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Lunatic traces(旧)  作者: 十石日色
第一章 後半 導入編その二
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十八話 一方その頃の師匠 『異世界昔話』

「で、呼び戻されてきてみれば。俺の役目は子守ですかねぇ!?」

 見慣れた乙女、というか婚約者の姫君にして上司でもあるイリスに少し強めの口調で問う。

 子供の前なのであまり強く出られない。というか人前で王女にこんな喧嘩腰なのはまずいか。

 とは言ってもその姫自体があまり特別扱いをされたがっている訳でもないので対処が難しい。


 彼女とは割と長い付き合いになる。

 お世話になった村が、柄の悪いある騎士団に難癖付けられて焼き討ちされそうになった時、場を納めてくれたのが彼女だ。

 それが切っ掛けで交友を持ち始め、取り敢えず恩返しに、と近衛騎士団に入団し、なんやかんやで武功を上げてたらいつの間にか今に至る。

 あの時は彼女のおかげで本当に助かった。暴走してたとはいえ、本気で騎士団一つ潰すような真似をしなくちゃならなくなるところだったから。いや、国の面子とか関わるからvs国になってたんだけど。

 だから本当に感謝しなくちゃいけない。


 彼女は俺から見ても危うい面がある。俗に言う『好奇心は猫を殺す』タイプだ。

 まあ研究者としての一面を持つ以上仕方があるまい。ただ度が過ぎるだけで。

 仕方がないから守らなきゃならない。

 義は義で返すもの。礼には礼で。責任が取れないなら行動にそれを反映させること。

 完全に実践出来ているとは言えないが、出来る限りやっていこうと思う。

 弟子にも、というか武哉に対して重点的に言い聞かせているが、今のところ効果は実感出来ていない。

 まあ弟子のことは置いておこう。今は目の前の姫君が心配で、あと彼女の頼みを無碍には出来ないという点のみが重要だ。


 俺がそんなことを考えているのを知ってか知らずか、いやそもそも気にしない彼女は平常運行である。

 立ち居振る舞いはいつも通りで余裕がある。……まあ条件次第で完全に別人としか思えなくなるけど。


 イリスはその青みがかった紫の瞳でこちらの目を見返しながら告げる。

「いいえ、本題は明日からね。今日は私の仕事の手伝いをしてもらうけど」

「……終わったら、俺向こうの手伝いに行くけど文句ないよね?」

 そもそも俺は今休暇中だ。弟子たちを鍛えるためにちょっと頑張って時間を作ったのに。そんなに俺はここに縛られないといけないのだろうか。

「ご自由に。仕事が終われば行っても良いわ」

「了解」

 良かった。待ってろ弟子たち。すぐ助けに向かうから。


「喜びに包まれているところ悪いんだけど、今日の仕事もやってもらわないと」

 む。折角少し幸せな気分だったのに。

「了解。で、俺そこまで育児とか得意じゃないけどなにすれば良いんだ?」

「さっき保育士さんが『ここに本があるから読み聞かせすれば良い』って言ってたわ」

 なぜ王女にそんな仕事を任せるのか知らないが、視察的ななにかだろうか?

 そんなことを考えてるうちに、子供たちが期待に満ちた目を向けているのに気付く。

 こっちの対処を優先しよう。

「よしよし、お兄さんがこれでもかというくらい情感たっぷりに読んでやるからな~」

 イリスの「のりのりじゃない」という突っ込みは無視する。

 本を見る。


 昼ドラ。


 ■■の事件簿。


 百科事典。

 

 料理本。


 神話関係。創世の女神についての伝承。


 なんて悪意に満ちたラインナップ。

 一、二番目は子供たちに情感込めて読み聞かせして良いジャンルじゃないし、三、四番目は俺の力量じゃまず無理だ。

 となると五番目に決定されるんだけど……これも、なぁ。

 見るとイリスも微妙な顔で絶句している。



 保育士がいたはずの方向を見る。

 いない。

 


 やっぱりいない。



 子供たちの方を見る。

 見てる。

 


