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♥♥♥♥♥5

お題:女のパソコン  制限時間:1時間


 弟が寝た頃合いを見計らって、こっそりと父の部屋に忍び込む。


(お父さん、ごめんね)


 自分のパソコンは持っていないものの、授業で使うためインターネットの閲覧はできる。父のノートパソコンを開いて起動させると、検索画面に先生と約束した水族館の名前を打ち込んだ。

 出てきたホームページをわくわくしながら眺める。


 わあ、ラッコの赤ちゃんだって。可愛い!

 あ、イルカのショーだ。お母さんと一緒に見たんだよね……また見れるかな。

 素敵。ガラスの通路から魚が泳ぐのを見る事もできるんだ。覚えていないけど昔からあったのかな。

 

「……えへへ」


 先生と一緒に並んで見ているところを想像しただけでにまにましてしまう。

 明日のデートが待ちきれなくてこっそりネットで予習をしてしまっているなんて、やっぱりわたしは相当浮かれている。


 だって、ちゃんとしたデートって初めてなのだ。


 中学の時告白されて付き合った人はいる。けれど学校帰りに一緒に帰ったり公園に少しだけ寄ったりした程度で、休みの日のわたしは弟の世話や家事に明け暮れていてデートどころではなかった。結局それが相手には不満だったらしく、すぐに別れを切り出されて恋の実感もないまま終わってしまった。


 ふと思いたち、検索で『水族館デート』と入力してみると、予想以上に多くの検索結果が出てきた。


『水族館といえばデートの定番!』


 そんなタイトルのページをいくつかクリックする。


『薄暗いから彼と親密度アップのチャンス! 

 手を握ったり寄り添ったりしやすいよ!』


(あ、あれ? そんなつもりじゃなかったんだけど……)


 家族揃って最後に行った場所だから水族館がいいとお願いしたものの、想像していたよりもデートの定番スポットだったらしい。


(手を握ったり寄り添ったりって……)


 電車の中で指を絡められた時の事や、公園でキスをした夜の事を思い出す。

 先生が実は情熱的な人だって思い知らされた。キスなんて初めてだったのに、大人のやり方を何度も教わって、最後なんて何も考えることができなくなっていた。


(もしかして、明日もあんなキス、するのかな……)


 顔を赤らめながらも思わず唇に手をやり、かさついていないか確認をしてしまった。


「ただいまー」


 玄関扉の音と共に父の声が聞こえたため、わたしは慌ててノートパソコンをパタンと閉じて、部屋を出た。


「おかえりなさーい。お風呂先にする?」


 そうしてお風呂のお湯を足したりご飯を温めたりしているうちに、わたしはパソコンをきちんとシャットダウンしなかった事をすっかり忘れてしまっていた。






「えっと、こっちは朝ごはんで、こっちがお昼用。夕食時間前には帰ってくるから」

「いいっていいって、姉ちゃんゆっくりしてきな」

「留美、今日は隆とのんびり過ごすから、気にせずお友達と楽しんでおいで」

「ありがとう、いってきまーす」


 二食分の作り置きをしていると、どうしても時間がかかってバタバタしてしまう。わたしは急いでシンプルなワンピースに着替えると、家を飛び出した。


 駅と反対方向にしばらく歩き、駐車場のあるファーストフードのお店に入った。

 洗面所の鏡の前で緩くサイドをまとめてひらひらのシュシュで飾り、その上から幅広帽を被りリップを塗る。窓辺の席に戻り薄素材のカーディガンを羽織って眼鏡を外していると、携帯が鳴った。

 黒い車の窓から先生が顔を出しているのが見える。


「――おはよう」


 助手席のドアを開けると、先生がわたしを見上げた。

 今日は学校の時のラガーシャツでもなければ夜の公園のジャージとも違う、ちゃんとした格好をしている。髪もムースかワックスをつけてセットしていて、おまけに少しいい匂いもする。


(……あ、わたしの為にデートっぽい恰好してきてくれたんだ)

 

 そう気付いて、きゅんとする。


 車に乗り込んで、それからは水族館までゆっくりとドライブを楽しんだ。

 昼間の外デートなんて初めてだったから、嬉しくてわたしはずっとにこにこしていた。



 

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