二十三話 成長
「どうゆうこと?」
自分の声が遠い。
「ねえ」
距離が遠い。
声が聞こえない。
だから詰めよう。
「ねえ」
『ロケットステップ』。
残光は尾を引いて、夜の闇を照らす。
着地ではちょっと勢いがつきすぎてすぐには止まれず、ブレーキ音と共に地面を灼く。
擦過痕が地面に刻まれ、脚には衝撃。目線は彼と似た高さ。
「ねえってば!」
道は分かれたとは思っていた。
彼は彼なりに、友人として明良を助けようとしているのだと信じていた。
それが何だ。
恨んでいたのに生き返すって。
嫌なことしか思い描けない。
「何なんだよ、それ!」
かつての親友からの反応はない。
息も絶え絶えなもう一人、彼は何か続けようとしている。
「私はねぇ、柏木君。君にはここで抜けてもらいたい。……それこそが彼の願いではないだろうか?」
なぜかこちら側の幹部っぽい人の言葉にも反応はない。
「ましてや……ケホッ……あのような在り方、誰が望むというのか」
さっきからずっと無反応。これはあれだ。子供が都合の悪いことを見つかって問いつめられている時に起こる『ああ、もう何も言えねぇ』状態だ。
そして無言のまま。
武器を構えて。
……構えて?
直後夜闇が掻き消える閃光が都合十二条、僕に向かって押し寄せる。
「え? ちょっ、逆ギレ!?」
正確にはナイフ投擲、それのエフェクトが跡を引いている、それが正体。
光速にはほど遠いが、亜音速くらいなら余裕で出ているだろう。
二本は横に、四本は上に逃げるのを防ぐため。
そして残りの六本は全て殺りにきている。
「ッ!」
弾道予測でそれを見切り、一本目を右の鞭で落とす。鞭がちぎれた。体を伏せて二本、そのまま前に駆けて二本、伏せた際に切り替えた右の細剣で一本、最後の一本はもろに食らう。
食らいながら、仰け反りながら、アイテムを使用。
先ほど伏せた拍子、体の影で見えなくなった時に左手の袖から出して短剣の陰に隠して(だから短剣が使えず攻撃を防ぎきれなかった)おいたのだ。
そのアイテムの一つ、閃光弾。
目を灼かれると良い。……あ、もう一人の人、すみません。
少し前の僕なら一撃で瀕死まで持ち込めただろうけど……こちらも成長してない訳じゃない。今ではあの頃とは20ほどレベルが違う。耐久力が圧倒的に違うのだ。
しかし、情報が行っていないなら、というか行っていたとしてもちょっと従来ならありえないレベルの上がり方なので信じないはず。だから少しは油断させられたはず……だけど。
もう一つのアイテム、ポーションを口にくわえながら近づく。
孝平のことだ。ここでトラップ発動とかやりかねないので、一応慎重にいこう。
幾つかアビリティ、ここだと『隠密』『警戒』『索敵』を併用しながら気配を殺して近づく。
とりあえず、張り倒す。
思いっきり、張り倒す。
現在進行形、張り倒す。
連れ帰ったら説教する。
本来、こちらが不利は承知だ。
あちらはこちらを排除出来ても、こちらがそれをしてしまうと負けだから。
一応接近してしまえば遥かにこちらが有利。
でもその有利は相手を殺すために有利であってこの孝平を無力化するには不適切なものだ。
殺さずに、というか出来る限り傷付けずに無力化するためにはもう手段が限られてて、閃光弾と、
「んぬぁっ!」
今取り出したスタンガンを使うくらいしかまともな選択肢がなかった訳で。
痺れている孝平。
「んぬふぁっ!?」
良い子のみんなも悪い子のみんなもどっちでもないという子も俺子供じゃねーしという人も真似しちゃ駄目だよ?
