二十四話 遺す言葉と伝える真実
一瞬だった。
一撃。
一閃。
ただそれだけ。
少し目を離しただけ。
その間にするりとやられた。
満身創痍で壁に寄り掛かる彼によける術などある訳もなく、袈裟斬りにされ、崩れ落ちる。
「裏切り者が」
彼にかけられた言葉はそれ。
彼を見る目は侮蔑を湛えて。
僕は彼を知らない。
ただやけに孝平をこちら側に戻したがっていたことだけは分かっている。
「果てろ」
その一言と共に再び刃が振り下ろされた。
「ちょっと!」
割り込んで振り下ろされる刃を細剣で受け止め……られるはずもないから受け流す形で何とか逸らす。
「邪魔だ女、今ここで死ね」
こういう時って『死にたいか?』とかじゃないのかな。
いや、まあ目撃者とかやっぱり消す方向の人たちなんだろうな。孝平はこういう人たちとつるむべきじゃないと思う。
あ、『孝平』でふと気がついた。僕今盾持ってるよね。何故使わない?
とりあえず『シールドバッシュ』。
腕に衝撃。
直後、凶刃の振るい手はアクション映画のように高らかに宙を舞った。
スキルレベルは上げていなかったんだけど……レベルの差、かな?
何回かバウンドしながら遠くまで転がっていく犯人。
多分死んではいないけど……死んではいないけど……?
はっ、と斬られた彼を見る。
酷い怪我だ。骨が見えている。……その下も、当然。
ポーションを取り出し、かける。
癒えない。全然、癒えない。
次のポーションを取り出す。今度は黒。
やはり癒えない。
次を取り出そうとした時、すっ、と手が伸びて操作を止めた。
止めたのは、目の前にいる瀕死のはずの彼。
「治りませんよ。もう、死が確定していますから」
声は穏やか。
安らかな微笑みを浮かべた彼はゆっくりと言い聞かせるように告げる。
「侮蔑の言葉、視線。いえ、先ほどまでは実に私らしい最期だと、そう思っていたのですが……いやいや、運命というやつはやはり意地が悪いですねぇ。覚悟したはずの最期とは大違い。長く生きてきましたが、上から数えても両手の指で足りそうです」
ゆっくりと、はっきりと。
彼の命を吐き出すような。
「流石ケホッ……に娘と同年代の女の子に看取られながら……逝くなんて思いませんでしたねぇ」
少し幸せそうで、少し不本意な声。
「娘……さん?」
「ええ、生きているとは信じていましたが……先ほど消息が分かりまして……ああ、しまった。遺言を遺していませんでしたねぇ」
「……伝えましょうか?」
本来ならこんな義務、ない。
でもこの人は悪い人じゃない気がする。……少なくとも、今は。
それに孝平の説得をしていた。なら、私にとって一時的とはいえある種の味方だった。
知らなくても探して伝えよう。
「……有り難う」
「時間がないなら、急いで」
アイテム欄から記録結晶を取り出す。
そして撮影開始。
「ケホッ……では」
「メーラへ。放って起きっぱなしの駄目な父親が何を抜かすかと……ッ、思うかも知れませんが、言わせてもらいます。貴女はハー、フエルフであることで差別されている、かも知れません。ですが、これは恥じることではありません。何一つ、貴女のせッ、ではありませんから。人は生まれを選べませんから、差別されるなら我々の責任です。貴女は何も、悪いことはしていません。努力でッ、生まれは変えられないので、これは何があろうと我々、の責任です」
……メーラ? ハーフエルフ?
聞き覚えがある。
でも……
「はぁはぁ……もし変わり者と言われても、それは貴女のせいでは……ありませんし、受け入れてくれる人もきっといます。私もそうでしたから。受け入れてもらえて、その結果ッ……授かったのが、貴女です。ケホッ……その貴女が受け入れてもらぇ、ないなんてありえ、ない。父親として、先達とし……ッ、て保証します」
……
「そういえば、好きな人が出来たようッ、ですね……はぁ。正直に言って確かめたい……と思います。ですが……貴女が……ェホッ……好きになった人です。きっと悪い人ではないのでしょう。兄弟子でしたっけ……仲良くするんですよ……」
……もの凄く聞き覚えがある。
しかもこの人娘さんの消息、さっき分かったんじゃなかったっけ。
たしかあの三人の師匠はこの国にいるはず……
「あと、分かり切っている、ケホッ……かも知れません、が……年頃の娘に言うことではないかもッ、知れませんが……敢えて言わせてもらいます」
……
「貴女の父親も、母親も、貴方のことを、愛しています」
……
「いやぁ、ありがとう、ございます」
撮影を止めた。
「あの」
「はい、何でしょッ、うか」
「そのメーラって子……髪も瞳も緑?」
「はい……まさか、知って!?」
「ネックレス……かな? 大切そうにしているのを見たことあるけど」
「ほぉう。本当に、運命という……やつはッ!」
「……伝えておくね」
「ありがとう、ございます」
顔見知りの父親の最期を看取る、か。
……思ったよりもきついなぁ。
「そ、うだ。柏木さんの友人さん」
「はい?」
どうしたいきなり。
「貴女の兄上について、お知らせ、しなければ」
!?
「ごめん! 教えて!」
飛びつくような勢いで近づく。
「貴女の、兄は……邪教の幹部の一人を圧倒し、追い込みました。……ですが」
あいつか! あの炎使い!
「ですが!?」
「『もうこんなことしない』と、『ここを抜ける』と。みっともなく、そう命乞いをされて、止めが刺せなかったそうです」
「え?」
……なにそれ?
「その後倒れた後、邪教に回収されたッ、ことまでは分かっています。それから……何か良からぬことに使われかけている可能性が高いです」
「それは、本当?」
「やられかけた本人がピンチを切り抜けた武勇伝のように語っていましたから。回収したのも彼です。そんな彼を、大抵の、幹部は……見下していました、ねぇ」
「え、ちょっと待って。じゃあそいつは」
「野放し、ですねぇ。ただ、圧倒されて大層……取り乱していたことだけは確認、されていますから……『我らの中では一番の小物』、私を差し置いて、そう称されかねな……ケホッ……状態でしたねぇ」
え?
つまり、何?
倒せたのに、見逃したの?
相手があまりにもみっともなく取り乱したから?
「いや、あるいは彼、は他者を圧倒して改心させた例があるのかも知れませんねぇ。そのせいで、人を信用しすぎてしまった……多分、そういうことでは、ないでしょうケホッ……か」
そんなのって……そんなのって!
「そいつの名前は!?」
許せない、絶対に!
「コニウム・マクラトゥム……そう、名乗っていましたねぇ。貴女方と同じ転生者で、多分日本人ですが」
今回の副題が『とりあえず盾でドーン』になった可能性もあることをお知らせします。
……徹夜のテンションでどうもおかしいようです。
一眠りしたらまた書きます。




