episode8『真相の裏側』
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…………こち…………
誰か応と……………………………
…………ら忍天狗…………
……頼むから誰……答しろ!……
「魔理沙は行ったみたいね」
霊夢はワールドブレイカーの残骸を集めつつ神社の中を確認した。
博麗神社は霊夢の結界のおかげでまだ形を保っている。
「よく倒壊しなかったな」
「当たり前、誰が結界張ったと思ってるのよ。あんたのしょぼい結界とは違うの」
桔梗はその一言で黙った。
元から結界なんかの防御技は苦手なのだ。
と同時に霊稀も俯いた。
こちらも結界の扱いが苦手だ。
香澄がいれば防御は完璧だったが、いない者のことを言っても仕方ない。
とにかく今は怪我人の治療が先だ。
パルスィは意識が戻ればまた戦えるが、問題はカンナの傷の方だ。
永遠亭に運ぼうにも時間がかかるし、向こうが受け入れられる状況かもわからない。
そういうことで動かせない弱ったカンナを椛が治療する。
「ケイさん……血が……止まりません!」
必死に傷口を押さえて止血する椛。
だが血が止まる様子はなく、霊夢が広げた新聞の上に赤い水溜まりが出来ていく。
「ごめん……桔梗、役に立てなかった……」
「心配すんな。さっき無線機で天狗の救護班を呼んどいた」
「…………。ダメだよね私、いつも誰かの足を引っ張ってばかりだし」
カンナは腕を目に当てる。
炎の魔法を主体に戦うため四神の他の3人と比べて活躍の場が限られるカンナ。
そのことを本人も気にしているようだ。
「何もやらないよりましだ。まずは傷の回復に専念しろ」
「ごめん……」
それきり彼らの会話は途切れた。
皆黙々と何か作業をしている。
想定よりはるかに軽いダメージとは言え、この時点で既に予想外のことが起きすぎていた。
(カード兵は多分これで最後。なのに今回は暗夜天が現れない……)
以前の異変では真っ先に幻想郷に入り込んできた暗夜天が今のところどこでも確認されていない。
(何か策がある……ということか)
「桔梗さん、私は永遠亭に向かいたいと思います」
「永遠亭?」
「はい。医療品も無限にあるわけではないですし、それに……」
「気になるのか」
「永遠亭は戦える妖怪が少ないです。様子を見てこようかと」
「その必要は、どうやらなさそうよ」
話を聞いていた霊夢は突然空を見上げた。
「さっきからちょくちょく反応はあったけど、どうやら親玉のお出ましみたいね」
「来たのか!」
桔梗達はそれぞれ武器やスペルカードを取り出して身構える。
「以前は結界を破壊せずに大穴を開けてきた。今回はどう出るか……」
次の瞬間、敵の接近を察知した者達が見つめる先で大結界に亀裂が入る。
顔をしかめる霊夢。
やがて亀裂は大きくなり、大きな音を立ててガラスのように粉々に砕けた。
「やりやがった!」
落ちてきたのは三人。
うち一人は食い止めに行った紫、もう一人は暗夜天のはずなのだが。
「なあ霊稀、今俺の目が確かなら三人落ちたように見えたんだが」
「奇遇ですね桔梗さん、私もです」
あと一人、誰かが降ってきた。
(また新手か?)
