二話 人の家に泊まる場合、帰り道で正しいのか
それは帰り道。
「「あ」」
「? ……あ」
現在進行形でお荷物状態の俺のみ反応が遅れた。
「アキラ先輩、お久しぶりです! 最近連絡帰ってこないから心配だったんですよ?」
即猫被り開始。
一応彼女の友人たちなどの一部を除いて本性的なものはバレていないらしい。目の前の先輩が気付いていないのはなずな曰く『一定以上身近な人を疑おうという認識に乏しいので、そういった人たちの嘘は見抜きにくくなっているみたいです』だと言っていた。そりゃあまあ心配にもなる。
で、他の人間はどうか。結論としては先輩とほぼ同じだ。
先ほども見せた戦闘時の修羅状態も『戦いの時だけキャラが変わる』というキャラ付けに落ち着いたらしい。こちらからしたら『自分といる時だけキャラが変わる』ため切り替えの度に戸惑うんだが、どっちの方が好ましいんだろうか。
「うん。久しぶり。元気だった?」
深緑をベースに黒で彩られた軍服を着込んでいる先輩。久しぶりに会うなずなに微笑みかけている。
精神的には摩耗しているだろうに……そう思うけど俺はそこに触れない。なずなも触れない。
この一月で情勢が急変した。
まず、新大陸の発見。
これは迷いの森と繋がっていたことで発見されたため陸路で移動出来る。海路の確保にはもう少しかかりそうだという話だ。
次に、それに伴うモンスターの種類の変動。新しいモンスターが増え、食物連鎖に影響が出ているなどの生態系の変化が懸念される(モンスターにも幾つか分類が可能であり、その内一つに『生物が魔力によって変質したもの』と『魔力によって形作られたもの』に分類する場合がある。前者は基本食べる必要があり、後者は特に食べる必要はない。ブレイズウルフは後者だが、なずなはちょこちょこ餌をやりたがる。強くなりやすい気がするんだと)。これは実害出始めたので早急に対処すべき案件だ。
あと、クラスの調整とか入った。それに伴い色々変化。分類が新しいものに変更されたりした。
例えば忍関連が魔法攻撃職に分類されてた。忍術って魔法扱いで良いんだろうか?
最後に、邪教の信徒との争いが全面戦争に入りかけている。
というのも、
国が八つほど一気に陥落した。内一つは五大国。
焦った諸国は兵力募集。
ここで問題になるのは大半の大規模戦闘ギルドはこの時点で既に『内通者による内部分裂の可能性があり、仲間内でさえ信頼しかねる』状態に陥っていたこと。歴戦の冒険者が疑心暗鬼で脚を引っ張り合い、この危機的状況下であまり役に立てない状態に追い込まれてしまっていたという点だ。
このまま長引けば不利になる。でもこのままでは速やかに根本を絶つことは出来ない。
そこで『戦団』の原型が提唱された。
簡単に言えば、みんなでいくらか出資して、そいつらに邪教潰してもらおう。
金払って逃げられたらたまらないから自分らの国からも人を出そう。
自分たちは守り特化。独自勢力に叩いてもらおう。
ヒーローに丸投げする思考と言える。いや、ギルドに頼む時点でそうなんだけど。
本来なら戦闘ギルドに任せたいのだが、それが出来ないための迷走だ。
……当然、問題は山積み。
まず、誰が金を出すのか。どれだけ出すのか。
誰が纏めるのか。連携どうやって取るのか。指揮体系どうするのか。
最後に人材が決定的に足りていない。
他にも色々あるが、まあ置いておく。置いておいて良いものじゃないもの幾つかあるけど、この三つが拗れに拗れたので。……発案者、もう少しちゃんと考えろ。
特に最後のが一番酷く、自国の守りの要を諸国が出せるはずもなく、どうでも良い輩や素行の悪い者を中心に差し出す始末。邪教の主力が高レベルだから同等の面子をぶつける必要があるのにどこも出さないという有様。
結果、質、量共に全然足りていない状態になってしまっていた。
で、それを見かねたかつての英雄の一人、鼎右近参戦。自分の交友関係に片っ端から声をかけ、何とか質の高い人材の確保を行ったという経緯らしい。
それでもまだ数が足りず、毎日入団テストしたりしている状態だ。この入団テストの後、受かった人を鼎翁を始め数人が見極めるらしい。中には『鑑定』カンストしてる人もいるらしく、邪教側の人材は入れないっぽい。
で、彼女……榊アキラこと榊遥佳先輩はそんな面倒な経緯をすっ飛ばして、面接抜きで鼎翁に声をかけられて入団した組らしい。
と言う訳で彼女が所属しているのは特記戦力鼎右近率いる『戦団』。
ここの他にはあと三つ、こちら側に攻撃面で主力と言える戦力がある。
『教会』『魔術師ギルド連盟』『天津風』。
悲しいことに『戦団』以外、国単位で殆ど動けていない(『教会』も実働部隊が人口に対してかなり少なめ)。
自国の守りを疎かにしてまで友好国の問題(この場合『十二星座・獅子座』討伐)に首を突っ込んだ結果、その隙に襲撃されて痛い目にあった中小国が存在するためだろう。……うん、そうだよ。ちょっと前まで俺たちが住んでた国だよ。
また、陥落した国のように内側から食い破られる可能性すら低くないため、外部にばかり目を向けられない。そういう考えから積極的な行動は控えているっぽい。
生産ギルドは邪教の方でも意見が割れているらしく、『戦いに勝つために手を回して潰す』側を、『それはやっちゃ駄目だろ』側が必死になって止めに走ってるらしい。頑張れ、後者。
……え? そんな大変な状況なのに何で俺は脳天気にまだここにいるのかって?
