7夜目
お題:燃える紳士 制限時間:15分
カップに顔を近づけた彼女が、すん、と鼻をひくつかせる。
「――甘い香り」
「キャラメル・ティーです」
「キャラメル……?」
彼女は確かめるように小さな鼻をカップに近づけた。ふわっと湯気が赤い眼鏡にかかり、一瞬レンズが白く曇る。
「ほんと。キャラメルですね」
口元がほころぶのを見た瞬間、調べてきた甲斐があったぜ! と内心俺はガッツポーズを取った。
ネット注文も考えたが早く彼女に美味しいお茶を飲ませてあげたくて、同僚に紅茶専門店を教えてもらった。一人で行っても何を買っていいのかさっぱりわからないため、彼女に付き合ってもらいいろいろと選んできた。
「紅茶にハマることにしたって……いきなり飛ばすわねえ」
同僚の荻野に呆れられながら、俺は一度に10種類の紅茶を買ってみた。
「あんたと紅茶って組み合わせ、キモイわ」
「お前、失礼にもほどがあるぞ」
「しっかしなんでまた、いきなり紅茶?」
「お茶会ブームなんだ」
途端に、助手席の荻野がブベーッと噴き出した。
「お、お茶会ッ!? ぎゃーははは、あんたがお茶会ッ!!」
「お前なあ」
ひいひい、と一通り笑った後、
「――女だね」
とツッコまれた。
「あ、やっぱバレた?」
「あんたみたいな男が急に紅茶紅茶わめく時点でバレバレだっつの」
「今までいなかったタイプなんだよ」
「へいへい」
「純粋で、大人しくって可憐で」
「ふーん」
「三つ編みで、赤い眼鏡で、あかぎれの手をしてて」
「え、三つ編みって……もしかしてあんた真正ロリ?」
「ばっか。危ない冗談とばすんじゃねえ」
フッ、と俺は口角を上げた。
「悪いが荻野、お前とは真逆のおしとやかな『女の子』という生き物はまだ絶滅しちゃいねえんだよ」
「あんた、協力者によくそんな口が叩けるね」
ぎゅうっと荻野に太腿をつねられ、俺は思わずハンドルを揺らしかけた。
そんなわけで、こうして彼女が喜ぶ顔を見れて俺は大満足だった。
「ミルクと砂糖を入れますか? そのままだと甘くないですから。ミルクティーにすると美味しいお茶なんですよ」
「あ。そうなんですね」
いただきます、と手を伸ばした彼女の反対の手から俺はカップを受け取った。
「入れますよ」
かちゃかちゃと動かす手が強張っていることを悟られていないだろうか。