とりあえず考えるのは後にして桔梗達は紫が墜落したと思わしき辺りへと走った。
落ちた地点からはまだ土煙が上がっている。
「救護班、到着しました!」
ちょうど妖怪の山から救護班として3人の天狗が到着した。
カンナは天狗達に任せれば安心だ。
「中にいる、ここは任せるぞ!」
「紫!」
桔梗は倒れて動けない紫を担いで暗夜天から距離を取った。
気絶しているのか、紫はぴくりとも動かない。
「誰か、紫を頼む」
とりあえず近くにいた椛に紫を預けて桔梗は暗夜天と相対する。
「さてと、久しぶりだな。暗夜天」
「また邪魔をするのか……忌ま忌ましい獣め、消えろ!」
桔梗は虎鉄を、暗夜天は鎌を互いに取り出して睨み合う。
だがそこに一人、ちょうど真ん中に割って入って来る。
「そこまでよ暗夜天。桔梗も、今はそんなことをしている暇はないの」
桔梗には一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
目の前にいる着物を着た青髪の女性。
桔梗と共に暗夜天を時空の彼方に封印し、今も行方不明だったはずの人物。
天翔香澄がそこにいた。
「香澄……なのか?」
虎鉄を下ろす桔梗。
同時に暗夜天も鎌をしまった。
「……まさか暗夜天に操られて!」
「違うの桔梗、私は私の意志で暗夜天の側についた。この異変の真実を皆に伝えるためにね」
「異変の……真実……?」
この場にいただれもが耳を疑う。
暗夜天異変は暗夜天による侵攻、これが原因だとだれもが思っていた。
「何言ってるんだ? 元はと言えば暗夜天が……」
「桔梗、暗夜天は今回の異変に関しては我々の味方です」
「なんで! じゃあ何か? 他に原因があるってのか。どこにある? それに引き替えそいつは前の異変でたくさんの命を奪……」
「確かに!」
桔梗の話を切る香澄。
その目は桔梗が今まで見たことがないほど真剣そのものだ。
「確かに彼女は前の異変でたくさんの命を奪った。でもそれは些細な犠牲よ」
「どこが些細だ! 幻想郷を守ろうと戦った妖怪達が、逃げ遅れた人々が、霊緋だってそいつに!」
「それらは全て『現実には存在しない物』なのよ」
「は?」
「香澄、もういい。私が説明する」
香澄の肩を引き寄せた暗夜天はそのまま香澄の前に出る。
「この一連の私が仕掛けた異変は、裏に……」
「そこまでだ暗夜天」
暗夜天の足元で数発の圧縮空気弾が炸裂した。
誰が撃ったかは明確だ。
ここまで正確な射撃が出来る者は幻想郷に恐らくただ一人。
それも圧縮空気銃となると確実に一人に絞られる
「っ! 椿!」
「桔梗、そいつの話を聞いて何になる?」
「椿! まさかあなたが裏切り者……」
皆が見つめる中、椿はマフラーをたなびかせながら木から降りる。
椿の行動を不審に思った椛と霊稀は紫を担いでさがり、霊夢と勇儀が前に出た。
「…………。」
「椿、お前……」
「敵と手を組むつもり? 桔梗」
「もし仮にそうだとしたら?」
椿は奉神銃黒鋼を桔梗の眉間に突き付ける。
そのままぴくりとも動かない。
「おいおい、獲物の危ない方がこっちを向いてるぞ」
「桔梗、悪いけど黄龍からの命令だ。君達が暗夜天と接触を持とうとした場合君達を……殺さなくてはならない」
「下がりなさいそこの三人!」
椿の明確な意志を確認した時点で霊夢は無数の札を投げる。
椿は後ろに下がりながら桔梗、香澄、暗夜天の三人に銃撃を加えた。
「くっ! マジで撃って来やがった!」
「思った通り、か。あんたの勘には恐れ入ったよ香澄」
「言ってる場合じゃねぇ! あいつの射撃は正確だ。香澄、防御結界は!」
「張ったわ、みんな中へ!」
霊夢が札で牽制しながら全員が香澄の結界に入る。
しかしその頃椿は既に撤退した後だった。
