十七話 一方その頃の師匠 交戦編
「それで、今でもその教えを守り続けていると?」
「いいえ、守れていませんよ。だから邪教にいるのですから」
こいつ、いやこの人。もしかして……
「小物っぽくなかったですかね?」
心を読まれた!?
「いえ、小物っぽくなってしまうのは邪教に入った際の催眠の影響ですから」
「つまりあんたは……」
「解けてはいませんが……効果が薄かったのでしょうね……代わりに先ほどもう一人の幹部から新しいものを受けてしまいましたが……操られていますねぇ……騙し騙し動かすのは可能ですが」
「小物感が増したのもそれ?」
「そうですねぇ。私だと小物っぽさが増しただけでしたが……例えば今組んでいる部隊長さんは残酷さが増していたりしますよ」
残酷さって。怖ぇ。
「まぁ、私はほんの少しですが解けていますから、少し前と同じ、このような感じです……ひよっこにはまだ負けられませんよ」
ひよっこ……もう一人の部隊長は子供なのか?
「子持ちを嘗めてもらってはいけませんよ、まったく……」
「子持ち?」
「ああ、いけませんねぇ。話してしまうのはあまりよろしくありません」
「……それでも話しておきたいんじゃないのか?」
はいはい。家族を頼む、っていう恒例のあれか。
「……ええ。今だと十五くらいでしょうか? ほぉう……そう言えば貴方と同世代ですねぇ」
外見は黒く、顔も見えない状態なのに、ほんの少し悲しそうな笑みが浮かんだ気がした。
「……今どうしてるんだ?」
「分かりません」
「奥さんは?」
「亡くなったらしいですねぇ。ついでに言えば、彼女の兄で我が無二の友も」
ッ!?
喉からおかしな音がした。
「『分かり合おうと努力をすれば、人は分かり合える』。その考えを自身の生まれ故郷で否定され、それでも救おうとしたのですが許されず、故郷を無くしてなお、百年以上。少しは賛同してくれる方はいたのですが……戦乱の世で平和を説くとは難しいものです。得ては無くし、そしてまた次を得る。鼬ごっこでしたねぇ。二百年ほど経って彼と出会い、その小規模な弱者の声は組織として機能するようになりました」
つまり百年以上ずっと一人で……
そしてその後また一人、か。
それにしても、随分と長命だな……エルフにしても、さっき狙撃した時は見たが耳は長くなかったはずだし……
「大きな声を出せる人間というのは基本的にバックが存在するからでしょう。蹂躙される弱者が声を届かせようと思えばどれほど難しいか。故に我らは王侯貴族にも協力してもらえるよう努力しました」
まあ王侯貴族に話するのは中国辺りで某有名な思想家さんがやっていたような気もするが……
たしかに虐げられていた者が救援要請を出せば、もっと苛烈に潰されるかも知れない。いじめ問題辺りでもそういった面が見られるし。
「それで騙し討ちで壊滅。仲間は散り散りです。追撃で妻も友も討たれたようですが」
十年前。
戦乱自体は今でもあるが、あの時ほど凄惨ではない。
俺自身も少し終戦させるのに手を出したのだが……あんなものは見たくはない。
武器を持つから人を殺す。
そういう面もあるのだろうが、そう言う人にあの光景を見せてやりたい。
やはり、人が人を殺すのだ。
武器がないので素手で殺しに来る敵兵を見たことがあるか。
笑いながら人を殺す人間を見たことはあるか。
少なくともあれから暫く俺は人間不信に陥った。
そんな自分語り。そんなどうでも良いことを考えていた時、それは告げられた。
「友人は私に対して遺書を残していたようなのですが……運んでいた方が誰かさえ分からない始末です」
あ、そういうことね。
何があったか、分かった。
ゲームのあれだよ。
これは初見殺しの一角。
ストレス増えるイベントの一つ。
このイベント、『親友への報告』だ。
しかも、誰かミスりやがってる。
それも、十年以上前に。
しかも最後まで回収してないから、彼が敵対した後、全く関係ないはずの俺の方に来ちゃっている。嫌がらせかよ。
このイベントはある平和主義者にその親友からの手紙を渡せればとりあえずクリア。欲を言えば、奥さんと子供は当分生き残ることは確定しているので発見出来ればなお良し。
これの嫌なところは、奥さんが子供逃がして重傷を負っていたりする時限イベントで、イベントの発生が遅れるとまず奥さんが死ぬ。で、後を追って夫が、そのことを知った子供も、という風に家族が全滅してしまう。
イベントが発生すると、遅れても奥さんは死ぬが残り二人は死なない。父子の二人で生きていく形になる。
一番やっちゃ行けないのは、友人の手紙を渡しさえしないこと。これだと夫が邪教に肩入れしてしまい、自分の手で殺す必要が出てくる上に、今度はその子供までこちらに仇討ちしようとしてくる始末。
そんな訳で、ここから分かる通り、これを引き受けた奴、途中で放り投げたっぽい。
手紙渡すだけなら『力足らずに倒れました』が発生するようなイベントじゃないぞ、だって受け渡し先は隣の町にいるんだから!
