【if小ネタ】 もしも吉備北先生が宇宙人にさらわれたら
2013.10.12の活動報告に掲載した、本ルートとは別の吉備北先生のお話
白い光が目に染みる。痛い。
顔をしかめながら起きあがろうとして、俺は胸と両手足が動かないことに気付いた。何かで固定されているらしい。
(……何だ、この状況は)
一瞬にして目が覚め、首を伸ばしながら辺りを伺ってみる。
ぼんやり光る白い壁が俺がいる場所を中心としてドーム状に広がっている。家具らしいものなど何一つない。
全く見覚えの無い景色に、俺は昨夜の最後の記憶を思い出そうとした。
『ロリコンのくせに! ロリコンのくせに!』
――そうだ。七村に引っ叩かれたんだった。
一気に現実を思い出して気が沈む。
あの時、俺は完全に教師という仮面を捨てていた。七村は俺が生徒でなく異性として触れてきたのだと知り、気持ち悪がったのだろう。
結果、嫌われた。
あれから、一人取りこのされた俺はスポーツバイクに乗って夜の道を走った。がむしゃらにペダルを漕ぎ続け、気付けばかなり遠くの山道を走っていた。
ダラダラと流れる汗をそのままに急斜面の坂道を上がっていると、頭上から、ブゥウウウウウンという音が聞こえてきた。まるで虫が何千、何万も集まって一斉に羽を震わせているようだ。不気味さに顔を上げると、銀色に発光する巨大な円盤が俺の真上に近付いていて――。
「何だ!?」
驚いて自転車を止め、手を掲げてそれを見ているうちに、意識が途切れたのだった。
シュウン!
空気が噴き出すような音と共に誰かが部屋に入ってきたのが分かった。必死で首を持ち上げてそちらを見ると、ショッキングピンクの全身タイツを着た人が俺の傍にやってきた。
「ニポンジン! ニポンジン! ヒャッハー! アベログロバチョベベ」
酷く早口で最後の方は何を言っているのかさえ分からない。
ピンクスーツは言葉通り頭のてっぺんからつま先まで全身ピンクのつるんとした生地で覆われ、目元にはハートマークのサングラスのようなものをぺたりが貼られていた。
プシュウン!
もう一人のピンクスーツが現れる。そうして「ニポンジンヒャッハー!」と叫びながらパシャパシャとストロボのような光を放ちながら何かのカードを俺に向けている。
これはあれか、何処かの夫婦漫才みたいなやつらか。
「何だお前ら! 俺をどうするつもりだ!」
「ニポンジン!」
「コニチワ!」
「今は夜じゃねえか! おい、これを離せ!」
俺はガシャガシャと拘束具から逃れようともがいた。
「ニポンジン ダメヨ危ナイ!」
「アバレタラ 死ヌ!」
「はあっ?」
「ハムカウモノ ハ ミナ殺シ ネー!」
「ヒャッハー!」
こいつら、陽気な見た目とは裏腹にとんでもないことを言っていやしないか?
「ダイジョブヨー、イイコシタラ スグカエレルネ」
ヨシヨシというジェスチャーをしてピンクAが言った。
「ワタシタチ『らぶらぶ星』カラ観光ニキタ」
ピンクBが『らぶらぶ』の所でハートマークを作る。
「カラアゲチャン、オイシカタネ」
「オイシカタケド、フェミチキ ノガスキネー」
「シャキリシャキリレタスサンド ハ、ヘブンイレベン ガサイコー!」
そこから、あーだこーだとコンビニ談義が始まった。
「おい、早く本題に入れ!」
待ちくたびれて怒鳴ったら、ぐっと拘束の力が強くなった。
「アラアラ、イイ子シテナイト 死ヌヨ」
くっそ! 何なんだ一体!
猛烈にイライラしている俺の耳元で、
「――アナタ、『らぶ』シテルネ?」
とピンクAが囁いてきた。
バッと首を回して凝視すると、「ウフフ、アタリネー」とキャッキャされた。
「何で――」
「ラブラブ星人、らぶらぶ♡ にビンカンネ」
「らぶらぶ♡ パワーーガ、コノ宇宙船ノ エネルギー ナノネ」
「宇宙船のエネルギー、足リナクナッタノネ」
「ダカラ、ニポンジン、らぶらぶ♡ シテクルネ」
「らぶらぶ♡ イッパイスレバ、ホキュウ デキルネー」
「ばっかや――」
思わず怒鳴りかけたものの、グウッ、と肉がちぎれそうな程締め付けが強くなったので、俺は慌てて口をつぐんだ。
「ト、イウワケデ」
「イマカラらぶらぶ♡ イッパイシテクルネ!」
「待て!俺はたった今フラれたばか――」
「らぶらぶ♡ できないなら死ヌネ」
「頭ニ 操作チップ入ッテルヨ」
「……ぐっ!」
――そんなわけで、俺はこれから七村の家へと向かう事になった。
ふざけんな!!!
ちなみにこの後、
やっすいドラマ並のこっ恥ずかしい台詞と行動のオンパレードに七村気絶。
助け起こそうとしたところにお父さんが帰宅し、誤解を受け崩壊寸前。
それを更に宇宙人達がかき回す!
以上、別世界での吉備北でした。
(引き続き本編をお楽しみください)