三話 帰り道で合ってた
先輩と離れて少し
「えっと……何してんの?」
なずなが急に『通信』で何やらやり始めた。
「あ、すみません。ちょっと良いですか? ……榊アキラ、いや遥佳先輩についての話なんですけど」
「あの、なずな?」
「先輩に付き纏っている……じゃなくて防衛している人たちのことなんですが……」
あいつら? いや、基本あいつら変態だけど実害出す奴らじゃないぞ? 親衛隊だの騎士だの名乗ってるただの善良な不審者だ。
「……はい。分かりました。え? いや、大丈夫……ありがとうございます。では」
ピッと通話を終える。今度はメールか。手は絶えず操作をしながら彼女はこちらに向き直る。
「で、何?」
尋ねる俺。置いてけぼりはやめてほしい。
「はい。実際に彼女の反応がおかしかったことに気が付いていますよね?」
「……はい?」
「……」
「……」
「え、本気で言ってます?」
本気で言ってますが何か?
そんな視線を向けていたら理解したらしい。
「え、と……いくらなんでもあの状況で気付かれないなんてことがある訳ないでしょう?」
「え?」
「え?」
「……」
「……すみません」
「……いや、謝らないでくれ」
そんなことがありえる俺が悪いんだ。
「……こほん。簡単に言えば、『いつもの面子とは異なる誰か』がアキラ先輩のことを尾行していた、と考えています」
「……何を言ってるんだ?」
「……彼女は元々探索系の能力が高い人ですから、あそこまで接近しておきながら気付かない時点でおかしいんです。それで、その理由を考えて『他の身近ではない誰か』が彼女を尾行していた場合、その存在に感づいちゃった先輩がその相手を特定しようとして、とりあえず気配に馴染みのある面子は除外して一旦意識の外へやっていたんじゃないかと」
「考え過ぎじゃない? 単に俺のキャラが薄いからじゃね?」
「そんなこといつまでも言ってると人としての厚みまで薄くなりますよ?」
……これ以上薄くなると? マジで?
「努力しているのは分かっていますから、そんな風に過剰なほど卑屈にならないようにお願いします」
フォローですかね?
なずなはこほんと咳を一つ。話を戻す。
「実際、私に対する反応も遅れていましたから、貴方だけじゃないですよ」
「……ああ、そう言えば」
本来なら各種探索系アビリティが充実している彼女となずなが同時に気付くのもおかしいか。
いや。
「他のことに気を取られていた可能性は? 別の、ストーカーのこと以外で」
こっちの方があるんじゃないか。あの人戦闘時でもなければ思考始めると没頭するじゃん。
「その可能性もあったんですが……あの時『鑑定』で少し周りを見たらおかしな点がありまして」
「? そんなのあったか?」
そんなもの感じなかったぞ?
「武哉君は疲れていますから反応が悪いんですよ」
……まあ俺もなずなより『索敵』『警戒』高いけど気付いたのは後だしなぁ。そういうことなんだろう。いや、待てよ。
「いや、でも先輩も疲れてただけって可能性も……ていうかそう言ってたじゃん」
「あの場で指摘してその追跡者に聞かれたら、下手したらこちらが全滅ですよ?」
ちょっと待て。俺らだけじゃなくあいつらも含めてか? あいつらもあんなのだけど相当強いぞ。
「そんな相手か。用心しなくちゃな」
「多分それくらい思っていた方が良いです。念も入れておくべきですね」
「分かった」
ポーションはたしか20本も残ってないな。短期決戦に持ち込んだ方が良いか?
迫る活躍の場。満身創痍でもやれるだけやってみせる!
「さて、じゃあ帰りますよ」
「あれ!?」
ちょっと!?
「? どうかしましたか?」
「いや、どうかしてるよ。先輩どうすんだよ!」
心配じゃないのかよ!
「今の私たちの戦力でどうにかなりそうにないようでしたから。それにもう手は打っていますよ?」
そう言いながらメール画面をもう一度開いて履歴を見せる。
『以下の文章を回して下さい。
緊急!
みんなの女神こと榊遥佳嬢に魔の手が迫っている。
諸君らとは異なる存在が尾行しており、その能力は護衛している同志でさえ気付けぬほど。
辛うじて遥佳嬢が気付いているが、我らとは異なる存在に困惑するばかりだ。
同志諸君は彼女を困らせる彼の者を許容出来るか?
私は出来ない。
急いで聖戦の準備を!
