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episode12『時空を越える者』

それは想定外の存在


いるはずのない人物


世界が壊れるその前に、彼女らは何をもたらす







 これまでの東方四神伝


 暗夜天が迫る幻想郷の危機に、再び戻って来た桔梗


 戦いの準備を進める幻想郷



 黄龍の計画が暗夜天、香澄によって露見し、真の敵は黄龍であることが発覚


 だが既に遅かった


 霊夢、紫が黄龍の下にくだった椿の手によって負傷


 太陽を奪われた幻想郷は凍てつき、そして黄龍の計画は最終曲面を迎える


 幻想郷と黄龍


 そして神と妖、混ざり合った桔梗はどちらにつくのか








 赤くなった空、哨戒していた香澄と暗夜天は異変に気付いて見上げる。


「暗夜天、これは!」


「始まった? まさか……」


 幻想郷に住む全員が赤く光る空を見上げた。


 香澄と暗夜天は互いに頷いて博麗神社に戻る。


 その足元では、二人の妖精が腕を組んで空を見上げていた。


「チルノちゃん、これ……」


「大ちゃん」


 チルノは大妖精の肩に手を置いて離れていく。


 目指す先は紅魔館だ。


 門番のいない正門をくぐり、正面の玄関からノックもせずに直接入る。


 その瞬間、チルノの首元に銀のナイフが突き付けられた。


 咲夜のナイフだ。


「さすがに早いね。でも今日は大事な話なんだ、レミリアに会わせてほしい」


「これは失礼、ご案内します」


 咲夜はナイフをしまって頭を下げる。


 同時にチルノも氷の剣をしまった。


 咲夜のナイフが突き付けられる瞬間にチルノも咲夜の心臓に剣を突き付けていたのだ。


 咲夜はチルノを奥のレミリアの自室まで案内した。


「では私はこれで」


 二人の前で礼をして出ていく咲夜。


 チルノは外の景色を眺めるレミリアに歩み寄る。


「久しぶりねチルノ、私たちが幻想郷に来たとき以来かしら」


「そうだね。あたいとあんた、どちらがこの近辺を統治するかって話だった」


「あの時は私が勝った。で、今日の要件は?」


「あの時戦利品として渡した私の剣、あれを返してほしい」


 余裕の態度をしていたレミリアが一瞬表情を曇らせた。


「まさか戦いに行くなんて言い出さないわよね」


「そりゃあたいじゃあの剣があっても何の役にも立たないかもしれない。でも何もしないのは性に合わない」


 腕を組んで考え込むレミリア。


 カンナによって幻想郷にたどり着いたレミリア達は一度、湖周辺を住み処としていた妖精と対峙している。


 最終的にレミリアが辛くも、妖精の代表だったチルノを破って勝利を収め、紅魔館周辺は妖精の脅威がなくなった。


 その際レミリアがチルノ達に要求したのが、紅魔館周辺の安全と妖精達の武装解除だ。


 特にチルノの持っていた剣は、まだスペルカードではなかったグングニルを受け止め、弾き返すほどの力を持っていた。


『カリバーン』


 レミリアの持つ『グングニル』、フランの『レーヴァテイン』と同じく伝説級の武器だ。


 たかだか氷精ごときがなぜこんなものを持っているのかは不明だが、その切れ味はレミリアの左腕をきれいに刎ね飛ばすほどだった。


 チルノに剣を返すということはまた妖精達と戦いになるかもしれない。


 それを危惧しているからこそレミリアは剣を返却出来ないでいた。


「あなたに返せばまた妖精達といざこざが待っている。私はそういう考えなんだけど?」


「それはない、と思ってほしい。あたいはもう紅魔館とは喧嘩したくない。まあ今さら無理な話かもしれないけど」


 じっとレミリアを見据えるチルノ。


 その表情には、もはやバカをやっていた頃の面影はない。


「はぁ、わかった。ついて来て」








「本当にいいのね? レミィ」


