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Lunatic traces(旧)  作者: 十石日色
第三章 空気編
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八話 間に合わないっぽいと急いでても回りにくい

 走り、階段を飛び降りて、先輩の住居に急ぐ。

 すぐ後ろには……あれ? いない?

「……速い」

 これですぐ後ろには撫子ちゃんがついてきている。

 ただしちょっとばかり速すぎたようなのでスピードを落とす。俺の方が速かったらしい。俺のクラス(ヴァングラ)は軽装の前衛の中じゃ遅い部類だからてっきり彼女の方が速いのかと……いや、クラス関係なく強かったなずなが基準になっていたせいか、このくらいついてこれるだろうと勘違いしていたのか。

「……そもそも……先輩の家ってどこ? ……それ以前にどの先輩?」

 あれ? 言ってなかったっけ?

「アキラ先輩!」

 軽くペースを落として、走りながら答える。

「……道、分かる? 教える?」

「こっちだろ?」

 右の道に進もうとする。

「……そっちの道よりこっちの方が近い」

 左の大通りに抜ける道を指す彼女。

 一度止まって返答。

「いや、そっちだと遠回りになるだろ?」

「……急がば回れ」

 そう言うと彼女は指し示した方に走り始めた。

「……ああもう!」

 そんな彼女の背を追って左の道に走り始める。






「マジですか……?」

 住宅街から少し外れた場所。

 人通りは少なく、というか皆無で閑散としている。

 空き家が建ち並ぶ地域。

 そんな知っている道に出て来た。

 場所的に五分短縮。

「……マジです」

 その道を教えてくれたのは彼女。

「……小道があるなんて知らなかったぞ」

 よくあるご都合主義のようだ。

「……何回か来たことあるから」

 だからショートカットの仕方を知っていたと? いやいや、場所とか道とかは知っていてもそんなもの知らないだろ。

「……小さな趣味、散歩」

 絵を描くことじゃなかったのかよ! いやもう絵は仕事なのか?

「……絵を描くのに絶好のスポットとか探してた」

 なるほど。たしかにそういうのならおかしくもないのか。

 走りながらも適当な会話を続ける。息が上がるくらい全力で走れよと思うも、残念ながら機動力(MOB)の都合上これくらいが限界のようだ。

「……見えてきた」

 告げられる言葉。

 先輩の家はもう百歩くらいの距離。

 臨戦態勢に入る俺。

 隣の彼女も…………あれ?

 微妙に警戒はしているんだけど何か様子がおかしい。

 そわそわ。

 なんだろう? 適切なな弾丸を入れたいのに入れ損ねている感じ?



「……そろそろ相手が誰なのか教えてほしい」



 ………………ホントだよ!

 俺言ってないじゃん! アホか!

「邪教の誰か……じゃないかって推測してる」

「……曖昧」

 ですよね。俺も最悪の可能性に対応してただけだもの。



「……でももしそうなら無駄足だったかも」



 急に何事か言い出す撫子ちゃん。

「え?」

 その真意を聞きたいと思い彼女の顔を覗き込む。

「……ッ!」

 その顔は瞬時に警戒と緊張と驚愕に覆われ、目は見開かれている。

「何?」

 彼女の目線の先を見る。



 血を流し横たわる少年たちの姿がそこにあった。



「おい! 大丈夫か?」

 話しかける。

 夜で暗くよく見えないが、触れた感じ生暖かい液体の感触。

 間違いなく彼らは流血し、力無く倒れ伏している。これが現実だ。

 これで風呂を覗いた結果、被害者(せんぱい)にフルボッコにされたとかなら全力で笑ってやりたいのだが、生憎この展開でそれだとどうしたものか分からなくなる。

 ひとまず回復を。ポーションを実体化。使用。

「痛ッ!」

 染みるだけのようで、回復はしない。

「……これ」

 スッと差し出される手。撫子ちゃんが消毒液、包帯などの治療用の道具をこちらに渡している。

「……応急処置。……重傷は私が……無駄足じゃなかった……」

 そういうと俺にそれらを押しつけ、また新しいそれらを実体化。自ら治療に入る。

「待て! これってどういう「口を動かすなら手も動かして。……軽傷の人を治療しながら状況の把握」はい……」

 言われた通り傷口の治療を開始。……あれ?