勇敢なる騎士達よ。急いで彼女の下へと馳せ参じるのだ!』
「何やってんの!?」
「緊急で女神云々の彼らにメールを回しました」
「ほんと、何やってんだよ……ていうか何であいつらと普通にコンタクト取れるんだよ」
「うちの部長があれのまとめ役なので」
「マジか……」
「マジです。私の持つ情報の実に八割が彼らによって得た情報ですから」
「どんだけ広いんだあいつらの情報網……」
「少なくとも先輩のお兄さん……明良さんの方の仇は足跡が掴めるくらいですかね」
「……すごいな」
まあ、あの気配遮断のレベルだけでも十分すごい奴らなんだけど……それ以外にも才能を発揮してるよ。何だよあいつら。愛か何かで限界でも突破してんのか?
送られたはずの文章を見直す。
「これに対してあいつらどんな反応するんだろうな?」
「軽く限界突破くらいはするでしょうね。元々彼女が人助けを頑張ってたので印象はかなり良いですし」
そこまで言うと一度区切り、
「……ところで彼らの、ではなく貴方の反応おかしくありませんか? 例えば、何でさっき言ってた内容の『仇』って言葉に反応しないのか、とか。明良さん死んだって言いましたっけ?」
不意打ち!?
「いや、そんな。えと、あれだ」
一瞬、思い出す。
夜闇とか、
意外と見える光景とか、
散らかっていく赤とか、
柔らかな温もりとか、
安らかな吐息とか
あの夜のことを思い出して動揺する俺。
やばい、あれ起きてたってこと知られたら今度こそ狼さんか? ちょうど今ここにいるし。
「どれです?」
追求の手は弛まない。
「えっと……そうだ!」
他の人から聞いた……確実に確かめられる。じゃあどうすれば……
「あ、もう良いです」
「いや、言い訳くらいさせて!」
「いや、元々私言ってたじゃないですか。柏木さんの話の時に、彼が明良さんの死体でも見てなきゃああはならない的なことを」
「はい?」
え? どゆこと?
「まあ、そんな訳でその時のことを言ってしまえば良かったんですが……なぜそんなに焦ってそれが思い浮かばなかったんですか? 理由でもあるんですか? 例えばもっと印象に残る何かがあったとか」
はったりかよ!
いや、問題はそっちじゃない。感づいてやがる。くそう、あの朝は誤魔化せたのに。
「私にも心当たりがあるんですよ……一つだけ」
にっこり。
ここまで怖い笑顔は転生前も含めて初めてかも知れない。あれ? おかしいな。手足が疲労以外でも震えているよ?
「あの時、さっきまで穏やかに寝息立ててた人が一瞬黙り込んでるんですよ。なぜでしょう?」
仕方ないじゃん重い話だったんだから!
ていうかはったりじゃなかった。ばれてたのか。やばい。
そんな俺は放置で、にっこり顔のまま、彼女はまた前を向いて歩き出した。……あれ?
「そっちはお前の家じゃないだろ?」
彼女の家は右の道。でも彼女の向かう先は左。
「ああ、今日は貴方の家に泊まらせてもらいます」
「え、ちょ、何で!?」
「貴方たちの家の方が先輩の家に近いですしね」
そんな理由? どうゆう……
あ、そうか。さっき彼女は発言で『今の私たち』を強調していたな。つまり休んで回復した後、参戦するつもりか。……多分俺も勘定に入ってるよな。よし頑張ろう。
でも……女の子が入って良い状態じゃないよ? あの部屋。卒倒されても困るし。
……そうだ!
「ほら、俺だけで借りてるんじゃないし」
「それならあとの二人。両方とも了承もらいましたけど」
メール画面に『おう! 了解! 仲良くな』(By鈴木)『ていうか拙者『戦団』に受かったのでもう拠点移したでござるよ』(By高橋)というメッセージが。あれか。さっき愛の戦士たちに連絡回した時か。
ていうか高橋……最近連絡取れないなと思ってたら……やけにあいつの私物なくなってるなと思ったら……あれ? おかしいな、今日晴れだよね? 師匠の天候操作かな?
「……根回し早いな」
現実から目を反らし、前を見てなずなの背中に声をかける。依然として狼の上で頭だけ向ける間抜けな状態だが。
「この手のは早めにしておくに限りますから」
こっちを向くなずな。
「あ」
俺の顔を見てすぐにハンカチ取り出す。雨はもう少し続くっぽいから放っておいても良いんだよ?
すみません遅くなりました。
明日はもう少し多くお届け出来るかなと思います。