静かになった周辺の空気。
「大丈夫、あの人は引きました」
千里眼で椿を追っていた椛が剣から手を離す。
「行ったのか?」
「私の目で追える範囲からは消えました。木が生い茂っているせいで見にくいですが」
「ひとまず……ってところか」
胸を撫で下ろす霊稀の腕の中ではようやく紫が目を覚ました。
「紫、起きた?」
「霊稀……あ、暗夜天!」
「大丈夫、すぐそこにいるから」
霊稀は紫の身体を起こして暗夜天と香澄の方へ向ける。
「やったわね香澄。かなり効いたわよ」
「ごめんなさい、話してもわかってもらえなかったから……」
「実力行使、あなた少し変わったわね」
「飛ばされた先でいろいろあったから、そりゃね」
「で、椿の件はどうするつもり?」
紫は椛から治療を受けながら桔梗の肩を叩く。
まずは情報を整理する必要がある。
「椿のあの言いようだと黒幕は暗夜天じゃなくて黄龍……」
「まったく、厄介事はあんた達の身内だけにしてよ」
霊夢が巫女服の裾をはたきながらぼやく。
「すまないね、厄介者だらけで」
この場にいた全員が問題をさらに山積みされたような気分になっていた。
特に話の内容がわかっていない勇儀はきょとんとしている。
「これは一度みんなで話すべきだな」
「大問題よまったく」
「そう言うなって紫。戦う相手が変わっただけだ」
「そうは言っても相手は黄龍、神に近い力を持っている……」
「大丈夫だ、黄龍の相手は俺がやる」
桔梗は虎鉄を地面に突き立てて腕を組む。
「ずっとこの時を待っていた、ずっとな……」
そしてあれから、少し時間が過ぎました。
私達は、真の敵を前にしながらそれに気付かず見逃してしまう。
主犯格と思われる黄龍とその腹心だった天凪椿は幻想郷からその霊力反応ごと消えた。
そして残った戦力は私達がその持てる力の8割を破壊してしまった対黄龍の切り札である暗夜天と、過去に黄龍と戦ったことのある天結桔梗。
今のまま戦っても私達並の妖怪では歯が立たないのは火を見るよりも明らか。
忍天狗は常時厳戒態勢でパトロールを繰り返し、人里の人間達も里に戻ることを禁じられた。
もっとも、戻ったところで家など一棟も残っていないのだが。
「文様、お茶を淹れてきましたよ」
「ありがとうございます、ふう……」
文はペンを置くとのびを一つする。
戦いは一度終息した。
今は皆、先の戦いの疲れを癒している。
今回も以前の比ではないが、たくさんの命を失った。
文はそれを独自のレポートでそれを調査しているところだ。
「うぅ……肌寒い」
「黄龍がいなくなってから太陽が昇らなくなりましたからね」
「幽香さん激怒してましたし、そろそろこの状況をなんとかしないとなりません」
正直な話、どんな原理で太陽をなくしたのか想像もつかないのが現状。
暗夜天と紫が調査してはいるが、未だに解決の目処は立ってない。
「どうなるんでしょうね、幻想郷は」
「それはまだわからないですね。黄龍の目論みも不明のままだから、そこさえわかればなんとかなると思いますが」
ろうそくの火が窓からのすき間風に揺れる。
そこにふくろを持った烏天狗が一人入って来た。
「お待たせ。やっぱり食べ物類はダメみたいだったよ」
文に頼まれてお使いに行っていたはたてはふくろから水の入った容器を二人に渡す。
「山頂の方は既に雪が降ってるらしいわ。積もってはないらしいけど」
「太陽が出ないおかげで気温が下がって来てますししかたないでしょう。うぅ、山住みをつらく感じたのは今回が初めてですよ」
「それと今起きてる過去の幻想郷が見える異変だけど、あれも酷くなってきているわ」
暗夜天の襲来が早く対策することは出来なかったが、時空の歪みもまだ未解決なまま。