 きらきらした目で、見てる。





『あるところに一つの世界がありました。


 そこは魔法のないように見える世界。


 でも本当は魔法使いはその世界にいたのです。


 大勢の人に嫌われていたから、こっそりと人目に付かないように生きていたのです』




 仕方がないから読み始める。

 もうどうにでもなれ。





『そんな世界に一人の女の子がいました。


 女の子はみんなとは違う、魔法使いでした。


 その中でも彼女は特別でした。


 大人はみんな女の子に期待しました。


 でも女の子は普通で良かったのです。


 普通に、普通の人として、生まれたかったのです。


 だって魔法使いだとばれてしまったらなにをされるか分かりません。


 なので女の子はいつも一人。


 心を開ける子供は弟だけ。


 外に出ればいつも一人。


 話す相手もいないので、修行、勉強を除けば一人で籠もって遊んでいました。


 本当はみんなといっしょにいたい。


 でも、みんなの輪の中に入れなかったのです』





 そっと様子を伺う。

 ここの子供たちはそういうのと無縁に見える。





『そんな女の子もある男の子のおかげで友達が出来ました。


 その男の子は女の子の幼馴染みでした。


 その男の子は悪戯好きだけど世話焼きで、自分のことより他人を優先してしまうお人好しでした。


 それは魔法使いの女の子にも同じです。


 いや、少し違っていたのかもしれません』




 少し引き込むための間を空けてみた。視線なども活用する。

 簡単に食いついてくる。子供って純粋だよね。その純粋さ、忘れないで。




『女の子が初めて男の子と出会った時の話をしましょう。


 女の子は学校に通い始めても、秘密がばれちゃいけないからみんなと距離を取りました。


 そしてみんなもそんな女の子から少しずつ離れていきました。


 女の子はいつも一人。


 でも本当はみんなでいっしょにいたかった。


 悲しくなった女の子は、夕暮れの公園で一人寂しく泣いていました。


 そこに偶々やって来たのが男の子です。


 明るく、優しい太陽のような子でした。


 男の子は女の子が泣き止むまでずっと隣にいてくれました』





 ここから先子供にはきついと思うんだが、続けるべきだろうか?





『それから何年も経って女の子は綺麗な乙女になりました。


 女の子は魔法の才能がありました。


 どうすれば上手く使えるか、上手く隠せるか身につけていました。


 秘密も上手に守れるようになったから、みんなといっしょにいられるようになりました。


 みんなとどう付き合えば良いのか時間をかけて覚えたので、友達も出来ました。


 男の子のおかげで仲良くなった、一番の友達とは姉妹のように仲良しでした。


 女の子は幸せでした』





 まあ途中でやめるのもちょっとあれだし。





『ある日、女の子は男の子が告白されるのを見てしまいました。


 女の子は男の子が好きだったんだと気が付きました。


 幸い、男の子は断りました。


 女の子はほっとしました。


 でもそのすぐ後に驚いてしまいます。


 男の子には好きな人がいるらしいのです。  


 男の子に告白した子も言うのです。



 知ってた、と。



 女の子はそんなこと知りません。


 男の子がだれかのことを好きだなんて思ってもみなかったのです。



 それは春の終わりこと。


 学校で男の子といっしょにいられるのはもう一年もありません。


 それから先はもう一緒にはいられません。


 なのに私は彼のことをなにも知らない。


 そんなことに今更気が付いて女の子は動けなくなりました』





 はい、案の定気が付いた子供たちの顔が引きつり始めましたよ。





『そしてまた女の子は気が付いたことがありました。


 自分は魔法使い。日の当たる道を歩める彼とは違う。


 それでも振り向いて欲しい。でも彼を日の当たらない場所にはやりたくない。


 そもそも彼には好きな子がいるはず。


 季節は夏になりました』





 まだクライマックスには少し早い。でも勘の良い子がすんごい顔をしている。

 ……最近の子供はその手の番組とか見るんだろうか?





