二十五話 狂気と逆鱗
「おいおい、逃げてばっかかよ!」
声を張り上げて挑発するが、反応なんて出来る訳もないだろう。
スナイパーが敵の前に姿を現す、なんて馬鹿な真似する訳もない。
ましてや、今は大幅に弱体化中だ。多分禁呪の副作用は消えていない上、ソウルイーターでやられた傷は癒える気配が一切無い。
しかも、全身がいつもと違うというか……この世界のそれじゃない?
「おいおい、特記戦力、なんて大層な肩書きを持っておきながら無様に逃げ回る恥曝し。くたばった方が良いだろう? さっさと出て来いよ」
興奮と共にそう吼える邪教の輩。
「何で、邪教になんて身を堕とした?」
声を反響させて居所を分かりにくくしながら問うてみる。
「あぁ? 決まってんだろ? 散々、偉そうにしてやがった人間に止め刺せるなんて、普通の人生じゃ出来ねぇだろうが。ゲームでもやりゃあ捕まる。ただ目障りな奴潰すだけでなぁ。それが邪教に入ればやりたい放題。欲望に貴賤も軽重もない、だぜ」
歓喜に震える声。
あ、なるほど。
そりゃ、あの人が柏木って奴逃がそうとする訳だわ。
こいつら、違いすぎる。
人間として終わっちゃってるのが多いんだろう。
当然、社会から見捨てられたような弱者も少なくないんだろうが……こんな中にいたら染まるぞ。
「終わってるな、お前」
「おいおい、これから人生終わる奴がな~に言っちゃってんの? 俺に殺されるか、出血多量で死ぬか、のどっちかしか残ってないぜ?」
「どちらもお断り」
「無っ理で~す! ソウルイーターはいくつかあっけどさぁ。今回俺らが持って来たあれは元の世界……あ、元の世界でいんだよなぁ、あんたも転生者だから。まあ、あれだ。元の世界の体に戻す力なんだわ。まあ、あんたにはなんか利きが悪いみたいだけどなぁ。ま、そ~んなわけで医者がすっくな~いここじゃ普通死ぬぜ?」
楽しそうに告げる声。
狂っている。断言出来る。
他者を蔑んで喜びを得る、というのは人間にありがちな悪意だろう。
他者を貶めたい、それもまたあるだろう。
優越感に浸りたいという感情、理解出来ない訳じゃない。
でもそれが許されるのは一定限度まで。それ以上は積極的に排除の対象となる。
こいつはそれだ。
ゲーム脳云々の話を聞いたことがあるが、結局の所、やらかす人間はゲームがあろうがなかろうがやらかす。違いはゲームでもやる、というだけだ。
で、こいつはやらかしちゃう人間だった、と。
「それだからさぁ~。さっさと死んでくれね?」
そう言って奴がそこを通る。
ワイヤートラップが起動。
仕掛けておいた手榴弾のピンが抜け、奴の至近距離で炸裂する。
さっき一人はこれを何度か繰り返すだけで倒せたが……
「いってぇなぁ! さっさと出てこいよ。男らしくねぇんだよ!」
無理か。
……なんか意識が遠のく。時間はないっぽいのに。
「一人のことネチネチいたぶるのも男らしくないと思うけど?」
「細かいこと気に済んじゃねえよそれでも男かよ?」
駄目だ。こいつ話通じない。
「あ~、そうだ」
そんな俺の諦めは一切関係なく『良い子と思いついた』とばかりに奴の声が弾む。
「お前みたいな腰抜けのせいでてめぇの女、死にそうだよなぁ」
「!?」
関係はない。
彼女とは関係がない。
今はちょっとソウルイーターのせいで不安定なだけだ。
これはただの脅迫に過ぎないからここに俺の婚約者がいるか
『初めまして、でしょうか?』
らこいつが知るはずなんてないこいつらが知るはずなんて
『いえ、こちらは貴方を知っていたものですから』
ない彼女のことを知るはずがない関係ない全く一欠片
『わたくしもお手伝い致します』
も関係ないこいつはただの襲撃者彼女とは全
『いつまでも明日がある訳じゃないんですよ?』
く面識がないはず俺もないし全然ない
『いえ、わたくしもそこまで細かく未来が見える、という訳でもないので』
しだから大丈夫何が大丈夫か分
『少なくとも見た後で変えられればどうしようもありません』
からないけど大丈夫大
『貴方はどうしたいんですか?』
丈夫大丈夫
『わたくしは、ただ自分が出来る限り後悔しないように動いただけです』
大丈
『もしわたくしを救えなかった、なんて見当違いのことを考えているのなら……そうですね』
夫。
『来世ではちゃんと他の女性を幸せにして下さいね』
「そうだ! 俺が殺してやるよ! 手間省けるだろぉ!」
コロス?
殺す?
彼女を?
俺は。
僕は。
許さない。
赦さない。
ユルサナイ。
イヤ、ユルサレナイノハボクダロウ?
スクエナカッタ。
マモレナカッタ。
タスケラレテナニモデキナカッタ。
カノジョハ。
カノジョハ。
「アハ」
「あぁ見つけた。は、な~に笑ってんだよ。見つかったんださっさと醜く命乞いでもしたらどうだぁ?」
「アハハハ」
「あぁ、そうか恐怖でいかれちゃったてヤツ? ああ、そうだ」
「恋人目の前でぐっっちゃぐちゃにした方が良かったなぁ。惜しいことした」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
ナニガオカシイカワカラナイケドワラウ。
トリアエズキメタコト。
オマエハ、ココデシネ。
【王冠】
【八咫烏・食吐悲苦鳥迦楼羅焔】




