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Lunatic traces(旧)  作者: 十石日色
第一章前半 導入編その一
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八話 『第七班』

「援軍呼んでるから無茶するな」

 孝平からのメールはそう締めくくられていた。

 この場合巧遅より拙速の方が重要だと思うんだけどどうだろうか?

 問いかける相手はここにはもう居ない。

 いや、さっきまで居たには居たんだけど、今そいつは神主さんに祓い給え清め給えしてもらっている最中なんで。


 さて。

「ここも外れかぁ」

 というわけで空いた時間を使って『補習』を確かめてみたのだけれど。

「いや、ある意味で当たりだったけどさ」

 やはり彼らはいなかった。

 一応僕も今回の合宿の関係者なわけで、参加者の名簿くらいは持っている。

 それで確かめてみたところ、今回の合宿の参加者で補習中でもなく帰還時のメンバーにもいなかったのは四名。内二名はうちの班の田中さんと高橋君である。


 別に敵対者が死に戻りしている可能性も否定は出来ないが、多分この世界の元ネタウィッチクラフトアンドナイトでは罪悪値(カルマ)という数値が設定されておりこれが一定以上溜まると神殿で蘇生出来なくなる。

 要するにアカウントブロックである。

 オンラインでPKとか繰り返して他のプレイヤーに迷惑かけ通した悪質プレイヤーに対する措置であり、余程やらかさないとこの状態にはならない。

 しかし、この世界において邪教と呼ばれる代物の信徒は転生者(プレイヤー)現地の方々(ノンプレイヤー)関わらず、ありとあらゆる手段で喧嘩売って回っているため、恐らくこの信徒だという時点で神殿自体利用不可になる。


 付け加えれば未だに連絡が取れていない時点で明らかにおかしい。

 もうこの時点でほぼ二択。


 一、彼らが邪教の信徒である、もしくは彼らの協力者である。現在逃亡中。


 二、大絶賛囚われの身なう。


 さて、どっちでしょう。

 いや、まあ他にも


 三、数日前からずっと戦闘中


とかも可能性としてはあるんだけど、まあ無視しても構わない程度だろうし、


 四、うっかり洞窟にでも落ちて『通信』の範囲外。


 五、うっかり『通信』来てるのに未だに気が付いていない


というのも考えられそうだけどそれもない。


 連絡が彼らに届いていない、というのはまずあり得ない。

 一応僕も『通信』のレベルを上げて、雪山で吹雪いていても町の通販番組見られる程度にはなっていたわけで、まずメッセージが届いていないとは考えにくい。

 アビリティレベル1でも救援要請くらいは出せるし、洞窟の中でもフレンド登録されている対象であれば、救援要請だけは伝わるようになっている。

 救援要請が出ていない時点でこれはかなりの異常事態なので、自発的に出していないのか出せないのかのどちらかであろうという考えである。

 最悪に関しては考えないことにした。


 通信が来ているのに気が付かないというのもステータス画面を見たら一発で分かる以上『うっかり』なんて出来ようもない。

 というのもチュートリアルで基本の基本として定期的にステータス画面で自分の状態を確かめるように叩き込まれるので『気付きませんでした』=『私は基礎から覚えていません』と取られる可能性がある。

 というかチュートリアルの教官は絶対にそう取る。無駄に職業意識が高いので命に関わることはものすごく気を遣ってるので。

 そしてこの合宿、彼らも関わっているので確実にバレる。補習担当自体彼らだし。

 で、また基礎から叩き込まれるのは嫌なので、この可能性もないと思う。というか基礎も覚えていない奴がこの合宿に参加してるとは思えない。安全のために参加条件が決められているし、合宿の説明の際に『通信』について口うるさく言われていたはずだ。




