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NIGHT TEA  作者: SPICE5
SIDE:B 眼鏡少女
13/39

6夜目

お題:つまらないおっさん 制限時間:30分


 高校入試当日、わたしはまずまずの手応えに満足していた。


「公立なら七村さんはA高にしては? 充分狙えるだけの偏差値はありますよ」


 惜しがる担任の推薦を断り、もとより決めていた桜城高校に第一希望を出していた。

 そこそこの高校に入ろうと決めていたのは、勉強に集中してしまい母代りに家事の類をこなせなくなることを恐れたからだ。

 忙しく働く父の帰宅を、掃除の行き届いた家と温かくて美味しいご飯で迎えてあげたかった。


 試験が終了しぞろぞろと受験生達が教室から出る中、一人の男子がうろうろと机の周りに屈み込み、何かを探しているのが目に入った。床を手を探っているため一見コンタクトレンズを探しているようにも見えるが、彼は眼鏡をかけているため違うものを探しているのだろう。


「どうしたの?」


 傍に寄って彼の探している『それ』を踏んでしまってはいけないので、少し離れた所から声をかけてみた。気になった事は放っておけないクチだ。


「あ……」


 見上げた男の子は予想していた以上に綺麗な子だった。


 うわー、その眼鏡さっさ買い替えなさいよ!

 美少年が台無し!


 そんなわたしの心の絶叫など聞こえるわけは勿論なく、男の子は困った顔で、


「……お守りが無くて」 


 と呟いた。


「お守り?」


 そんな探し方だっけ、今の。


「わたしも一緒に探していい?」

「えっ」

「早くしないと教室出る時間になるよ」


 わたしの言葉に男の子は焦ったようだった。


「あ、えっと、凄く小さな耳かきの先くらいの、こけしなんだけど……」


 言い出しにくそうに切り出しながら、再びそろそろと指先が動く。

 つまりはそれだけちっこいってことか。


「おっけ。急いで見つけよう」


 わたしは頷くとしゃがみ込んだ。



 結果的に、その後すぐにこけしは見つかった。

 少し離れた場所から探し始めたわたしの指先に当たったのだ。


「――ありがとう」


 廊下を一緒に歩きながら、男の子が嬉しそうに微笑んだ。


 うおっ、そこで首をかしげれば詰襟学ランなのが惜しいくらいの美少女っぷり!


 色白で形の良い鼻と唇、それからさらっさらの髪。

 ああ、彼が似合わない古ぼけた眼鏡をかけているのがなんとなく分かった。

 その奥にある長いまつ毛の黒目がちな瞳を隠したいのだ。

 たぶん、彼は自分が女の子っぽい見た目なのを気にしているのだとなんとなく察しがついた。

 これは見た目を褒めない方がいいだろう。


 そんな観察をしつつ、つらつらととりとめのない話をしながら最寄りのバス停まで一緒に帰った。


 話してみれば、彼はかなり話しやすい人物だった。


「こけしをお守りにしているって、かわ――」

 

 かわいい、と言いかけ、なんとなくNGワードな気がして、


「変わってるね」


 とわたしは誤魔化した。


「もともとは『こけしゴム』っていう消しゴムに埋まっていたものなんだ。

 妹が使ってた消しゴムの使い終わったこれを『おまもり』って貸してくれたから」

「へえ」


 言葉から、彼が妹さんと仲が良さそうなのが伝わってきて、わたしは思わず微笑んでしまった。


 しかし、それにしても『こけしゴム』って……。

 

 中年男の企画商品なんだろうなー……、つまらんおやじギャグみたいだ。 

 そう思った途端、ふっ、と一人の男の顔が浮かんだ。


 何となくだが、『彼』はそういうおやじギャグが好きそうだなと思った。


 『ナウいお茶』のインパクトが、いまだに忘れられないわたしである。


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