 図書館の最深部、パチュリーがレミリアに最後の確認を取る。


 ここはレミリア達が普段から持ち歩くことが出来ない武器を格納するスペース。


 レミリア、フランはここから自由に本物のグングニルとレーヴァテインを手元に呼び出せるが、チルノは渡した際に自らカリバーンを封印している。


 そのため呼び出すには直接触れ、封印を解く必要があった。


「構わないわ。今はそれどころの話じゃないし」


 レミリアの返事頷いたパチュリーはカリバーンの入った封印庫に手を触れる。


 すると封印庫に光が走り、ゆっくりと開いていった。


「久しぶりだね、カリバーン」


 中には凍り付いた蒼い剣が一振り、鎖に繋がれてぶら下がっている。


 チルノが手を触れると氷は砕け散り、同時にチルノの身体も光を放ちだした。


「あなたが決めたことならもう何も言わないけど、この選択が間違いでないことを祈るわ」


 見届けたパチュリーはそのまま自分の書斎に戻って行く。


 そしてまばゆい光の中から出て来たチルノは大きく伸びをする。


「ふぁー、この姿も久しぶりだなぁ!」


「懐かしいわね、その姿」


 光の中から現れたチルノは右肩から伸びる黒いマントを翻してカリバーンを腰に挿す。


 等身はあまり伸びていないが、その佇まいはまさに妖精のトップといった感じだ。


「さあて行こうか。あたいらが組めば、百人力さ」


「?」


「なんかぱっとしない顔してるなぁ。私が協力するってことだよ」


 指をパチンと鳴らして上機嫌のチルノ。


「幻想郷を悪意のある誰かの手に渡すわけにはいかない。それはレミリア、あんたもわかっているはず」


「まあそうね、私もなんとかしたいとは思っている。でも……」


 レミリアが言葉を濁す。


 戦いたいのは山々だが、それには相応の覚悟が必要。


「今はまだダメだ。ちょっと込み入った事情があってね」


 首を傾げるチルノ。


 事情とはもちろん穂乃香だ。


 フランをはじめ、紅魔館の皆は穂乃香のことを気に入っていた。


 今の状況では多分誰も戦わない。


「なんかあるみたいだね。あたいに出来ることはないかい?」


「ないわね。人間の治療なんて専門外でしょ」


「ん? そうでもないけど」


「え?」








「間に合わなかった!」


 暗夜天と香澄はいそいで博麗神社に戻る。


 今神社にいるのは待機していた霊稀、椛、はたてと戦力外の霊夢、カンナ、治療係の彪奈だ。


 二人が駆け付けると、そこにはボロボロの身体で一人妃弥華と妃弥華と椿の相手をしている霊稀の姿があった。


 二人の連携攻撃に苦戦を強いられているようで、椿の銃弾を刀で切りながら妃弥華に近付くも、あと一手が足りない。


 代わりに身体を銃弾がかすめ、また血が吹き出す。


 思わず顔を歪める霊稀。


 香澄と暗夜天はお互いアイコンタクトで確認すると、各々の武器を抜いて霊稀に加勢した。


「香澄さん、暗夜天……」


「霊稀さん、今は前に集中を」


「お前、黄龍はどこだ!」


「チッ、暗夜天か」


 香澄と暗夜天の加勢を見るや不利と判断した椿と妃弥華はいったん後方に下がる。


「椿とか言ったな、ここは我一人でも十分だ。下がって良いぞ?」


「わかりました」


 椿は状況をもう一度確認すると、煙幕を撒き散らして離脱した。


 残るは妃弥華のみ。


「あなた達は何が目的なんですか!」


 腰の短刀を構えなおして香澄が暗夜天と霊稀の前に立つ。


「話すと思うか?」


「香澄さん、あれから情報を引き出すのは無理だ」


「それには同感だ巫女、ここを奪われる前に消すまで!」


 暗夜天は黒い鎌を出現させて振りかざす。


 霊稀からすれば自分の肩の傷を付けた張本人であり、義母である霊緋を殺した憎い相手だが、味方となった今となっては非常に頼もしい。


「いちいちカンに障るやつ……」