 とりあえず状況を整理してみよう。幸い時間はある。……まあ夕方なのでそろそろ宿に行くけど。

 拙速も重要だけど皆は巧遅路線で行くみたいだし、一人だけ突出して返り討ち食らうなんて目も当てられない。

 とりあえず今までのことを振り返ってみようかな。

 合宿の情報、とりあえず自分の班の簡単なまとめ(by孝平)の紙を取り出す。



●第七班


・榊 ;フェンサー

 引率。別紙参照。


・桜井;テイマー

 女。15。

 班長。

 引率の榊と個人的に面識があり、友人と言っても過言ではない。

 しかし、公私はあまり混同しないので問題はないと思われる。

 テイムモンスターはブレイズウルフ。集団で襲いかかる。先日二桁まで増えたとか。

 今回は場所が場所なので狼たちは麓の町で留守番している。

 勝負の勘とか攻撃予測とかから判断するとライトウォーリア辺りの方が適性が高かったかも知れない。


・佐藤;ナイト

 男。14。

 他の班員が全員年上。

 目立たないものの優秀な部類。

 情報があまりに出てこないので正直困る。


・鈴木;ヴァンガード

 男。15。

 見る者にやや子供っぽい印象を与えるがそれなりに漢で、話の分かる人間。

 過去一度唆されて女湯に突撃した過去あり。正確にはのれんの前で迎撃、撃墜された。

 その性質上、周囲が暴走した時はブレーキにならないので注意。

 意外と責任に弱くため込む気質。

 交友関係は広い。

 ドッキリとか大好き。

       

・高橋;ライトウォーリア

 男。

 オールバックにした髪、銀縁眼鏡、衣装は執事服で語尾は『ござる』。

 今年の参加者の中では上位五指に入る期待の新星。

 対象のデータを集めて適切な武装、作戦をそろえることで真価を発揮する。

 何気に『通信』アビリティのレベルが5。

 余談であるが田中と同じギルドで個人的に親交が深い。

 鈴木ともギルドは違えど元世界からの悪友。

 交友関係は広い。


・田中;ウィザード

 女。15。

 これでもか、というほど魔女の格好をしている女子。

 物事はまず形から、という性分らしい。

 面倒見が良い。

 魔法は大抵炎属性。

 料理は絶望的な腕前。魔法よりも強力かも知れない。


 巡回ルート

       一日目 午後Bルート

       二日目 午前Cルート 午後Fルート

       三日目 午前Aルート 午後Dルート

       四日目 午前Eルート 午後Hルート

       五日目 午前Gルート


 討伐目標

       スノーラビット  ×12 □

       スノーウルフ   × 6 □

       スノーハウンド  ×12 □

       クリスタルウルフ × 2 □

       アイスクリスタル × 1 □


・配給されたアイテム

       青ポーションLv20×10

       赤ポーションLv15× 5

       小型テント    × 2


・評価

 長所……充実し(すぎ)た近接戦闘力。

     引率が『通信』のレベルを上げておりポーションの補充がしやすい。

     引率が本部の通信担当と親しく、上手く連携が取れる。

     高橋、田中両名はこのエリアで探索したことがあり事前知識がある。

     高橋は『通信』のレベルを上げている。

     この合宿参加者の平均レベルより高い面子ばかりで構成されている。

     鈴木は空気が読める。


 短所……回復職不在。

     男女間の仲が微妙に悪いか。意思決定の時多少もめている節がある。

     男女の人数を半々にせずにどちらか一方の人数を多めにするべきだったか?

     間に挟まれるであろう鈴木の調子が心配。

     桜井がテイムモンスターを連れて来れなかった。

     大きい音が使えないため桜井の攻撃手段がほぼ完封されている。

     炎も同様。よって田中の切り札も使用不可。



 なかなかにカオスである。

 この中で注目すべきなのは……


 ……タンタンタンタンタンタタン


「は?」

 あり得ない音に思考が止まる。

 なぜこの音が?


