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episode14『神剣の降誕』

神剣は意志を持つ


その担い手は、神剣が選ぶといわれる


担い手がいつ生まれるかは誰にも予測は出来ない


だが、神剣の担い手が現れた時


悪を断つ強大な力が目覚める




 我々白虎の里には古くから伝わる一振りの剣があった。


 神剣『虎鉄』


 神剣は持ち主を選ぶ高貴な剣、だがそれを狙って度々賊が現れたものだ。


 だがこの日現れた賊はこれまでの比ではなかった。


 黄龍はその圧倒的な力で里を焼き、神剣まであと少しのところまで迫った。


 後がない私たちは最後の賭けに出た。


 それがお前だ。


 生まれながらに紫の毛を持つ白虎は神剣の担い手になるという言い伝え通り、私たちはお前に神剣の力を起動する鍵を託し、里から逃がした。


「…………。」


「思い出したか?」


「……………………。」


 桔梗は頭を押さえたまま動かない。


 記憶がどんどん混同していく。


「焦ることはない。黄龍がどんな手を使って記憶を書き換えたか知らないが、一度消された記憶を取り戻すのは至難の技だ」


 父は桔梗の肩にそっと手を置く。


 もう桔梗にそれを振りほどく気力はない。


「大きくなったな桔梗。父さんは嬉しいぞ」


「…………。」


「さて、そろそろ時間だろう」


 父は振り返って母に合図する。


 母がその手に持っているのは白虎の紋章が刻まれた水晶の付いたペンダントだ。


「これはあなたに託した鍵と同様に、今はまだ眠っている神剣を呼び起こすために必要なものです」


 桔梗の首にかけられたペンダントはほのかに光を放って揺れる。


「私たちもこれ以上は何も出来ない。だがお前が黄龍に一矢報いてくれることをここから祈っているぞ」


 桔梗を軽く突き飛ばす父。


 桔梗の背後には水汲み場があったはずなのだが、桔梗はそれをすり抜けて落ちていく。


 遠ざかっていく二人の姿。


 徐々に暗転していく視界。


 次に目を覚ました時は……。








「くたばれ白虎の末裔!」


 目を覚ますと目と鼻の先に飛び掛かって来る黄龍。


 何はともあれ攻撃をしのぐのが先決。


「くそっ!」


 意識が戻ったばかりなせいかまだふらついているが、桔梗には攻撃の軌道がしっかりと見えていた。


 攻撃にあわせて身体をよじり紙一重で回避し、カウンターで蹴りをお見舞いする。


「あぶねぇ……また寝てたのか」


 起き上がって周囲を見渡す桔梗。


 どうやら紫が湖の中から出してくれたらしい。


 肝心の紫はやられたのか、近くに転がっていた。


「ありがとな紫、おかげでもう一つ切り札が揃ったぜ」


 さっきかけてくれたペンダントはちゃんと胸元に輝いている。


「さて、反撃といくか……」


 能力をもう一度解放する桔梗。


 ここに第二ラウンドが開幕する。


 さっきの戦闘での反省から、こんどは真正面からの単調な攻撃をやめてスペルカードを取り出した。


 これは幻想郷に戻った際に紫に半ば強引に作らされた物のうちの一枚だ。


 が、この場面なら有効に使えるだろう。


「スペルカードか」


「まあな、使えるならなんでも使うさ。驚技『真衛影貌士』!」


 スペルカードの発動と同時に桔梗の影が伸びてもう一人桔梗が現れる。


「正面からがダメなら」


「こうするまで!」


 二人は拳を軽く突き合わせて黄龍に向かって突っ込んだ。








「ほら、これで治ったはずだよ」


 チルノは横たわる穂乃香から手を離した。


 まだ青ざめた顔をしてはいるが、どこか楽になったような表情をしている。


「助かったわ、竹林の医者に見せようにも外をこの状態で運ぶわけにはいかなかったから」


 レミリアは椅子から立ち上がって穂乃香の髪をかきあげて微笑んだ。


「ところで、どこでここまでの治療魔術を? パチェも舌を巻いてたよ」