ああ、こうなるのな。
酷いなぁ、おい。
ゲームだと神様のエピソードはなかったけど……さらになんか重い感じに……
集落とかそんな設定なかったじゃんかよぉ。
撃ち辛いなぁ。
この人止めてもらいたがってるのは分かるけど嫌だなぁ。
さっきから『自分、一撃必殺なら無効化出来ないッス』的な動作してるから弱点は分かるんだけど……頑張ってこっそり伝えてくれようとしてる感じはするんだけど……『吸い取る』『触る』とかこっそりジェスチャーしてるけどさぁ……
推測と合わせれば予想は付く。
この人の能力、それは……
1、『ドレインフィールド』強化版。
2、『ドレインタッチ(吸収攻撃。殴ろうが切ろうが『浸透』が付与される。近々、武哉に覚えさせようと思っていた)』強化版。
3、『ハイリジェネレイト』習得済み。
4、物理軽減、及び触れた対象へ自動で『ドレインタッチ』でカウンター。
5、その他、素で他の通常回復及び継続回復持ち(リジェネレイト、ハイリジェネレイト以外にもカウンターアビリティで回復所有の可能性あり)。
この五つだ。一撃で倒さなければ数秒で全回復してしまうある種の鉄壁。
痛みがあろうと禁呪の根元に『親交があれば痛みもあって然るべき』という考えがあるなら、まぁ妥当。
「あんた、レベルは?」
「67ですかね。まあクラスがレンジャー止まりですが」
僥倖と言うべきか不幸と嘆くべきか。
禁呪の強さはレベルも大きく作用されるので高ければより効果もきつい。
ただし、彼のクラスは最終クラスまで到達していない。同レベル帯の『到達した面々』と比べればステータスは大きく劣る。
しかし、
「なぜレンジャー……?」
普通ドルイドからはなろうと思わない。というか普通の神経してたらならない。
ドルイドは回復職でレンジャーは攻撃職。取ろうと思えばサブでスカウト辺りを選択するしかないが、どうしてそんなメインと相性の悪いクラスを選んだのか。
いや、この人は話の通りならずっと旅をしていた。なら、探索に役立つアビリティは持っておきたいところ。そういうことだろうか?