「先輩よ、私は帰ってキターーーーーー!!」


 なんかテンションの高い後輩が帰って来た。走ってきた。……腕にカスタネットを付けたまま。

 ついてきた狼たちが、一頭残らずやるせない顔をしていた。

 呪い、解けてないよね。どうなんだろ? 確かめとこうかな。


「で、そのハイテンションは頭にまで呪いが回ったから?」

「いや違いますよなんですかその怖いの」

「今、君の背後にいるのと比べたら怖くない」

「いやなんですかテイムモンスターたち(みんな)は前にいますよ? 後ろに何がいるん」

「振り向くな! 振り向くと……」

「いや、本当なんなんですか!?」

「そんなことより」

「そんなこと!? 私の安全とか考」

「そのカスタネットなんでまだ付けてるの?」

「またですか!? また最後まで言わせてもらえないんですか!? ……いや、えっとじゃあ質問には答えるのでその後でなにが居るのか教えて下さい」

「良いの? 知らない方がきっと良いと……」

「ああもう分かりましたよ! もう言わなくても良いです」

 良し。


「……多分どうでも良い会話しながら『鑑定』してたんでしょうけど」

「そだよ」

 後輩に行動を読まれつつある。

 そこまで分かり易いだろうか?

「ならお気付きの通り呪いは解けてます」

「やっぱり……でもなんで未だにそれ付けてるのか分からないんだけど?」

 一応呪いから解放されたんなら外しても良いんじゃ……?

「気に入ったからです」

 なるほど。その毒々しいデザインのそれを気に入ったのか。

「分かった。ありがとう……ってうわぁあああ!!!!??」

「ちょっ先輩!? どうしたんですかいきなり」

「うわっちょっうわ!」

 あれが反復横跳びしてる!? 気色悪っ! ていうか、どうしてそしてそんなことしてんの!?

「先輩!? 本当に大丈夫ですか!?」

「君の後ろのあれがうわぁああ!!」

「私の後ろのあれ!? ちょっなんですかそれ!?」

 背後を振り向くなずな。

 しかし華麗なサイドステップでそれ(・・)は彼女の視界の後ろに回り込み続ける! 準備運動だったか!


 …………

「あ、ごめん。僕眠くなったから宿に戻るね」

「急になんですか!? 本当になにがいるんですか? そして先輩なにかされました? 急に態度が違いすぎますよ!?」

 いや、だってテレパシー的ななにかで『私はこのカスタネットの精。彼女から頂いたこの御恩、これに報いるため参上した次第』とか伝えてくるんだもの。

 一応『鑑定』使用したけど嘘じゃないっぽいもの。

 まあ一応念のため。

「あ、一応大事な後輩なんで手、出したらただじゃおかないから」

「ちょっ、なんなんですか本当に!?」

「へ? あ、なるほど」

「なんか私のことなのに私だけ話に入れない!?」

「『大丈夫私は紳士だから』ってさ」

「自己申告じゃ駄目でしょ!? ……ちなみにどんな見た目なんですか、そいつ?」

「今日多分僕悪夢見るわ」

「そんなに!? ますます信頼出来ない……」

 あ、なんか話しかけてきた。

 信頼してもらうための弁解らしい。



「へ? 『Yes,Lolita.No,touch』?」



「私いつから幼女になったぁあああ!! ていうかロリじゃないから危険じゃねーですか私!!」

 弁解になってないよ。言い訳にならないって、それ。

 というか。

「君が背後に居るであろうそいつを見ようとする度にそいつは君の死角に入って、えっと……その言いにくいんでぼやかすけど、君の胴体の上部をガン見していたけど。さっきの発言の時も同じく」

「喧嘩売ってんですかこっちは気にしてるんですけどぉおおおお!!!!」

「まあ『鑑定』したら嘘は言っていないみたい」

「なんでこのタイミングで『鑑定』について触れるんですか!? このタイミングだと『安全』より先に『ツルペタ』の方が実感しちゃうんですけど嘘じゃないって!!」

「まあそれは置いといて。きっと安全だよ……ただ安眠したいなら鏡は見ない方が良いかも」

「露骨に話し反らした上に追撃かけないでもらえます!?」

「気にしない気にしない」

「しましょうよ!」

「もう夜も更けてきたね」

「唐突!?」

「じゃ、お休み~」

「逃げた~!?」

 後輩とそれに背を向ける。


 それにしてもあの行商人、カスタネットの精だったとは……

すみません。色々と立て込んでまして更新が遅れました。これからしばらくはあまり間隔を置かずに出そうと思います。

なずなの苗字がおかしくなっていたので修正しました。

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