「いや、からっきし?」


「え?」


「全部この剣があたいにくれた力さ、あたいには何の力もない。それこそ何かを凍らせる程度だよ」


 手の上で素早く氷を作って笑うチルノ。


「その剣は一体どこで?」


「ああ、拾った」


「拾った……?」


「昔ここに来た頃、湖畔に突き刺さってたんだ」


「突き刺さってたって? 冗談じゃない、それはそこらに落ちているようなものじゃないはずよ」


 カリバーンは聖剣との呼び声もある名剣、一体誰が捨てた物なのか。


 それともう一つ、レミリアには気になることがあった。


 さっきから感じていたことではあったが、カリバーンを持った時からチルノの周りに何かがいるような気がしているのだ。


 目には見えないが、何か強力な力の源のような物を感じる。


「……リア……レミリア!」


「え?」


 チルノに呼ばれて思案から離れるレミリア。


「これで心配事は無くなったわけだし、あたい達も早く戦闘に加勢しに行こう」


「え、ええ……」


 頷きつつも、レミリアはもう一度穂乃香を気にする。


 フランと美鈴、パチュリーを置いて行けばここは大丈夫だろうが、少し心配なのはフランだ。


 ここは行かない方がいいのではないか。


 そんな考えが頭を過ぎったその時だった。


「いって……ください……おじょうさま……」


 服の裾を穂乃香が軽く引っ張っているのだ。


「ホノカ?」


「わたし……は……だいじょうぶです。だからいって……はやく……かいけつしてください……」


「…………。」


 穂乃香は力無く微笑んでいる。


 そんな顔をされては行かないなどとは言えない。


「……わかった、行ってくる。安静にしてなさい」


 帽子を深くかぶって顔を背けるレミリア。


 その様子を見ると、安心したのか穂乃香はまた眠りについた。


「行こう、すぐに終わらせる」


「大丈夫だって、あたい達が組めば誰も敵いっこないさ!」








「食らえ、必殺の!」


 二人に分身した桔梗がそれぞれ右手に妖力を溜めて黄龍に突っ込む。


「「拳技『無頼覇導拳』っ!」」


 桔梗の拳を両手で受け止める黄龍。


 その瞬間、二人の桔梗は爆煙と共に消えた。


「なに!」


 すぐさま煙から飛び出して桔梗の姿を探す黄龍。


 だが、その姿はどこにも見当たらない。


「ここだ!」


 突然の声に振り向く黄龍の右の頬を桔梗の拳が確実に捕らえる。


 黄龍も耐えられずに後ろに後ずさった。


 さらに桔梗の連撃は止まらない。


 解放した妖力が剣となり、黄龍に振り下ろされる。


「調子に乗るな!」


 黄龍も自分の剣を召喚して桔梗の斬撃を受け流し、カウンターをしかけた。


 この動作に思わず桔梗の口元がゆるむ。


 黄龍に確実にダメージが入っており、とうとう余裕が無くなってきた証拠だ。


(このまま押し切れば行ける!)


 剣がぶつかり合うたびに衝撃で周りの地形が変わっていく。


 それでも二人とも一歩も引かずに、ただひたすら剣を打ち合わせる。


(無駄がないな……剣を誰かから習ったことはないが、黄龍の動きは的確だ)


 桔梗の方が剣には慣れているはずなのだがなかなか決めきれない。


「得意の剣に持ち込んでもこのザマか……情けないな桔梗」


「うるせぇ!」


 さらに強く剣を振りかざす桔梗。


 だが黄龍には一歩届かない。


「終わりだ」


 黄龍の剣が桔梗の剣を砕く。


「な……」


 返しの剣が桔梗ののどをかすめていった。


 少しでも避けるタイミングが遅ければ完全に首が飛んでいただろう。


「っく……」


 飛びのいてすぐに折られた剣を修復する桔梗。


 だが、また折られるのは時間の問題だ。


 そもそも黄龍の剣に対して桔梗の剣はただの妖力の塊にすぎない。


 そんな剣で張り合おうというのがそもそも無理な話なのだ。


(やっぱり紫に虎鉄持ってきてもらうべきだったか)