 妃弥華は舌打ちして鏡を取り出す。


「我だって本当はこんな手段は好まないがな」


 呪文を詠唱する妃弥華。


 それと同時に空にいくつもの魔法陣のようなものが浮かび上がる。


「操人術『天生』」


 陣の中から現れたのは少し前に各所の診療所から消えた患者達だ。


「あれは!」


 唯一事情を知っている霊稀は顔をしかめて一歩さがる。


「そんな虚仮威し!」


 だが何も知らない暗夜天は鎌の切っ先を妃弥華に向けた。


「全部まとめて……」


「待った!」


「ちょっ……何よ妖怪巫女」


「あれは幻想郷の住人、多分操られてる!」


「…………。あっそ」


「って、まさか……」


「あれごと切り裂く。構ってられない」


 一人で飛び出す暗夜天。


「あなたは!」


 香澄も気付いたらしく暗夜天を追う。


 だが少し遅く、巨大化した暗夜天の鎌は幻想郷の住民ごと妃弥華を切り裂いた。


「やはり、というべきか」


 後ろにさがる妃弥華は鏡を盾にしながら結界を張る。


 だが暗夜天相手に結界は意味がない。


 さすがに妃弥華も察したのか結界を放棄した。


「結界を侵食するタイプの技か」


 一度距離を取る妃弥華。


 その隙に霊稀は暗夜天の胸倉を掴みあげた。


「貴様ぁ! 無関係の人ばかりだったんだぞ!」


「大丈夫だよ。まったく、血の気の多い……」


「霊稀、暗夜天の鎌は望んだ物にだけ刺さるの」


「そういうことだ。ただあれを解放するにはあの鏡を叩き割る必要がある」


「鏡?」


「あいつが持っている鏡が鍵ってこと。さあいくよ」


 突破口が見付かり、一気に攻勢に入る霊稀と暗夜天。


 しかし二人の攻撃は妃弥華には一切当たらない。


 唯一暗夜天だけ妃弥華を直接攻撃出来るがその攻撃もまともに当たらないのだ。


(あれに有効なダメージが通らない……)


 霊稀の顔に焦りの表情が浮かぶ。


(早くあれを撃退しないと、こんなところに黄龍が来たらそれこそ一巻の終わり……)


「あまり時間をかけるのも面倒か」


 妃弥華は手を突き上げてまた呪文を唱える。


 今度は魔法陣が二つ浮かび上がり、中から二人分の影が出て来た。


「この二人は特に強い力を持っている。すぐに終わらせられるだろうな」


 影が晴れ、中から現れたのはアリスと文だ。


 アリスは人形を取り出し、文は翼を広げてすぐに戦闘体勢を取る。


「さあ、終わらせよう」








「……あの占い師には早く引いてほしいところだけど、そううまくはいかないものね」


 まだ満足に動けない霊夢は椛から水を受け取って飲み干す。


「外にはしばらくは出られないわね。霊夢の能力で一応簡単には建物に侵入されたりはしないし」


 無理に動いたせいで霊夢の足には血が滲む。


 彪奈は包帯を取り替えながら残りの医薬品を数える。


 その時、椛の背中にくっついていた上海人形がいきなり椛の元から離れていった。


「あ、あれ」


 椛もいそいでおいかけるが、上海人形は捕まるよりも先に建物の外へと飛び出してしまう。


「待って人形さん!」


 その時、思わず椛は自分の目を疑った。


 外はちょうど妃弥華がアリスと文を呼び出したところだ。


「人形……使い……? 文様まで!」


「さあ、終わらせよう」


 文とアリスは一斉に霊稀、暗夜天、香澄を襲う。


 自律して動ける上海人形だが、主の異変には気付けない。


 アリスの人形達が放った光弾が上海人形を襲う。


 しかしそれは椛が身を呈してかばった。


 とっさに取り出した楯で弾幕を弾き、楯の裏に隠していた短刀で人形の糸を切り裂く。


「一体何が……」


 人形は守ったが、これで完全にアリスの注意を引いてしまった。


 霊稀達の方に向かわせていた人形も椛に向け、単身で突っ込んで来る。


(様子がおかしい……注意して戦わないと)


