二十六話 一人ではない
「それからカハッ」
何か伝えようとしているが、彼はそのまま咳き込むばかりで言葉が出なくなっている。
正直、もう見ていられない。
「もう良いから!」
正直、全然良くないのだけど、もうまともに情報なんてこっちに伝わらないと思う。言葉に出来ていないんだから。
しかし、良くなかったのか、指で僕の後ろを指す。
その瞬間、向かいの壁が爆発した。
思わず目を覆う。
光で目が、音で耳がやられた。
そのせいで反応が遅れてしまった。
気付いた時には光が満ちて。
あれは……ワープクリスタル?
気を取られていたとはいえ、ここまで気付くのが遅れるなんて。
というかここの騎士、いったい何をやってるんだろう? 見てるだけじゃん。ほんと、動けなくなるくらいの衝撃でもあったの? ってレベルだ。
光の元を見れば、シャチホコ状態な孝平が抱えられている。
嬉々としてそのシャチホコへとしていた騎士に。
お前もかよ!
さっき吹っ飛ばした奴一人じゃなかったのか。
というか仲間を嬉々としてシャチホコ状態にする邪教って何だろうね?
「ガンマ、撤退しますよ」
盾で吹っ飛んだ奴に向かって孝平を抱えた騎士姿が言う。
「ベータらは……放っておくか。ったく、余計な油注ぐ癖、直ってねぇんだから」
愚痴を零す彼も同種の光に包まれている。
「待て!」
今ここで逃がす訳にもいくまい。
彼らが持つワープクリスタル。それさえ砕ければッ!
近くの二人に接近し、細剣で刻もうと
「柏木バリアー!」
したところで孝平を盾にするという手段に出られた。
ああ、まあ持ちやすいよね、いつもより。
自分で立っているんなら顔面に跳び膝でも叩き込んで無力化するけど、残念ながら持ち運ばれている形だ。やってもほぼ、意味がない。
まごまごしている間にシュンッという音がして
「貴様の顔、覚えたぞ。こちらも名乗ろう。覚えておけ。我が名は」
…………
…………消えた!?
我が名は!? なんなの我が名!?
「ほら、柏木。何か言いたいのでは?」
「…………」
逃げられた。
ていうかあの状態の孝平に何を言わせるつもりだったんだろう? シリアスな言葉はあの姿勢のせいで台無しになるんじゃないかな?
もうそっちを見ても仕方がないから元の方へ向き直る。
瀕死、というかもう何でまだ死んでないの? というくらい弱った男の人がいる。
もう、こちらは見えず、聞こえないようだ。
「おお、神 。私が最初に信 た神ユグド ルよ。私が最 仰した 天 船よ。願わ ば、娘を……メ ラ、貴女 一 では 」
そうして息を少し吸い込み。
もう二度と吐くことはなかった。
あまり、感傷的になってもいられない。
ほら、繋がり的には知り合いのお父さん、ってだけだし。
普通に考えれば騎士たちで対処出来ているはずだけど……保険として動いておこう。
そう思った時、人影が。
敵か?
そう警戒したが、そこにあるのは見慣れた、いや見慣れていた姿。
胸部には傷。普通なら致命傷になってもおかしくないくらいの怪我のはず。
でもそれよりも重症そうなのは心。
なぜか発狂しそうなほどの自責と困惑を瞳に湛えている。こんな姿、初めて見た。
その人物、平和だった頃の思い出の一人。
「陽炎兄?」
この世界とは無関係だと思われていたもう一人の兄、榊陽炎が、この世界の法則内の力ではない光と炎を纏ってそこに立っていた。
あと二話くらいで二章終わりです。