 その時だった。


 爆音と共に二本の光が黄龍に命中する。


「なに!」


 突然の奇襲に慌てる黄龍。


 かなり遠くからの狙撃のようだが、黄龍をよろめかせるには充分な威力だった。


「私の技を盗んだわけだし、まだ撃てるわよね」


「当たり前だぜ! 八卦炉、持ってくれよ……」


 二発目を準備する二人。


 日が上らず、世話をしていた花がほとんど枯れたせいで怒り心頭の風見幽香と通り掛かりの霧雨魔理沙だ。


 遠慮はしない、スペルカードに頼らない本気の一撃。


 二射目は黄龍の放つレーザーに相殺されたが、二人はさらに接近してもう一撃放つ。


「ここで仕留めれば……」


 限界まで接近して放った一撃はついに黄龍に膝を着かせる。


「なんて一撃だよ」


 いきなりの援軍に桔梗も驚くが、これで少し余裕が出来た。


「おい! もういい、離れろ!」


 これ以上追い撃ちをかければ何があるかわからない。


 だが二人が攻撃をやめる気配はなく、次々攻撃を浴びせていく。


「やめろ、さがれ! さがれって言ってるだろ!」


「こっちは大切な花を全部枯らされてるのよ!」


「アリスが変になったのもお前のせいだろ!」


「「これだけやられて引き下がれるかぁ!」」


 弾幕をさらに密にし、さらに黄龍に接近していく二人。


「くそっ……もうどうにでもなりやがれ!」


 桔梗も説得を諦めてもう一度剣を作り出し、二人と一緒に黄龍に駆け寄る。


「愚かな……私は、不愉快だ!」


 その時だった。


 黄龍を中心に、まばゆい光が広がっていく。


「な、なんだ?」


 光に触れた魔理沙の箒が焦げてなくなる。


「幽香、ここは一旦離れるぜ」


 幽香の腕を掴んで強制的に離脱する魔理沙。


 光はあらゆる物を飲み込み、消滅させていく。


「くそっ! 間に合わない!」


 マスタースパークで加速するが、それでも光の方がはやい。


「衛技『飛鳥美人の守り人』!」


 だが光が箒に届く直前、防御結界が光を遮って二人を安全な場所まで逃がす。


 桔梗唯一の防御結界術だ。


「あいつは……」


 光の届かない場所までさがってから、魔理沙は桔梗の姿を探す。


「巻き込まれた?」


「わからない……」


 桔梗は貴重な防御結界を自分ではなく、魔理沙達に対して使った。


 それが意味するところは一つである。


「…………。」


 黙り込む二人。


 だがその時、広がり続けていた光が侵攻を止めて中からさらにまばゆい光が漏れ出した。


「あれ!」


 やがて光は完全に消滅し、その中に立つ二人の男はまた互いに剣を取り出してぶつかり合う。


「あの光を耐えたのか……」


 箒の焦げた先端を見つめる魔理沙。


(やっぱり何も出来ないのか……私は……)








「勝負、あったわね」


 霊夢達は妃弥華を取り囲んで睨みつける。


 霊莉が参戦して妃弥華の鉄壁の守りが破られたおかげで、あっという間に片は付いた。


 妃弥華にも抵抗するほどの気力は残っておらず、うなだれたまま動かない。


「まったく、好き勝手暴れてくれたおかげでこっちは良い迷惑なのよ」


 霊夢は妃弥華の腕を掴んで立たせる。


 こうでもしないとさっきから動く気配がないのだ。


「…………」


 引きずられて立たされる妃弥華。


 だが霊夢は妃弥華の表情を見て、途中で手を離して飛びのく。


「離れて!」


 霊夢の叫び声に集まっていた全員が急いで離れた。


 その直後。


 妃弥華を中心に巨大な爆発が起き、霊緋の夢想天生がそこから崩壊していく。


「くっ……解除!」


 夢想天生を解除する霊緋。


 全員の意識が強制的に現実世界に引き戻される。


「まさか、自爆とはね……」


 頭抱えてため息をつく霊莉。


 妃弥華の本体は夢の中で中身を失ったせいで既に消えかかっている。


「まったく、迷惑なやつ……」


 霊夢は疲れたのか、ゆっくりと地面に座り込む。


「身体も、香澄の身体に戻っちゃってるし……」


(でもこれで異変の一つは片付いた……のかしら?)