 椛も短刀を持ち直してまっすぐアリスに立ち向かう。


 だがアリス相手では椛はかなり不利な戦いを強いられる事になる。


 アリスは大量の人形を用いた一対多の戦術を得意とするため、その時点で数的不利は否めない。


「ぐっ……」


 戦いはじめた頃は短刀で人形の糸を切りながら凌いでいたが、次第に劣勢になっていく。


「剣があれば……え? あ……」


 それは一瞬の油断が招いた悲劇だった。


 人形の糸を切る瞬間、椛の腕を上海人形が掴んで止める。


 首を振る上海人形。


 その一瞬でアリスの人形が一撃を叩き込める距離まで詰め寄ってきた。


 気付いた時には遅く。


 二体の人形の大剣が椛の身体を貫いていた。


「かはっ……」


 込み上げてきた血を吐き出す椛。


 急速に遠退く意識の中、必死に立たせようとする上海人形の姿が椛の最期に見た物となった。








「近い……さっき出て行った椛かしら」


 外の音を聞きながら様子を伺う霊夢。


 だが足が治らない以上、戦闘には参加出来ない。


 苛立ちだけが募っていく。


「…………。はぁ、仕方ないかな」


「相変わらず治ってはいないのね。やっぱり人間じゃあ仕方ないか」


 霊夢の様子を見かねたのか、神社の中に入って来た香澄はそっと霊夢の隣にしゃがみ込む。


 戻ってきたのは妃弥華相手では自分では役に立てないと判断したからだ。


「霊夢、そこまで戦いに出たい?」


「当たり前よ……母さんとの約束だから。私が生きている限り幻想郷は誰にも壊させない」


「わかった。霊夢、手を出して」


 きょとんとする霊夢。


 対して香澄は真剣な眼差しを霊夢に向けている。


 わけがわからなかったが、霊夢は言われた通り手を出した。


「少しくすぐったいかも」


 呪文を詠唱する香澄。


 そして短い詠唱が終わると同時に、霊夢の意識が一瞬飛んだ。


「ん……んん……」


 軽いめまいを覚えた霊夢は目頭を押さえて俯く。


 全身が一気に麻痺した感覚が霊夢を襲う。


 やがてなれてきた霊夢は頭を振って顔を上げた。


「あ、あれ……」


 自分の目が信じられず、目をこする霊夢。


 目の前に何故か自分が座り込んでいるのだ。


「なんで……どうなって……」


『あなたの意識を私の身体に憑依させたの』


「うわ、頭の中に声が……」


『またベタな反応ね、まあ無理もないかしら。でもこれで戦いに出れるでしょう?』


 憑依した香澄の身体を見回す霊夢。


 香澄の身体ではあるが、髪が黒くなる等どことなく霊夢の印象が出ている。


 体格が少し違うから慣れが必要だが、その辺りはなんとかなりそうだ。


「…………。」


『ちょ、ちょっとこら!』


 いきなり無言で胸を揉む霊夢。


 そこには自分の物よりも大きく、柔らかな感触があったそうな。


「…………。」


『あー、ちょっと露骨にへこまないで! 戦いに行くんでしょ!』


「おっと、そうだった」


 自分の身体をまさぐって懐から札と陰陽玉を取り出す。


 これがあれば慣れない身体でも戦えるはずだ。


「え、え?」


 何が起きているかイマイチ理解出来ない彪奈とはたてが困惑した表情を見せる中、霊夢はさっさと外に出て行ってしまう。


「今の……一体……」


「突然香澄さんが霊夢っぽい見た目になったけど……」


 お互いに見合わせるはたてと彪奈。


 そんな二人を尻目に霊夢は神社の外で闘う霊稀と暗夜天を見る。


「あの二人が苦戦してる?」


『あの敵には通常の攻撃が当たらないわ。注意して』


 戦いに加勢しようと札を取り出す霊夢。


 だがそんな時だった。


「剣があれば……え? あ……」


 霊夢の後ろ側、縁側の方から声がする。


 覗き込んだ瞬間、霊夢の目の前でアリスの人形が椛に剣を突き立てた。


「かはっ……」


 血を吐き出して崩れ落ちる椛。


「そんな、椛!」


 札を取り出してアリスを取り囲ませる。


「結界で動きさえ封じれば!」


 身動きできないアリスの横を抜けて椛の元に駆け寄る霊夢。


 抱え上げて安否を確認するが、それは見るまでもなかった。


「そんな……嘘でしょ? 目を覚ましてよ!」


 霊夢の腕の中で椛はぐらりともたれ掛かるだけ、既にその目に光はない。


「…………」


『こんなのって……』


「……ギリッ」


 歯を食いしばる霊夢。


 椛を抱える腕が怒りで震える。


「アリス……あんたはぁ!」


 椛をそっと地面によこたえてアリスに向き直る霊夢。


 その意志を表すかのように、結界を構成している何枚かの札が内側を向いて撃ち出される。