「撫子ちゃん、重傷者の治療なんて出来るの?」

「……時間稼ぎ。……医者は貴方がポーション使ってる時に呼んでる」

「お、おう」

 手際良いな……あれ? ひょっとして仲間内で俺が一番足手纏い? いや、違うと信じたい。

 違うと信じたいので最低限師事されたことくらいはしておこう。

「何があった?」

 傷が浅そうな男子に聞く。こいつは……前に先輩に救われてファンになった奴か。

「……すまん。護れなかった」

 無念そうに呟く。

「だから、何があった?」

 再度尋ねる。すると彼は自分の無力さを呪うかの如き心の底から湧き出すような声で

「邪教の輩と交戦。相手は二人でこちらは十五名。応援も呼んでいた。だから戦闘用アビリティでのダメージが無効化されても取り押さえられると思っていたんだ。向こうも同じはずだし……と。だが、奴が持ってたナイフによってつけられた傷は治らず、恐怖に負けた一部は散って、残った俺たちもこのざまだ」

 ソウルイーターか? いや、こいつらに聞いても細かくは分からないか。

「先輩は?」

 包帯巻きながら問いかける。

「挑発スキル使って囮になって走っていった。……俺たちは足手纏いになっただけだ。笑ってくれよ。先輩が去って、追って行った奴らが消えた後、そいつらとは違う新しく追加(さんにんめ)来て止めを刺されかけたのに、なぜか来た|さらに参上した新しい邪教のよにんめに救われる始末だぞ」

 は?

「……つまり」

 なぜか俺より先に応急処置済ませてこちらに向かってきた撫子ちゃんが言う。

 軽傷者の視線が集中して一瞬ビクッとしたが気を取り直し、

「……つまり相手は邪教。……凶器はソウルイーター。……プレイヤータウンの守護を通り抜けてきたんだから確実。……相手は四名。……うち好戦的三名。……庇った人、何か言ってた?」

 問いかける。

「『殺す価値もないだろう? 無駄に血で汚すな、武器が泣く』だとさ。……ちくしょうッ……」

 目を伏せる。情けないと思っているのだろう。……その感覚、慣れるなよ? 開き直るまでいくと俺みたいになるぞ。

「……他の相手は?」

「ただ笑ってた。笑いながら、嘲笑いながら『お前らの不死は通用しない』って。それで俺たちを……」

 ガタガタと震え出す。

 今は不死に近い状態に慣れていた。それが無効化されたのだ。

 数年前まで死ぬなんて考えもしない生活。今は死んでも復活出来る状態。精神が死に臨む戦士のそれになる人間がどれほどいるだろう?


 必要な情報が揃ったらしい。

「……ありがと。……もうすぐお医者さんが来るから」

 そう言って背を向ける彼女。

「待て! 俺だってまだ戦える! 盾にくらいなれる!」

 その根性、見習いたい。

「……無茶は駄目。……情報だけでもありがたいよ……私たちに任せて」

「でも!」

「……まだ心が折れてないなら……今度お願い。……手が足りないかも知れないから」

 優しく言い聞かせる。

「……分かった。時間を取ってすまない……」

「……ううん」

 ふるふる。


 悔しそうな少年。


 決意の表情撫子ちゃん。


 置いてけぼりの俺。


 俺以上に空気な他の面々。


 様々な様相を見せつつ事態は次の展開へ。



「……で、どこに行けば?」



 行こうと思うので教えてくれ。疑問。ここが戦場じゃないなら、行けば良いのはどこだよ?

「……簡単。……考えれば良い。……攻撃が利かない……どうする?」

 え~と。

「利く条件にしようとする?」

「……そう。……今回だとどうする?」

「プレイヤータウンから出る?」

「……私なら援軍が駆けつけやすい地点を選ぶ。……相手も余計な犠牲者を出してない。……犠牲者を出さないようにしてる? ……逃げた親衛隊員(かれら)を見逃してる。……目立つのは可? ……今回の邪教のルール? ……多分『標的と戦士以外は傷付けない』。……過去に何度かあったそこそこ多用されるルール」

 断片的に言ってくる。声が小さい。こちらが聞き入るほど、見つめるほど顔を赤くして目を反らし、声が小さくなっていくので聞き取りにくく、聞き取るためにより近くなり照れて小さくなる悪循環。

「つまり?」

 とりあえず聞き取れた範囲で推測をすると……?

「……ここから近いところに戦闘が出来る場所がある。……人通りもこの時間なら少ないから余計な犠牲も多分出ない。……ここから外に続く道の途中にあるし」

 それを聞いて思いつく。

 そこはアビリティで負傷する場所。プレイヤータウンの例外。

 今日、どこから(・・・・)帰る時、任務(そと)から(ここ)に向かう先輩に出会ったんだったっけ?




「闘技場か!」

 余談ですが、作者はショートカットしようとして近所の山で迷ったことがあります。

 ……結果、自然に出来ていた落とし穴にはまること二回。

 夕方近くになってやっと目的地に辿り着くことが出来ました。

 山の神様すみません。

 急いでても気を付けましょう。……夜だったら足場とか本気で危なかったですし。

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