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Lunatic traces(旧)  作者: 十石日色
第二章 学園編その二
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幕間 ある少年のとある一夜 前編

 意識は内側に向けろ。

 雨音は激しく、風は吹き荒れ、雷は鳴り響く。

 ここまで急激な天候変化、禁呪くらいしかありえない。

 禁呪の中でも周囲に多大な影響を与える『天候操作禁呪』、もしくは『天変禁呪』と呼ばれる代物。

 村一つ程度の範囲なら祈祷師に当たる術者が出来るのだが、かかる準備期間は長く、また天候は少しずつしか変化していかない。また、この場合術者本人が有する魔力(MP)などでは全く足りないため、その天候操作に対応する魔力(雨乞いなら水の魔力)を大気中から集める儀式魔法が必要となり、やると周囲の環境に多大な影響を及ぼしかねないため国の許可が必要となる。


 しかし禁呪で行える彼らの場合、即時発動で効果範囲は国の一つや二つ普通に巻き込むという桁違い。しかもその被害(こうか)、すぐ止めないとさらに広がるというおまけ付き。

 発動しても周囲の魔力の多寡に何ら影響を与えないという点から国の許可などは必要とされないが(一時的に変わるだけなので後の干魃に繋がるなどの影響はないため)、ぶっちゃけこれは単に恐れられてるだけな気がする。

 戦略兵器扱いすらされる禁呪使いの中でもさらに特別視される代物で、確認された使い手は教皇猊下を除いて一人漏れなく、生きる戦略兵器こと特記戦力に加えられていた。まあ気象兵器だもの。敵に回したくはなかろうて。

 

 現存だと旱、嵐、雷、雪、霧、霖、焔、槍、月の九人が確認されている。

 その内の一人がうちの師匠。

 そして九人中嵐を引き起こせるのも師匠。

 つまりこの嵐を引き起こしちゃったのはうちの師匠。

 その師匠に連絡を取っているのだけど、全然出ない。いつもだったらマッハで出てきそうなものなのに。

 不安は募る。


 ついでに言うならちょっと今女の子の家で、洒落にならないくらいいっぱいいっぱいなのでまじで急いで。出れるなら出て。

 何というか……良い香りとかするんだけどそれがさらに自分の場違い感を強調しているというか自分がそんな女の子の聖域を汚してる感じというか……考えないようにしてるんだけど『この後ここに泊まるんだよなぁ』とか『ていうかこの部屋を除けば優先的に改修した水回り以外古すぎて危険らしいから泊められる部屋ここしかない、って夕飯の時言ってたなぁ』とか『大家と知り合いで格安だったから住んでるらしいんだけど、そりゃ他に住む人居ないよなぁ』とか色々と考えてしまうので早めにお願いします。

 落ち着け俺。素数を数えるんだ。……0って入らないよな?






 夕飯の時にメールを送ったので、もうかれこれ三時間以上反応がない。通話もメールも一切返ってこない。

 これはおかしい。何かあったのかも知れない。

 でもあの人に限って……そんな歪な信頼は消えない。



 代わりに部屋の明かりが消えた。



 何事だろう。

 いきなり視界が暗くなり、行動を取りにくくなった。

 ……焦るな、俺。冷静に対処だ。そう言い聞かせる。

 急な停電。いや、電気使ってないじゃん。焦ってんじゃねぇか俺。

 いや、冷静に考えたらこの照明器具は炎の魔石を用いた物だ。ならこの『雨』によって水属性に浸食されて一時的に使用不可になったと考えるのが妥当だろう。



 そう思って対処が遅れたどこぞの伯爵が討たれたって近所のばっちゃんが言ってた。



 天候操作に見せかけた、狭い範囲に展開する疑似天候操作結界。範囲は半径五十メートル程度の半球でそれ以外の範囲には一切影響を与えない。

 この天候操作というか、『ホースで上に水をぶちまけたのの激しくて継続する版』な魔術でも同様のことが起きる。

 一応念は入れておこう。

 そう言えばなずなはどこにいるんだろうか?

 机の上(食卓とは別)に置いてあったはずの緊急用照明器具を探す。

 ごそごそしながらも考える。


 命を狙われるほどのこと……


 狙われたのは、俺だろうか?


