1夜目
この物語は即興小説トレーニングのお題によってアドリブ進行していきます。
お題:ロシア式の月 制限時間:15分
そこそこ大きな公園のそこそこ長いランニング・ロード。
金曜の夜は一旦帰宅後にスポーツウエアに着替え、この道を10週程回ることにしている。
ハアハアと息を付きながら残り僅かになったペットボトルの水を飲み干す。なかなかに爽快だ。
俺はタオルで汗を拭うとスポーツバイクに掛けていた小さなリュックを引っ張る。盗られても惜しくない程度に使い込んだリュックの中には、俺の楽しみが一式入っている。
少し歩きいつもの場所に出る。
「――こんばんは」
大きな池を前にベンチで音楽を聴いていた女性の傍に寄り、驚かせないように前に回って挨拶をする。あ、という顔をして赤いメガネの彼女は頷き、イヤホンを取りながらベンチの左端側に身体をずらした。
「何を聞いていたんですか」
「映画のサントラです。この間観た作品がちょっと気に入っちゃって」
他愛もない会話をポツポツと続けながら、俺はリュックから一式を取り出す。
魔法瓶とジッパー付きのビニール袋に入れた三角形の紅茶の袋、ウォッカの小瓶、それからイチゴジャム。
「ジャム?」
彼女が眉を上げてしげしげと眺める。
「ええ、今夜はロシアン・ティーです」
魔法瓶の蓋にウォッカを少々注ぎ、イチゴジャムを加えてくるくると混ぜる。魔法瓶に紅茶の袋を落とし、暫くして紐を引き上げる。
「――準備してきました?」
彼女は頷いてマグカップを二つ取り出す。その中にたっぷりのウォッカ入りのジャムを入れ、紅茶を注いで出来上がりだ。
「これが、ろしあんてぃー……」
不思議そうに彼女が呟く。
「かき混ぜてもそのままでもいいですよ」
俺は軽くかき混ぜて口を付ける。
紅茶の表面に光る月が、とても綺麗だ。
赤いジャムは彼女のメガネのフレームを意識した、なんて、言ってみれば何かが変わるのだろうか。