5夜目
お題:緑の吐息 制限時間:15分
それから、なんとなくだが俺と彼女は数日に一度、同じ場所で少しだけ話をするようになった。
彼女はたぶん、あまり人付き合いが得意ではないのだろう。俺の目を決して見ようとはしなかったし、話すときも耳を澄まさないとよく聞き取れないような声を出した。
服だって地味だ。グレーやブラウン、カーキといった、極力目立たないようなものを好んできているふしがある。
だが、俺にとってはむしろそれらがひどく新鮮に映った。俺の周りの女達は皆気が強くかしましい。服だって普段ジャージだったり動きやすい服装な分、アフターファイブやデートではぶっ飛んだ格好をする同僚だっている。
こういうのを、所謂『守ってあげたい』っていうんだろうなあ。
内心そう思っていることは出さないように気を付けて、俺は他愛もない話を彼女とぽつぽつ話していった。
彼女はその見た目通り、話も穏やかな話題を好んだ。
だから俺は普段の自分を隠して極力物静かで知的な男を演じてみせた。
だが俺は、本来どちらかといえば脳筋な部類に属している。知的といってもあっけなく話題の底が尽きた。
――そうして俺が考えた末に編み出したのは、『夜のお茶会』だった。
二度目のカフェオレを渡した時、
「温かいですね」
と彼女がほっとしたように缶を両手で包んだ姿が印象的だった。
その日の彼女は緑色の飾り気の無いニット帽をかぶっていて、その端から細く柔らかそうなおさげが二本、垂れ下がっていた。
彼女が白い息を吐きながら、あかぎれだらけの指でカフェオレを抱える姿を見た時、
(くっそ、守ってやりてえ……!)
と心から思った。
あかぎれが気になって仕方がなかったので、3度目に会った際にそれとなく尋ねてみた。
途端に、彼女はパッと指を隠すとうつむいて黙り込んでしまった。
以来そのことには触れられずにいる。
臆病で恥ずかしがり屋の女性にホッとしてもらうには、水辺の寒い夜の事だ、お茶が一番だろう。
そう単純に結論づけて、4度目から俺はステンレス製の魔法瓶を持ってくるようになった。
「紅茶は好きですか」
俺の言葉に小さく彼女が頷く。
内心ガッツポーズを取りながら、俺は魔法瓶とカップを二つ、紅茶のティーバックにミルクポーションとスティックシュガーを取り出した。
赤い眼鏡越しに目を丸くした彼女に、
「お茶会をしませんか」
と誘ってみたのが、ナイト・ティーの始まりだ。