 そこまで恨まれる覚えはない。


 そもそもそこまで誰かに恨まれるほどのことをした覚えがない。


 妬まれるほどの活躍もない。


 そもそも存在感がない。ちくしょう。


 そんな訳で俺がそこまで狙われるとは思えない。そうだよね、俺なんてまともに活躍してないもんね! そうだよ。もし俺狙いでなずなが大丈夫なら全力で喜ぼう。




 じゃあなずなは?


 俺より遥かに目立っている。


 美少女。


 二つ名持ち。


 テイマーとしては全転生者(プレイヤー)中、二番目に多くのモンスターを同時に戦闘で操れる。


 ……妬まれてもおかしくないか。

 そんなことを考えた時だった。

 多少こもっているが、大きな音、多分転倒した音。

 手に照明が触れる。『警戒』『索敵』並列起動と同時にそれをつけて走る……訳にもいかないから壁伝いに音の元へと歩いていく。早歩きだけど思ったよりドタドタと五月蠅く、一切存在は隠し通せそうにない。

 まああくまで念のため……だったはずなのに、何故か音の発生元と思われる部屋まで辿り着いた時、とある異変に気付く。



 なぜかこちらに対して敵意があるとアビリティが告げている。



 なぜ?

 ここで俺は『■■■■(モンスター名が入ります)LV99』、『どんな時でもスタンドバイユー』という恐ろしいものを思い出した。

 この世界(ゲーム)、ゴブリンやスライムなど最初の方で出てくるモンスターの中に一部レベルがカンストしている奴が紛れ込むことがある。

 基本的に現在のプレイヤーの適正レベルより遥かに下のレベルの雑魚を延々と刈り続ける人間対策(オンラインにて、ニュービーがモラルの低いベテランに邪魔されて特定のレアモンスターを倒せずに『クラスチェンジ出来ない』『イベントが進まない』などの事態が発生したための対策)なのだが、このモンスターやけに強い。

 まずスタータス。通常のカンストした同族より数段強い。

 次にアビリティ。本来そのモンスターが覚えないものも使ってくる。例えばゴブリンなら『アイアンクロー』、スライムなら『マリオネットロード』。

 また戦術も洗練されており、アビリティを上手く利用することでこちらの物理的、心理的問わず死角から思いっきり叩き込んでくる。通常、ゴブリンなら猿らしく木の上にいるが、この場合穴を掘ったりパーティーメンバーで死角を作ったりしてくる。それがスライムなら、天井に張り付いていたり排水溝の中に潜んでいたりする(これは汚水の中にいることでそれを取り込み少しずつ大きくなろうとする行動なので隠れているのとは違うかも知れない)のが、初撃から、スライム系が高レベルで覚える『インビジブル』を使用した状態で通路に待ち伏せ。こちらが無防備に触れるまで何もしないと言うまさかの伏兵。


 そしてこの世界だと、一部のモンスターは普通に町や村の中に入ってくる。なお、特殊なイベントではない。

 常時戦場の心構えを忘れないためだとスタッフの誰かが言っていたらしいが、やめて下さい、冗談抜きで。

 進入経路はモンスターの特性に従うらしい。例えばゴブリンなら木などを伝い塀を越える、鳥系なら飛んでくる。

 

 さて、ここから俺が推測したこと。

 安全なのはさっきまでいた部屋と水回りくらい。それ以外の部屋にいるとは思えない。

 そして今も、この世界ではいきなり襲撃される可能性がある。



 結論。

 水回りにいたなずなは排水溝から出て来たスライムLV99に不意打ちされる。

 初撃『マリオネットロード』。操られるなずな。先ほどの大きな音はこのため。

 本体のスライムは『インビジブル』で姿を隠し、なずなに迎撃体勢を取らせ、自分は不意打ちの準備。

 今ここ。



 ならどうする俺?

 なずなを出来るだけ傷付けないためには彼女の手足を瞬時に押さえ、行動を封じてスライムの攻撃を待てば良い。

 『マリオネットロード』は強化アビリティがないと乱発出来ず、術者が攻撃すると解けるため、俺が隙を見せるようにして攻撃を誘発すれば良い。

 また操られている対象の意識は奪えないため、視線などで様子は伺える。




 覚悟は良いな、俺。

 行くぞ!



