固まった全員を強く抱きしめる。


 直後に全員の全身が文字列に飲まれていった。


「不本意ではあるが致し方がない。本来ならば虎鉄の力で終了させたかったがな」


 黄龍は自分の手に収まっていく文字列を無表情で見つめる。


「これではこの世界のデータは一切残らない。私の計画も終わりか」


「さあて、それはどうかな?」


 黄龍は驚いて背後を見た。


 そこには文字列から復元された桔梗がボロボロの状態で浮かんでいる。


「なん……だと……」


「お前が言ったんだよな? 俺の能力は欲望を具現化させる程度の能力だって」


「だが貴様はさっき既にフォーマットされたはず……」


「俺の欲望、俺の願いはこの世界を守ること。そのためなら!」


 桔梗の左腕の痣が放つ光が瞬き、掌に文字列が集合していく。


 文字列はやがて虎鉄を形成し、その切っ先が黄龍に向けられた。


「まさか……私と同じ管理者権限を……」


「よくわからないが、この力は幻想郷に深く関わっているようだな」


 明らかに焦りを顔に浮かべた黄龍が桔梗に突っ込む。


「その力は貴様が持っていていいものではない!」


 桔梗も虎鉄を楯にして攻撃を弾いて下がった。


「知るかバーカ。これ以上好き勝手やらせてたまるかってんだ! 力をもっとよこせ虎鉄!」


『8割でこの有様だというのに、やれやれだな』


「俺はどうなろうと構わねえ! やるっつったらやるんだよ!」


『…………。』


 虎鉄の光が一つに収束していく。


 その光は暖かく、全てを優しく包み込んでいった。


「桔梗さん……?」


 身体の文字列が消えていくのを見て霊稀が顔を上げる。


 上空では黄龍と桔梗が睨み合っていた。


 虎鉄の光は幻想郷中に広がって文字列を一つ残らず消し去り、既に消えた人々を復元していく。


「な……」


「これで終わりにしよう、黄龍」


 桔梗の右腕を失った傷口から光の翼のような物が広がる。


「かかって来い!」


「このプレイヤーデータ風情がぁ!」


 黄龍は剣を大量に召喚しながら桔梗に再び突っ込んだ。


 桔梗もそれを回避しながら黄龍に向かって空を蹴る。


「これが、皆の願いっ! 神剣『幻醒覇斬剣』!」


 桔梗の虎鉄と黄龍の剣がぶつかり合ったその瞬間。


 幻想郷は真っ白な光に包まれていった。


「終わったな」


 一人神社の上空で戦闘の様子を見ていた暗夜天が口元を綻ばせる。


 そして全てが光に溶け合った時…………









PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi


「のわぁ!」


 激しいアラームの音と共に男はベッドから転げ落ちた。


「おーいクソアニキ、迎えが来てるぞ? ってなにやってんのよ」


「えーと……新しい筋トレとか?」






  二章:浮キ世映シノ章

      完








 私立厳想学園


 ここは、あらゆる分野の日本一を集めた学園。


 日本各地から集められた生徒は、学園の周囲をぐるっと囲むように作られた学園都市で学園の完全なサポートの元、日々の生活を送っていた。


 だがそんな学園の裏側が露呈した時、様々な思いが交錯していく。




「学園の機能に不可解な部分がある。電力消費量、サイバーネットワーク、あるはずのない地下室……」



「これこそが私の夢! 私の描いた理想郷!」



 そして、決着は訪れる



「Z.U.Nシステム?」


「黄龍、いや……もうその名で呼ぶ必要はないな」




 次回

  三章:其ノ華桔梗ノ章



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