『夏祭り。


 キャンプ。


 海水浴。


 みんなと一緒。


 男の子も一緒。



 きっと、男の子の好きな子も、一緒。



 女の子は、きっと、幸せでした』





 うん。なんでこれチョイスしたかな、俺。




 

『季節は秋になりました。


 みんな受験だ進学だと慌てていました。


 でも女の子は家業を継ぐので、みんなとは違う勉強をしていました。


 みんなもう違う道に進んでしまう。


 女の子は寂しいと思いました。


 でも、もうあの頃と違います。


 女の子は泣きませんでした』





 代わりにここの子供たちが泣きそうです。





『木の葉はもう、散りました。


 男の子が好きな子はまだ分かりません。


 女の子は男の子の恋を応援すると決めました。


 でももう時間はありません。


 季節はもう、冬も半分を過ぎる頃です』





『受験も本番に入りました。


 最初の試験が終わってみんな喜んだり悲しんだりしています。


 本番に入ってから授業も自由参加。生徒はもう、まばらです。


 男の子の姿も、あまり見かけなくなりました。


 もうすぐ雪が降りそうです』





『ある日、女の子は町で男の子を見かけました。


 久々に男の子を見かけて女の子は嬉しくなりました。


 声をかけようと近づくと、男の子の隣には



 …………女の子の一番の友達がいました。



 女の子は逃げ出しました。


 春に入るまであとほんの少し間があります』





『その日の夜、女の子は夢を見ました。


 そこでは自分が男の子の隣で笑い合っている、そんな夢。


 幸せでした。


 春が来ました。


 夏が来ました。


 秋が来ました。


 冬が来ました。


 女の子は幸せでした。


 春が来ました。


 夏が来ました。


 秋が来ました。


 冬が来ました。


 女の子は幸せでした。


 幸せ、でした。



 でも、ある日、ふと気が付きました。



 いつも一緒にいてくれた、一番の友達がいないことに。


 それは一番の友達が消えた世界。


 気が付いて、目が覚めました。


 女の子は自分が嫌いになりました』





『次の日、女の子は久しぶりに男の子と学校で会いました。


 いつもなら嬉しいのに、なぜか全然喜べません。


 男の子はなぜかそわそわしています。



 私にあの子との関係でも話すつもりかな。



 そう思うと男の子の前にいるのが辛くなりました。


 女の子は逃げ出しました』





『女の子には魔法の才能がありました。


 世界で一、二を争うくらいの才能です。


 女の子は魔法で世界を作り上げて、その中に逃げ込んでしまいました』





『女の子はふと思いました。



 今の世界じゃ無理だけど。

 彼の隣でずっと一緒に歩んでいける定員が一人じゃなければ、

 私も隣にいられるかな?



 女の子は自分が逃げるために世界を作りました。


 今度はそれを彼と一緒にいられるかも知れない世界に変えてしまいました。


 これがこの世界の始まりです』





『女の子は希望を見つけました


 だから外に出たのです。



 女の子の弟に曾孫が生まれていました』





『女の子は驚きました。


 弟はそんな姉に語りかけます。


 姉さんがいなくなってもう七十年。


 みんな心配していたよ。


 父さんも母さんも勿論僕も。


 姉さんの友達もみんな。



 特に姉さんと親しかったあの二人は本当に見てられなかった。



 だから記憶の消去の準備までして、僕が知ってる全てのことを教えたんだ、と』





『女の子は戸惑いました。


 二人は自分のことを忘れてしまったんじゃないか、と思いました。


 そんな女の子の様子を見て弟はこう続けます。



 それがどうした、そう言われたよ。



 女の子は訳が分からなくなりました。


 自分は隠し通さなきゃいけない秘密のせいで彼らに近づけなかったのに、彼らは気にしないと言う。



 じゃあ私のやってきたことはなんだったんだろう?



