二十一話 一方その頃の師匠 転戦編
「後悔のない人生なんて存在しない。だが、後悔を減らすことは出来る。とりあえず出来る限り抗ってみると良い」
昔、天鳥船が別れ際に言っていた。
人生に悔いを残したがため、輪廻を否定しその生にしがみつき、果てはその延長で神の域まで駆け上った彼だからこその言葉かも知れない。
この言葉は私の人生において支えとなってきた物かも知れない。
振り返ってみると、私の人生は後悔だらけであった。
救えぬ者は少なくなく、身近な者も次々と倒れていった。
主張など通らぬと、理想だけでは何もなせぬと知った。
世はままならない。ああ、ままならない。
一生の友を得て、自分には不釣合な妻を娶って、子宝にも恵まれた。振り返れば少なくない数の同士もいた。
恵まれてはいたのだろう。
大半は私を置いて先に逝ってしまったが、未だ娘だけは生きてくれているらしい。
旅立った者らに、次代を生きる娘らに、誇れるように生きて、死のう。
そう思う。
私の最期を見取る相手は、五名。
介錯を加えた相手と、こちらに向かう騎士か。
槍を向ける者、剣を抜く者。
倒れた私をゴミのように見る目。
ああ、見慣れた光景だったな。
なるほど。運命という奴は、その辺り私に相応しい最後となるよう調整していたらしい。
娘を託す相手は、目の前の敵手と見知らぬその弟子。
しかも弟子の方の話、酷いものが来た。
娘がそこらの駄目男に惚れたとは思えない、というより思いたくはないのでそれなりの男なのだろう。
自分で確かめたいが、生憎時間がない。
世はままならない。本当に、ままならない。
それに一つ懸念がある。
託す相手は彼で良かったのか。
師匠であると言うが、彼は一人で立っていることさえ難しいように思える。
彼は、自分のことだけで手一杯ではないのか。
根拠としてあげられるものは幾つかあるが、とりあえず二つ。
あの禁呪と使い手とでは、あまりに性質が合致していない。
彼自身は単体物理攻撃を得意とするスナイパーを選択している。さらに言えば、彼が多用する属性は『炎』『光』だったはず。ならば普通はそれが本人に最適な属性であるはずだ。
にも関わらず、彼の禁呪は『水』『風』『雷』の三属性魔法攻撃。しかも広範囲を一掃する類の代物。
被害を最小限に留めるのに適したクラスでありながら、禁呪は敵味方問わぬ虐殺の嵐。
余程本人の性質を捻じ曲げるほどの何かがなければ、あそこまで不一致を起こさない。
さらに、彼自身の在り方。
今先ほどまで我々は敵同士。にも関わらず、彼はなぜかこちらに心を開いている様子。
何故だ。
彼自身子供の頃から戦地に出ていたはずで、油断させたところに不意打ちを仕掛けるような輩はごまんと見ているはずなのに。
たとえ弟子の親だと分かっても、最低限の警戒を行うべきなのに。
加えて、先ほどまでと一人称を始め話し方が少し異なる。
なら先ほどまでのそれは演技が含まれていたのではないのか。
トラウマでも抱えているのではないのか。
彼自身が一人で抱えるには重い物を有し、誰にも渡さず耐え続ける。
そのような相手に、身寄りが一人もいなくなる娘を預けても良いものだろうか?
考えが止まらない。
近づく騎士の足並みも止まらない。
考えが纏まらない。
時間が無く、少し思考が遠のいてきた。
ゆっくりと回復した効果が消えていく。
私は、どうすれば良い?
誰か答えを。
答えを。
『殺せ』
聞こえた気がした。
懐かしい声。
集まりの度に忠誠を誓わされる対象。
今、健やかに安らかに眠るには明らかに不適切な存在。
邪神と呼称される者。
彼の声。
催眠はそう簡単に解けてくれるものではなかったらしい。
そんな私の目に、ある光景が。
鈍く光るナイフの輝き。
今回の作戦で持ち出されていた、ソウルイーターの一つ。
答えは出た。
「すみません」
裏切ることを詫びなければ。
そうして彼に肩に手を置いて。
「え?」
驚く彼。
やはり禁呪の副作用か。
敵意に反応が遅く、体も全然反応していない。
そんな彼に説明など、不要。
私は、動く。
「ほぉう……運命という奴はこれだから……まったく、最後がこれとは……ね」
次の瞬間。娘の師匠の体に、鈍く輝く刃が吸い込まれた。
この連休中に幕間も含めた二章を終わらせるつもりです。
出来なかったらごめんなさい。