「そのはずよ。文やアリスを操っていたのがこいつなら、幻想郷中に広がっていた蒼い眼の痣はもう消えたはず」


「でも、不安要素はまだある」


 霊稀は刀をしまいながら霊緋と霊莉を見た。


 二人ともこの世界には居てはいけない存在。


 妃弥華が幻想郷の時空を歪めたとすれば、その本人がいなくなった今戻すにはどうするのか。


「あなたに心配される筋合いはないよ」


 羽織を直しながら霊緋は肩をコキコキと鳴らす。


「私達は自分の力で戻る手段を探す。なんだ、お前も心配しているのか?」


 霊莉は笑いながら霊夢の額をつついた。


 対する霊夢は珍しくふて腐れたような顔をしている。


「あの時も……心配するなって言って出て行ったくせに……」


「あの時?」


 言ってしまってからしまったと口を噤む霊夢。


 どんなタイミングでこの世界に来たのかはわからないが、霊夢に遺した最期の言葉など今の霊莉にわかるはずはない。


「まあ何かしらあったらしいな。今のは聞かなかったことにするよ」


 ほっと胸を撫で下ろす霊夢。


 未来の出来事を過去の人間が知れば未来が書き変わってしまう。


 それだけは何としても避けなければならない。


「とにかくこっちは片付いたし、あとは黄龍をなんとかすれば……」


 その時、耳をつんざく轟音で神社で戦っていた全員が振り向く。


 湖の方角で光のドームのようなものが膨れ上がり、そのまま消えていった。


「あれは……」


「黄龍だろうな。巫女どもは行って来ればいい」


 どこか疲れた様子の暗夜天が頭を抱えて社へと戻っていく。


「あんたはどうする気?」


「疲れた。力使いすぎた。寒すぎ。寝る」


(…………。)