 中のアリスも人形を自分の周囲に固めて楯にするが、360°全方位からの攻撃にはさすがに耐えられない。


 すぐにガードが追い付かなくなって全身に攻撃を受ける。


「………っ!」


 足の腱を札に切られて膝をつくアリス。


 端から勝負にはならなかった。


 アリスはもう動かない。


 アリスが戦闘不能になったことを確認した霊夢はいそいで椛に駆け寄った。


 たった一人の家族を目の前で失ったのだ、彪奈が知ってしまったらと思うといたたまれない気持ちになる。


「ごめん、間に合わなくて」


 霊夢は椛を縁側にもたれさせて霊稀と暗夜天に加勢しに走った。


 こちらは文のスピードにかなり苦戦を強いられているらしく、攻撃がかすりもしない暗夜天はかなり苛立っている。


「巫女、なんとかならないのか!」


「出来たら苦労しない!」


 霊稀も剣裁きなら文のスピードに負けないほど早いが、それを当てられなければ話にならない。


『まずは足を止めないと……』


「簡単よ。見てなさい!」


 陰陽玉と札をばらまく霊夢。


 文はそれを回避しながら霊夢に向かって弾幕を打ち返す。


 だがそのために振り返ったのが間違いだった。


「はい、一丁あがり」


 文が振り返った瞬間にさっき回避した札が集まって網を構成、気付いた時には文は霊夢の張った結界の中に捕らえられる。


「香澄? いや、誰だあんた!」


 暗夜天は鎌を振りかざして霊夢の首に突き付けた。


『ちょっと、暗夜天私よ!』


「待った、それは霊夢だ」


 止めたのは霊稀だ。


 鎌を霊夢の首元から離して下ろさせる。


「香澄の妖力の波長の中に霊夢の波長をはっきりと感じる。動けない霊夢の意識を自分の身体に憑依させたんだな」


「そうらしいわ。ありがたいけど、ちょっと動きづらいのが難点ね」


 霊夢は余った札を回収しながら空に浮かぶ妃弥華を見据える。


「さて、あとはあれを始末しないとね」


「ぐ…………博麗の巫女、やはりあの時先に始末してしまうべきだったか」


 鏡を回収して地面に降り立つ妃弥華。


 「そうね、そこは完全にあんたのミスだった」


 一歩前に進み出る霊夢。


 必死に堪えてるようだが、仕草からかなり怒っているのがわかる。


「じゃあそのミスに付け入らせてもらおうかしら!」


 札を展開して妃弥華を睨みつける霊夢。


「く……こうなったら!」


 妃弥華は鏡を頭上に掲げて呪文を唱えた。


「させるか!」


 暗夜天と霊稀が突っ込み、霊夢が札を投げて後ろから援護する。


 が、命中する寸前に全ての攻撃が弾かれた。


「あれは!」









 一方その頃、桔梗は一人で黄龍を止めるべく湖にたどり着いていた。


 湖の底にある神殿への入口は反応しなかったため泳いで中に入る。


「…………」


 先ほどの戦いで使ったナイフを握り締めて奥を目指す桔梗。


 その前を一人の男が立ち塞がった。


「どけよ。お前と争うつもりはない」


「ごめん桔梗、そうもいかなくてね」


 立ち塞がっているのは椿だ。


 拳銃の銃口を桔梗の眉間に向けている。


「本気で俺とやるつもりか? 死ぬぞお前」


「かもね」


「死にたいのか?」


「多分」


「なら他を当たってくれ。俺は黄龍に用がある」


「それはだめだ、僕は君に用がある」


 なかなかどかない椿に苛立つ桔梗。


 椿はさっきから眉一つ動かさない。


「何の用だ? 俺は急いでるんだ」


「僕は君をここで足止めしなければならない。悪いけど……」


 そこで桔梗が先に動く。


 椿が引き金を引くより早く懐に飛び込み、ナイフを首元に突き立てた。


「…………っ!」


「桔梗、一度僕の話を聞いてくれ」


 ナイフを突き刺す手前で寸止めする桔梗。


 椿のもう片方の手に握られた銃が心臓に突き立てられているのだ。


「…………チッ、わかったよ」


 ナイフを離す桔梗。


 同時に椿も銃を下ろして離れた。


「さて話の前に、そろそろ出てきたらどうだい? いるんだろう紫」


「あら気付いてたの」


 空間にスキマを開いて出て来る紫。


「紫……」


「見てたわよ、神社を出て行ったあたりから。彼女に言ったこと、あれがあなたの本心だったなんてね」


「ノーコメントだ」


 紫から顔を背ける桔梗。


 その視線は椿に向けられている。


「やれやれ、君は相変わらず嘘が苦手なようだね」


「何のことだ?」


「いや、なんでもない」


「で?話ってなんだ。命請いなら聞かないからな」


「そうだな椿。命請いをさせるためにお前にここの守りを任せたわけではないんだが?」


