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♡1

お題:私と神様 制限時間:1時間

「夏休みってさあ、先生も休みなんでしょ? いいなー」


 合コンで教師だとバレると、時折そんな事を言われる。


 教師に生徒と同じような休みなどあるわけがない。


 いつも通り出勤し、普通に仕事をする。二学期にむけての教材を作成し、会議に出席。研修等に出てからのレポート作成。自習解放している教室の当番、補修授業の必要な生徒には特別指導をする。部活の顧問として連日の練習にも顔を出す等、こなすべき仕事は何かとあるため世間一般のイメージからは程遠い。

 ただ、通常時に比べて生徒全員が登校するでもなく、授業を行うでもないため、ゆとりはある。



 ノートパソコンを使い資料作成していたが、そろそろ目と肩が疲れてきた。俺は立ち上がると、職員室に置かれたサーバーから作り置きのコーヒーを注いで外に出た。

 むっと熱気が押し寄せる。

 コーヒーを啜り脇に置くと、スマートフォンを取り出しラインを開いた。


『おはよう

 今日も一日頑張ってね』


 届いていたのは3時間ほど前だ。


『おはよう』


 もうあと一時間も経てば正午ではあったが、とりあえずそう入力する。

 すぐに返事が返ってきた。


『今休憩中?』

『そう』

『夏休みも大変だね』

『いつもよりは楽だよ』

『あのね』


 少しの間。



『ずっと、昨夜の事ばかり考えてる』



「――ッ」


 ダンッ!

 思わず壁を殴ってしまった。


 あー、今傍から見たら、絶対気持ち悪い顔してるわ。俺。


(やっぱ夢じゃねえんだなあ……)



 10も年下の、しかも自分が受け持つクラスの女子生徒と付き合うことになった。



 ――公になると大変な事になるのは、重々承知だ。


 だから、七村留美が俺の生徒だと知ってからの4か月間、俺はなるべく彼女に近付き過ぎないように気を付けていた。

 だが、K市にある藤岡の窯元を訪れた際、彼女が欲しそうにマグカップを手にする姿を見てどうしても買ってやりたくなり、ついプレゼントしてしまった。

「手を繋いでいいですか」

 と礼と共に言われた瞬間、俺は彼女の手をしっかりと握り締めていた。いわゆる、恋人繋ぎというやつだ。

 帰宅した後転げまわって反省し、今度こそ自重せねばと決意したというのに。


(俺はとことん意志薄弱だよな)


「好き」

「ホントはキスしてほしかった」


 その言葉に、彼女を強く抱き締めていた。

 おまけにたどたどしくキスなんてされたものだから、あまりの可愛さについ舞い上がり、自分からもキスをし返していた。反応と、込み上げる相手への愛おしさに、年甲斐もなく我を忘れ、俺は何度も何度もキスをし続け――気付けば、少女相手の範疇をとっくに超えてしまっていた。


 昨夜の自分を殴って、目を覚まさせてやりたい。

 

 相手は16になったばかりの少女だ。刺激が強すぎる。

 健全な関係でいるべきなのが当然なのに、初っ端からとんでもない事をしてしまった。


(好きなら尚更大事にするべきだ)


 そう固く決心し、もう一度スマホを見る。



『幸助さんに会いたい』



 追撃に、再び壁をダンッ!と殴る。


 くっそお、中学生か俺はあああ!

 しっかしいきなりの名前呼び(しかも『さん』付け)と『会いたい』のコンボとか破壊力あり過ぎんだろ!

 可愛い。

 俺の彼女はすげえ可愛い!

 神様、出会わせてくれてありがとう!


 緩む頬を必死で堪えながら、

『俺も』

 と入力していると、カララ、と引き戸が開いた。


「吉備ー、ちょっと今夜付き合ってよ。明後日用の研修資料が間に合わない」


 荻野が顔だけ出して俺を見ながら言った。


「はあ? お前余裕余裕って言ってたじゃねえか」

「それがさあ、昨日家のパソコンおかしくなっちゃって作業できなかったの。

 ね、今夜奢るからさ!」

「あー……」


 手伝うのは嫌じゃない。だが、七村の言葉がおそらく今夜を指しているのだと分かる分、断りの言葉を入れ難かった。


「分かった。今夜中に終わらせるぞ」

「サンキュ」


 確かに恋愛は楽しい。


 だが仕事よりも上かと問われれば、話は別だ。

 他校教員や役員の目にも留まる資料だ。手を抜けない荻野の気持ちはよく分かる。


「そういうのは朝一から言っとけよなあ」

「あ、もしかして今から手伝ってくれんの? ラッキ」

「まあ、別に今急ぎは無いからな」


『今夜は残業――』


 と入力しかけたものの、昼食時に電話をすればいいかと、俺はスマホをしまい、職員室に戻った。

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