先日一人の天狗が気付かず入ってしまったらしいがその情報は忍天狗による情報統制のせいで入って来ない。
「はあ、私達にはどうすることも出来ませんし、しばらくは待機ですね」
文の言葉に強く頷く椛とはたて。
その隣では椛にずっとくっついていた上海人形も二人に習っている。
「そういえば彼女に返すの忘れてるな……」
外は真っ暗なままだが、時計の針は夜が明けたことを知らせていた。
「ねぇ」
「何よ」
白い服を着た黒髪の女性は側で寝そべって煎餅を頬張っている巫女をつつく。
「博麗の巫女様ともあろう人がいいの? この異変を放置してて」
「綾音、止めるのは私の仕事、いつ止めるか決めるのも私の仕事よ」
射命丸文の母、射命丸綾音は退屈そうに足をばたつかせて抗議する。
ここのところ目立った妖怪達の謀反も無く、新聞記者の妻兼カメラマンである綾音は暇を持て余していた。
だから今回の異変は絶好の暇つぶしになるはずだったが、博麗の巫女である博麗霊緋はいっこうに動こうとしない。
「じゃあ霊緋、いつやるの?」
「そうね、煎餅を食べ終わってあんたが粘着をやめたらね」
「ぐ……そう来るならこっちにも奥の手があるわよ」
「なによ」
「ありもしない話をでっちあげて新聞の一面を飾ってやる!」
「それ私よりもあんたの夫に迷惑かかるでしょ」
「……確かに」
しまったという風に口をふさぐ綾音。
霊緋はまたひたすら煎餅をかじる作業に戻る。
異変、他の時間軸の幻想郷が干渉してきているおかげで様々な事件が立て続けに起きていることだ。
霊緋が動かないのにはちゃんとした理由があった。
つい一週間前に謎を究明すると息巻いて出て行った紫がまだ帰らないのだ。
このことから霊緋は事態をまったく把握出来てないまま動くのは得策ではないと判断した。
しかし既に紫以外の被害者が出ているのも事実、いつまでも動かないわけにはいかない。
「あんたはどう見てるの? この異変」
「私は既に異変の範疇を超えていると考えてます。はっきり言ってお手上げ」
「…………。やっぱり同じか」
「そりゃあ何年一緒に異変を解決してきたことか考えてもみてください」
「確かに」
もう食べきったとも知らず霊緋の手が煎餅の袋を求めて空を切る。
呆れ顔の綾音はおかわりの煎餅を近くの戸棚から出した。
袋の口を開けて霊緋の手元に置くと、またすぐに貪り始める。
「おいしいの? その煎餅」
「私は義刻堂の熟成醤油煎餅以外を煎餅と認めるつもりはない」
「ふーん」
また静かになってしまった。
霊緋はどちらかと言えば他人と話すのが苦手な方だ。
何かきっかけがあればなと考える綾音だがそうそううまい話はない。
仕方なく霊緋の煎餅を頬張りつつ、この場の空気を変えられるような話題を探す。
(気まずい……霊緋はよく耐えられるわね)
霊緋の煎餅を横取りしてかじりつつ、綾音は話を切り出す機会を伺う。
しばらくの間、この空虚な時間が過ぎていく。
幻想郷に残された時間は
あと5日
一章:再会ト災壊ノ章
完
危機は再び避けられた
その代償として、俺達は時限爆弾のスイッチを押してしまう
幻想郷を一撃で木っ端みじんに、跡形もなく消し去るための爆弾
そして俺達は、幻想郷の存在理由を知ることになる
黄龍の目論みがあらわになり、全てが終わる時が来た
希望にすがる余裕はない
過去と現実の繋がる今、止めるには……
「私達はあの日あなたを捨てたわけじゃない。ああしなければあなたを永遠に失うことになっていた」
「誰よ、私の大事な大事な神社兼自宅の庭で断りもなく盛大に宴会を開いているやつはっ!」
そして今、小さな奇跡が起きようとしていた
「どうした霊夢、そのだらしない姿はなんだ! 私の娘ならしゃきっとしてみせろ!」
「おかあ……さん……?」
次回
二章:浮キ世映シノ章




