幕間 ある少女のとある一日 曙
カーテンの隙間から日が差しています。
起床時刻ですね。
いつも通り、朝食の準備に入りましょうか。
体を起こしてみると昨日散らかしたんでしょうね。床にある赤い布切れやら、机の上の定位置になければならない非常用照明器具がずれているやらで、片付けが必要なようです。
片付けの後、朝食の準備ですかね。
さて、抱き枕を手放して、床を離れましょう。
ここは亜熱帯で季節は夏になろうというのに、なぜか少し涼しく感じて先ほどの温もりが愛おしく感じます。
そんなことを考えていて遅れたのですが……なぜか影があります。
寝惚け眼を擦りつつ、辿ってみますと、
そこにはアキラ先輩が。
なぜ彼女が私の家にいるのかという疑問はありますが、合い鍵の隠し場所は以前教えたことがありますし、別に用件があれば来てもおかしくはないはず……あれ? そんな予定ありましたっけ? 急な用件ならなんで個人的に連絡してこなかったんでしょうか? 『通信』には何もなかったっぽいですし。
そんな私の疑問……というか私自体も、視界内にいるのに目に入っていないと言うか……反応に困っている感じでしょうか? 先ほどから硬直し続けている形です。
「あの、アキラ先輩?」
声をかけます。
その直後! なぜか先輩が弾かれたボールのように一気に加速、いきなり『通信』アビリティの操作を開始。電話……でしょうか?
「陽炎兄? お弟子さんのことだけど」
電話の相手は誰でしょうか? 少なくとも私が知っている名前ではありませんね。
しかし『お弟子さん』という時点である程度は予想がつきますね。私には『先生』はいても『師匠』はいませんから、私に直接関係することではないはず。
そして目の前のアキラ先輩も違う。師匠はいなかったはずですが、いたとしても『お弟子さん』という表現はおかしいはずです。
つまり、この二人を除外して考えてしまっても良いはずです。
では誰でしょうか?
今朝はいつもより少し頭の回転が遅いようですね。少し睡眠が足りなかったのでしょうか?
? 何で眠れなかったんでしょうか?
根本的に何か忘れてはならない何かを忘れていませんか? それこそ思っても見なかった僥倖で夢と区別が付いていないレベルの何かが。
そんな私をよそに話は続きます。
「僕の知り合い……うん、後輩の子に抱きつかれて寝てた」
?
何を言っているんでしょう?
いや、何か、そう何かがおかしいはず。
そうです! 私の家に抱き枕なんてありませんでした。ならあの抱き枕は……
抱き枕に視線を向けます。
健やかな寝息を立てる武哉君の姿が。
お、おぅ。
そうでした。忘れてました。昨日彼を泊めたんでした。
いや、でも何で私まで床で寝てるんでしょう? 転がり落ちてんでしょうか? いや、お手洗いにでも行って戻る途中で彼につまずいて倒れたんでしょうか?
記憶がないから分かりません。
困惑する私。半ば硬直しながらも事務的に報告するアキラ先輩。誰に? ここで呑気に寝息を立てている彼の師匠さんにでしょう。
「『ご祝儀はいくらくらい弾めば良い?』って。金銭感覚がやや弱い不肖の弟子より奥さんに聞けってさ」
乗り気すぎでしょう!?
何ですかこの展開。反論させて頂きます。
「私と武哉君はまだそんな関係じゃないですよ。何を言ってるんですか?」
「自分たちの衣服見直しなよ」
はい?
見下ろす私の体は……あれ? 水色が見えるますね。私が着ていた寝間着は赤だったはずですが。いや、それ以前に着ていた寝間着、どこに消えました?
視界の端をかすめる赤がそれでしょうか?
武哉君の方も着込んでいた服が乱れていますし……まさか。いや、でも、いやいやいや。
とりあえず起こして事情を聞かなければ。
「あの、武哉君、起きて下さい」
ゆさゆさ。
「それはもう、新婚夫婦の仲睦まじき寝起きの様子を見せつけられるが如き有様」
「だから何を報告しているんですか!」
「返事があるよ。『とりあえず壁が壊れてお医者さんに説教中なう』だって」
「何やってるんですか!? 先輩も師匠さんも!」
「僕は兄の代わりにお弟子さんである武哉君……ごめん。光明寺君たちの様子を伺いに来ただけだよ?」
「気を遣わなくても良いんですよ!?」
「それで電話先の兄は『式の日取りは早めに教えてくれ。何なら式場押さえる手伝いするから』って情報集め出した」
「先走りすぎでしょう!? ……あれ? そう言えば『兄』って……」
探し回っていたんでしたよね。彼の名前を名乗ってまで放浪していた訳ですし。
「……そうだよ。光明寺君たちの師匠は僕の兄だった」
「良かったじゃないですか!」
「……一応良かったと言うべきかどうかは悩むところだね」
「? 何でですか?」
「探してた兄じゃない方がこっちの世界に来てて、探してた方は邪教の幹部にやられたって話だから」
!?
「…………」
「ごめんね。紛らわしい言い方しちゃって」
「いえ、でも、ごめんなさい!」
「いや、だから良いんだって。君は悪くない。……でもね、もうこの話は出来るだけ避けて。僕はこの話題、多分冷静じゃいられないから。必死になって押さえ込んでこの有様だよ。……だから極力意識にも上げない。冷静じゃないと不必要な人まで死んじゃいそうだから。……この憎悪をぶつけるのは一人だけ」
私は先輩のこんな顔は見たくはなかったんですが……敵への憎悪、自分の非力さに対する嘆きと、あと何でしょうか、やるせなさ……でしょうか。そういった色々な感情が抑えてるのに湧き出した、そんな印象を受けました。
「…………」
場に満ちる静寂。鳥の囀りさえ聞こえません。
「ごめん。空気悪くしちゃって。……ご飯にしようか。手伝うよ」
無理矢理流れを変えようとする先輩。
「そうですね。何が良いですか?」
その気遣い無駄にはしません。乗らせて頂きます。
「材料見ないと分からないね。……あ、その前に服着ないと」
……あ。
忘れてました。
彼が起きる前に着ておかないと。
「……ん、んん?」
急いで着ないと!?
先輩とお師匠さんに対する言い訳とかは完全に忘れている自分がここにいましたが、考えるのは後にしましょう。
……あれ? 私いつの間に彼のことを武哉君って呼べるようになったんでしたっけ?
遅れて済みません。ちょっと体調が崩れ気味のようです。目眩と左肘、左肩になぜか違和感が。特に目眩意外の二つ。野球とかしていないはずなんですが……
不安定な更新で作者の技量も足りていない本作なのに、読んで頂いてありがとうございます。
次の話は夜中に何があったか武哉視点でお送りすることになると思います。