あ、ちなみにスタンガンって当ててすぐ気絶、とか普通はないから注意。
だからといって大丈夫かというと、当てる人、部位によってはガチで危ないらしいので注意。自衛で使っても過剰防衛問われるかもだよ♪ 危ないから気を付けてね(FROM僕IN剣と魔法の世界)。
「すみませ~ん。誰か鎖を持ってきてくれませんか?」
ちょっと向こうにいる騎士に声をかける。
縛るのは一応それなりに高い強度を誇っていた鞭でするつもり……だったんだけどさっき瞬時に千切れ飛んだので今は手元にない。……屋根に登る時が一番輝いてたよ、あの武器。戦闘で十回も使ってなかったし。さらば、新品。
他はちょっと古くなった物が大半で、流石に強度的な観点から心許ない。
という訳で、僕がこのスタンガンを使っているのは自分で拘束系魔法は持っていないので使えず、その手のアイテムもまともなのがもうなく、仕方なしにこの世界のスタンガンの能力『麻痺』『感電』付与を使って時間稼ぎをしているから。
せめて後者があればな~。一、二発で済んだかな~。無理か。
ついでに言うなら逆ギレもない。
「んぐわぁっ!」
という訳で早く来て。
「あ、そうだ」
騎士の人が来て少し余裕が出来たので周りを見る。
来た騎士に縛るのを任せつつ、もう一人の方を見る。
虫の息、というか魂が出かけている感じの男が一人、そこにいた。
黒ポーションを実体化、彼に投げ渡す。
そんな間も手は休めない。
「ふんぁ! ……ちょっとは加減しろよ!」
抗議が来たので、
「向こうで半殺しにされていた人たちの範疇まではセーフだよね」
と返しておいた。
無言。
彼は襲撃者側で、ここにいる騎士達は被害者。多分死者も出ているはず。
彼らはこちらを見ているのだから、むしろこれくらいやっておかないと彼の身の安全的にも逆に危なくなる。これでもか、というくらいやっておかねば。
「はぁ……はぁ」
向こうを見直すと黒ポーション当たったはずの彼はなぜか回復していない。
「あの~」
話しかける。スタンガンは止めない。
まだかな。随分と時間がかかるなぁ。
「とりあえず、衣服を替えるべきではないですかねぇ。私が『はぁはぁ』言っている理由を変に勘繰られてしまいそうで」
「へ?」
胸元を見る。
ブレストアーマーは穴が開き、その下の衣服まで焦げて少し胸元の肌と淡いグリーンが覗いていた。
「わわっ!?」
アイテム欄を開き換装を……あれ? 出来ない?
その様子を見て、
「戦闘が続いているんでしょうねぇ。多分副長さんですかねぇ」
「えっと、どういう状況ですか?」
視線に嫌らしいものを感じないこの人なら、まあこれ以上見ないのなら良いのかな?
そんなことを思いつつ、久しぶりに盾を持ち出し胸元を隠しつつ問いかける。うう、布系のアイテム持ってきておくべきだった……
そんな僕に彼は告げる。
「私たちがここを襲撃。私が特記戦力に敗北。その特記戦力が娘の師匠。死に逝く私が貴方方寄りに。特記戦力、瀕死の重傷を負う。私、柏木さん説得中、貴方乱入。柏木さん自分の攻撃でかつての親友(女)の服を一部(胸部)破壊、うっかりガン見(犯罪ですねぇ)。閃光弾炸裂、目がぁー目がぁー、スタンガン炸裂。その裏で特記戦力、この作戦に参加した柏木さんを除く幹部候補らと命がけの鬼ごっこ、おそらく継続中」
括弧の中の内容までしっかり告げる。
うん、そっかそっか。
孝平を見る。
目を逸らす孝平。
騎士さんがそんな彼を……なんだっけこれ? 名前に亀とかついた縛り方をしていた。
まあ、そんなことはさておいて。
孝平を見る。
顔を逸らす孝平。
満足そうに「一仕事終えた~」といった感じの騎士さん。
無視して孝平を見る。
テンパる孝平。
そして
「あ、えとその……成長してたな!」
とかほざいていらした。
いつ見た。
今以外で、いつ見た。
…………
そうだ、『シールドバッシュ』って地面に向けて撃てたっけ?
そんなことに気を取られていた時だった。
真面目にやれれば相当強いんですけどね、孝平。
それはいずれ。




