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Lunatic traces(旧)  作者: 十石日色
第三章 空気編
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四話 空気の読み方

 ガチャリ。

 破滅への音は案外陳腐で、微妙で、ありふれた日常の一幕に含まれていたらしい。

 端から二番目の部屋。ありふれた部屋の玄関の扉が、地獄に続く重厚な門に思えた。

 あれ? 俺色々と仕舞い忘れてたりしないよね? いや、ここ最近ゴミ捨ててないな。て、あれ? どうやって回収してるんだろ。この世界収集車ないよね?

 どうでも良いことに思考を巡らせる。何だろうな、これ。頭の中の辞書では『現実逃避』って出たけど。

 不安になる。不安になるが、気にしない。というか気にしていられない。

 心臓の高鳴るは作戦の直前のよう。でも攻め込まれるのはこちら側。しかも奇襲。応戦準備など出来ていようはずもない。

「そう言えば初めてでしたね、ここに来るのは」

 まるでここに入るのが当然の如く、自然な立ち居振る舞いでドアを開ける。

 おお、神よ。何とかなりませんかね? ……いや、この世界の神って、たしか基本スタンス『人のことは人でやれ。基本鑑賞しても干渉しないから』だったはず。じゃあこの有様も愛でるのですか、そうですか。

 そしてなずなが玄関を開けて中を見る。



「あれ? 思っていたよりも片付いてますね?」



 なん……ですと?

 ふとこの時着信が。

 見ると、

「……鈴木?」

 ルームシェアの相手であり、『俺の物語ではあまり冒険を共にしたりしないため微妙に扱いが空気』こと鈴木長久からだ。

 内容は



『帰った直後になんか桜井からメール来て、泊まっても良いかって話だったから手ぇ打っといた。とりあえず散らかってたから急いで片しといたけど、不備があっても怒んなよ。一応俺の部屋に入れなきゃ大丈夫なはずだ』



 鈴木ぃいいいいい!

 ありがとう。ほんと、ありがとう。

 これからは親愛と敬意を込めて長久、もしくは長久様と呼ぼう。

 そんなことを考えた時あることに気付く。

 ……あれ? メールに続きがある?



『PS:とりあえず三時間ほど外に出てる。晩飯は良い。外で食ってくる』



 貴様は何に気遣ってるんだぁあああ!

 あ、やばい。色々と思い出してきましたよ? 抑えろ俺。貴様の出番はないはずだ煩悩……っ!

 そんな俺の様子には無関心でなずなは部屋を見回している。

 わんわんおは現在預かり所にて待機中。テイマー限定の能力として『呼び出し』(一瞬でテイムモンスターを目の前に転移させる能力(アビリティ)。俺は、一回これでドラゴン三頭来て瞬殺された)があるので預かり所に預けても大丈夫らしい。ちなみに一瞬で預かり所に転送するアビリティもある。

 そんな訳で無防備だね。……だから出てくるな煩悩!

「えっと……」

 キョロキョロと家の中(とはいってもマンションの一部屋だが)を見回すなずな。

 何をしているんだ? そう思った瞬間、長久の部屋の扉に手をかける!

「ちょっと待とうか。そこは長久の部屋だぜ?」

 ガシッと彼女の手を掴んで止める。ドアノブは、下げさせない。

「そうでしたか……いや、貴方の目があの部屋にばかり向いていたもので」

 ガチャッガチャッガチャッガチャッ。攻防は続く。本来なら力では圧倒的に俺の有利。しかし呼吸の隙などを見計らい力が弱まった時に仕掛けてくる。

「……長久の部屋だから入らないように、って注意しようと思ってたんだよ」

「そうですか。いや、いけませんね。何となく掃除しなきゃならない物がある気がして」

 ……その手の本とかか。

「でも片付いて見えますし、今は掃除の必要性はないみたいですね」

「そうだよ」



「あ、埃が」



 ていやぁああああ!

「……別に掃除するとは言っていないんですが、何でその部屋のドアノブを下げられないように力を入れ始めたんですか?」

 ひっかけか。

 ひっかかった。

「まったくもう。貴方は汚れてるんですから動き回ると掃除の必要性が上がりますよ。それだけ動けるなら一人でお風呂大丈夫ですよね? シャワーで良いので早く汚れ落としてきて下さい」

「……開けない?」

「開けませんよ、この部屋のドアノブにさえ触れないと誓いましょう」

「信じるよ? 信じちゃうよ?」

「はいはい。信じちゃって大丈夫ですから」

 同年代のはずなんだけど軽くあしらわれてるなぁ。対人経験値の差だろうか。

 まあ良いや。風呂行こう。

「あ、メール来ましたね。……暫くは待機。じゃあご飯でも作っておきましょう」

 俺が風呂場に向かう時、彼女に連絡が来たらしい。

 ……待機か。

 何事もなければ良い、という平和への願い。

 出番よ来い、という光に当たりたいという野望。

 二律背反。

 思考してもどちらが良いか分からない。もうどうにでもな~れ♪


 それはさておき。

「材料ないんじゃないか?」

 たしか昨日殆ど使い切った。

「あ、そうなんですか。でも最悪の場合でも通販使えば何とかなるんじゃないですかね? ……あれ?」

 冷蔵庫(『水』魔石機構)を覗き込んで首を傾げるなずな。

「どうかしたのか?」

「いや、もの凄く入ってますね」

 一応向こうの世界のと同じように、ここの世界のそれも野菜室とかで幾つかに分かれているのだが、全部そこそこ入っているらしい。なずなはそれを次々と見ていく。

「野菜だと大根、玉葱、人参……里芋、モロヘイヤ」

 なんかウィンドウ開いて操作し始めた。

「海鮮も多いですね……これは一般に流通しているのとは違いますから分かりにくいですけど、巨大蟹の一部ですよね。他も海老やら鯰やら鰻やら色々とあります……とりあえず鰻重にでもしますかね?」

 なぜ入っている? いや、ちょっと待てよ?

 すぐに長久にメールを出す。



『ああ、ちょっと海に行って来たからついでで買ってきただけだぜ? 野菜は近くの八百屋で。ああ、勝手に使っても良いぞ。一応桜井から確認のメールは来たしな』



 あの操作は食材の確認じゃなかったのか。

 そんなことを考える俺。

「あれ? まだいたんですか? 早くお風呂入ってきて下さい」

 汚れた体を持てあます俺に一言。

 うん。行ってきます。

 部屋から下着や寝間着代わりのシャツと半ズボンを持って風呂場に向かう。

 多分鈴木長久は初めて話したはずですね。それは良かったんですが、教団関連で主人公が本筋に絡めないため、ある程度絡んじゃっている長久の出番が少なくなっていたというだけでもあります。


 ……ちなみに本作は名前は遥佳や明良、陽炎などの一部例外を除けば、大抵植物由来です。

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