 ホール状になった部屋を黄龍の声が響く。


「てめぇ、黄龍!」


「やはり桔梗か、最後のピースが自らやって来てくれるとはな」


「出てきやがれ! 決着をつけてやる」


 ホールには三人以外の気配はない。


 隠れるにはこの部屋は少々狭いため、どこか別の場所にいるのだろう。


「椿、お前は何をしている? 桔梗は始末しろと言ったはずだがな」


「っ……」


「まあいい、私がやろう」


 いきなり桔梗の目の前に何かが降って来てナイフを弾き飛ばす。


「ちぃっ!」


「桔梗!」


 そのまま蹴り飛ばされて部屋の支柱に突っ込む桔梗。


 現れたのは金色の長髪の男だ。


「ふむ、この身体も久しぶりだな」


「げほっ、げほっ」


 吹き飛んだ桔梗に駆け寄る紫。


 ただの蹴りだったが、桔梗はその一撃だけでかなりのダメージを負ってしまった。


「けっ……お前もそこまでして俺を潰しに来たってことは余裕がないんだな、黄龍」


 起き上がって服を払う桔梗。


 出る幕ではないことをさとった紫はその場をそっと離れる。


「桔梗、虎鉄を持ってきたほうがいいかしら?」


「気遣いは感謝するがいらねぇ」


 コートを脱ぎ捨てて指を鳴らす桔梗。


 満身創痍、立っていることが不思議なぐらいの傷だらけの身体があらわになる。


「そんな傷だらけの身体で私に挑むのか?」


「代わりにお前を倒しきるための切り札を手に入れたからな。問題はないさ」


 左半身を引いて構えると同時に桔梗の両腕の痣がぼうっと光りだした。


「ほう、面白い」


 桔梗が支柱に突っ込んだ際入った亀裂が天井まで広がり、そこから天井の一部が剥がれ落ちる。


 それと同時に桔梗は黄龍に突っ込んだ。








「私の専門分野は何も呪術だけじゃない。さあ踊れ!」


 妃弥華への攻撃は周囲に現れた影によって弾かれる。


 それらは何体も数を増やし、妃弥華の周囲を取り囲んでいく。


「召喚術?」


 霊稀は自身の能力で現れた影を見るが、それらの体内に霊力は感じられない。


 考えられる理由は二つ、霊力の波長を隠しているかそもそも霊力を有していないかのどちらかだ。


「面倒ね」


 霊夢は陰陽玉を手元に呼び寄せて様子を伺う。


 この狭い境内にところせましと並ぶ妃弥華の召喚体の数はざっと200前後。


 今の戦力だけ無駄に体力を消費するだけでじゃどうしようもない。


「小さい方の巫女、私が突っ込む」


「突っ込むったってどうするつもりよ」


「一対多なら私が得意とするところだ。後ろから援護してくれればいい」


(なんであんたに命令されなきゃならないのよ……)


 嫌々ながらも霊夢は霊稀と暗夜天の動きに合わせた。


「行け! 我が僕達よ!」


 200人の軍勢が三人に襲い掛かる。


「このっ!」


 影に切り込む霊稀と暗夜天。


 しかし一度は両断された影はぐにゃりと形を変え、再び襲い掛かって来た。


「な……」


 油断した霊稀は影の振り回すこん棒で派手に吹き飛ぶ。


 形は定まっていないが、一撃一撃が非常に強力だ。


「霊稀!」


 結界で敵の攻撃を弾きながら霊稀に駆け寄る霊夢。


 だが敵の攻撃の一部は結界を貫通して霊夢を襲う。


 影の何体かが持つ弓矢だ。


「チッ、面倒な……」


 霊夢は懐からスペルカードを、暗夜天は鎌を取り出して呪文を唱えはじめた。


「境界……」


「瞑符……」


「二重弾幕結界!」

「ラストテスタメント!」


 霊夢の作り出した弾幕の結界と地面から突き出す無数の槍が影を襲う。


 二つの技がぶつかり合い、その間に挟まれた影達は弾幕が着弾した爆音と共に消滅していく。


 吹き上がる爆風。


 その風に乗り、離れていた妃弥華に霊稀が急接近する。


「食らえ! 拳技『無頼滅霊拳』!」


 桔梗と同じ技で妃弥華に飛び掛かる霊稀。


 しかし寸前で二体の影に防がれ、代わりに霊稀が吹き飛ばされた。


「ぐが……」


 神社の柱に激突する霊稀。


「霊稀、何やってるのよ!」


 柱にもたれ掛かり、崩れ落ちる霊稀。


 同時に吊してあった鈴が賽銭箱の上に落ちて穴を空けた。


「あ……」


 一部始終を見ていた霊稀の目が点になる。


 やってしまった、そんな空気が漂いはじめたその時だった。


「誰よ、私の大事な大事な神社兼自宅の庭で断りもなく盛大に宴会を開いてるやつはっ!」


 社の扉が開け放たれる。


 そこにいたのは……

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