 その場の空気が凍りつく。


 暗夜天がこういう性格なのだということはわかっていたつもりでも、こういう時頼りないのは困りどころ。


「あんた、黄龍を倒しにに来たんじゃなかったっけ?」


「…………。」


「いいわよ、私達だけで行きましょう」








「あんた……弱くなったな」


 桔梗は剣を担いで黄龍を見据える。


 遠目からも黄龍が肩で息をしているのが見えていた。


「昔は手が届く気配がなかった。俺がいくら戦う意志を見せてもあんたは取り合うそぶりさえ見せなかった」


「…………。」


「だが今はどうだ? 俺の一挙手一投足気にしてたみたいだし、魔砲使いの攻撃で足が止まった」


「だからどうしたぁ!」


 黄龍は一瞬で桔梗に接近し、剣を振り下ろす。


 だが剣はかすりもしない。


 ぎりぎりのところで回避した桔梗は自分の剣の峰で黄龍の手を叩く。


 鈍い音と共に剣を取り落として後ずさる黄龍。


 桔梗は剣を地面に突き立てて壁にし、それを蹴って飛ぶことで黄龍に迫る。


「小癪な!」


 黄龍も飛んで来る桔梗をカウンターで避けながら投げ飛ばした。


 だが今回は桔梗に軍配が上がる。


「何度も同じ手にかかるか!」


 投げ飛ばされた桔梗が消え、反対側から本物の桔梗が黄龍に蹴りを加えた。


「が……」


 こればかりは避けられなかった黄龍がそのまま吹き飛ぶ。


「ぐ……おのれ……」


 すぐに身体を起こす。


 桔梗はその様子を仁王立ちしたまま眺めていた。


 どうやら黄龍は桔梗との戦いと魔理沙、幽香の奇襲で力を使いすぎ、パワーダウンしているようだ。


 今なら桔梗でも苦戦は必至だが倒せない相手ではないだろう。


 だが桔梗はとどめを刺そうとしない。


 じっと黄龍を見つめている。


「なんだ、余裕か?」


「いや? 今の状態のあんたと戦っても面白くないからな。待っているのさ」


「待っているだ?」


「力の回復にどれぐらいかかる? 待ってやるよ」


「調子にのりおって……」


「なんとでも言えばいいさ。これが俺なりのこだわりってやつさ」


「で? 桔梗、あんたの身勝手で幻想郷を危険に晒すわけ?」


 桔梗の足元に紅白の玉が突き刺さる。


 少し古びた陰陽玉。


 これには見覚えがある。


「霊緋……」


「どこにもいないと思ったらこんなところにいたのね。あんた一人でなにやってんのよ」


「何って……はぁ……」


 頭を抱える桔梗。


 こういう言い合いで桔梗が勝った試しはない。


 桔梗の負けだ。


「わかったよ……俺の負けだ」


「わかればよろしい」


 そこへ追いついた霊夢達が合流して霊緋の隣に立つ。


「巫女が……四人……」


 驚愕した黄龍はふらつきながらも無理矢理立ち上がった。


「なぜ……ここに……」


「何故って、ねえ?」


「お前の手下が呼んだんだろう」


 呆れ顔の霊緋と霊莉。


 どうやら黄龍は、虎鉄を抜いた代償である時空の歪みを認識出来ていなかったようだ。


「さて、桔梗の戯れ事はともかくこっちには博麗の巫女が四人戦力に加わった。これならあんたに勝ち目はないでしょ」


 霊緋は腕を組んで黄龍を睨む。


 他の巫女達もそれぞれ思い思いの武器を構えた。


「おっと、ここにいるのは何も巫女だけじゃない。私達だっているんだぜ?」


「あたい達にかかればらくしょーでしょ!」


 いったん引いていた魔理沙が幽香と共に戻って来る。


 更に少し遅れてレミリアとチルノも到着した。


「ありゃりゃ、これで完全に形勢逆転だな黄龍」


「ふん……どれだけ群がろうとも関係はない。私の邪魔をする者は全て叩き潰す!」


 黄龍の隣に椿が立つ。


「椿……」


 椿も含めて黄龍側の勢力の残りは二人。


 二つの勢力が互いに睨み合う。


 その時、木の影からさらに二人飛び出してきた。


「桔梗さん……いえ、ケイさん。これを!」


 霊夢達の少し後ろをついて来ていた椛が桔梗に博麗神社に置き去りにされていた虎鉄を投げた。


 それを受け取った桔梗はきょとんとした様子で椛を見る。


「虎鉄さんから全て聞きました。ケイさんの半身が私達を遠ざけるために慣れない嘘をついた事も、ケイさんがそれに気付いて便乗したことも」


「椛……」


「私、もう怒ってませんから。謝るぐらいなら全力で黄龍を倒してください」


 もう一人、椛と一緒来ていたカンナは桔梗の隣に並んでその肩をぽんぽんと叩いた。


「なんで椿があっち側にいるのかは謎だけど、私も加勢するわ。感謝しなさい?」


「大丈夫なのかお前」


「無論、後方支援しか出来ないわ。でも私だって戦える」


「ありがたい。さっさと黄龍をぶちのめして異変を全部解決してしまおう」


「そうだね、それがいい」


 それはあっという間の出来事だった。


 だから誰も動けなかったし、誰も止められない。


 桔梗の言葉に相づちをうった椿は目にも留まらぬ速さで拳銃を抜いて背後から黄龍を撃った。


「つ、椿?」


「な……な……に……」


 また倒れ込む黄龍。


 椿はそんなことお構いなしに桔梗の方へと歩み寄った。


「長かった。待っていたよ、この時をずっと……虎鉄を深い眠りから覚ますことの出来るこのシチュエーションを!」


「椿……貴様ぁ……」


「悪いね黄龍、でもあなたが悪い。僕に本物の虎鉄を預けたのがそもそもの間違いだ」


 この場にいる皆が椿に注目する。


 椿はそんな雰囲気をものともせずに続けた。


「受け取ってくれ桔梗、これが僕なりの罪滅ぼしだ」


「さっきの話ってのはこれの事か」


「ああ。虎鉄を起こすには色々と必要な物があったんだけど、どうやら既に揃ってるみたいだからね」


 桔梗のペンダントを指差す椿。


「僕一人ではどうしても揃えきれなかった……」


 椿は背中に背負った物を地面に突き立てた。


 幌の中には本物の虎鉄が入っている。


「さあ、早く虎鉄……を……がはっ……」


 突然椿が血を吐き出す。


 その胸には剣が貫通している。


 黄龍が投げた物だ。


「つ……椿!」


 ゆっくりと崩れ落ちる椿。


 桔梗は椿から剣をゆっくり抜いて抱え起こす。


 だが椿は桔梗の腕の中で目を閉じたまま動かない。


「椿……せっかくお前がお膳立てしてくれたんだ。絶対無駄にはしない」


 桔梗が立ち上がると、椛から受け取った虎鉄と椿の遺した虎鉄、桔梗のペンダントが光りだした。


「虎鉄、お前が本当に白虎の一族に伝わる伝説通りの力を持っているなら……俺に力を貸せ!」


 偽物の虎鉄が本物に吸収されると同時に幌が外れ、中から光り輝く剣が現れる。


 桔梗がペンダントをちぎって外すと、それも剣に吸い込まれて消えた。


「目覚めろ、信望と栄華の剣! 今こそ真の力を見せてくれ!」



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