活躍の場だよね。ヒーローだのロマンだの言ってたもんね、俺。
うん、そりゃ、俺だって参戦しようとしたに決まってるじゃん。
ちゃんと動いたよ。
まず『教会』はあそこの宗教信じてないから無理。というか参戦してるのは数年単位で『教会』に所属してるメンバーだからどうしようもない。
次に『魔術師ギルド連盟』。同種の理由から却下。というかここは普段から排他的かつギルド内でも仲が悪く、俺が魔術師であっても参加出来る訳もなかった。ついでに言えばこのギルドは戦闘ギルドではなく生産ギルド。それでも戦闘ギルド並に強かったせいでこんな状態になったんだと。
残る二つの内『天津風』は小規模な戦闘系ギルドでありながら大規模でやるべきレイドを何度も成功させている少数精鋭。当然下限レベルがあり、入団試験さえ受けられなかった。
そんな訳で参加資格あったのは『戦団』のみ。
面接で落とされたけど何か?
悔しくない。悔しくないよ? でも今に見てろ、『ヴァングラ(ヴァンガード経由グラップラーの略)とかないわ~』って笑ってた奴。
そんな俺を置いてけぼりで話は進む。
「元気ですよ~! 先輩も気を付けて下さいね」
「うん。ありがと。……あ」
偶々こっちを見て、一言。
ちょっと待とうか。何、その『……あ』って。ひょっとして今、やっと俺に気付いた? 何? 狼の背に横ばいだと気付けないくらい影薄いですかね?
いや、発想を変えよう。見た目的に人に見えなかった。これはどうだ。ぼろぼろかな。荷物にしか見えないくらい、ぼろぼろかな。
自分の衣服や肌を見てみる。うん、多分人に見えるはずだよ?
……他になんか案はない? 脳内小人会議、カモン!
『ない』
『ない』
『現実見なよ……』
『だってお前じゃん』
『……すまん』
全会一致。
「……ごめん」
謝らないで。むしろ余計きつくなる。
「あ、ほら。先輩も戦闘後ですよね? お疲れ様です。ほら、『鑑定』で見たら疲労値溜まってますよ、武哉君ほどじゃないですけど。その……疲れてるみたいですし……ね?」
フォローと共に話を終わらせようとしているなずな。気にしなくて良いんだよ? 俺空気だから。空気は気にせず話し続けても良いんだよ? 俺空気に徹するから。
「あ、そうだ」
別れの挨拶を済ませ、背中を向けたところで先輩が何か思い出した様子で話しかけてくる。……なずなに。
「『戦団』の幹部のお歴々が『入団しないか?』って」
…………あ、そうか。先輩、俺が入団テスト受けたこと知らないのな。
「いえ、ごめんなさい!」
即答……オレノコトハ、キニシナクテモイインダヨ?
「……分かった。伝えておくね。それにしてもあの面子に良く認めてもらえたね。ご意見番まで評価高かったよ。……ひょっとして、何か隠してたりする?」
ご意見番……。ああ、あのお婆さんか。結構きつい性格してたよね。ただ『ないわ~』って笑ってた面接官の肩を、いつの間にかいたあの人がポンポンって叩いた後の面接官の反応は正直すっきりした。
「いえいえ、何もありませんよ?」
なずなは元気な馬鹿キャラを演じていても、念のために手を打っておく傾向にある。
例えば衆目では一度たりとも徒手空拳を使っていない。『奥の手は隠す主義なんです』だと。
例を挙げれば、俺が初めて彼女と手合わせした時。まず人が来ないであろう場所を選択していた。人が来た時のために見張りのわんわんおを配置するくらい徹底していた。
能ある鷹は爪を隠すというやつだろうか。そんな彼女が味方に付いているのは頼もしいんだけど、相対的に俺のキャラが薄く感じられるのでちょっと困る。
「……そう。うん。じゃ、またね!」
そう言って手を振り向こうに歩いて行く先輩。
「さよ~なら~!」
手を振り返すなずな。
「…………」
横たわる俺。
なずなの家に着く頃には立ち上がれるだろうか? 身体的に。精神的に。
あれ? 今思えばなずなってかなりのハイスペック……?