 女の子の胸にあるのは後悔ばかりです』





『弟は続けます。



 一人はどこに行ってしまったか知らない。

 でも、もう一人は連絡先を定期的に教えてくれるから。



 そこには女の子の一番の友達の名前と連絡先がありました』





『女の子はすぐに連絡を取って友達に会いに行きました。


 やっぱり彼女はもう、お婆ちゃんになっていました。


 孫が今度結婚すること。


 相手が人の好さそうな、彼に似ている人であること。


 そんな世間話の後、女の子は自分のことを全てを話しました。



 ずっと貴女の口から聞きたかったと友達はそう返しました。



 そして。


 彼女の知る全てを教えてくれたのです』





『男の子は幼い頃から、多分初めて出会った時から女の子のことを好きになったこと。


 告白したいと思っていたけど、勇気が出せなかったこと。


 そのうち女の子が一歩引いてしまって、そんな状況作れなくなったこと。


 女の子の友達の恋人が今の夫だということ。


 そしてその夫が男の子と親友だったこと。


 だからチョコレートをあげる時、なにが良いか選ぶのを手伝ってもらったこと。


 それが切っ掛けで婚約まで持っていけたのかも知れないこと。


 ちなみにその時は二人きりじゃなかったこと。



 男の子は女の子からチョコレートがもらえるんじゃないかとそわそわしていたこと』





『女の子が消えて、男の子はそんな彼女を見つけ出すために頑張って。



 そして一年もせずに行方が分からなくなったこと。



 そんなことを女の子は知った。


 女の子は、もっと、自分が嫌いになりました』





『それから数年。


 女の子は弟と一番の友達の最期を看取って、自分の作り上げた世界に戻りました。


 そして、男の子が自分を見つけてくれるのを待つことにしました。


 ありとあらゆる準備を済ませました。


 ちゃんと見つけることが出来るように。


 ちゃんと見つけてもらえるように。


 それまで眠りは覚めません。


 今でも女の子は眠ったままでしょう』





 読み終わった。

 これで本に書かれている内容は終わり。

 子供たちの様子を見る。

 うん、なかなかに死んだ目をしている。

 そんな彼らに目を向けながら、俺はポンッと本を閉じ。





『幾百、幾千、幾万。幾星霜過ぎ去ったでしょうか』





 俺が知る、いやもう俺しか知らない続きを始める。

 ぽかんとした目を向けるのは子供たちばかりではない。

 こういうのも研究対象だから調べているイリス、入り口付近でさっきからなにかしらの看板(なんか看板の一部が見えてるけどそこに『きり』やら『功』やらそんな字が見えたのであれか。コノヤロウめ。俺半分ドッキリのために弟子だけで旅立たせないといけなくなったてか。じゃあ子供たちもエキストラか?)を持っている保育士、その他大人たちも含めて大層面白い顔をしている。





『女の子は微睡んでいたのですが、ある日気配を感じます。


 不意に懐かしい気分になり、飛び起きました。


 そして彼女は目を疑います。


 そこにいたのはあの頃となにひとつ変わらない姿をした男の子でした』





『女の子と会うために、男の子は女の子と同じ存在になろうと決め、それを成し遂げていたのです。


 しかし、彼女のいる世界が分からず、延々と探し回り、襲いかかる幾多の苦難を押しのけて、やっと想い人のところへと辿り着いたのです。


 女の子は男の子に抱きつきました。


 こうして永い永い時を経て、二人はまた一緒にいられるようになったのでした。


 二人の物語はまだ続きますが、ここでひとまず終わらせて頂きましょう』





 そして話を締めくくった。






「ねえ、ニーズ。貴方、なんであんなこと知ってたのかしら? それとも出鱈目?」

 帰り道。イリスが尋ねてくる。

「いや、創作じゃなくて実際の話。なんでか、については……本人の記憶を垣間見た、としか」

「え?」

 あ、やばい。なんかスイッチ入った。研究者としてのスイッチ入ったよこれ。

「ねえねえどこどこ! どこに行けば見れるの!? 教えて教えて!!」

 キャラ変わってますよ。

 こんなんだから遺跡の探求とか行って、わざわざ押さなくても良いスイッチ押したりするんだ。

 危なっかしくて見てられないのに、長時間目を離す訳にもいかないという。

 はぁ。

 ……さて、どう誤魔化しますかね。




 この『女の子と男の子の物語(そうせいしんわ)』は、この続き(・・)のせいでハッピーエンドじゃないんだけど。

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