「大丈」

「風呂桶アターック!!」

 一瞬だったけど白い何かが見えた気がする。上の方が赤かったっぽいのでなずなのはず。

 しかし頭部に当たった攻撃は何だ? 風呂桶? いや、後回しだ。次の攻撃が来る可能性がある。急いで取り押さえないと。

 半ば伏せている彼女の両手を纏めて掴み、頭の上に移動させる。

 蹴りを防ぐため彼女の太股の辺りに尻をつく形となる。体重はそこまでかけてはいないが多分防げるだろう。

 結果、スライディングタックルで押し倒し、自分は馬乗りに近い形となった。

 スライムは天井に潜んでいると見るべきか?

 背中をしっかり見せる形の方が誘き寄せやすいかな?

 そう思い、さらに前傾姿勢。

 さあ、来い! 来いよスライム! 熱して焦がして消し飛ばしてやんよ!




「……あれ?」

 来いよ! 来いよスライム!

 あれ? あれぇ?

 突っ込む際に置いてきた照明が、薄く……そう薄く俺の背中を照らし、ついでに俺が影にならなかった箇所も照らしている。

 顔は近く、少し、もう少し前に倒れれば口づけの出来そうな距離。

 顔は赤く、目からは混乱。俺の顔が近いのにそれ以外の何か(・・・・・・・)に気を取られているのか意識の外っぽい。

 ……いや、ちょっと待て。この距離より意識を取られることって何だ?

 敵か?

 敵なのか?

 敵なんですよね?

 いや、でもちょっと待てよ。『マリオネットロード』と『インビジブル』、両方覚える奴って他にいたか? いないよな。でも、誘いに乗ってこない。単細胞っぽいあいつが。というか流石に気付くよな、あれが移動したら。だから待ち伏せこそ『インビジブル』中のあいつにとって一番実戦的なんだし。


 なぜ来ない?

 え? ちょい待って? そもそもあいつらは明かりを消せるのか? 消せないよね? あれだよね、師匠の禁呪だよね。師匠が起こした嵐だよね。偶然同時に来たんだよね。

 あれ? ちょい待ち? 『風呂桶アターック!!(あれ)』が何なのか考えよう?

 普通この状況なら『よけてっ!』とかじゃないか? なら『風呂桶アターック!!』は何だろう? 風呂桶で攻撃しますよ、ということよりも投げるのか叩くのか分かる方が有益なはず。

 そもそもこれ、自分から攻撃したんじゃないのか?

 じゃあ何だ? なぜ攻撃する必要があった?

 そもそも何だ、気になるのは。この顔の距離よりも気になるのは。

 ちょっと待って。何かおかしい。まったく、スライム来ないし、湿気も高いし……湿気?

 あれ? ズボンもなんか濡れてるっぽい?

 あ、水回りだから大丈夫……いや、ちょっと待て。そもそもこれだけの広さがある水回りって何がある?

 台所? いや、もう昼に見た。料理した時に使ったけどここじゃない。

 トイレ? いや、こんなに広くない。

 じゃあ残りは?

 残りは?


 はい、ちょっと待とうか。待ってちょい待ち。

 体感時間加速しててあまり時間が流れてないっぽいけど、時間が足りない時よ止まれ。

 いや、スライムさんですよね? スライムさんLV99なんですよね? こっちの体感時間加速しすぎてまだ『襲おっかな~♪』って思ってる途中なんですよね!?

 うん、ごめん。ちょっと言い過ぎた。火力的に今の俺だときついです色々装備してないし。焦がせません。逃げるだけで手一杯です。

 だからちょっと来て。まじで来て。この結末は、ちょっと待て。

 いや冷静になろう。虚数を数えるんだ。……数えられるか!


 いや、もう落ち着かなくても良い。情報を集めろ。

 顔は相変わらず近くて赤い。呼吸は荒い。手は……あれ? こいつ半袖だったっけ?

 腕を見る。いつの間にかノースリーブ? いや、もう夏に入るぐらいだしおかしくないか。男が家にいる時には無防備だと思うけど。

 肩を見る。肩紐ない服ってあるっけ? ていうか下着も……?



 結論、俺の馬鹿。



 何? 何!? 知り合いのを? この状況下で!? 

 錯乱。

 いや、駄目だ。この温もりを感じていたら獣になる顔も近い意識を向けるとやばいこの距離はやばい!

 飛び退く!

 ……飛び退く? 

 ……あ。



 ………… 



「……『キャー』と、狼さんけしかけられるの、それとも両方、どれが良いですか?」



「……狼さんで」

 この状況、どっからどう見ても狼な俺にはちょうど良いだろう。

 思っていたよりも長くなったので分割しました。

 どこまでセーフなのか分からなかったので該当箇所を省いています。

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