悩む。
そんな時、ふと、『通信』が入っていることに気付く。
相手は枢機卿。
用件は…………
「時間がない」
「ほぉう? なぜですか?」
彼の疑問はもっともだ。なぜなら彼は、『ドレインフィールド』でしかまともに攻撃していないから。
この呪文、割合ダメージであり、適度に回復し続けさえすれば確実に死なない。
警戒すべきは『ドレインタッチ』だが、彼が壁とかにしか攻撃していないため実質被害0。
他は、ひたすら挑発してひたすら回復してるだけ。
「枢機卿が痺れを切らしかけてる」
あの女。幾らなんでも教皇の禁呪とか交渉に出してくるなよ。
この連絡はこの国としても邪教側としても無視出来ない。
前者は時間制限がきつくなった。
後者は早く撤退するか早く教皇を潰さなくてはならなくなった。
あくまで『はよせいや』という脅しだろうが……最悪、この国と戦争になるぞ。
「『ソドム』、ですか?」
察したのだろう、それに頷く。正解だ。
それは教皇の禁呪。
超広範囲、超高威力の神聖術。
敵味方の判別付かないこんな戦略兵器を人様の国で、しかも王族がいるところ、さらに会談の場で撃ってしまったらどうなるか。
あそことここ、基本、仲悪くない国だったんだけどなぁ……
「悪い。俺もあんたの禁呪の効果切れまで待つつもりだったんだけど……」
「中断出来ませんからね……仕方がないですよ。何かないですかね?」
俺にそんなこと言われましても……
禁呪発動中はそのエリアから出られない。よって教皇を範囲から外すことはエリア全体を覆うこれでは不可。
自主的に解除も不可。
物理の利きは悪い。確実に軽減されている。
倒すしかないけど、高威力の魔法攻撃は殆どないから無理。
いや、あるか?
数の暴力なら……遠距離攻撃出来る面子が少ないから接敵人数的に無理。団長ォ……!
いや、これも計算通りなのか?
誰の?
もう一人の邪教側の部隊長ッ!?
「名乗れッ! こいつとは違うもう一人の部隊長ッ!!」
名乗るとは期待していないが……何らかの反応くらいはあろう。
雑魚がそいつの方を向くとか。
馬鹿だったら一騎打ちくらいには出来るかも知れない。
出来れば顔ぐらいは覚えておく。
今度会った時覚悟してもらおう。
「あ、撤退して行ってますね」
無反応かよ!?
そして俺、寒ッ!!
「お~い柏木さ~ん! 呼ばれてますよ~?」
そこまでしなくても良いんだよ!?
「いや、どっちにせよ知っている人間何人か捕まってますし、顔も名前も割れちゃってますし」
おいおい。
「多分考えたことは正しいです。今回の作戦、彼がこのタイミングで仕掛けるよう働きかけました」
まさかの敵と阿吽の呼吸!?
「言っちゃって良いのか?」
「割れちゃってますから」
良いのか。
「さて、撤収しちゃってますけど……このままだと撃っちゃいますよね、彼ら」
「だよなぁ」
「早々に倒してもらえれば」
「……良いのか?」
「良いんですよ。せめて私が私でいられる間に幕を引いて下さい。ほら、私も今邪教徒ですしね。いつ啓示で正気を失うか分からないんですよ」
「手段がない場合は?」
「出来ないんですか?」
「……出来なくはない」
多分。
一回しかやったことないけど。
「じゃあお願いします」
「…………」
「いや、好い加減友に謝らないといけないし、妻に叱られないといけないし、でもうそろそろあちらに行かねばならないと思っていたところですから」
何年前から? という疑問は口には出さない。
多分妻の死を聞いた頃にはそうなっていただろうから。
子供は死んでない……言葉に出していないがそれは信じているのな。……あんたはまだ、人の親だよ。
「分かった」
せめて、引導を渡すのは俺の役割だろう。俺も、自らの手で殺めた友人に赦されなければ、赦しを乞い続けて彼のようになっていただろうから。
あと、子と弟子で違いはあるが行方の知れない子の生存を信じている点でも同じだ。
そんな彼。せめて、俺の手で送ろう。
【宴の終わり】
【演者は皆余すことなく精霊。彼ら、とうに空気、薄い空気の中へ去っていった】
【そして、この幻想が砂上の楼閣に等しいが如く】
【天を突き雲を冠す塔も】
【絢爛たる宮殿も】
【荘厳たる寺院も】
【巨大な我らがこの星さえ】
【地上に満ちる森羅万象、あらゆる全ては時の流れに朽ち果てて】
【消え去りし実なき一時の夢想と同じく、虚しく何も残さない】
【我らは夢。我らを成すは夢と同じ】
【この生、この我らが営みは短く、夢に包まれたまま眠りから覚めないのだ】
【終演は狂気の果てへ・精霊の楽園へ到る、運命の指針は嵐の如く】
……やっと師匠の禁呪が出せた。
主人公の登場はあと二話か三話後になると思います。




