3夜目
お題:熱いコウモリ 制限時間:15分
彼女に出会った次の日の夜もまた公園に向かった。
これは腹回りの肉を落としたいためであって、断じて彼女にまた会えることを期待していたわけではない。
ジョギングをしながら、池周りにあるベンチにちらちらと視線を走らせる。人影を見付けるたびに僅かに緊張しつつも、結局彼女はいなかった。
冷静に考えれば当たり前の話である。彼女は昨夜たまたまあのベンチに座っていただけで、また同じ場所にいるわけがないではないか。
そう自分に言い聞かせつつもがっかりせずにはいられなかった。
そうしてがっかりして初めて、やはり期待していた自分に気付く。
なっさけねえなあ、俺。
中学生かっつーの。
自嘲しつつ、その日は前日より2週多く走った。
だから、2日開けて4日目の夜に彼女を見た時には驚いた。
ジョギング3日目もいないのを見てすっかり諦めていた。
彼女はあの夜と同じベンチで本を開いて読んでいた。ベンチの近くには外灯が立っていて、その光がちょうどベンチにも零れるように配置されている。
赤い眼鏡によく似合う、柔らかそうな三つ編みおさげ。
――いかん。可愛い。
ジョギングを始めたばかりだったのにも関わらず、彼女がいつ席を立つのかが心配で、俺は急いで自動販売機で再び温かなカフェオレを買った。
「こんばんは」
緊張を見せないようにしてそっと声をかけると、彼女がぱっと顔を上げた。
「あ……」
おさげの先がふるりと揺れる。
咳払いをしつつ、
「先日はすみませんでした。急にお渡しして」
と切り出してみる。
「いえ、あの、こちらこそお礼も言えずに……」
「そのー、良かったら今日も間違って買ってしまったんで」
そう言いながらカフェオレの缶をかざす。
「――飲みません?」
彼女はとまどいつつも、再び小さく頷いてくれた。
それから、断りを入れて同じベンチに座り、短く他愛もない話をした。
パタパタとコウモリが飛んでいるのを見て、
「コウモリの中には獲物の血の熱で反応して襲うやつもいるんですよー」
等と、緊張のあまりおよそロマンティックとはかけ離れた雑学を早口で披露してしまったが、そんな話題にも彼女はじっと耳を傾けてくれた。
そうして、俺達は二日目の夜を過ごした。